家族

−お酒は二十歳になってから!−

二日酔い

2001/06/03 久慈光樹


 

 

 

 雀の声で、目がさめた。

 どうもあの後、そのまま居間で寝ちまったらしい。

 

「うー、あたまいてぇ……」

 

 ぼやいてソファーから体起こそうとするが、体が動かない。

 

「なにぃ! 金縛りか!」

「違います」

「……速攻でつっこまないで下さい、秋子さん」

「あらあら」

 

 昨日あれだけ飲んだ秋子さんだったが、その様子は普段とぜんぜん変わりがない。

 いや、今はそんなことよりもこいつらだ。

 体を起こせないのも道理だ。俺の両腕をしっかりと左右からつかんで、真琴と名雪が眠っていた。 

 

 こいつらは……。

 

「あれ、そういえば長森さんはどうしたんです?」

 

 仕方がないのでソファに寝そべったまま、秋子さんに尋ねる。

 昨日は2時間ほど説教された挙句、「祐一くん! 罰として一気飲みだよもん!」とかなんとか……。

 とりあえずそれ以降の記憶がないのでよくわからん。

 

「瑞佳ちゃんなら帰りましたよ。祐一さんに「きのうはごめんね」って伝えて欲しいと頼まれました」

「そうなんですか、別に気にしてないのに」

 

 なんだよ、もう帰っちゃったのか。今日は日曜日だしゆっくりしていって欲しかったな。

 まあ何にせよ、よりお近づきになれたのはいいことだ。今度保育所に顔を出してみよう。

 うまく時間を調整すれば、一緒に帰ることができるかも……。

 

「あぅーっ、ゆーいちのうわきものぉ……」

「ぶっ! 別に俺は…… って、寝言かよ」

 

 右腕にしがみついた真琴の、寝言だったらしい。

 寝てるときまで妙に鋭い。恐ろしいやつ……。

 

 とりあえずこのままじゃ体を起こすこともできない。

 俺は二人を起こそうとして

 

 やめた。

 

「うにゅー、ゆういちー……」

「あぅー、ゆーいちー……」

 

 両腕にしがみついたふたりは、本当に安心しきった、幼子のような表情で眠っていた。

 まったく、こんな顔して寝られたら起こせないじゃないか。

 

 昨日は散々だった。

 いや、昨日に限らず毎日がお祭り騒ぎのような騒がしさだ。

 騒がしくて、気の休まる時なんかぜんぜん無くって。

 

 だけどそんな毎日のお祭り騒ぎを、心から楽しんでいる俺がいる。

 そんな騒がしい日々が、いつまでも続けばいいと願ってる俺がいる。

 

 こいつらといつまでも一緒に日々を過ごせたら、それはどんなにか楽しいことだろう。

 

 俺の待ち望んでいた日常。

 俺と名雪と秋子さんと、そして何より真琴のやつが心の底から待ち望んでいた日常。

 

 

 この北の町に越してくることになって。

 

 数年ぶりに幼馴染の女の子と再会した、そのときから。

 

 「雪、積もってるよ」

 

 商店街で、初めてこの意地っぱりと顔を合わせた、そのときから。

 

 「あなただけは、許さないから」

 

 それは、始まっていたんだ。

 

 

 俺の右手にしがみつき、幸せそうに眠る真琴。

 俺の左手にしがみつき、同じく幸せそうに眠る名雪。

 そんな俺たちを、暖かく見守ってくれる秋子さん。

 何でもない、日常の、家族のかたち。

 幸せの、かたち。

 

「これからも、よろしくな」

 

 眠るふたりの表情と、秋子さんの微笑みが、応えだった。

 

 

 

 

 

「あぅーっ、あたまいたい……」

「うにゅー……」

「あれだけ飲めば、当たり前だ」

 

 しばらくして目を覚ましたふたり。今はちょっと遅い昼ご飯を食べているところだ。

 ふたりともてきめんに二日酔いである。

 俺も起きてしばらくは頭が痛かったが、もうすっかり良くなっていた。どうも俺は思っていた以上に酒に強い体質らしい。

 

「そういえば祐一、わたし起きたときなんでシャツ一枚だったのかな?」

「なんでってお前…… 昨日のこと、覚えてねぇのかよ」

「ん? わたし何かした?」

「……いや、いい。知らないほうがお前のためだ」

「うー、そう言われると気になるよ」

 

「祐一、真琴なんで起きたとき目が真っ赤だったの? 鏡見てびっくりしたんだから」

「お前も覚えてねぇのか……」

「真琴、なんかした?」

「……いや、お前も知らないほうが身のためだ」

「なによぅ、気になるじゃないのよぅ!」

 

「秋子さん、昨日は酔ってたんですか?」

「いえ、全然そんなことはないわよ」

「(絶対にウソだ……)」

 

 とりあえず、もう二度とこの面子に酒は飲ますまい。

 

 

 昼を食べ終え、お茶を飲んでいるときだった。

 

「そういえば」

 

 おもむろに秋子さんが取り出したのは、どこかで見たような箱。

 

「またお隣の奥様から、いただいたのよ」

「うわー、チョコレートだぁ♪」

「ちょこれーとー!」

 

 ふりだしに戻る。

 

 

 って、ちょっと待てやぁ!!

 

 

 

<おしまい>