剣、藁人形、そして記念日

2000/07/02 久慈光樹


 

 

 

 最近、舞の様子がヘンだ。

 

 まぁ基本的に舞はヘンなヤツだと言ってしまえばそれまでであるが。

 最近は輪をかけて変だ。

 

 舞と、佐祐理さんと、そして俺。

 三人で暮らし始めてからだいぶ経ち、初めはぎこちなかった共同生活も今ではそれなりに充実している。

 大学に進学しても佐祐理さんは相変わらず優しかったし、舞は相変わらず人とはちょっとずれていた。

 

 そんな感じで人とはちょっとずれた舞だったが、最近は更に変だ。

 この間も、俺がバイトに行こうとした時のこと……。

 

 

「じゃ、行ってきます」

 

 じー……

 

 柱の陰から顔半分だけ覗かせてじっとこちらを見る舞。

 恐らく本人は俺が気が付いていないとでも思っているのだろう。ちなみに佐祐理さんは大学、今日は遅くなるとの事だ。

 

「行ってくるぞ、舞」

 

 ささっ

 

 慌てて顔を引っ込める。

 なにやってんのやら。俺は溜息をつきながら家を出た。

 

 

 

 

「付いて来てる……」

 

 ささっ

 

 振り向いた俺と目が合い、慌てて電柱の陰に隠れる舞。

 そのままそーっと顔を出し、俺がまだ見ている事に気付くとまたささっと顔を引っ込める。

 本人は隠れて尾行しているつもりらしい。

 

「おーい、舞。出かけるなら一緒に行くか?」

「……」

 

 舞はあくまで隠れ続けるつもりらしい。

 ちなみに隠れているのは顔と体半分だけで、傍から見ればバレバレだ。

 

「はぁ……」

 

 溜息をつき、また歩き始める。

 尾行されても別にやましい事があるわけではないが、このまま黙って後をつけられるのも面白くない。

 俺は一計を案じ、ちと寄り道していくことにした。

 

 

 わんわん!

 ふぎゃーっ!!

 チュンチュン

 

 やってきたのはペットショップ。

 ふふふ、見てろ舞のヤツ。

 俺はチラリと後ろを振り返り、舞がまだついてきていることを確認すると、そのままなんでもない風を装ってペットショップに入った。

 当然舞も後に続く。

 

 

「いぬさん」

「うさぎさん」

「ねこさん」

「イタチさん」

 

 案の定、動物好きの舞は瞳をキラキラさせて子供のように夢中になっている。

 もう頭の中には俺を尾行していた事など微塵も残っていないに違いない。

 それを確認して、俺はこっそりとペットショップを後にしたのだった。

 

 

 その後も、何度か舞に後をつけられた。

 最初の内こそ、舞のいつもの奇行だと思っていたのだが、流石に何度も続くと気になってきた。

 

「舞のやつ、一体どうしたってんだ」

 

 舞が何を考えているのか、さっぱりわからん。

 なんとか知る方法はないだろうか?

 

「そういえば、舞は日記をつけていたな……」

 

 三人で暮らすようになって、舞は日記をつけ始めた。

 丁度今日は舞も佐祐理さんも大学に行っていて、俺しか家にいない。

 

「いや、しかしまがりなりにも年頃の女性の日記を勝手に見るわけには……」

 

 と言いつつ既に舞と佐祐理さんの部屋の前だ。 

 ううむ。俺も欲望に正直な人間だなぁ。

 ちなみに舞と佐祐理さんは相部屋だ。俺も同じ部屋でいいと言ったら殴られた(二人に)。

 

「ふふふ、そーっと、そーっと」

 

 二人の部屋に入るのは初めてではないのだが、やましい事をしているという緊張感から、ドキドキする。

 お目当ての日記は舞の机の上にあった。

 くっくっく、無用心な。

 俺は誰もいないと分かってはいたが、周囲を確認する。そしてこっそりとその日記を開いた。

 

 

 △月□日
 今日は大学にいぬさんが来た。
 撫でようとしたら、噛まれた。

 何やってんだか……。

 

 ○月△日
 祐一が風呂を覗く。
 折檻。

 確かあの時は怒った舞と、笑顔の佐祐理さんにボコボコにされたっけ。

 

 ○月×日
 今日は佐祐理と一緒にツッコミの練習。
 瓦10枚は軽い。

 ……。

 ツッコミの練習って…… チョップ?

 瓦10枚?

 舞のヤツ、俺を殺す気か?

 

「うーん、特に変わった事は書いてないなぁ」

 

 悲しいかな、これくらいの奇行では“変わった事”として認識されないのだ。舞の場合。

 とりあえず、ここ最近の日付を見てみる。

 

 □月×日
 祐一の行動が不審。
 まさか……。

 ん? 俺の行動が不審?

 日付を見ると先週だ。

 

 □月△日
 やっぱり悪い予感は的中。
 尾行を開始。

 そういや舞が俺の後をつけまわし始めたのも、丁度このあたりからだ。

 結局その後の日記を見ても何も具体的な事は書いて無く、舞が一体何を不審に思っているのかわからなかった。

 ううむ、どうするか。

 舞や佐祐理さんに直接聞いてみるべきか?

 いや、きっとあの二人の事だ、素直に教えてくれるとは思えない。

 

 ……。

 ……。

 ま、いいか。

 

 俺はとりあえず気にしない事にした。

 別にやましい事は何も無いし、きっと舞も佐祐理さんも分かってくれるだろう。

 

「ごめんな、舞。勝手に日記見たりして」

 

 俺はそのままそっと舞の日記を閉じると、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

「えっ! 祐一が浮気!」

 

 突然訊ねてきた倉田先輩と川澄先輩の話に、わたしは思わず大きな声をあげてしまう。

 

「しっ、名雪さん声が大きいですよ」

「ご、ごめんなさい倉田先輩。でも祐一がそんな……」

 

 祐一が二人と一緒に暮らすと言い出した時、わたしもお母さんもただビックリするだけだった。

 そして祐一を止めた。

 流石にまだ同棲は早いと思ったし、祐一が家を出てしまうのも寂しかった。

 だけど、わたしとお母さんと再三の説得にも祐一の意思は揺らがなかった。

 決して思いつきではなく、考え抜いた結果だ。とわたしたちを説得する祐一からは、並々ならぬ覚悟が感じられた。

 そんな祐一を見て、わたしもお母さんも最後には折れた。

 寂しかったけれど、そんな覚悟ができるほどの女性に知り合えた祐一が羨ましかったし、わたしも何だか嬉しかった。

 その祐一が浮気なんてちょっと考えられない。

 

「何かの間違いじゃないんですか?」

「間違いじゃない」

「佐祐理も最初は信じられなかったんですよー。でも最近の祐一さん、不審な行動が目立つんです」

「不審な行動?」

 

 倉田先輩の話によると、最近祐一はバイトを始めたのだそうだ。

 それ自体は何もおかしくないのだけれど、偶然に見てしまったらしい、祐一が女性と親しげに話をするのを。

 

「祐一だって女の子と話をするくらいあると思いますけど」

「一度だけじゃない」

「え?」

「何度もバイト帰りに会ってる。しかも隠れて」

「そ、そうなんですか?」

「そう」

「でもなんでそれが分かったんですか?」

「毎日後をつけた」

「そ、そうですか」

 

 うちの高校に在籍しているときから、変わり者だと評判だったが、やっぱり川澄先輩って変だ。

 

「佐祐理もお父さまにお願いして、黒服に尾行して貰ったんですけど結果は同じでしたねー」

 

 く、黒服?

 倉田先輩も十分に変。

 

 これは前々から感じてはいたのだけど。

 祐一の知り合いは皆、すべからく変だ。

 祐一の変さに影響されるからか、それとも類は友を呼ぶのか。

 この間も、知り合いだと言って小学生の女の子を紹介してもらった。確か名前はあゆちゃん。

 彼女自身は今時の小学生とは思えないほど明るくて素直そうな女の子だったのだけれど、わたしの視線はずっとその背負ったリュックに釘づけだった。

 

 ハネ。

 

 なぜにハネ。

 

 今時の小学生のファッションなのだろうか? 未だに謎だ。

 

 

「という訳で、名雪さんにもご協力をお願いしたいんです」

「何が『という訳で』なのか分からないんですけど…… と、とりあえず、わたしが力になれるとは思えないんですけど」

「そんなことはない」

「そうですよー。名雪さんは佐祐理たちよりも祐一さんとの付き合いが長いですから」

「祐一は、今でも嬉しそうに貴女のこと話す」

「ほんとですー」

 

 そう言ったときの川澄先輩と倉田先輩の後ろに、何か青白い炎が見えたような気がして、わたしは背中に冷たい汗が伝うのを感じた。

 

「協力、して下さいますね?」

「……はい」

 

 わたしに拒否権は無かった。

 

 

 

 結局、祐一を尾行して現場を抑えるという事になった。

 バイトが終わる時間を見計らい、三人してこそこそと後をつける。

 傍から見ていると怪しさ大爆発だろうけど、肝心の祐一には何とか見つからずに尾行できているみたい。

 

「この後、女性と逢っているんですよー」

 

 その倉田先輩の言葉通り、噴水のある公園に来た祐一は、誰かを待っているようだ。

 盛んに時計を気にしている。

 

「……来た」

 

 ボソリと呟く川澄先輩。

 

「あれは…… か、香里ぃ!?」

 

 え? え? え?

 どうして香里と祐一が会っているの?

 

「間違い無い。あの女」

「名雪さん、あの女性をご存知なんですか?」

「え? ええ……」

 

 でも祐一と香里が?

 ちょっと考えられない取り合わせなんだけど。

 何かの間違いじゃないだろうか。

 

 そんなことを考えていると、祐一と香里は何か話しながら歩き始めた。

 

「今日こそは現場を押さえますよー」

「現行犯」

 

 またしても尾行開始。

 どうでもいいけど三人でこそこそしながら後をつけたら目立つんじゃないだろうか?

 やがて二人は喫茶店に入っていった。

 流石に店内まではついて行けない。

 

「こんな事もあろうかと、これを用意してきました」

「佐祐理、用意周到」

「あのー、何ですか、それ?」

 

 倉田先輩がどこからともなく取り出したそれは、なんと表現すべきだろう。

 黒い金属の箱と見た事も無いような形をした無骨な機械。あえて例えを出すのなら、それはメガホンのようだった。

 

「これはレーザー盗聴器といって、プロも使っている最新鋭の盗聴器なんですよー」

「ぶっ!」

 

 と、盗聴器?? そ、そんなものどこから……。

 

「佐祐理のお父様がお仕事で使われていたものをお借りしてきましたー」

「流石は佐祐理のパパ」

 

 倉田先輩のお家って一体……。

 倉田先輩と川澄先輩は、喫茶店の向かいにあるビルの屋上に上がった。

 仕方が無いのでわたしもついていく。

 

「あっ、丁度よく窓際に座りましたね」

 

 見ると、窓際に席を取ったようだ。ここからだと祐一達の姿は見えるが、当然声は聞こえない。

 

「この盗聴器は、レーザー光線を窓ガラスに照射して、その反射光で盗聴する最新機種なんですよー」

「早速セット」

「はい、これでこのスイッチを入れれば……」

 

 ……悪かっ…な……付き合わせ……

 …まったく……でも………も幸…せ者……

 

「うーん、あんまり音声が鮮明じゃありませんねー」

「でも何とか聞き取れる」

 

 金属の黒い箱から、途切れ途切れに祐一と香里の声が聞こえてくる。

 ああ、盗聴は違法行為なのに……。

 

 ……おかげ…いい物が……たよ……

 …それ…良か……わね…ちょっ…見せて…

 

 どうやら香里が何かを見せて欲しいとねだっているようだ。

 祐一はちょっと躊躇ったが、しぶしぶポケットから小さな箱を取り出した。

 

 …ほら。……んまり………なよ……

 …いいじゃ……の……減るもんじゃ……

 

 祐一の差し出した箱を受け取る香里、そっとその箱を空ける。

 そこには……。

 

「ゆ、ゆ、指輪ぁ?!」

 

 思わず大きな声を出してしまった。

 ここからではよく見えないけれど、その箱に入っていたのは間違い無く指輪だ。

 ま、まさか本当に祐一と香里が?

 も、もう指輪を渡すほどの仲なの?

 

 ……はっ!!

 

「祐一…… 信じてたのに……」

 

 川澄先輩はそう呟くと、どこからともなく刃渡り1.2mはあろうかという剣を取り出す。

 あ、あんなものどこから……。

 

「ちょ、ちょっと川澄先輩!」

「……祐一を殺して私も死ぬ」

「げっ! か、川澄先輩! 落ちついて! 倉田先輩、川澄先輩を止めて下さ…… ひぃ!」

「ふふ…… ふふふふ……」

 

 倉田先輩は俯いて不気味に笑っていた。目が前髪に隠れていて怖い。

 その手には、これもどこから取り出したのか藁でできた人形。いわゆる呪いの藁人形というやつだ。顔にあたる部分に祐一の顔写真が張られている。そして反対の手には五寸釘。

 

「ふふふふ……」

「ひぃぃ!」

 

 盗聴器から流れる二人の声はまだ続いていたが、こちらはそれ所ではない。

 

「ふ、二人とも落ち着いて……」

 

 その後、なんとか二人をなだめ、結局家に帰ったのは7時を過ぎていた。

 疲れた……。

 わたしはお母さんの作ってくれた夕食をとると、少し早めに眠りについたのだった。

 

 祐一の冥福を祈りながら。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 やべえ、遅くなっちまった。

 ったく、香里のやつめ、結局晩飯まで奢らされちまった。

 

「舞ー?、佐祐理さーん?」

 

 あれれ。

 二人ともまだ帰ってきてないのか? そういえば電気も点いてない。

 だけど玄関は開いていたんだが。

 

「二人ともいないのー? ……うおぁ!」

 

 真っ暗な食卓に二人は座っていた。

 電気をつけたにも関わらず、二人の周りだけ暗黒空間化しているような……。

 

祐一

祐一さん

「は、はひ……」

 

 地の底から響いてくるようなその声に、思わず返事も上ずってしまう。

 な、なんだ? 何が起きたんだ?

 

祐一、何か言い残す事はある?

「な、なんですと?」

 

 そ、その剣はしまってくれないかな、舞さん。

 

祐一さん、佐祐理は幸せでした

「な、なぜに過去形……」

 

 佐祐理さんは相変わらず笑顔が素敵だ。でも手に持った藁人形に、ぶっとい釘が刺さってんですけど……。

 

「ま、舞も佐祐理さんも、ど、どうしたのかな?」

「この後に及んで惚けるのは男らしくない」

「その通りです」

「と、惚けるも何も、俺は別に何も……」

「昼間会ってた女はだれ?」

「な、なんですと?」

「惚けても無駄ですよー。佐祐理たちはしっかりと見たんです」

「み、見たって何を?」

「祐一が、その女に指輪を渡しているところ」

 

 指輪?

 

「あらら、あれ、見られちまったのかぁ……」

「ようやく観念したんですね?」

「祐一、一緒に死ぬ」

 

 なぬ? ちょ、ちょっと待て、誤解だ!

 だってあれは……。

 

「違うんだ! あれは……」

「問答無用」

 

 ずばっ!

 

 うおぁ! 危ねぇ!!

 

「ま、待て、舞、落ちつけ!」

「大丈夫、私もすぐに後を追う」

「そ、そういう問題かぁ!」

 

 再び手にした剣を振りかぶる舞。

 ちょっと待て! シャレにならん!

 俺は助けを請おうと、佐祐理さんに目を向け、そして後悔した。

 

「あははははははははは」

 

 カツーン カツーン

 

 佐祐理さん、柱に藁人形打ちつけるのはやめようよ……。 敷金とかあるんだからさ……。

 

「ちょ、ちょっと待て! 二人とも、俺の話を聞いてくれ!!」

「言い訳なんて聞きたくない」

「だから違うんだって! あの指輪は香里に渡すつもりじゃないんだ!!」

「……」

「……祐一さん、まさか……」

「うっ、ちょっと恥ずかしいんだけどな」

「まさか、他にも浮気相手がいるんですか?!」

「祐一、許さない……」

 

 ちょっと待てやぁ!!

 

 その後、暴れる二人をなんとか宥め、話を聞いてもらえる状態まで持って行くのに3時間ほどの時間を要したのだった……。

 

 

「はぁ、はぁ、だから、人の話は、はぁ、聞けって、はぁ、はぁ」

「で?」

「あの指輪は何なんですか?」

 

 舞はともかく、佐祐理さんもアレだけ暴れたにも関らず、息一つ切らしていない。

 ちなみに部屋の状況は言わずもがなだ。ああ、敷金もう返ってこねぇだろうなぁ。

 俺は何とか息を整え、説明に入る。

 

「来週の月曜日、何の日だか覚えてる?」

「来週の月曜日?」

「そう」

「うーん、何の日でしたっけー?」

「その時の為の、プレゼントなのさ、指輪は」

「誰に?」

「誰だと思う?」

「舞の誕生日はもう過ぎましたねー。佐祐理の誕生日はこの間やりましたし」

 

 ?マークを飛ばす舞と佐祐理さん。

 ふふふ、分かるまい。

 

「でも、来週の月曜日って何か記念の日なんですか?」

「俺にとって…… いや、俺たち三人にとってはね」

「??」

「あっ! まさか!」

 

 佐祐理さんは分かったみたいだな。

 舞は自分一人分からないんで、ちょっぴり膨れっ面だ。

 

「あははー、確かに佐祐理たち三人の記念日ですねー」

「そう、記念日さ」

「二人ともズルイ。何の日か全然分からない」

 

 俺は、ポケットに大事にしまっておいた指輪の箱を取り出す。

 二つ。

 

「それってまさか……」

「そうさ、佐祐理さんと、それから舞に」

「祐一さん……」

 

 ぽかっ!

 ぽかっ!

 

「わっ!」

「いてっ! なんだよ舞、チョップすることないだろうが」

「何の事か全然分からない」

「あははー、舞、まだ分からないんですかー?」

「分からない」

 

 ぷー、っと頬を膨らませる舞。

 まったく、鈍いなこいつは。

 

「来週の月曜日でちょうど、俺達三人が一緒に暮し始めて一周年だろ?」

「あ……」

「もう一年になるんですねー」

「そうだなー、早いもんだ」

 

 しみじみと思う。

 一年間なんて、それこそあっという間だった。

 

う、ひっく

「うわぁ! ま、舞、ど、どうしたんだよ」

「バカ、祐一のバカ……」

「バカって…… だからさっきのは誤解だって言って……」

うっく、違う、ぐす

「舞は嬉しいんだよね。祐一さんにこんなにも想ってもらっているってことが」

「え?」

う、ひっく(ぽかっ!)」

「わっ、あはははー」

「舞……」

 

 俺と、舞と、佐祐理さんと。

 ケンカもするし、遠慮だってまだある。

 元々は他人なのだから、当たり前だと思う。

 だけど、この一年で、少しずつお互いの距離は縮まっていると思う。

 

「最近は収まったと思ったのに。舞は相変わらず泣き虫だなぁ」

ひっく(ぼかっ!)」

「あははー、舞は祐一さんの前でだけ、素直になるんですねー」

ぐすっ(ぽかっ!)」

 

 全く違う環境で育った俺達。

 全くの赤の他人だった俺達。

 

 だけど、少しずつ、でも確実に、お互いの距離は縮まっていると思う。

 

「本当は当日まで黙っているつもりだったんだけど。まあいいや、少し早いけれど、受け取ってもらえるかな」

ぐすっ、うん……」

「祐一さん、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」

「はは、そんな感謝されるほど高いもんじゃないよ。ほら、舞もいい加減泣き止めって」

 

 この先、どうなるかなんて分からない。

 これから先、どれだけ一緒にいられるかも分からない。

 

 だけど、可能な限り歩いてゆこう。

 三人で。

 一緒に。

 

「俺じゃあ指輪なんて分からないからさ、香里に見てもらったんだよ」

「そうだったんですかー」

「でも、最終的に選んだのは俺だぜ? 香里には地味過ぎるって言われたけどね」

「そんなことない、綺麗」

「本当ですねー」

 

 俺の望むもの。

 俺たち三人の望むもの。

 

 平凡で、変わり映えしなくて。

 だけどかけがえの無い毎日。かけがえの無い日常。

 

「お、おい。二人とも、それはファッションリングなんだから、はめる指が違うんじゃないか?」

「ま、間違ってない」

「あははー、舞ったら顔が真っ赤ですねー。でも祐一さん、私たちにとってはこの指でいいんですよ」

「……なんか、首に縄をつけられた気分なんだけど」

「祐一、もう逃がさない」

 

 そのかけがえのないものが、今ここにある。

 

「ははは、まぁいいか。 それじゃあ……」

 

 

 

 

これからも、よろしくな! お二人さん!!

 

 

 

 

<FIN>