かぞくがいでん

真琴のらぶらぶ大作戦!

‐その3‐

2001/02/23
久慈光樹


 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 電話?

 

 電話が鳴っている……。

 

 出なくては……。

 

 電話に、出なくては……。

 

 

「はっ」

 

 美汐は慌てて頭を起こした。いつのまにかベッドに突っ伏して眠ってしまっていたらしい。

 見ると真琴はまだすやすやと眠りつづけている。

 再度のチャイムの音に、慌てて玄関に出た。電話だと思ったのはチャイムだったらしい。

 

「よう、天野っち」

「あ、ああ、相沢さんでしたか」

「ん? どうした、寝てたのか?」

 

 祐一のその言葉で、寝ぼけ眼でそのまま人前に出てしまった事を悟る。どうもまだ少し寝ぼけていたらしい。

 

「そ、そんなことはありません!」

「ふーん、まぁいいや。真琴は?」

「眠っています」

「なんだ、寝ちまったのか」

「ええ」

「あぅー…… ゆーいち?」

 

 こしこしと目を擦りながら、真琴が降りてきた。

 眠っていても祐一の声だけは聞き逃さない。美汐は少し可笑しく思いながら、危なっかしく階段を降りる真琴を支えた。

 

「おいおい、人んち来て寝るなよお前は」

「別に構いませんよ、真琴なら」

「悪いな」

「真琴は、親友ですから」

「そうか、そうだな」

「ええ」

 

 自然と笑みが浮かんだ。

 

 笑い、怒り、悲しむ。

 こんな簡単な事すら出来なかったのだ。真琴が帰ってくるまでは。

 

「あーぅー、ねーむーいー」

 

 起きてきた真琴だったが、今にも寝入ってしまいそうだった。

 

「あーもうしょうがねえな、ほら」

 

 祐一が背を向けてしゃがむ。

 まるでそれが当たり前のようにその背におぶさる真琴を見て、天野の笑みがさらに深くなる。

 

「じゃあ天野、悪かったな」

「そこまでご一緒してもよろしいですか?」

「は? まぁいいけど、帰りはどうするんだよ、もう結構暗くなってきてるぜ?」

「ほんのそこまでですよ」

 

 念のため家に鍵をかけて、美汐は真琴を背負った祐一の隣を歩き始める。

 

 美汐は祐一に確認してみたかった。

 真琴のことをどう思っているのか、を。

 大切に想っていることは確信していたが、それを祐一自身の口から聞いてみたかったのだ。

 都合のいいことに真琴は祐一の背で完全に寝入っており、聞かれる心配はない。

 しばらく無言で歩を進めた後、意を決して問いかけてみる。

 

「祐一さん、貴方は……」

「たく、しょうがねぇなあ、こいつは」

 

 『真琴の事をどう思っているのですか?』

 

 言いかけた美汐だったが、祐一が背で眠る真琴に向けた視線を見て、その言葉を飲み込んだ。

 

 祐一の視線は暖かかった。

 夏の太陽ような熱い視線ではなく、ましてや冬の木枯らしような冷たい視線でもなく。

 春の陽射しのような、そんな暖かな視線を祐一は真琴に向けていた。

 

「そうなんですね」

「あん? 何か言ったか?」

「いいえ、なにも」

 

 きっとこの二人の関係は、真琴が少女マンガで見たような関係ではないのだろう。

 互いが互いを激しく求め合うような、そんな関係ではないのだろう。

 きっとそれよりも、もっと素敵な関係。

 恋人同士よりも、もっと大切で、得難い関係。

 無償で互いの幸せを願い、共に歩んでくれる関係。

 家族。

 

『よかったですね、真琴』

 

 美汐も、眠る真琴に暖かな視線を送る。

 春が来る事を誰よりも願っていた真琴、春が続く事を誰よりも願っていた真琴。

 春が過ぎれば夏がきて、やがてまた春が来る。移ろう季節を留めることは、誰にも出来ない。

 だけど真琴は手に入れたのだ。彼女だけの常春を。

 何よりも暖かく、何よりも大切な物を、きっともうこの子は持っている。彼女だけの春を、決して移ろうことのない春を、この子は手に入れたんだ。

 

「相沢さん」

「あん?」

「真琴の事、これからもよろしくお願いします」

「……は?」

 

 狐につままれたような祐一の顔を見て、美汐は吹き出した。

 

「いえ、何でもないんです」

「……まったく、相変わらずよく分からんやつだな、天野っちは」

「……相変わらず、相沢さんは失礼ですね」

「怒るなよ、天野っち」

「やめて下さい、その呼び方」

 

 親友と、大切な人の声を夢の中で聞いているのだろうか。

 真琴の寝顔には、いつしか笑みが浮かんでいた。

 

 春のような、暖かな笑みが。

 

 

 

 

<FIN>