重力に挑戦状

2000/05/12 久慈光樹


 

 

 

「おふぁようございまふ……」

 

ぶーーっ!!

 

 俺は、口に含んでいたコーヒーを全て噴き出してしまった。

 眠そうに、というかほとんど寝ながら階段を降りてきた名雪を見て。

 

 今日は着ぐるみを着ていた訳ではない。ちゃんと制服を着ている。

 流石にアレにはビビった。だが、今朝はある意味それ以上にビビっている。

 

「名雪、少し寝癖が付いているわよ」

「うにゅ?」

 

 少し?

 あれが少し?

 

 名雪の豊かな髪は、まるで逆さ吊りにされたように全て逆立っていた。

 

 昔、ああいう髪型したバンドがあったな。

 そういやあのバンド、最近見ないよなぁ。

 ああいうの、「ビジュアル系」って言うんだよな。

 やっぱり、ビジュアル的にもアピールしているからビジュアル系って言うのかなぁ。

 

 

 ……

 

 待てっ!

 現実逃避してる場合じゃないぞ、俺!

 あの重力を無視したような見事な逆立ちっぷりはどうだ! ニュートンが泣くぞ。

 大体、アレは寝癖なのか? 一体どういう寝かたしたら、あんな寝癖が付くんだ?!

 

 俺の動揺を余所に、名雪はそのままテーブルに着くと、イチゴジャムたっぷりのトーストを頬張る。

 秋子さんも何事も無かったかのように、コーヒーのお代わりなんぞ注いでくれる。

 

 いつもどおりの、本当にいつもどおりの水瀬家の朝の風景だった。

 

 名雪の髪が全て逆立っていることを除けば。

 

 内心の動揺をひた隠し、コーヒーを飲むふりをして、隣に座った名雪を盗み見る。

 

 凄い。

 凄いなんてもんじゃない。

 凄まじいまでの逆立ちっぷりだ。

 普段は見えないうなじがちょっぴり色っぽかったりするが、それどころではない。

 どうやって制服に着替えたんだ?

 

 見てはならないモノを見てしまったようで、朝っぱらからブルーだ。

 嫌がらせか? やっぱり俺に対する嫌がらせなんだな?! そうなんだな名雪?!

 

「名雪、そんなに俺のこと嫌いか?」

「え?」

「俺のこと、嫌いなんだろ? そうなんだろ?」

「…………………………嫌いなんてこと全然無いよ」

「その間はなんだぁ!!」

 

 

<おしまい>

 

 

教訓:

 勢いは大切ですが、それオンリーではダメデス。