ハッピーハッピーホーリーナイト No.373 投稿者: ひみつ 12/25/03 01:32
「お母さん、メリークリスマス、だよっ!」
真っ赤なワインが注がれたグラスを高らかに掲げ、わたしはなるたけ陽気にそう声をかけた。
お母さんは相変わらずの微笑みで、わたしの欺瞞などすべて見透かされてしまっているかのような錯覚に捕らわれる。
ううん、錯覚なんかじゃない。きっとお母さんはすべてわかってる。すべてわかってて、わたしには何も言わず、ただ微笑を返してくれている。
ありがとう、とは言わずに、わたしも微笑を返す。そしてグラスをきゅーっと煽った。
「けほっ、けほっ!」
ちょっぴりむせてしまったのはご愛嬌かも。
「お母さんと二人だけのクリスマスイブなんて、久しぶりだよね」
そうね
「でもたまにはいいよね」
うふふ、そうね
「でもクリスマスイブにお鍋ってちょっと違わない?」
そうね
「もうっ! お母さんたらさっきから『そうね』ばっかり!」
あらごめんなさい。
「ほら、これもう煮えてるよ。とってあげるね」
ありがとう名雪。
お母さんと二人のクリスマスイブ。
二人っきりのクリスマスイブ。
――祐一のいない、クリスマスイブ。
祐一さんも居たらよかったわね。
「お母さん!」
……ごめんなさい。
「ううん、いいの。ほらこっちも煮えてるよ」
今頃きっと祐一は、あの人たちとイブの晩を過ごしてる。
愛する人と、その親友と。イブを祝うのはきっととても素敵なこと。
だからわたしは祝福できる。まだちょっと心が痛いかもしれないけれど、だけどわたしはきっと祝福できる。
だって今日は、聖夜だから。
そして、わたしにはお母さんがいるから。
ひとりぼっちじゃないから。
「ねえお母さん」
どうしたの名雪?
「わたしね、お母さんとこれからもずっと一緒にいたいな」
あらあら、名雪は甘えんぼさんね。
「えへへ、いいもん、わたし甘えんぼだもん」
あらあら。
「だからね、お母さん」
はいはい。
「長生き、してね」
今日は聖夜、万人に幸せの訪れる夜。
遺影に向かって一人話し掛ける少女の声が、降り始めた夜のしじまに溶けて消えた。
メリークリスマス!