この世界が好きですか?

2002/06/26 久慈光樹


 

 

 

『こんにちわ、なの』

「……こんにちは、澪さん」

 

 澪さんと偶然会ったは、いつもの空き地へ向かう途中だった。

 

『どこへ行くの?』

「……いつものところです」

『今日は寒いの、ずっと立っていると風邪ひいちゃうかもなの』

「大丈夫です、慣れてますから」

 

 澪さんは、いつものように無邪気に、“話かけて”くる。

 

『どうしていつもあそこに居るの?』

 

 そして無邪気に――無神経に、そう聞いてくる。

 

 澪さんと知り合いになったのは、“あの人”がまだこの世界にいた頃だった。

 最初はただ挨拶を交わすだけの間柄だったけれど、次第に親しくするようになり。

 そして“あの人”が消えてからも、その関係は続いている。

 

 素直で、無垢で、純粋で。

 

 私は、上月澪というこの少女が……

 

 

 

 

 

 

 大嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 空き地へ向かう私の後を、ずっとついてくる澪さん。

 

「ついてこないで」

 

 そう言いたくなるのを我慢する。

 無神経さに苛立つ。

 この気持ちを直接ぶつけることができたら、どんなにか楽になることだろう。

 

 ……わかっている。

 そんなのが、ただの八つ当たりだということくらい。

 だけど苛立つ気持ちが消えるわけではない。

 

 澪さんは、人の心に土足で踏み込んでくる。

 何事にも前向きで、一生懸命が故に。

 

 あの人もそうだった。あの人も、しつこいくらいに私に付きまとって、私の心に入り込んできた。

 澪さんは、あの人に似ているのだ。

 姿形ではなく、その内面が。あまりにも、似ているのだ。

 

 だからこそ、大嫌いだった。

 

 澪さんと“話し”ていると、あの人を思い出すから。

 今は居ない、帰ってくるかどうかわからないあの人を、思い出してしまうから。

 あの人がもう居ないことを、思い知らされてしまうから。

 

「澪さん、あなたは……」

『なになに?』

 

 言いかけて、躊躇う。

 聞いてどうするというのだ。

 だが、私の口は躊躇う私の意思に反して、言葉を紡いだ。

 

 

「この世界が好きですか?」

 

 

『え?』

「答えてください、あなたは、この世界が好きですか?」

 

 唐突な問いだったのだろう、澪さんはしばらくきょとんとした顔をし。

 そして、“言った”。

 

 

 

 

『大好き、なの』

 

 

 

 

 ああ。

 やはり聞くのではなかった。聞くべきではなかった。

 答えなど、わかりきっていたのに。

 

 彼女ならきっとそう言うだろう。そして、あの人もきっと同じことを言うに違いないのだ。

 だから私は……

 

 

 この子が、大嫌いなのだ。

 

 

 

 

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