トラと三毛


2000/02/24 久慈光樹


 

 

 

 むかしむかしあるところに、野良のトラ猫と、そのトラ猫が大好きな三毛猫がいました。

 トラ猫は野良なので、毎日毎日あっちにフラフラこっちにフラフラ。

 三毛猫はそんなトラ猫が心配で心配でしかたがありません。

 

 キミにはちゃんとした飼い主がいてくれないと心配だよ

 

 三毛猫は毎日毎日口をすっぱくしてそう言い、それでも嬉しそうにトラ猫の世話を焼きました。

 トラ猫はとってもひねくれ猫でしたけれど、三毛猫の言うことだけは、なんだかんだ文句をいいつつもちゃんと聞きました。

 

 まだ小猫だったころ、三毛猫はトラ猫に毎日イジメられていました。

 だから三毛猫の友達や飼い主は、野良のトラ猫をなんとかして追っ払おうとしました。

 でも、子猫だった三毛猫は同じように子猫だったトラ猫が大好きでした。

 たまにしっぽに噛み付かれたりしましたけれど、それでいて三毛猫が他の猫にイジメていると、いつだってトラ猫は助けてくれました。

 よくごはんを横取りされましたけれど、それでいて三毛猫が寂しがっていると、いつだってトラ猫はいっしょにいてくれました。

 だから今でも三毛猫はトラ猫が大好きでした。

 

 

 そんなある日のことです、三毛猫のもとに大好きなトラ猫がたずねてきました。

 トラ猫はなんだかとっても疲れているようで、三毛猫は心配になりました。

 

 どうしたの? どうしてそんなに疲れているの?

 

 トラ猫は応えず、口にくわえていた薄汚れたウサギのぬいぐるみをくれました。

 どこから拾ってきたのか、そのぬいぐるみはぼろぼろです。

 おなかから綿が飛び出していて、耳が片方ちぎれていて、目も片方ありません。

 それでも大好きなトラ猫からの贈り物に喜ぶ三毛猫に、トラ猫はぽつりとつぶやきます。

 

 

 これからも、笑顔でいてくれよな

 

 と。

 

 意味が分からず戸惑う三毛猫を残し、トラ猫は去っていきました。

 そしてその日から。

 トラ猫は、三毛猫の前からいなくなってしまったのです。

 

 

 

 いつものように猫集会に出かけた三毛猫は、信じられないできごとに遭遇しました。

 ケンカが強くてこのあたりではワル猫として有名だったトラ猫。

 そのトラ猫を、だれも覚えていないのです。

 いつもトラ猫といっしょに悪さをしていたオスの黒猫も。

 いつもトラ猫とケンカしていたメスのぶち猫も。

 だれ一匹、トラ猫のことを覚えていないのです。

 

 

 一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月。

 いくら待ってもトラ猫は帰ってきません。

 

 さみしいよぉ、さみしいよぉ、さみしいよぉ

 

 さみしいとき、いつもいっしょにいてくれたトラ猫はもういません。

 まいにちまいにち三毛猫は泣いていました。

 そして、泣き疲れた三毛猫の目に、あのウサギのぬいぐるみがとまったのです。

 

 

 これからも、笑顔でいてくれよな

 

 

 トラ猫の最後の言葉を思い出し。

 そしてその日から、三毛猫は泣かなくなりました。

 

 

 とってもとってもさみしかったけれど。

 ほんとうはとっても泣きたかったのだけれど。

 笑顔でいれば、きっとトラ猫は帰ってきてくれる。

 そう信じて、三毛猫は笑顔で待ち続けました。

 

 でもやっぱり、時にはさみしくて泣きそうになってしまうこともあります。

 そんなとき三毛猫は、トラ猫がくれたウサギのぬいぐるみを見るのです。

 ぼろぼろのそのぬいぐるみは、よく見ればいつも薄汚れてフラフラしていたトラ猫にそっくりでした。

 オレはそんなにぼろぼろじゃないぞ! と怒るトラ猫を想像して。

 三毛猫はまた笑うことができるのです。

 

 春になり、夏がきて、秋がきて、そしてまた冬がきても。

 三毛猫はずっとずっとトラ猫の帰りを待ちつづけました。

 笑顔と、共に。

 

 

 

 このお話はここでおしまいです。

 三毛猫が大好きなトラ猫とまた会うことができたかどうか。

 三毛猫と、そしてぼろぼろのぬいぐるみだけが知っています。

 

 

 

<おしまい>