連作『電話』

−弟−

 

「あっ、もしもし、私、留美」

「あの子もう寝ちゃった?」

「まだ起きてるんだ、うん、代わって」

「……」

「……」

「もしもし、姉ちゃんだぞ」

「……さっきはゴメンね」

「うん」

「それでね、あの後、姉ちゃん考えたんだ」

「あんた『どうすればいいだろう』って姉ちゃんに聞いたよね?」

「うん」

「これね、姉ちゃんの口から言うことじゃないと思う。 ……ううん、言っちゃダメなんだと思う」

「学校、行きたいよね?」

「そっか」

「うん、分かるよ。でもね」

「でも、それはあんたが自分で決めなくちゃいけないんだよ、きっと」

「他の誰でもない、あんた自身のことだもの」

「自分で決めるの。そして一度決めたら、もう迷っちゃ駄目」

「後で『こうしておけばよかった』『ああしておくべきだった』なんて後悔しちゃ駄目」

「……うん」

「そっか、ちょっと難しかったかもね」

「でもね、これだけは覚えておいて」

「あんただけじゃないんだよ」

「姉ちゃ……ううん、私だって悩んだ」

「そうよ? そうは見えなかった?」

「『これからどうすればいいんだろう』『どうするべきなんだろう』」

「私だって、たくさんたくさん悩んだんだから」

「うん」

「でもね、あの時に悩まなかったら、今の私はなかった」

「ひょっとしたら、あの時に違う選択をしていたら、もっと違う私がいたのかもしれない」

「でもね、私は今の私が嫌いじゃないよ?」

「未だにふらふらして、将来のこととか、好きな人のこととか、どうなるかなんてぜんぜんわかってない、バカな女子大生だけど」

「私は今の私が嫌いじゃない」

「だって、私が決めたことなんだもの」

「他の誰に決められたのでもない、私自身が決めたからこそ、今の私があるの」

「誰の責任でもない自分の責任で、今の私になったんだもの」

「今の私が嫌いだ、なんて言ったら、過去の私を否定することになっちゃうでしょ?」

「あはははっ、そうだね、余計わかんないよね」

「……」

「私ね、あんたに『自信を持て!』なんて言うつもりないよ?」

「私だって自信なんてないもの、そんな無責任なこと言えるわけない」

「だからさ、あんたの好きなようにすればいいと思う」

「うん」

「あんたが選んだ道の先には、未来のあんたがぜったいにいるんだもの」

「その時になって後悔さえしなければ、どんな道を選んだっていいんだよ」

「他の誰でもない、あんただけの人生なんだもの」

「……うん」

「あははは、そうだね、ちょーっと臭かったかなぁ」

「え? あはははっ! なに言ってんのよこの子は」

「それにさ」

「それに、だーいじょうぶよ、あんたお姉ちゃんの弟なんだから!」

「そうよ、お姉ちゃんの弟なんだもん、大丈夫だって!」

「え?」

「ちょ、ちょっとどういう意味よそれ!」

「こらっ、笑うな!」

「まったくもうっ! 帰ったら覚えてなさいよ?」

「あははは」

「……」

「……うん」

「うん、じゃあくれぐれも、身体、大事にね」

「うん」

「はい、おやすみ」

「あっ! もしもし!?」

「その、さ……」

「がんばろうね」

「お姉ちゃんもがんばるから、あんたも、一緒にがんばろうね」

「うん」

「おやすみ……」

 

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