家族

元旦特別編

−4人の願いは−

2000/01/01 「A Happy NewYear!!」

久慈光樹


 

 

 

「ゆーいちぃーー」

 

 2000年、俺の元旦の朝はそんな真琴の騒がしい声で始まった。

 

「祐一ぃーー! 起きなさいよぅ!!」

 

 がくがく

 がくがく

 

「えーい! うっとうしい!!」

 

 あわよくばそのまま寝たふりを続けようとしたが、真琴のやつががくがくと体を揺すりやがるので断念した。

 

「何よぅ! せっかく起こしてあげたのに!」

「分かった分かった、そんなにむくれるなよ真琴」

「真琴子供じゃないんだから、頭なでないでよぅ!」

「はいはい、明けましておめでとう真琴。今年もよろしくな」

「う、うん。明けましておめでとう祐一」

「しかし珍しいな、真琴が俺より早く起きるなんて」

「当たり前じゃない。今日は元旦で保育所のお仕事お休みだもん、早く起きなくちゃもったいないでしょ」

 

 まったく、いつまでたってもこいつはガキだな。

 帰ってきたこいつが、養子として水瀬家の正式な一員になってから、もうすぐ1年になる。俺と名雪は大学受験に備えて勉強の日々、真琴も保育所の手伝いをしながら保母さんを目指して勉強中だ。

 

「時に真琴、勉強の方は進んでるのか?」

 

 俺はちょっと意地悪く、そう聞いてみた。

 案の定真琴は痛い所をつかれたという顔をする。

 

「だ、大丈夫よぅ」

「ほほう。本当かなぁ〜」

「あ、あぅー……」

 

 困ったように唸り、涙目になる真琴。

 いかんいかん、つい調子に乗って苛めすぎたな。

 

「ごめんな、真琴。お前が自分の夢に一生懸命なことは見ていてよく分かるよ」

「え?」

「夢なんだろ? 保母さんになるの」

「そ、そうだけど……」

「真琴は頑張ってると思うぜ」

 

 俺はそう言って再び真琴の頭をなでてやる。

 真琴は真っ赤になってもじもじしている。

 

「あぅー……」

「さて、そろそろ朝飯の時間だ。真琴、先に下に降りてろよ、俺は名雪を起こしてから行くから」

「うん、名雪おねーちゃんまだ寝てるよ」

「そうだろうな……」

 

 名雪が一人で起きているなんてことは、まず考えられない。

 俺は真琴と別れ、名雪の部屋に向かった。

 

「おらーー! 起きろ名雪ぃ!!」

 

 バーン!

 バサッ!

 がくがく!

 がくがく!

 

「くー、地震だおーー……」

 

 部屋の扉を開け、布団を剥ぎ取り、体を揺する。

 並の人間なら一発で目を覚ます所だが、さすがは名雪、この程度ではびくともしない。

 だが、俺もこの程度でこいつを起こせるとは思っていない、これはいわば儀式のようなもので「さんざん起こした」という既成事実を作るための行為だ。

 つまりこれで起きなければ、この後は名雪は何をされても文句は言えないわけだ。

 

「これでどうだ!」

 

くぃ

 鼻をつまむ。

「う゛ーー」

 

 

「これならどうだ!」

 

うにーん

 頬を左右に引っ張る

「いひゃい……」

 

 

「今度はこうだ!」

 

むにぃん

 逆に頬を左右から押す

「むにゅぅ……」

 

 ・

 ・

 ・

 

「いい加減起きんかぁーーー!!」

 

 ゴチン

 

「うー、痛い…… 酷いよ祐一」

 

 結局いつもと同じパターンになってしまった。

 

「おはよう、祐一」

「おう、おはよう。それと明けましておめでとう、名雪」

「あっ、そうか。明けましておめでとうございます、今年もよろしくね」

「こちらこそ。ほら、早く着替えて朝飯にするぞ」

「うん。じゃあ着替えるね」

「先行ってるぞ」

 

 

「ごっはん♪ ごっはん♪ あっさごっはんー♪」

「なんだ真琴、その歌は……」

「え? 朝ご飯の歌」

「そうか……」

「あら、祐一さん。明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます、秋子さん」

「真琴、お雑煮できたから運ぶの手伝って頂戴」

「はーい、おかーさん」

「あ、俺も手伝います」

「あらあら、祐一さんは座っていてくださいな」

「そうよぅ、“だんしちゅーぼーにはいらず”!」

 

 ひらがなじゃねーか。

 俺が溜息をついていると、着替え終えた名雪が階段を降りてきた。

 

「明けましておめでとうございます」

「あら、名雪。明けましておめでとう」

「明けましておめでとう、名雪おねーちゃん」

 

 名雪と真琴が秋子さんの手伝いをする。

 その姿は、仲のよい姉妹とその母親そのものだ。

 やがて料理が全て食卓に並べられ、朝ご飯となった。

 

「そうだ! ねぇ、今日初詣に行こうよ!」

「あれ? 名雪、近くに神社なんてあったけ?」

「ありますよ祐一さん、そうねみんなで行きましょうか」

「真琴も行くー」

 

 と言うわけで、初詣に行くことになった。

 俺は朝飯を食べ終えたらすぐに行くつもりだったが、秋子さんの「女の子には色々と用意があるのよ」との言葉に、断念した。多分振袖でも着るつもりなのだろう。

 さらに、見てのお楽しみということで、昼前まで家を追い出されてしまった。

 

 

 さて、どうするかな。

 商店街まで来たはいいが、今日は元旦でどの店も閉店しているだろう。どこか時間をつぶすところはあっただろうか。

 

「明けましておめでとう!!」

 

ガシッ!

 

「うぉ! 誰だ、背中に飛びつくのは! ……ってなんだあゆか」

「酷いよ祐一くん! 久しぶりに会ったのに、『なんだあゆか』は無いと思うよ!」

「悪い悪い、冗談だ。明けましておめでとう、あゆ」

「うん! 今年もよろしくね」

「そうだな、もう体の方はいいのか?」

「もう平気だよ」

 

 ずっと眠りつづけていたあゆ。

 だが、俺の前でニコニコと笑う顔は、そんなことを微塵も感じさせなかった。

 今は父親と二人暮しをしているはずだ。

 

「そうだ、これからみんなで初詣に行くんだけど、あゆも一緒に行かないか?」

 

 それを聞いたあゆは、一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに申し訳なさそうに言う。

 

「うぐぅ…… ごめんね祐一くん、今日はこれからお父さんとお出かけなんだ」

「そうか、じゃあ仕方ないな」

「秋子さんと名雪さんと真琴ちゃんによろしくね」

「今度また家に遊びにこいよ」

「あ、行く行く。絶対遊びに行くから!」

「おう、まってるぞ」

「それじゃボクもう行かなきゃ」

「またな、あゆ」

「うん! じゃあバイバイ!」

 

 そう言い残してあゆは元気に駈けていった。

 

 

 それから俺はぶらぶらと商店街を周ってみたが、案の定ほとんどの店が閉店していて時間をつぶせるような所はなかった。

 だが元旦だというのに割と結構な人出だ。みんな初詣に行くのだろう。

 と、道行く人の中に見知った顔を見つけた。声をかけてみるか。

 

「よう、天野」

 

 真琴の親友、天野は俺に気がつくとバカ丁寧に頭を下げた。

 

「相沢さんでしたか。明けましておめでとうございます」

「おう、明けましておめでとう。初詣に行くのか?」

「いえ、これから丁度お宅にお邪魔しようと思っていたところです」

「なんだ、真琴に何か用事か?」

「はい、以前約束したマンガを貸してあげようと思って」

 

 そう言って手に持った包みを見せる天野。

 いくら約束したとはいえ、元旦にそれを届けようなんて、相変わらず天野は真面目と言うか融通が気かないというか。

 でも、初めて会った頃と比べると天野もずいぶんと性格が丸くなったように思う。今も相変わらずの無表情ではあるが、何と言うか肩の力が抜けたような。

 まあ真琴の親友なんてものをしてれば嫌でも肩の力は抜けるか。

 

「何かよからぬことを考えていますね」

「い、いや、別にそういうわけじゃないが……」

 

 なんか妙に鋭いんだよな。

 でもまぁ、別に悪いことを考えてたわけじゃないし。

 

「何ていうかさ、天野も変わったなって」

「え?」

「初めて会ったときには、こーんな目をしてたもんな」

 

 そう言って両目の端を指で吊り上げてみる。

 それを見た天野は、クスッと笑った。

 

「そうかもしれません。でも相沢さんも変わりましたよ」

「俺? そうかなぁ」

「そうです。きっとあの子と一緒に居ると皆変わることができるんですね」

「真琴か……」

「はい」

 

 そうかもしれないな。

 意地っ張りで、天邪鬼で、寂しがりやで、でも何事にも一生懸命で。

 思わず遠い目をしてしまった俺を、天野は優しい目で微笑みながら見ていた。俺は少し照れくさくなって強引に話題を変えてみる。

 

「これから家に来るんだろ? 一緒に行くか?」

「いえ、丁度相沢さんとお会いしたことですし、これお願いします」

「何だ、真琴に会って行けよ。たぶん家に居るぜ?」

「せっかくの家族水入らずを邪魔するのは忍びないですから」

「別にいいのに。でもまぁいいか。真琴に渡せばいいんだな?」

「はい、お願いします」

「分かった。じゃあまた今度遊びにこいよ」

「ぜひそうさせてもらいます。それでは私はこれで」

「またな」

 

 天野と別れた俺は、元旦でも奇跡的に営業していたゲーセンで時間をつぶした。

 正月からゲーセンで散財とは…… 嫌な正月だなぁおい。

 対戦格闘に熱中し、ふと気がつくともうすぐお昼だ。

 そろそろ戻るか……。

 

 

「ただいまぁ」

 

 そう言って玄関の扉を開けた俺は、そのまま固まった。

 

「あ、ゆ、祐一ぃ! 早かったじゃないのよぅ」

「真琴…… お前……」

「あ、こ、これは秋子さんが……」

 

 一瞬入る家を間違えたのかと思った。

 真琴は思った通り、振袖姿だった。

 だが……。

 

「馬子にも衣装とはよく言ったもんだ……」

 

 はっきり言って真琴の振袖姿は予想以上だった。

 普段はそのまま背中に流している髪を結い上げ、薄く化粧すらしている。

 ガキだと思っていたが、腐ってもこいつも女の子だったらしい。普段は見えないうなじが妙に艶かしく、俺は真琴の目をまともに見ることができなかった。

 二人して玄関先で真っ赤になって固まっていると、俺の声を聞きつけたのだろう、名雪がとたとたと歩いてきた。

 俺はそちらに眼を向け、またしても固まってしまう。

 

「お帰り祐一。どうかな、この振袖」

 

 そう言って少し照れたような名雪。

 同じく振袖姿で、髪は後ろで一つにまとめ右の肩口から前にたらしている。普段は真琴と同じでガキっぽい名雪だが、唇に薄く差した紅とその出で立ちがしっとりとした落ちつきを演出している。

 さすがにこうしてみると秋子さんにそっくりだ。

 

「あ、ああ…… い、いいんじゃねぇか?」

 

 いいなんてもんじゃない、はっきり言って名雪も真琴もめちゃくちゃ似合っている。道を歩く男が10人中10人は振り返るだろう。

 

「あらあら、どうしたの3人とも玄関先で」

 

 俺はみたび固まった。

 秋子さんも着物姿だったからだ。

 流石に振袖では無いようだ。これは後から聞いたのだが、振袖は未婚の女性だけが着るものらしい。

 大人の魅力とでも言おうか…… 全体的に落ちついていて、それでいて若々しい。っていうかこの人ほんとに歳いくつなんだ?

 

「どうですか祐一さん、二人とも綺麗でしょう?」

「え、ええ…… まぁ……」

「あぅーっ……」

「えへへへ…… 私綺麗? ね、綺麗?」

 

 真っ赤になってもじもじする真琴と、うれしそうに口裂女のような台詞を繰り返す名雪。

 

「それじゃあそろそろ初詣に行きましょうか」

 

 秋子さんの鶴の一声で、そのまま初詣に行くことになった。

 女は化ける……。

 

 

「なんかみんなが真琴たちのこと見てるよぅ」

 

 真琴の言葉通り、俺達一行は目立ちまくっていた。秋子さんはもちろんのこと、名雪も真琴も振袖&薄化粧の効果で、見た目だけはAクラスなのだから。

 

「見た目だけってなによぅ!」

「ええい! 地の文に突込みをいれるのはやめろ!」

「ふんだ、祐一なんて真琴たちの“ひきあげ役”なんだから!」

 

 何を引き上げるんだ?

 

「ほらほら、祐一も真琴もケンカしないの」

「でも名雪おねーちゃん……」

「祐一がいけないんだよ、変なこと言うから」

「俺は何も言ってないんだが…… 秋子さんもにこにこしてないで何とか言ってやって下さい」

「3人とも仲が良くてお母さん嬉しいわ」

「いや、そういうことではなく……」

 

 俺がいい加減疲れを感じ始めた頃、前方から声をかけられた。

 

「あ、祐一さん!」

 

 名を呼ばれて慌てて前を見ると、いつものストールを羽織った栞と妙に疲れた顔をした香里がいた。

 

「よう、お二人さん。明けましておめでとう」

「はい、祐一さん。明けましておめでとうございます。名雪さんも真琴さんも秋子さんも、明けましておめでとうございます」

 

 それぞれ初対面の者はいないため、正月の挨拶が交わされる。

 俺は香里が妙に疲れた顔をしているのが気になって、本人に聞いてみた。

 

「今日は朝から栞の絵のモデルをさせられているのよ」

「それは…… 災難だな」

「まったくだわ」

 

 栞の病気は一時期は危ないところまで行ったらしいが、いまではすっかりよくなったようだ。たまに事後検査の為に通院しているらしいが、来年度からは高校にも復学できるとのことだ。

 そして趣味である絵画は今も続けているのだが……。

 

「どうやったら私の顔があの絵になるのかしら」

 

 元々あまり上手とは言い難かった栞の絵だが、最近書き方を変えたらしい。前に一度見せてもらったことがあるのだが、アレはもう絵とは言えないような気がする。栞曰く抽象画とのことだったがなるほど、何がなんだか分からない点に関して言えば、ピカソもはだしで逃げ出すことうけあいだ。

 

「祐一さん、私の絵のことをバカにしてますね」

 

 ちょっと怒ったように頬を膨らませる栞。

 どうして俺の周りにいる人間はこうも鋭いのだろうか。

 

「いや、そんなことは無いぞ。栞の絵にかかればムンクも真っ青だ」

「そんなこと言う人嫌いです!」

「ねえ香里、栞ちゃんも、私達これから初詣に行くんだけど、よかったら一緒に行かない?」

「そうね、名雪。私も行きたいのはやまやまなんだけど……」

「ごめんなさい名雪さん。私もお姉ちゃんもこれから大事な用があるんです」

「ねぇ栞? 絵はまた明日にしない?」

「ダメ。ちょっと疲れたから散歩しようって言ったのお姉ちゃんじゃない」

「はぁ…… わかったわ」

 

 疲れたように溜息をつく香里。ご愁傷様。

 

「じゃあ私達はこれで」

「またね」

 

 そう言い残して2人は去っていった。

 栞は元気一杯だし、何だかんだ言って香里も楽しそうだった。

 

 

 

「うわぁー、人がいっぱいいるー」

「ほんとだ、真琴、はぐれないようにね」

「もしはぐれた時は、ここに集合することにしましょう」

 

 秋子さんがそう提案する。たしかに、これだけ人がいればはぐれてしまうかもしれない。

 それほど神社は参拝客で溢れかえっていた。

 

「うわー、それにしても凄い人だね」

「あれ? 名雪、秋子さんは?」

「ほんとだ、おかーさんどこ行ったの?」

「あれ? さっきまでいたんだけど……」

 

 どうやら速攻で秋子さんとはぐれてしまったらしい。

 あの人もぼーっとしてるとこがあるからなぁ……。

 

「あぅーーーっ! ゆ、ゆーいちぃーー!!」

 

 真琴が悲鳴を上げる。見ると人ごみに飲まれて流されていくところだった。

 

「なにやってんだ真琴!」

 

がしっ!

 

「あ、ありがと」

 

「うきゃぁーーー! ゆーいちぃーー!!」

 

 今度は名雪か!

 

がしっ!

 

「あ、ありがとう」

 

「まったく何やってんだお前等は!」

「あぅー…… ごめん」

「しゅん……」

「もうはぐれないようにしっかりと掴まってろよ!」

「「うんっ!」」

 

 真琴と名雪は妙に嬉しそうな声でそう言うと、俺の左右の腕をしっかりと抱えこんだ。

 ……なんか物凄く照れくさいが、だがまぁ非常事態だ、しかたあるまい。

 しかしそれにしても凄い人出だ、この街にこんなに人が住んでいたのか? と思ってしまうくらいにごった返している。俺達はお参りを一時断念し、比較的人の少ない所で一休みすることにした。

 

「ふー、コートなんて着てきたら熱いくらいだな」

「そうだね、この神社って結構有名なところだから」

「あぅーっ、だからこんなに人が来てるんだ」

 

 俺達が一息ついていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「あー、祐一さんだー」

 

 この明るくて少し間延びした声は……。

 

「よぅ、佐祐理さんと舞じゃないか」

 

 佐祐理さんと舞は去年の春に高校を卒業し、近くの大学に通っている。結構レベルの高い大学で、佐祐理さんはともかく、舞も結構勉強ができるのだということに少し驚いたものだ。ちなみに俺と名雪の第一志望も二人の通う大学だったりする。

 

「明けましておめでとう。今日は二人でお参りか?」

 

 俺はそう二人に話し掛けた。

 だが、佐祐理さんと舞はそれには答えず、じっと俺の両腕あたりに視線を向けている。

 何だ?

 俺はそこに至って、真琴と名雪がまだ俺にしがみついたままだったと言うことに気がついた。

 

「うわっ! こ、これは違うんだ!!」

「……」

「……」

 

 俺は慌てて振りほどこうとするが、二人にしっかりと両腕を掴まれていて身動きが取れない。

 

「ダメだよ祐一、掴まってないと…… その…… そう! はぐれちゃうもん」

 

 少し顔を赤らめて、でもしっかりと俺の右腕を胸に抱えこむ名雪。

 くっ! こいつは確信犯だ!

 

「そうよぅ、“すえぜんくわぬはおとこのはじ”よぅ!!」

 

 こちらは完全に真っ赤になって、同じように俺の左腕を抱えこむ真琴。

 お、お前言葉の意味わかってねーだろ!!

 慌てる俺を見る佐祐理さんと舞の目が、キュピーン! と光ったような気がした。

 まるで面白いおもちゃを見つけた子供のような……。

 

「あははーー! これは佐祐理達はお邪魔だったようですねー」

「らぶらぶ」

「やっぱり若い人たちは違いますねー」

「若い3人は人目なんか気にしない」

 

 ぐはぁ! さすがに女子大生、こういう話題になるととたんに生き生きしてくる。

 舞まで無表情でなんてこと言いやがるんだ!

 

「だーーっ! 何言ってんだ二人ともーー!! これは人ごみではぐれないようにって……」

「これはもうゴールインも間近という感じですねー」

「式は神前」

 

 き、聞いちゃいねぇ……。

 

「じゃあ後は若い人たちに任せて、私達は退散するとしましょうか。ね? 舞」

「お邪魔虫は消える」

「じゃあ、祐一さん、真琴さん、名雪さん。末永くお幸せに」

「式にはぜひ呼んで欲しい」

 

 俺が言い訳する暇もなく、佐祐理さんと舞は素早く人ごみに消えた。

 くそー。なんか凄まじく誤解されたままなような気がする。今度会った時にきちんと言っておかねぇとな。

 

「ほ、ほらぁ、祐一お参り行こうよぅ!」

「そうだね、いこ?」

「おいおい! そんなに引っ張るな!」

 

 俺は真琴と名雪に引っ付かれたままぐいぐいと引っ張られる。

 周りの男どもの視線が殺気を帯びているように感じられるが、見なかったことにしておこう……。

 

 

 人ごみを抜けて、ようやくお参りする場所までたどり着いた。

 人ごみもようやく収まってきたようだ、どうやら先ほどがピークだったらしい。

 真琴と名雪はちょっぴり残念そうにして、俺の両手を開放してくれた。俺もすこーし残念のような気もするな……。

 

「あらあら、丁度良かったわね」

「あ、おかーさんだ!」

「お母さん、どこに行ってたの?」

「ちょっと知り合いに会っちゃって、ご挨拶をしてたのよ」

「でも本当に丁度良かった、秋子さんも参拝はまだしてないんでしょ?」

「ええ」

 

 そう言って微笑む秋子さん。

 やっぱり神様にお祈りする時には、家族4人そろってからじゃないとな。

 真琴と名雪も同じことを考えていたのだろう、はちきれんばかりの笑顔を浮かべている。

 多分俺も似たような顔をしているんだろうな……。

 

 俺達はお賽銭をあげ、そっと手を合わせる。

 

 

 ……

 

 

 去年1年は本当に色々なことがあった。

 

 真琴との辛い別れ。

 

 でも……。

 

 俺は閉じていた両目を薄く開けると、隣を伺ってみる。

 俺の右側では、真琴が一心に神様に両手を合わせている。

 そんな真琴を見て、くすっと笑みを漏らし再び両目を閉じる。

 

 でもこいつは帰ってきた。

 俺達家族の元に。

 

 真琴を待っている間も色々なことがあった。

 くじけそうになった名雪を励ましたこともあった。

 そして俺自身がくじけそうになった時には、秋子さんと名雪が励ましてくれた。

 

 俺は再び閉じた両目を薄く開け、左側を伺う。

 そこには同じように両手を合わせている名雪と、秋子さんの姿があった。

 

 辛いことも、悲しいこともあったけれど、俺達4人でなんとか前に進むことができた。

 

 今年はどんな1年になるのだろうか。

 俺と名雪は大学受験が待っている。

 真琴も保母さんになるために、日々努力している。

 

 未来がどうなるのかなんて分からない。

 だけど願わくば……。

 

 願わくば、俺達4人がずっと一緒にいられますように……。

 苦しい時も、辛い時も、楽しい時も、嬉しい時も。

 ずっと一緒にいられますように……。

 

 俺がお祈りを終えて、目を開けると他の3人はもうお祈りを終えて、俺を見ていた。

 ちょっと恥ずかしくなって、真琴に聞いてみる。

 

「真琴は、どんなお願いをしたんだ?」

「ふっふーん、ないしょ! でも……」

「でも?」

「たぶん、祐一がお願いしたことと一緒だよ! ね? おねーちゃん、おかーさん?」

「そうだね、多分みんな一緒だね」

「ふふふ、そうね」

「そうか…… じゃ、帰るか! 俺達の家に!!」

 

 

 帰り道、最後尾を歩いていた俺は、ふと空を見上げた。

 

 4人分の願い、4人分の夢。

 きっと神様だって叶えてくれるさ。

 元旦の空には雲一つ無く、青々とした空がどこまでもどこまでも続いている。

 

「ゆーいちーー! おいてっちゃうよーー!」

 

 足を止めた俺を呼ぶ真琴。

 その隣には幸せそうに笑う名雪。

 そしてそんな俺達を暖かい目で見守ってくれる秋子さん。

 

「おう! 今行く!!」

 

 大切な家族の元へ!

 俺は力強く歩き始めた。

 

 

 

<FIN>

 

今年1年が皆様にとって素敵な年になりますように!!