連作『電話』

−恋人−

 

「……あっ、もしもし浩平? 私、留美」

「ごめんね、もう寝てた?」

「うふふ、そうよね、そんなわけないか」

「だめだよ、あんまり夜更かししたら」

「そうよ、浩平ぜんぜん起きないんだもの」

「そっちの大学はどうか知らないけど、あまり遅刻ばっかしてると単位取れないわよ?」

「医学部なんだし、余計に厳しいんじゃないの?」

「あはは、そうね、違いないわ」

「んー? 別に用事があったわけじゃないんだけどね」

「なんとなーく、浩平の声聞きたいかなー、なんて」

「……」

「え?」

「……」

「……あ、あはは、何よもう、すぐわかっちゃうんだもんな」

「浩平には敵わない、やっぱり」

「……」

「……あのね、前に話したじゃない? 弟のこと」

「うん、それでね、さっき弟から電話があったんだ」

「え? ううん、違うの、身体の方はだいぶいいみたい」

「うん」

「でね、夏休み明けからまた、学校通えるかもしれないんだって」

「うん、ありがと」

「……」

「それが……」

「……」

「……あいつにね、聞かれたんだ」

「『僕、どうすればいいだろう』って」

「……」

「私…… 答えられなかった」

「私、あの子のお姉ちゃんなのに」

「あの子のお姉ちゃんなのに、私は」

「何も、答えてあげられなかったの……」

「……」

「何を言っても、奇麗事でしかない気がして……」

「……」

「ねえ浩平」

「私、あの子になんて言ってあげればよかったのかな?」

「……」

「え?」

「ちょ、ちょっと浩平、私は真面目に……」

「……」

「……」

「……そっか」

「……そうだよね、そうなんだよね」

「それで……いいんだよね」

「……」

「……」

「……バ、バカ、泣いてなんていないわよ」

「そ、そうよ」

「うん、これからすぐに電話してみる」

「うん、それじゃ…… あっ、浩平!」

「……あのね」

「その……」

「……」

「ありがとう」

「……」

「それと……」

「……」

「な、何でもない、それだけ」

「バッ、バカ! そんなわけあるか!」

「言ってなさい! このバカ浩平!」

「だいたいアンタはねぇ……もしもし? もしもし!?」

「……もう! なに切ってるのよ、このバカ!」

「……」

 

「……好きだよ……浩平……」

 

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