5 名前: チャペル 投稿日: 2003/02/09(日) 03:35

「もう、たくさんなんだよ!」
 あの人の声が聞こえたのは、下校途中の下駄箱でした。
「浩平くん、そんな…… そんな言い方、ひどいよ!」
 あの人と口論していたのは、3年のみさき先輩でした。
 恋人同士の二人はいつも仲が良くて。
 わたしは、二人のことがとても大好きだったから、二人の仲が良い様子を見て、心が温かくなるような、いつもそんな感じがしていたのを、今でも覚えています。
 だからこのとき、ケンカしている様子の二人を、止めたくて。
「先輩は、俺のことをちっとも信頼なんてしてくれてないじゃないか!」
「してるよ! 信頼してるよ!」
「嘘だっ! だったらどうして、いつも誘いを断るんだよ!」
「そ、それは……」
 止めたくて……
「怖いんだろ? 外の世界に足を踏み出すのが、怖いんだろ?」
「……」
「ほら、俺のことなんて、ちっとも信頼してくれてない」
 わたしは、止めたかったのに、『ケンカしちゃダメなの!』って言いたかったのに、足が動かなくって。
「ばか…… 浩平くんの馬鹿!」
 泣きながら走り去るみさき先輩と、俯いて立ち尽くすあの人を、見ていることしかできませんでした。

 わたしは二人が大好きでした。とてもとても、大好きでした。
 でも、あの時のわたしは、俯くあの人に“声”をかけたわたしは
――

 確かに、ある種の『期待感』を覚えていた。



「新婦がいま、お父様に手を引かれ入場いたします」
 厳かに鳴り響くパイプオルガンの音色。バージンロードのその先に待つ、あの人。

 左右からわたしを見つめる招待者たちのなかに、みさき先輩の姿は
――なかった。 


 

<戻る>