家族

−星の降る夜−

2001/11/19 しし座流星群を眺めながら

久慈光樹


 

 

 

「ほれ、起きろ真琴」

「うー、なによぅ……」

「しし座流星群、見るって言ってただろ」

「あぅー、ねーむーいー」

「起きないなら俺と名雪だけで見るぞ?」

「うー、真琴もみたいー」

「じゃあ起きろ、ほら」

「うー……」

 

 くしくしと目をこすりながら、何とか起きる真琴。

 

 今日は11月19日。

 しし座流星群を見ることができる日だ。

 現在時刻午前3時、ずっと起きてた俺もさすがに眠い。今日は学校で爆睡だな、こりゃ。

 流星群を三人で見ようと決めたものの、真琴と名雪がこんな時間まで起きていることなどできるはずもなく、二人は一旦寝て、ずっと起きている俺が起こしてやることになった。

 真琴はまだいい、何だかんだ文句を言いつつも起こせば起きるのだから。

 問題は、こいつだ。

 

「おーい名雪、起きろー」

「うにゅー」

 

 くそう、いつにも増して手ごわい。さすがにこの時間だからな。

 

「時間だぞー、起きろー」

「うにゅ、もう食べられないおー……」

「呑気な夢見てんじゃねぇ! 起きろコラ!」

「くー」

 

 あー、こりゃダメか?

 

「わかった、名雪は寝てろ。俺と真琴で見てくるから」

「うー、だめー、わたしも見るー」

 

 どうもこの二人、「夜空の下で二人っきり」というシチュエーションを期待しているらしい。

 二人にしては遅くまで起きてるなあとは思っていたが、どうやら二人して牽制し合っていたらしいな。

 まったく……。

 まぁ男として悪い気はしない。俺は緩む頬を取り繕うように、二度寝しそうな勢いの名雪を急かした。

 

 

 

 

 

「こりゃすげぇな……」

「あぅー……」

 

 星、星、星。

 真っ黒なキャンバスに、光の絵の具をぶちまけたように。

 星空というよりも、それは星の海だった。

 こうやって空を見上げていると、そのまま吸い込まれてしまいそうだ。

 

「うふふ、でしょ?」

 

 昔から自分の住んでいる場所を誉められたようで嬉しいのだろう、名雪は妙にご機嫌だ。

 

 俺もこの街に来てからだいぶ経つが、じっくりと星空を眺めたことなんて今までなかった。そしてそれは真琴も同じだろう。

 改めて見るこの街の夜空は、今まで見たことがないほどの星の大海だった。

 そして……

 

「あっ! ほら真琴、あそこ!」

「おねーちゃん、あっちもだよー!」

 

 正直、俺はあんまり期待していなかった。

 ざーっとまるで雨のように流星雨が降り注ぐのではなくて、ぽつりぽつりと何秒かに一回の割合で星が流れるだけだと聞いていたからだ。

 今もおよそ10秒に一度、星がサーっと尾を引いて流れるだけ。

 だけど……

 

「こりゃ、すげぇな……」

「あははっ、祐一さっきからそればっかり」

 

 それ以外に言葉がないのだから仕方ない。

 満天の星の海にときおり走る流星。

 それはほんの一瞬ですぐに消えてしまうのだが、はっと息を呑むほどに美しかった。

 

「晴れてよかったねぇ」

 

 名雪の言葉通り、今夜は雲もあまりない。

 しばらく俺たち三人は、言葉を交わすこともなく夜空を眺め続けた。

 

「くちゅん!」

「寒いな、こりゃ……」

 

 さすがに11月も半ばを過ぎ、北のこの街は本当に寒くなりつつある。

 ベランダに出てじっとしていると、身体の芯まで寒さが染み入るようだ。

 

「そろそろ、家に入るか?」

「うー、真琴もうちょっと見ていたい……」

「わたしも……」

 

 実を言うと、俺ももうちょっと見ていたい。

 だがこの寒さだ、厚着しているとはいえ、風邪を引いてしまいかねない。

 

「そうだ、ちょっと待ってろ」

 

 一旦部屋に入り、ベッドから毛布を引き剥がす。

 これに包まればちったあ暖かいだろ。

 

「ほれ、これでも被れ」

「わぷっ!」

 

 真琴と名雪の頭から、それを被せ、俺の分を取りに行こうとする。

 

「あっ、ちょっと待って祐一。これに三人で包まろうよ」

 

 ちょっぴり顔を赤くしながら、名雪。

 

「う、うん、そうしなさいよ」

 

 これまたちょっぴり赤い顔の真琴。

 んー、まあいいか。

 

「祐一は真ん中ね」

「わっ、あったかい」

「お、おい、そんなにひっつくな」

「だって寒いんだもーん、えへへ」

「そうよぅ、寒いから仕方ないのよぅ」

 

 両脇からしがみ付かれ、一つの毛布に包まる。

 ちょっと恥ずかしいが、まあたまにはいいだろ。暖かいしな。

 誰にともなく言い訳しながら、また夜空に視線を向ける。また一つ、星が流れた。

 

「なあ知ってるか? しし座流星群って来年もまた見れるらしいぞ」

「えっほんと!? 真琴、来年も見たい!」

「あ、わたしもわたしも!」

 

 今年、俺と名雪は大学を受験する。

 一応この近くの大学を受験する予定だが、どうなるかはその時になってみないとわからない。

 真琴は今年も保母の資格取得に向けて勉強の毎日だろう。

 来年もまた、この流星群を三人一緒に見ることができるかどうか、正直わからない。

 だけど……

 

「そうだな、来年もまたこうやって見れるといいな」

 

 それが俺の、偽らざる正直な気持ちだった。

 

「あっ! また流れたよ!」

「あっちも!」

 

 嬉しそうな真琴と名雪の声を聞きながら、俺は尾を引く流星群にそっと心の中で願った。

 これだけいっぱい流れてるんだ、どれか一つくらいは俺のこのささやかな願いを適えてくれるだろう。

 

 

 

 

俺たち家族のこれからに、幸多からん事を

 

 

 

 

<FIN>