連作『電話』
六
−恋人−
「……あっ、もしもし浩平? 私、留美」
「ごめんね、もう寝てた?」
「うふふ、そうよね、そんなわけないか」
「だめだよ、あんまり夜更かししたら」
「そうよ、浩平ぜんぜん起きないんだもの」
「そっちの大学はどうか知らないけど、あまり遅刻ばっかしてると単位取れないわよ?」
「医学部なんだし、余計に厳しいんじゃないの?」
「あはは、そうね、違いないわ」
「んー? 別に用事があったわけじゃないんだけどね」
「なんとなーく、浩平の声聞きたいかなー、なんて」
「……」
「え?」
「……」
「……あ、あはは、何よもう、すぐわかっちゃうんだもんな」
「浩平には敵わない、やっぱり」
「……」
「……あのね、前に話したじゃない? 弟のこと」
「うん、それでね、さっき弟から電話があったんだ」
「え? ううん、違うの、身体の方はだいぶいいみたい」
「うん」
「でね、夏休み明けからまた、学校通えるかもしれないんだって」
「うん、ありがと」
「……」
「それが……」
「……」
「……あいつにね、聞かれたんだ」
「『僕、どうすればいいだろう』って」
「……」
「私…… 答えられなかった」
「私、あの子のお姉ちゃんなのに」
「あの子のお姉ちゃんなのに、私は」
「何も、答えてあげられなかったの……」
「……」
「何を言っても、奇麗事でしかない気がして……」
「……」
「ねえ浩平」
「私、あの子になんて言ってあげればよかったのかな?」
「……」
「え?」
「ちょ、ちょっと浩平、私は真面目に……」
「……」
「……」
「……そっか」
「……そうだよね、そうなんだよね」
「それで……いいんだよね」
「……」
「……」
「……バ、バカ、泣いてなんていないわよ」
「そ、そうよ」
「うん、これからすぐに電話してみる」
「うん、それじゃ…… あっ、浩平!」
「……あのね」
「その……」
「……」
「ありがとう」
「……」
「それと……」
「……」
「な、何でもない、それだけ」
「バッ、バカ! そんなわけあるか!」
「言ってなさい! このバカ浩平!」
「だいたいアンタはねぇ……もしもし? もしもし!?」
「……もう! なに切ってるのよ、このバカ!」
「……」
「……好きだよ……浩平……」