彼氏がほしいお年ごろ  No.423 投稿者: ひみつ 01/11/04 22:31 


「はあ……」とため息一つ。 
 窓の外で降りしきる雨はひどく陰鬱で、ひとり部屋で外を眺める栞を憂鬱な気分にさせる。 
「はあ……」もうひとつため息。せっかくの日曜の朝が台無しだった。 

 真っ黒な空 
 降り止まぬ雨 
 ときどき遠くから聞こえてくるごろごろという雷鳴 

 そして、お腹がぐーと鳴った。 

「おかーさーん、お腹すいたー」 



 しばらくして、頬をぷーと膨らませた栞が部屋に戻ってくる。 
「まったく、どうして朝からカレーなんですか。お母さんのバカ」 
 母が聞いたら「おかわりまでしておいてよく言うわ」と呆れられるであろう。昨日の晩御飯の残りである美坂家特製カレー(超甘口)は今日も好評であったようだ。 
「ひとがせっかく、あんにゅいーな気分に浸っていたのに、台無しです!」 
 あんにゅいーらしい。 
「あーあ、憂鬱」 
 明日もまた、病院だ。 
「せっかくの仮退院なのに、退屈です退屈です!」 
 しばらくじたばたと手足を振り回していたが、やがて疲れたらしく静かになった。ただそれだけで息が切れてしまう。 
「あーあ、私にも、ステキな彼氏さんがいたら違うのに……」 
 恋人同士だったら、雨が降ろうと雹が降ろうと関係ないに違いない。そりゃあ晴れた日に公園でベタベタするのがいちばん楽しいだろうけれど、雨の日に二人っきりで部屋でお話をするのも悪くない。いやそれどころかぜんぜんOKだ。ここにはベッドだってある、マチガイがおきてしまってもそれは愛し合う二人のことだから致し方ないと言わざるをえないというかむしろ望むところ。 
 そこまで考えて、やってらんないわぺっ、と唾を吐き出すゼスチャー。どうやら姉の真似らしい。想像して空しくなったようだ。 
「そういえば……」 
 姉の友人に彼氏ができたらしい。 
 母から聞いた話だ、姉とはもう長いこと顔を合わせてすらいない。 
 姉の友人、たしか水瀬名雪さんといったか。直接会ったことはないが、姉から昔よく彼女のことは聞いたのでどんな人かはよく解っているつもりだ。 
 何でも、恋人は従兄妹なのだそうだ。いくら昔から家族ぐるみの付き合いとはいえ、そんなことまで知れ渡ってしまうあたりが田舎の嫌なところだろう。 
「でもいいなぁ、私もステキな彼氏さん欲しいなぁ」 
 ため息。 
 仕方がない。器官気系の病棟には、お爺さんかお婆さんしか居ない。 
「まあもっとも……」 

 生きられたら、だけどね…… 

 最後の言葉は、声にはならなかった。 


 雨は一向に降り止む気配がない。 
 嫌な雨だと思った。 

 

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