かぞくがいでん

真琴のらぶらぶ大作戦!

‐その2‐

2001/02/23
“らぶらぶ”どころではない久慈光樹


 

 

 

 結果から先に記そう。

 真琴が提案し、美汐が計画して実行された『らぶらぶ大作戦』であるが、結果は惨憺たる有様であった。

 以下にその作戦の内容と結果、そして経緯を記す。

 

 

 

作戦1:「毎朝真琴が起こしてあげるんだからね」作戦

 

ガチャ

 

「ふっふっふー、やっぱりまだ起きてないようね」

「ZZZ……」

「昨日の晩、こっそり目覚し時計止めておいた甲斐があったというものよ」

「ZZZ……」

「ふっふっふー、幸せそうな顔して寝てられるのも今のうち!」

 

『ねえ起きて、祐一』

『あ、ああ、真琴か、おはよう』

『おはよう。まったく、お寝坊さんなんだから』

『はは、朝一番で真琴の顔を見れるのなら寝坊も悪くないな』

『え? も、もう、祐一ったら』

『真琴……』

『あ、ダメよ祐一、遅刻しちゃうわ』

『真琴……』

『祐一……』

 

「なんちゃってなんちゃってーー! えへへへ……」

「人の部屋に忍び込んでなにニヤケてんだよ」

「何よ、うっさいわねー。今いいところなんだから…… って、わっ! ゆゆゆゆゆ祐一!」

「傍から見てるとかなり怖いもんがあるぞ」

「お、起きちゃったんだ」

「あれだけ大騒ぎされれば誰だって起きると思うぞ」

「あぅー」

「ほら着替えるから出てけ」

「あぅ、わかった……」

 

ガチャ、とぼとぼ……。

 

「何をしに来たんだ? あいつは」

 

結果:失敗

 

 

 

作戦2:『真琴の愛情料理をとくと味わいなさい!』作戦

 

「……」

「あぅ、どうしたの美汐、真琴の顔じーっと見て」

「真琴、お料理したことありますか?」

「ううん、全然」

「……(はぁ)」

「あぅ?」

 

結果:実行に移す前に頓挫

 

 

 

作戦3:最後の手段、『せくしーな真琴にメロメロね!』作戦

 

ドドドド…… ガチャ

 

「ゆーいちー♪」

「真琴、ノックをしろと何度言ったら分かる…… って何でお前はシーツなんて羽織ってるんだ?」

「ふっふっふ、知りたい?」

「いや、別に」

「あぅーっ、知りたい?」

「別に知りたくない」

「あぅー……」

「あー、分かった分かった、知りたい知りたい」

「ふっふっふー、しょーがない、教えてあげるわよぅ」

「はいはい」

「見ておどろかないでよー、うりゃぁー!」

 

ばさっ!

 

「……」

「じゃじゃーん! どお、にあうー?」

「……」

「あはは、真琴のせくしーな体操着姿(ぶるまぁ仕様)にさすがの祐一もメロメロのようね!」

「……どうしたんだ、それ」

「え? 美汐に借りた」

「……あ、そう」

「いたいけな少年をとりこにする、真琴の魔性のみりょくよねー ……ってなんで無視してマンガなんて読んでるのよぅ!」

「あー、似合う似合う」

「あぅ、も、もっと何とか言いなさいよぅ!」

「あー、かわいいかわいい」

「あぅーっ、祐一のおたんこなすー!」

 

 がちゃ、ドドドド……。

 

「お、おたんこなす?」

 

結果:失敗

 

 

 

 

「ま、真琴、そんなに気を落とさないで……」

「ふーんだ、いいもんいいもん、祐一なんて大嫌い」

 

 惨憺たる結果に、真琴は美汐のベッドで布団を被ってしまっている。

 水瀬真琴10の秘奥義の一つ、「ふて寝」である。主に拗ねたときに発動されるこの奥義は、真琴が機嫌を直さない限り継続され、機嫌を直す事ができるのはこの場合相沢祐一ただ一人という恐ろしい技であった。

 他にも「やけ食い」「部屋に立て篭もり」「ふくれ面」と数々の恐ろしい秘奥義を持つ真琴である。

 

「うー、あぅー、うー」

 

 布団で唸る真琴。

 美汐は何とか真琴を慰めようと必死で声をかけた。

 

「きっと祐一さんは真琴の事が大好きなはずですよ」

「あーぅー」

「だからそんなに気を落とさないで」

「あーーぅーー」

 

 唸る真琴。

 美汐はため息を一つつき、真琴のために飲み物を持ってきてあげる事にした。

 

「真琴はいつもの通り、ホットミルクでいい?」

「あーぅー、砂糖いっぱい入れて」

「虫歯になりますよ?」

「あぅー」

「ふふ、はいはい、砂糖いっぱいね」

「うん」

 

 台所に来た美汐。いつものように牛乳をカップに注ぎ、電子レンジでチン。そしていつもよりもちょっぴり多めに砂糖を入れ、レモンの雫を2、3滴。真琴はこの砂糖入りホットミルクが大好きなのだ。

 

 

 先ほど真琴にかけた言葉は、気休めなどではなかった。

 美汐には、祐一が心から真琴のことを想っているという確信があった。

 なぜなら、美汐は真琴がいなくなってからの祐一を知っている。

 真琴がいなくなってからの祐一は、表面上は普段と変わりが無かった。

 でも、美汐は知っている。同じ経験をしたことがある美汐だからこそ、分かったのかもしれない。

 彼はきっと、美汐とはまったく逆の方法で自分の心を偽ったのだろう。

 美汐は、感情を己の内に押し込める事によって、身を守った。笑みを消し、表情を消し、感情を殺して悲しみから己を守った。

 祐一は逆だったのだ。いや、同じだったのか。

 偽りの笑み、偽りの感情を見に纏って、他者を、そして何より自分自身を偽ることによって、悲しみから身を守ったのだ。

 

 『相沢さんは強くいてください』

 

 以前彼に言った言葉。あの時は、彼のためを思い言ったつもりだった。

 祐一はあの言葉通り、強くいてくれた。そう、表面上だけは彼は強くいてくれたのだ。

 今にして思えば、あの言葉はとても残酷な言葉だったのかもしれない。自分は彼に、とても辛い試練を課してしまったのかもしれない。

 泣きたいときに笑うのは、泣くのを我慢するよりもよほど辛いことなのだ……。

 

 ……やめよう。もう終わった事だ。

 微かに首を振る美汐。

 例えそうだったにしても、もう終わった事だ。真琴は帰ってきた。帰ってきてくれた。

 真琴が帰ってきて、自分の前に現れた時のことは今でも覚えてる。

 そっと目を閉じ、そのときのことを思い出す。

 

 泣いた。

 恥も外聞も無く、幼子のように声を上げて泣いた。戸惑う真琴にすがり付いて、何年ぶりかの涙を流した。

 今まで己の内に押しこめていた感情が、涙と共に全て溢れ出てきたようだった。

 だがそれは、悲しみの涙ではなかった……。

 

 

 

「真琴、いれてきましたよ」

 

 2人分のホットミルクを持って、部屋に戻る。

 まだ拗ねているのか、真琴は返事をしなかった。

 

「ほら真琴、いい加減機嫌直して。ミルクが冷めちゃいますよ」

 

 ベッドから連れ出そうと近づいた美汐は、真琴がすっかり寝入ってしまっているのを見て、苦笑する。

 ちょっぴりはだけた上掛けを掛け直してやる。

 最初はちょっぴり拗ねた風だった寝顔も、美汐が髪を撫でてあげる内に安らかなものに変わっていった。

 眠る真琴の頭を優しく撫で続ける。

 

 

「真琴、ありがとう」

 

「私たちの元に、帰ってきてくれて」

 

 

「ありがとう…… 真琴」

 

 

 

<つづく>

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