願いと代償  2004年1月13日 1:53:59 ひみつ 



『昨夜未明、○○市の路上で少女の変死体が発見され……』

 しかめつらしい顔をしたアナウンサーの顔を、舞は見るともなしにぼんやりと眺めていた。
 ブラウン管から垂れ流される凄惨なニュースも、自分とは関係のないどこか遠い世界の出来事のように感じられる。
 休日の昼下がり、何とはなしにつけたテレビを持て余すかのように、舞はチャンネルを変えようかどうかぼんやりと考える。

 そういえば。

 このトピックスの前に少しだけ興味のある話題が流れていた。アメリカBSE感染牛問題において政府は、といった内容。

 そう、牛丼がメニューから無くなった。
 BSEであるとか、輸入規制であるとかそういったことが問題なのではない。もっと言えば牛丼が食べられないことすらもあまり問題ではなかった。
 問題は、彼女にとって「牛丼」というメニューは思い出の品だったということだ。
 幼い頃に出会い、そして別れた友人との。

 実を言えば彼女は、川澄舞は、それまで牛丼というその食べ物が別段好物だったわけではない。
 変な話ではあるが、彼に「牛丼が好きか」と問われて「好きだ」と返したその瞬間から、舞は牛丼が好きになったのだ。
 きっと緊張していたのだろう、異性と話すような機会はそれまで無かったし、ましてや彼は彼女の初恋の人、緊張しない方がおかしい。
 不思議なもので、彼に対して「好きだ」と言ったその瞬間から、牛丼という食べ物に特別な意味ができた。好きになったのだ、とても。
 とても、好きだったのだ。

「どうして、こんなことになってしまったんだろう……」

 まるで他人の口から漏れた言葉であるかのように、その言葉は彼女の耳に届く。

「私は、どうして……」

 どうして、願ってしまったんだろう。

 解っていたはずだ。
 彼は決して牛丼が好きなわけではないことを。
 もう何年も前に、そう、彼と初めて出逢って、そして別れたあの幼い頃に、それは解っていたことではなかったか。


 そして――


「どうして……」

 願ってしまったのか。



『発見された少女は、水瀬名雪さん18歳、全身を鈍器のようなもので滅多打ちにされており、病院に運ばれましたが間もなく――』

 

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