連作『電話』
五
−弟−
「はい七瀬です」
「もしもし?」
「あっ…… うん、姉ちゃんだぞ」
「あんたねぇ、男の子なんだからもっと元気よく喋りなさい」
「そうよ」
「え? そ、そう?」
「別によそ行きの声って訳じゃないよ、普通だよ? これが」
「あはは、そうかも」
「そりゃね、姉ちゃんだってもう大学生だもの」
「あははっ、うっさい」
「うん、暇よ。あんたは病院いいの?」
「そう、偉いぞ」
「で、どうしたの?」
「うん」
「……え?」
「そう! よかったじゃないの!」
「じゃあ夏休み明けから、また学校行けるね!」
「どうしたのよ、もっと嬉しそうな声出しなさいよ」
「……え?」
「……」
「……」
「……そ、そっか」
「……」
「……あ、あのさ」
「学校、行きたくないの?」
「そ、そっか、そうだよね、行きたいよね」
「……」
「……」
「……」
「えっと…… あの、ね……」
「あの…… なんて言っていいのか……」
「私は、その……」
「……」
「バ、バカ、なんであんたが謝るのよ」
「そ、そうよ、謝ることないわよ」
「……うん」
「そ、そっか、じゃあお大事にね」
「うん、おやすみ」
「……」