デート日和 投稿者: ひみつ 10/29/03 02:22
「おい待てって七瀬」
後ろからあいつの慌てたような声が聞こえるけれど無視。
「七瀬ー」
「(つーん)」
私の徹底した無視作戦についに根をあげたのか、あいつは「くっ」と唸ったあとに消え入りそうな声で言った。
「……る、るみ」
「呼んだ? 浩平」
二つに纏めた髪をくるり回転させて振り向いて満面の笑み。
私の笑顔がよかったのか、それとも単に呼び名に照れたのか、折は……浩平は真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまった。
デートは始まったばかり。
今日は日ごろ彼にされている意地悪の仕返しに、お互いをお互いの名前で呼び合うデートを提案してみた。
普段は七瀬、折原で呼び合っている私たちだけど、名前で呼びあってもいいじゃない。そう彼に言うと、案の定渋った。あいつはああ見えてひどく照れ屋だから。
だけどこうして実際に名前で呼び合ってみると、それはひどく新鮮で、いつもの私たちじゃないみたい。
「えへへ、ねっねっ浩平、あれ乗ろうよ」
浩平の右腕を抱え込むようにして、ジェットコースターに向けて引っ張っていく。
普段はベタベタするのを嫌う私たちだけれど、今日は平気。
「くあ、留美、そんなに引っ張るな」
「ほーらー、早く早くっ! あはははっ」
互いの呼び名が普段と違う。
そんなちょっとしたきっかけで、こんなにも世界は様を変える。
普段見慣れた景色がこんなにも新鮮に感じられる。彼が前よりもっともっと近くに感じられる。
「ねえ、浩平」
「あん?」
「もっと早くにこうなっていれば、私たち変われたのかな?」
「……」
「もっと違う関係に、なれたのかな?」
彼は答えない。彼にそれを問うのは酷というものかもしれない。
それはあまりにもありえない仮定の話だ。
「私はね、浩平、ずっとずっとあなたのことが……」
来月の頭には折原姓となる親友のことを思い浮かべながら。
私は笑顔で彼に言った。
「だいっきらいだったんだから!」
青く澄み渡った空が高い。
デートはまだ、始まったばかりだ。