「祐一さん、ちょっといいかしら」
「はいなんですか秋子さん」
「これから神社に初詣に行ってもらえないかしら」
「ゑ?」
「神社に初詣に行ってもらえないかしら」
「ちょ、ちょっと待ってください、今はもう4月……」
「初詣に行ってもらえないかしら」
いつものように女神の笑みを浮かべて秋子さん。
そしてもの凄い勢いで俺を襲うプレッシャー。
何と言うか、彼女は本当に嬉しそうだ。
「初詣に、行って、もらえないかしら」
「わ、わかりました……」
物語に大切なのは、きっちりと一本筋の通った設定だと思うのだ。
思うのだが、このまま拒否し続ける勇気は俺にはない。
朝起きたらフィリピン行きのマグロ漁船に乗っていた、なんて事になったらシャレにならない。
「いってらっしゃい、祐一さん」
トーナメント支援SS
名雪 DE 初詣
2002/04/17 MITUKI
と、いうわけで初詣だ。
なぜ4月にもなって初詣なのか?
まったくもって意味不明なのだが、こうなってしまったものは仕方がない。
仕方がないからヤケクソで名雪も連れて行こうと思ったのだが、なぜか部屋にいなかった。
帰ってきたら折檻だ。
「初詣つったってなー」
繰り返すようだが今はもう4月なのだ。
正月三ヶ日は賑わった神社も、今はその役目を終えてひっそりと静まりかえっている。
境内を掃除する巫女さんがポツンと一人、いるだけだ。
秋子さん、あなた何がしたかったんですか……。
「それにしても」
遠目に見てもなかなか可愛げな巫女さんだ。
巫女服ってのは居酒屋にいるとなんだかエロチックだが、こうして神社にいると神秘的に見えるから不思議だな。
巫女さんは長い髪をポニーテールに纏めて、一生懸命境内を掃除している。
そこはかとなく名雪に似ているかも……
「あ、ゆういちー」
って、名雪だし。
「お前なにやってんだよ……」
「え? アルバイトだよ」
「なぜこの時期に巫女のバイト……」
「お母さんが紹介してくれたんだよ〜」
繰り返すようだが、物語に大切なのはきっちりと一本筋の通った設定だと思うのだ。
思うのだが、秋子さん絡みとなれば話は別だ。
朝起きたらロシアの炭鉱で石炭を掘っていた、なんて事になったらシャレにならない。
「そ、そうか、じゃあ頑張ってくれ」
「わっ、露骨に帰ろうとしないで」
「だってお前、何すりゃいいんだよ俺は」
「お参りしていこうよ、せっかくなんだし」
「まぁそんくらいなら……」
がらんごろんと鐘を鳴らし、五円玉を放ってお祈り。
なぜか隣で名雪もお祈り。
しかしこうしてみると、巫女服の名雪というものかなり新鮮だ。
普段見慣れている名雪が、ぜんぜん知らない女の子のように見える。
ポニーテールにしているため、普段は見えないうなじが妙に色っぽく感じられる。後れ毛に思わず引き込まれそうになる。
「わっ、祐一どうしたの?」
知らず、距離を詰めていたようだ。
名雪のちょっとびっくりしたような声に我に返る。
「い、いや、別に……」
ど、どうしたんだ俺。
な、なんか身体が熱いぞ……
「なんか顔が赤いみたい」
「うっ」
俺の額に手をあてて、「んー」と唸る名雪。
そ、そんな近づくな……
お、落ち着け、俺。
いくら巫女服姿の名雪がかわいいからって、流石に神聖な場所である神社でコトに及ぶわけにはいかねぇだろ……
動揺する俺が無意識に手を差し入れたポケットに、紙袋の感触。
これは……
祐一さん、ピンチの時はこの袋を開けて下さいね
出掛けに秋子さんがくれた紙袋。
このような時の為に、秋子さんはこれを持たせてくれたに違いない。
ありがとう秋子さん。あなた最高です。
がさがさ……
神の助けとばかりに紙袋を取り出す俺。
さっそく中を確認すると、そこには……
厚さ0.03mm
明るい家族計画
「なんじゃこりゃぁぁぁーーーーっ!!」
「ひゃぁ!」
なに考えてんじゃあの人はぁぁぁーー!
「ど、どうしたの祐一?」
ん? なにかメモが入っている。
どれどれ……?
据え膳食わぬは
男の恥ですよ?
「……」
「ね、ねぇどうしたの祐一?」
「……」(じりじり)
「ね、ねぇ、どうして近づいてくるのかな?」
「……」(わきわき)
「ね、ねぇ、どうして手をわきわきさせてるのかな?」
「……ふふ…ふふふ……」
「……あ、あは、あははは……」
「……」
「……」
「名雪ぃぃーーーっ!」
「きゃーーーっ!」
なんじゃこりゃぁぁ!