異能者 第二部

<第十五章>

−凍土高原−

2005/5/17 久慈光樹


 

 

 

 冷気を切り裂き、風が疾る。

 

 

「殺っ!」

 

 正に疾風のような速度で斬り込んでくる『狂戦士』。『剣聖』と呼ばれる親友には及ばぬのであろうが、その速度はとても常人の反応できるものではない。

 どうせ反応できぬのであれば、防御などは無意味。そう判断した佐祐理は、疾る死の刃に身を晒しながら全方位に向けて渾身の冷気を叩きつけた。

 

「ちっ……」

 

 軽く舌打ちをする間もあればこそ、『狂戦士』はまるでバネ仕掛けのような動きで急激に方向転換をし、一瞬にして佐祐理の異能力圏内から離脱する。その慣性をある程度無視しての身体運動は、常人離れした筋力があればこそ。

 

「やるわね、さすが」

 

 一瞬にして5メートルほども距離をとり、笑みと共にそう呟く留美。

 名雪たち4人を一度に相手にしていた時とは、表情からして違う。

『狂戦士』の名が示すとおり、留美は心からこの戦いを楽しんでいるようだった。

 

「お褒めにあずかり、光栄の極み」

 

 そう言って優雅に一礼する佐祐理。

 その表情にも優雅な笑みが浮かび、まるでダンスパーティーでパートナーに相対しているかのように可憐であった。

 『凍てつきし』倉田佐祐理もまた、この戦いを楽しんでいるかのように見える。

 

「これならどう?」

 

 5メートル離れた間合いから、刀を振り下ろす『狂戦士』。

 放たれた異能力が暴風の刃となる。

 『狂戦士』七瀬留美の代名詞、『剣の暴君』(ソードタイラント)。

 

「一弥、力を!」

 

 迎え撃つ佐祐理は顔の左側で右の拳を握り締める。そのまま腕を伸ばし、まるで何かをなぎ払うようにして拳を開いた。

 迸る冷気の渦。急激に冷却された大気中の水素が凍結し、ダイヤモンドダスト状態を引き起こす。

『凍てつきし』倉田佐祐理の異能力、『輝けし心の氷』(スプライトマインドブリザード)。

 

 冷気の渦はそのまま嵐となり、迫りくる暴風に叩きつけられた。

 轟音と共に、互いに喰らいあうようにして相殺される2つの異能力。

 

 異能力の強さとしてはまったくの互角、初撃はそれを確認しただけに留まった。それからしばらくは近接戦闘に持ち込もうとする留美と、それを阻止する佐祐理との駆け引きが続いた。

 二度目の相殺はつい先ほど。異能力解放の一瞬の隙を突かれ、懐に飛び込まれたが、冷気そのものを周囲に叩きつけるという荒業で難を逃れた。

 

「ふっ!」

 

 そして三度目は、連射だった。

 振り下ろした刀を、そのまま跳ね上げるようにして振り上げると、そこから再び『剣の暴君』が放たれる。

 連射性という異能力の特性を生かした、奇襲攻撃。

 だが佐祐理はそれを読んでいた。

 

「はぁっ!」

 

 握り込んでいた左拳を、先ほどと同じように振り払うようにして開く。

 溜め込んでいた異能力が迸る感覚。

 刀より放たれし暴風は、またしても氷の嵐と相殺される。

 

 実のところ、佐祐理の『輝けし心の氷』は『狂戦士』のそれを凌駕するほどの威力を秘めた異能力であったのだ。佐祐理はそれを、必ず行ってくるであろう連射に備えてセーブしていたのである。

 だからこそ、2撃目も相殺することができたのだ。

 3撃目はない。そう踏んだ上での策だった。

 

「ちっ」

 

 短く舌打ちをし、再び刀を構えなおす『狂戦士』。

 佐祐理の読みどおり、いかな『狂戦士』といえど、3度続けての異能力連射はできないのだろう。仕切り直しの格好になった。

 

 このままではまずい。

 優雅に微笑んだ表情とは裏腹に、佐祐理は現状を打破できないことに苛立ちと焦りを感じていた。

 先ほど近接戦闘に持ち込まれたときもそうだ、刀を少し伸ばせば一太刀浴びせることができる間合いであったにも関わらず、まったく躊躇することなく即座に回避を選択した『狂戦士』。

 

 そう、だからこそ佐祐理は、『狂戦士』に恐怖するのだ。

 

 先ほどの攻防だけでなく、戦闘状態になってから『狂戦士』は佐祐理の必死の反撃には必ず完全回避の姿勢を貫いている。

 つまり、佐祐理を自分と実力が拮抗する者として相対しているのだ、あのONEの『狂戦士』が。

 

 だが、実際に相対している佐祐理にはよく解る。

 今の自分の力量は、『狂戦士』七瀬留美には遠く及ばない。

 

 実弟である『凍てつきし』倉田一弥の力を受け継ぎ、冷気を操る異能力に覚醒した。

 未だ児童と呼べる年齢のうちから異能者として名を馳せていた一弥の力を全て受け継いだのだ、現時点ではKanonでも屈指の異能力を有していると、自惚れではなく自負できる。

 だがそれでも、『狂戦士』には及ばない。

 足止めとしてこの場に留まってより今まで、表面上なんとか互角の勝負ができているのは、ずっと全力で戦っているからだ。車でいえば常にフルスロットルの状態であるからこそ、明らかにスペックが上の相手と同じ速度で走りつづけることができるのだ。

 今はまだ、『狂戦士』は慣らし運転の状態であるに違いない。もし本気になったのなら、自分など一瞬にして粉砕されるだろう。

 それほどまでの実力差。自分ですら感じられるのだ、百戦錬磨の『狂戦士』がその事実を察していないはずがない。

 にも関わらず、『狂戦士』の戦い方はあくまで自分を同格の相手とみなしているそれだった。

 実力差から慢心してくれたのなら、まだ付け込む隙がある。格下相手と侮って隙を見せてくれたのならまだ勝機がある。

 だが、『狂戦士』にはそれがない。反撃を受けた際には中途半端な追撃をすることなく完全回避に専念し、体勢を立て直す。そしてまた万全の状態から嵐のような攻撃が始まるのだ。そのような戦い方をされては、元々実力に劣る佐祐理には、万が一にも勝機がない。

 

『本当に、恐ろしい』

 

 ONEの側近筆頭、『狂戦士』七瀬留美。こと戦闘において、彼女を止めるできる者は世界で数名しかおるまい。

 自分には――荷が勝ちすぎる。

 

 ぎりっ、と、口元を微笑みに形作ったまま、悟られぬよう奥歯を噛みしめる。

 このままではまずい。

 なぜなら――

 

 

 自分には、もうさほど時間が残されていない。

 

 

 

 身体の震えは、恐怖からくるものばかりではなかった。

 この悪寒とも呼べる身体の、いや、心の冷たさ。放たれる冷気が、容赦なく心身を蝕んでいく。

 

『寒い……』

 

 異能力を高めれば高めるほど、冷気の力を放出すれば放出するほど、その力は諸刃のごとく佐祐理の体温を奪い去っていく。

 それは、冷気を操るという異能力の特性からくるものだった。

 

 人間は、外気に対して体温を一定に保つことのできる恒温動物である。いかな冷気に晒されたとしても、35.8度から37.8度の平均体温を維持することができるのだ。

 だが、かつて一弥が繰り、いま佐祐理が操る冷気を司る異能力は、外気によらず内側から蝕むように、術者の体温を奪い去っていく。

 一般的に、体温が34度まで下がると人間は脳に異常をきたす。これは一般には「低体温症」と呼ばれ、低温に最も弱い中枢神経が冒され、精神活動の低下が見られるようになる。具体的には、問いかけにきちんと答えられない、言葉が不明瞭、全身の倦怠、脱力感、よろめきながら歩く、眠気などの症状である。

 そして体温が28度以下になると、全身機能の低下が急速に起こり、瞳孔は開き、呼吸停止、心停止に陥る。

 

『一弥はずっと、こんなに苦しい思いをしてきたんだね』

 

 一弥は、文字通り身を削って戦っていたのだ。

 たった一人の姉であるにも関わらず、自分はそんなことも知らなかった。

 だが今は知っている。身をもって、知っている……

 

 

 『狂戦士』が再び刀を振り上げる。

 この間合い、またあの異能力が来る!

 

「つぇい!」

 

 4たび放たれる『剣の暴君』。

 轟音と共に迫りくるそれに、『輝けし心の氷』を叩きつけて相殺する。連射を警戒し、威力を抑えて。

 

『くっ……』

 

 手足に力が入らない。朦朧とする意識は、明らかな低体温症の症状だった。

 

 悟られてはならない。もし悟られれば、ただでさえ少ない勝機がゼロになってしまう。このまま遠距離から『剣の暴君』を撃ち続けられたら、ただそれだけで自分は消耗死してしまうだろう。

 口元の笑みを崩さぬまま余裕のあるふりをして、霞み始めた瞳で『狂戦士』を見る。

 なぜか追撃はなかった。『狂戦士』七瀬留美は、その場にただじっと立って、こちらを見ているだけだった。

 

「そろそろ、限界のようね」

 

 

「……っ!」

 

 気付かれている!

 

 口元に浮かべた笑みが、凍りついた。

 『狂戦士』は勝ち誇った笑みを浮かべるでもなく、ただ冷静な目をこちらに向け、事実をただ確認するかのようだ。

 

「過剰な異能力のフィードバック。恐らくそれが、あなたたち姉弟の力の特性なのね」

 

 恐らく、いや、間違いなくこれで、自分に勝ち目はなくなった。『狂戦士』はもう接近戦を仕掛けてはこないだろう、遠距離からあの恐ろしい『剣の暴君』を撃ち続けるに違いない。そうすることで自分は為す術なく自滅するのだから。

 

 頭の痺れにも似た絶望の中、佐祐理は無理に浮かべていた笑みを消す。途端に膝が崩れ落ちそうになって、たたらを踏む。

 限界だった。

 

「倉田さん、私はあなたのことがあまり好きじゃなかった」

「…え……?」

 

 『狂戦士』の思いもよらぬ声に、いつの間にか伏せていた顔を起した。

 

「舞のやつがなぜあなたと行動を共にしているのか、私には理解できなかったわ」

「舞……?」

「あいつは大したやつだった。無愛想な中にも揺ぎない『自分』を持っていた」

「……」

「だけどあなたは違った、少なくとも私には、あなたはただの綺麗なお人形に見えた」

 

 それを聞いて、佐祐理は笑い出しそうになった。

 

 お人形! お人形とは!

 『狂戦士』の人を見る目は確かだ。そう、佐祐理はただのお人形。たった一人の弟を死地に追いやり省みる事もなかった、人の心を持たないただのお人形。

 そんな佐祐理があの舞の傍にいるのだ、ライバルである『狂戦士』が不快に思うのも当然だ。

 

「だけど、それは私の勘違いだったみたい」

 

 そういって微笑みを浮かべる『狂戦士』に、思わず怪訝な表情を向けてしまう。

 勘違い、勘違いと言ったのか、いまこの人は。

 勘違いなどしていない、彼女の目は確かだ。佐祐理はただの人形であって、人の心など持ってはいないのだから。

 

「あなた自身がどう思っているかは知らないけれど」

 

 佐祐理の表情が気に入らないかのように、『狂戦士』は一つ鼻で笑った。

 

「あなたは死を賭して、私に立ち向かってきた」

「……え?」

「仲間たちのために捨石になるのではなく、あなたは私に勝ちに来た」

「勝ちに……」

「倉田さん、あなたは私に勝つつもりなのでしょう? フィードバックでボロボロのその身体で。この『狂戦士』七瀬留美に」

 

 そうだ、勝つのだ。

 勝って帰らなければならない。

 舞の元に。仲間たちの元に。

 

 佐祐理は人形かもしれない。

 だけど、佐祐理には――いや、私には、まだ帰るべき場所があり、待っていてくれる人がいる。

 こんなところで絶望することなど、できるはずもない。

 

「……お礼は言いません、『狂戦士』。 ……いえ、七瀬留美さん」

 

 限界が近い。いや、もう手遅れかもしれない。手足の先の感覚がまるで無く、頭の中は霞みがかかったようにぼんやりとしている。これ以上異能力を行使し続ければ、間違いなく命を落とすという予感があった。

 

 だが……

 

「私は『凍てつきし』倉田佐祐理。弟に代わり、最後のお相手をさせていただきます」

 

 異能力が身体から立ち上るほどに高まり始めた佐祐理に、留美は会心の笑みを浮かべる。

 

「そう、それでいい。それでこそ、倒す価値がある」

 

 刀を右手一本で持ち、その場でスタンスを広げる。心持ち腰を落とし、大地を踏みしめる。

 左手の掌を佐祐理に向け、人差し指と親指の間に刀の背を向けて添える。

 刀を弓に見立て、引き絞ったような格好だ。

 

「あなたのその精神に敬意を表し、見せてあげる。かつて舞を追い詰めたこの技、その改良型を」

 

 『戦乙女の槍』(メイデンランサー)

 かつてまだ『死剣士』と呼ばれていた頃の舞をすんでのところまで追い詰めた、『狂戦士』七瀬留美第2の異能力。

 過去に腰を痛めている留美には、この技を放つときにかかる負担に耐えられなかった。だが異能力の覚醒が進み、超筋力を完全に自分のものにした留美は、改良を重ね、遂に実戦に耐え得る異能力へと進化させたのだ。

 それは言うなれば、『戦乙女の槍・改』(メイデンランサー・セカンド)。

 

「この技で、あなたを殺してあげる」

 

 対する佐祐理は、微かに握った両拳を胸の前でクロスさせ、目を細めて内なる異能力を高めていく。

 両手両足の感覚は完全に途絶え、目もほとんど見えない。

 佐祐理の瞳に映るのはただ一人。倒すべき相手であり越えるべき壁、『狂戦士』七瀬留美。

 

「……いきます」

 

 『行きます』であるのか、それとも『生きます』なのか。

 佐祐理がそう呟き、遂に対峙する両者の異能力が極限まで高められた。

 

 

 

 

 

 一瞬の、空白。

 

 

 

 

 

「あああああぁぁーーっ!」

 

 絶叫と共に放たれる、フルパワーの『輝けし心の氷』(スプライトマインドブリザード)。

 

「貫けぇーーっ!」

 

 螺旋を伴い放たれる、『戦乙女の槍・改』(メイデンランサー・セカンド)。

 

 

 両者は中央で激突し、すぐには相殺されることなく轟音を立てて拮抗する。

 佐祐理も留美も、放った後にも異能力を注ぎつづけている証だった。

 

「くっ……」

 

 刀に込めた異能力が抜け続ける苦痛に、留美は思わず声を上げる。

 相手は『凍てつきし』倉田佐祐理の、恐らくは死を賭した最後の異能力。凡庸な攻撃であろうはずもないと全力を持って当たったが、これは想像以上だ。

 佐祐理の異能力は“面”の攻撃だ。それに対し自分の『戦乙女の槍・改』は“点”の攻撃だった。正面からぶつかり合った際の突破力は、遥かに勝るはずなのである。

 にも関わらず、現時点で威力は拮抗している。

 

『さすがに、やる……!』

 

 そうこなくては。

 知らず、留美の口元が笑いに形作られる。

 身を苛むこの苦痛も苦にはならない。これだけの異能者、そういるものではない。

 相手にとって不足なし。ただ全力で、打ち倒すのみ!

 

「おおおおっ!」

 

 気合一閃。

 中央で均衡を保っていた異能力のぶつかり合い。徐々に佐祐理が押され始める。

 

「……」

 

 佐祐理は既に、視力すら失っていた。

 放出し続ける異能力が刻一刻と生命を削っていくのが自分でも解る。このまま力を使い続ければ、自滅は明白だ。

 だがだからといって異能力の行使を止めるのは、更なる確実な死を意味する。舞を苦しめたというその槍は、自分の命を奪うため徐々に、だが確実に、迫っている。

 だが……

 

『ねむい……』

 

 既に寒さや冷たさなど感じない。苦痛すらも感じない。

 いまはただ、眠かった。

 だがいまこの場で意識を失えば、あの槍に貫かれ冥府の門をくぐることになるだろう。自分を待っていてくれる人たちのためにも、自分を信頼してこの場を任せてくれた人たちのためにも、ここで死ぬことは許されない。

 

 そして――

 

 一弥のためにも。

 

「……」

 

 舌が上手く動かせず、既に声も出ない。視力はほとんどなく、力のぶつかり合う轟音すらも聞こえない。

 だがそれでも、佐祐理は残り少ない命の炎をすべて吹き込むかのように異能力を高める。

 佐祐理に向かって押し込まれていた力の拮抗点が、直前で止まった。

 

『まだやれるのというの……!』

 

 正直、留美はまだ佐祐理を侮っていたのかもしれない。

 相手の消耗死による勝利をよしとせず正面から挑んだのは、彼女のいわば礼儀だった。だが裏を返せば、それは勝利を確信した上での情けだったのだ。相手はどう見ても限界を超えてる、一撃で決められなかったのは予想外だったが、それでも更に異能力を込めた時点で勝負は決すると信じて疑っていなかった。

 

『出し惜しみなど、している場合じゃない、か』

 

 むしろ嬉しそうにそう心で呟くと、槍に込める異能力はそのままに、右手で突き出していた刀をまた徐々に絞り始める。同時に更に異能力を高めていく。過負荷に身体が悲鳴を上げ、額に脂汗が浮かぶ。

 この状態で、彼女は『戦乙女の槍・改』を再び放とうとしていた。かなりの負担ではあったが、そうできるだけの余裕がまだ彼女にはあったのだ。

 完全に力が拮抗している状態で再び槍を放てば、結果は火をみるより明らかだ。均衡は崩れ、2本の槍は佐祐理の身体を確実に刺し貫くだろう。

 

「さようなら『凍てつきし』倉田佐祐理。あなた、強かったわ」

 

 留美の身体が、徐々に銀色の発光を始める。

 左手を添えた刀が完全に引き絞られると、その発光は直視できないほどに強まった。

 

 そして――

 

「つええぇぇいっ!!」

 

 螺旋を纏い、光を放ち、再び放たれる、戦乙女の投げ槍。

 

 それが轟音と共に拮抗点に着弾する。

 一気に均衡が崩れゆく。

 

 その、刹那。

 

 

 

 

 朦朧とした意識の中、確かに佐祐理はその声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

『 おねえちゃん だいすき 』

 

 

 

 

 

 

 それは、低体温症による意識の混濁が招いた幻聴だったのかもしれない。

 だが、佐祐理は確かに聞いたのだ。

 

 遂に一度も聞くことのできなかった、最愛の弟の声を。

 

 

 

 

 

「かずやあぁぁぁーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 そして佐祐理は。

 

 いま正に拮抗を食い破らんとする槍に向け、再び彼女の、そして弟の、異能力を叩きつけた。

 

 

『輝けし心の氷』(スプライトマインドブリザード)

 

 

 

「ばかなっ!」

 

 遂に臨界を越え、炸裂する2人の異能力の拮抗。

 轟音と共に部屋の全てをなぎ倒す異能力の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 静寂。

 

 ざりっ、と凍った床を踏みしめる音。

 

 

 

 

 

 

 立ち上がったのは、留美だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあそこから、更に異能力を放つなんてね……」

 

 敵は既に限界を超えていたはずだ。

 

「恐ろしい敵だったわ」

 

 所々に凍傷を負い、引きつるように身体が痛む。

 重い足を引き摺るようにして、壁際に移動した。

 

 そこに佐祐理は倒れ伏していた。

 彼女はぴくりとも動かない。まだ辛うじて息があった、だがそれもそのうちに停止するだろう。

 限界を遥かに超過したその肉体は、異能力同士の炸裂に耐える事ができなかったのだ。

 

 

 

「私の、勝ちよ」

 

 宣言するかのように、『狂戦士』七瀬留美は呟く。

 

 

 

 

 

 

 佐祐理は、破れた。

 

 

 

 

To Be Continued..