家族

−真琴のダイエット騒動−

はっぴーえんど?

1999/10/22 久慈光樹


 

 

 

 次の日から、俺は毎日真琴のダイエットに付き合わされた。

 

 土日はプールで水泳を教え。

  ――真琴は犬掻きだけは妙にうまかった。

 

 平日は学校から帰ってきた後ランニングに付き合わされ。

  ――なぜか毎回帰りは俺がおぶって帰った。

 

 夜はほとんど毎日肉抜きの食事。

  ――週に一回くらいは肉も出た。

 

 食事後は計ったように甘いものを秋子さんが用意する。

  ――毎回真琴の威嚇に屈した俺の分は名雪に食われた。

 

 そんな日々が続き、一ヶ月が経った。

 もう後何日かで夏休みだ。

 

 

「ううっ、なんか俺ばっかりが貧乏くじ引いてるような気がする」

 

 ダイエットしている本人よりも、付き合わされる俺のほうが、肉体的、精神的にきつい気がするのは俺の気のせいだろうか?

 

 今日も肉抜き野菜炒めを食べた俺は、風呂に入っていた。

 

「ふう、いい湯だ」

 

 ランニングで流した汗を洗い流すと、ゆっくりと湯船につかり、一日の疲れを癒す。

 風呂は命の洗濯、といったのは誰だったかな?

 まったくもってその通りだと実感する。

 

 それにしても、ダイエットにかける女の執念には男には理解できないものがあるな。

 あの甘い物好きの真琴が、この一ヶ月間秋子さんの甘いもの攻撃に良く耐えられたもんだ。

 

 などとつらつら考えていると、頭がぼーっとしてきた。

 

「いかんいかん、危うくのぼせてしまうところだった」

 

 風呂場でのぼせてぶっ倒れたなんて事になれば、真琴のやつになんて言われるか分からない。

 

 

 風呂から上がって、バスタオルで水気をふき取った俺は、洗面所の端にある体重計が目にとまった。

 

「俺もちょっとはやせたかな」

 

 何気なく体重計の上に乗ってみる。

 

「まじかよ……」

 

 体重計は55キロを指していた。

 たしか一ヶ月前は59キロはあったはず。

 

「4キロもやせてんじゃねーか」

 

 やれやれ、俺は別にその気はなかったが、図らずもダイエットに成功してしまったらしい。

 ランニングや水泳のおかげで体力もついたし、まあ怪我の功名というべきか。

 

「おーい、真琴。風呂空いたぞ」

 

 真琴の部屋に声をかける。

 

「わかったー」

 

 部屋から真琴の声がしたのを確認して、俺は自分の部屋に引っ込んだ。

 しばらくすると風呂あがりらしい真琴が、ノックもしないで(いつものことだ)部屋に飛びこんできた。

 

「祐一ぃーー」

「ノックしろって言ってんだろ。で、どうした?」

「やった!やった!真琴やせた!」

 

 どうやら真琴にもダイエットの効果が出たらしい。

 

「へっへーん、真琴だってやればできるんだから」

 

 得意満面の真琴。

 これはダイエットから開放されるいいチャンスかもしれない。

 

「ほう、やったな真琴」

「うん!」

「これでもうダイエットの必要もないな」

「え、でももうちょっと減らさないと……」

「何言ってんだよ、秋子さんも言ってただろ? これ以上やるとほんとに洗濯板になっちまうぞ」

「あぅーっ、それはいや」

「だろ? この辺でやめておいたほうがいいぜ」

「えー、でもー……」

「今くらいのほうが、魅力的だと思うぜ、俺は」

「え、ほんと?」

「おう」

「えへへ……」

 

 顔を赤く染める真琴。

 どうやらうまくいったようだ。

 

「じゃあこれでダイエットは終了だな」

「うん!」

 

 やれやれだ。

 

「あっ、名雪おねーちゃんにお風呂空いたって言ってこなきゃ」

 

 真琴はそう言って部屋を飛び出していった。

 

「ふう、これでやっとダイエット騒動ともおさらばか」

 

 ベットに寝転がりながら、俺は言い様のない開放感に包まれていた。

 あ、でもダイエット後はリバウンドがあるらしいからな。明日真琴に注意しておかないと。

 もうダイエットなんてこりごりだ。

 

 

 そのとき、下の階から名雪の情けない叫びが聞こえてきた。

 

 

「うきゃー!!  さ、さんきろ〜〜〜!!」

 

 もう勘弁してください……。

 

 

 

 

<FIN(?)>