5 名前: ついていない日 投稿日: 2003/09/17(水) 02:21
「ったく、やってられないわ」
悪態が思わず口をつく。
突然降り出した雨、恐らくは夕立だろう。西の空には光が差しているから、しばらくここで雨宿りしていれば雨脚も遠のくに違いない。
そう思ってはみても、雫を垂らす髪の毛が乾くわけでもなし。不愉快さが消えるはずもなし。
「今日はついてなかったのよね」とひとりごちる。そう本当に、今日はついていなかった。
学校の帰り、あたしはほんの軽い気持ちで、彼を誘った。一緒に帰らないかと。
そう、本当に軽い気持ちだった。別段彼とどうしても一緒に帰りたかったわけではないし、何か別段用事があったわけでもないのだ。ただなんとなく――そう、ただなんとなく今日はそんな気分だったのだ。
それにあたしだって弁えている、いくらあたしが影でクラスの同性たちからそう噂されているような『鉄面皮』であったとしても、いくらなんでも親友の恋人を誘惑するほど、暇を持て余しているわけではないのだ。
「ねぇ、途中までいっしょに帰らない?」
そう声を掛けようとしたあたしを遮るような、親友の声。ねぇ祐一、商店街に寄っていかない? 今日は部活は休みなんだよ。
親友はいつものように無邪気な声で、でもそれでいてあたしを牽制するかのように、彼にそう、言った。
彼もいつものようにさも迷惑そうに顔を顰めながら、でもそれでいてとても幸せそうに、親友にそう、返した。
かくてあたしはひとりでただなんとなく商店街をうろつき、終いには雨に降られて雨宿り。
まったく今日は、ついていなかった。
なぜだか不自然なほどに人通りの無くなった商店街に、ぱしゃりと、足音が響く。
顔を上げたあたしの目に映ったのは、ひとり傘をさして歩く、彼。
入れてもらおうか。
真っ先に脳裏に浮かんだのがそれで、真っ先に表情に浮かんだのは苦笑だった。
いまあたしは一瞬の間に、何を考えたのだろう。
まったく、あたしらしくない、今日はやっぱりついていない日なのだろう。だからこそ、こんなあたしらしくない思考が浮かんでしまうのだ。
「入るか?」と。
あたしに気付き、そう声を掛けてくれた彼に。
優しさと、それに似ているけれども決定的に違うそれの区別すらついていないであろう彼に。
そして、親友だけれども仇敵であろう彼女に向かって、あたしはこう言った。
「お断りよ」
まったく、今日は本当についていない日だった。