異能者 第二部

<第十章>

−虹をみた小径−

2004/2/22 久慈光樹


 

 

 

 

 柄を両手で握り、刃を立てて腰溜めに剣を握る『狂戦士』。獲物を前にして今にも飛び掛らんとする猛獣のように腰を落とす。剣気に空気がびりびりと震えている。

 対する名雪たちも即座に散開し、各々異能力を高める。

 

 一触即発。

 この上なく危険な、だが奇妙に静かな一瞬。

 

 そして――

 

「七瀬留美! 参る!」

 

 まるで弓から放たれた一条の矢のように、『狂戦士』は跳んだ。

 

「っ!」

 

 狙いは真琴。傍らに白く輝く聖獣を従えた彼女をこそ、一番の強敵と判断したか。

 

「ぴろっ!」

 

 咄嗟に真琴の取った行動は、防御ではなく迎撃。

 戦いのセンスか、それとも本能によるものか。

 それは恐らくもっとも賢明な判断だっただろう。圧倒的な攻撃力を誇る『狂戦士』に対し、受けにまわって凌ぎきれるものではない。

 

 ザッ、と、床を踏みしめる音。

 振り下ろされる聖獣の爪。

 空転。

 

「なっ……!」

 

 絶句する真琴。迎え撃つ聖獣の眼前で、右脚で床を思い切り蹴りつけるようにして直角に横跳ぶ『狂戦士』。その眼はもう真琴を見てもいない。

 真琴を狙ったのはフェイント。真に狙ったのは、栞。

 横から縦、線から点への急激な変化に、栞は反応できない。迫り来る刃の先で反応できずに立ち尽くす。

 

「“護り”をっ!」

 

 激しい刃鳴り。

 間一髪、佐祐理の『身代わりの自己』(セルフサクリフェイス)が栞を包む。

 

「くっ……」

 

 フィードバックの衝撃に、唇を噛み締める佐祐理。

 

「このっ!」

 

 体勢を立て直した聖獣が、白く輝く身体がブレる程の速度で背後より襲いかかる。

 同時に正面より栞が右手をかざす。『命喰い』の所以たる異能力、『生命奪取』(エナジードレイン)

 だがまたしても、両者の攻撃は空を切る。まるで彼女の好敵手たる『剣聖』のお株を奪うかのごとしの速度で、横跳びに回避する『狂戦士』。

 正面から相撃ちにならぬよう、真琴と栞は異能力を中断するのがやっとだ。

 

「そこっ!」

 

 だがまだ終わってはいなかった、ひとりやや離れた場所から戦況を凝視していた名雪が、異能力を発動する。精神攻撃『覚めない眠り』(ウィッシュレススリープ)対象を眠りに落とし完全に無力化する異能力。決まれば形勢は一気に決する。

 回避のために離脱を図った『狂戦士』には、避ける術が無い。

 

 否、回避のための離脱に非ず。

 

「おおっ!」

 

 短いが鋭い気合と共に繰り出される、刃の颶風。

 

 『狂戦士』七瀬留美が異能力、『剣の暴君』(ソードタイラント)

 

 咄嗟に異能力を中断し回避に転じた名雪の判断は恐らく最善。だがそれでも衝撃の余波をその身に浴びて、広い室内の壁際まで一気に吹き飛ばされる。

 

「きゃあーっ!」

 

 壁に叩きつけられる寸前、壁と彼女の間に身体を滑り込ませたのは北川。ぐうっ、と苦痛の声を洩らしながらも、何とか名雪の身体を支えきった。

 

「あ、ありがとう、北川くん」

「いてて…… いいさ、俺にはこれくらいしかできないしな」

 

 だが余波とはいえ、『剣の暴君』に身体の各所を切り裂かれた名雪の息は荒い。

 

「真琴さん、栞さん、いったん下がって! 体勢を立て直します!」

 

 攻撃に移ろうとした二人を、佐祐理が鋭い声で止めた。左手で抑えられた彼女の右腕からは、真っ赤な液体が滴っている。十分に異能力を込めて繰り出された斬撃を、完全には防ぎきれなかったのだ。

 

 十分に警戒しながらも下がる二人を追おうとはせず、『狂戦士』は再び距離をおき、重心を落とした姿勢で刀を構え微動だにしない。

 身体から陽炎のように立ち昇る異能力の揺らめき、対峙しているだけで身を切り裂かれるかのような、強烈な剣気。

 一瞬の攻防で佐祐理と名雪が傷を負い、対する『狂戦士』はまったくの無傷どころか息すら乱してはいない。

 

「強い……」

 

 名雪の洩らした呟きが、すべてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、了解だ」

 

 飛来したあゆより、指揮官『剣聖』川澄舞からの伝令を聞き、祐一は大きく頷く。

 舞の戦況を見渡す目は本物だ。自覚していなかったが、右翼との連携が知らず粗雑なものになっていたのだろう。

 

「第一、第二小隊、進行が遅い! それから第四小隊は突出しすぎだ! ONEの奴らをぶちかましたいのは解るが、もう少し下がれ!」

 

 部隊長である祐一は中段からそう指示を飛ばす。彼とて戦士、最前線にて切り込みたいのはやまやまだが、部隊を指揮統率する身ともなればそうもいかない。

 

「あゆはもう戻れ、次の伝令があるかもしれないからな」

「うん、じゃあ祐一くん、気をつけて!」

 

 飛来した時と同様に、一条の光となって天に飛び立つあゆ。その姿を眩しそうに見送った後、祐一は表情を引き締めて叫んだ。

 

「この戦い、勝てるぞっ!」

 

 応っ! という叫びが、彼の声を掻き消した。

 

 

 

「おかしい」

 

 本陣では、舞がそう呟く。

 恐らく伝令が正しく通達されたのだろう、先ほどまでやや協調を欠いていた左右の翼はいまや完全な連携を成し、紡錘を形取ったONEの舞台を完全に包み込もうとしている。

 対してONEの尖兵は未だこの本隊には届かず、このまま推移すれば完璧な包囲殲滅戦となるだろう。

 勝った。凡百の指揮官であれば無邪気にそう思ってもおかしくないこの状況、だがしかし舞は、ここにきてONEの侵攻速度が微妙に鈍ったことを見逃さなかった。

 

「……どういうことだ」

 

 包囲網に浮き足立ち、混乱と共に統率を一時的に乱したか?

 現に遠目からはONEの部隊は先ほどまでの完璧な統制を失っているように見える。まるで、指揮統率する者を失ったかのように。

 間違いなく好機だった。原因がどうあれ、敵が一時的とはいえ統率を乱したことは利になりこそすれ損にはなりはしない、このまま一気に包囲殲滅するまたとない好機だった。

 

「なにが起きている……?」

 

 だがしかし、舞は楽観しない。できようはずもない。

 敵は、“あの”異能者狩り部隊なのだ。日本全土を支配するONEの最精鋭、数こそ勝れどKanonの兵とは士気統制ともに比べ物にならぬほどの精鋭部隊。

 そしてなにより、その部隊を指揮統率するは恐らくかの『水魔』里村茜。側近筆頭『狂戦士』七瀬留美と並び称されるONE最強の異能者。万に一つも油断などすることができようか。

 

 一旦、包囲を緩めるか。

 

 舞の脳裏に一瞬だけ、慎重論が浮上する。

 

 罠なのではないか?

 あまりにも戦況はKanonに有利に推移しすぎている。

 あの『水魔』が、ここまで指揮統率を乱すなどということがありえるのか?

 

 一瞬にも満たぬ、躊躇。

 だがそれは、致命的な間だった。

 

 異変が起きたのは、左翼。『紅の』相沢祐一が指揮統率するKanonの主力部隊。

 

「なっ……!」

 

 舞が絶句したのも無理はない。

 数百メートル離れた場所からでもそれと解るほどの、圧倒的な異能力の高まり。

 青く輝く光のようなその異能力は次の瞬間には弾け、雨降り止まぬ大気を震撼させる波となりて波及する。

 

「馬鹿なっ!」

 

 思わず叫ぶ舞。そして波は祐一率いるKanon第一部隊の約半数ほどを飲み込み、塵へと還元させてゆく。大地に達した青き波はそれを抉り巻き込んで、爆発したように轟音を発し土煙を巻き上げる。

 直接目にしたことこそないが、舞にはそれがどのような異能力によってもたらされたかを知っていた。

 

『青き波紋』(ブルーインパルス)

 捕らわれし物体すべてを塵へと分解する超震動、それを広範囲に波のように放出するという『水魔』里村茜がして最強最大の異能力。そしてそれは人体すらも例外ではなく、今は土煙により見ることはできないが波に飲み込まれた第一部隊は半壊滅状態へと追い込まれたに違いない。

 

「祐一っ!」

 

 波は第一部隊の中央部付近より派生したように見えた。そしてその場所で指揮を執っていたのは『紅の』相沢祐一、彼の名を思わず舞は叫んでしまう。

 あの圧倒的な威力の異能力に巻き込まれ、彼が無事であろう筈もない。なぜ突然あのような場所から異能力が放たれたのか、それは解らない。だが舞はすぐにも彼の安否を確かめに走り出したかった。

 

 だが。

 

「怯むな! 敵はいま統率を欠いている、このまま一気に攻め滅ぼせっ!」

 

 『水魔』が必殺の『青き波紋』、その凄まじい威力は代償を必要とする。いちどこの異能力を解放してしまえば、術者は即座に昏睡状態へと追い込まれ、しばらくの間は再起不能となるのだ。

 指揮官たる『水魔』の離脱はこれすなわち部隊の瓦解を意味する。いかにONE最精鋭たる異能者狩り部隊とはいえ指揮系統が麻痺すれば、統率された部隊に対しては羊の群れにも等しい。

 

 祐一の安否は確かに気にかかる。

 だがしかし、ONEの暴挙にも似た致命的な戦術ミスに着け込むのなら、今を置いて他にはない。

 

 ギリ、と唇を噛み締める舞。

 噛み破れた唇の端からは、真っ赤な血が一筋、零れ落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 寸刻前、ONE異能者狩り部隊本陣。

 

「茜、そろそろだよ」

「はい、わかっています」

 

 部隊長、『水魔』里村茜に親しげに声をかけたのは、彼女の幼馴染。

『神出鬼没の』柚木詩子。実力で言えば側近の一角として登用されていてもおかしくない彼女だが、本来の気ままな性格から面倒ごとを嫌い、一兵士の身分に身を置いている。

 そんな彼女が戦の場に姿を現すことは珍しい。ましてや、普段は飄々とした態度である彼女が、緊張に顔を強張らせているなど。

 

「大丈夫ですよ詩子、浩平とみさきさんを信じましょう」

「うっ、浩平くんはぜんぜんこれっぽっちも信用できないけど、みさきさんは信用できるかな」

 

 詩子の言葉にくすりと笑みを零す茜。

 未来予測、ラプラスデーモンシステムにて予見された反撃のタイミングはあと数分後である。

 計画に無くてはならぬもう一人の友人に、茜は気遣うように声を掛けた。

 

「繭、寒くないですか?」

 

 黄色い雨合羽を着込んで、水たまりの水を長靴で弾いているのは、『チャイルド』椎名繭。掛けられた言葉に一瞬きょとんとしたあと、元気よく「うん!」と返す。

 実年齢は知らず、だがその仕草はまるで幼女のそれだった。

 

 こんなにも純真な少女を、殺し合いの道具にしている。

 

 それは、茜だけでなく側近たる女性たち全員が感じている背徳感だった。

 自分たちの手が血塗られるのはいい。そんなことは彼の、そう彼の側に居ると決めたあの時から覚悟の上だ。

 恐らく自分は地獄に落ちるだろう。これまで数え切れぬ人を殺めたし、これからもたくさん殺すだろう。

 だがそれは、自分自身が望んだことだ。

 里村茜は、そういう生き方を選択したのだから。

 

 だがこの少女は違う。純粋無垢なこの少女は、未だ自分の為す事の意味、人を殺すということの意味すらも、正確には把握していないだろう。

 そんな少女を、自分たちは道具にしようとしている――

 

「みゅ? お姉ちゃん、どうしたの? 寒いの?」

 

 知らず俯いてしまった茜に、心配そうに声を掛ける繭。その仕草、その瞳に、罪悪感に押しつぶされそうになる寸前、何を思ったか繭がこう口にした。

 

「繭、いましあわせだよ」

「え……?」

 

 思わず顔を上げる

 

「繭のこと、いままでみんないらないって言った。誰も繭をひつようとしてくれなかった」

「繭……」

 

 でもね! と、なにかを振り払うように、輝くような笑顔で。

 繭は、言った。

 

「お姉ちゃんたちや、みゅーのお兄ちゃんは、繭を必要としてくれたよ!」

 

 ああ、この子も私と同じだ。同じだったんだ。

 後から思えば、茜が本当の意味で繭を『仲間』として感じるようになったのは、このときからかもしれない。

 

「茜、繭ちゃん、時間だよ」

 

 二人の会話を微笑んで聞いていた詩子が、表情を引き締めつつ二人に声をかける。

 作戦開始の時間だった。

 

 

 

「各隊はこのまま前進を続けなさい」

 

 繭や詩子に対していたときとは別人のように、冷たささえ感じられる毅然とした声で部下に告げる茜。

 紡錘陣による中央突破に対応され、左右より半包囲網を形成されつつあるこの状況において、その命令はあまりにも無策であるように思われた。

 通常であればそのような命令を下す司令官は無能以外の何物でもなく、兵士たちの造反・サボタージュをもって報われてもおかしくない。

 であるにも関わらず、つづく茜の言葉に兵士たちの士気は下がるどころか逆に上がっていく。

 

「挟撃してくる敵は私が殲滅します。貴方たちは眼前の敵を打ち滅ぼすことに専念してください」

 

 微笑を浮かべてそう言う、美しい部隊長。

 彼らの崇拝する『水魔』里村茜が「殲滅する」と言ったのだ。今まさに左右より鉄の奔流のごとく押し寄せるKanon挟撃部隊を、彼女は間違いなく殲滅するだろう。

 彼らの忠誠はONEリーダーである『永遠の』折原浩平の下にあったが、美しき側近の女性たちのカリスマは、決して『永遠』に劣るものではなかった。

 

「時間です! 詩子!」

「りょーかい! そーれ跳んでけーっ!」

 

 詩子が茜と繭の身体に両手で触れてそう叫んだ瞬間、三人の姿は一瞬にして掻き消える。

 

『瞬間移動』(リープムーブ)

 『神出鬼没の』柚木詩子の、空間跳躍の異能力。

 一瞬で空間を跳び越すその異能力は、折原浩平の『永遠の力』を借りた遠距離移動よりも数段使い勝手がよく、更には効果を拡大させることにより本人以外の物質までも運搬することが可能である。

 

 

「え……!」

 

 彼女らが姿を現したのは、Kanon左翼部隊中段。茜の目に咄嗟のことに対処できずにいるKanon兵士たちと、『紅の』相沢祐一の姿が映る。

 それを確認する間もあればこそ、限界近くまで高めた異能力を抑え、茜は次の指示を飛ばす。

 

「繭!」

「みゅー!」

 

 同じく異能力を高めていた繭が、叫ぶ。

 

「うわああーーーっ!」

 

 絶叫にも似た彼女の声に呼応するように、その身体が銀色に輝く。限界まで高められた異能力が、彼女の掲げた両腕に収束していく。

 そして繭は、異能力の収束した両の腕を茜に押し付け、解放した。

 

「いけっ! お姉ちゃん!」

 

 繭の両腕を包んでいた銀色の光が、一瞬だけ茜の全身を包み込む。

 そしてそれを圧するように展開されるのは、青すぎるほどに青い、群青の光。

 

「波よ! すべてを塵へと還せ!」

 

 

 

『青き波紋』(ブルーインパルス)

 

 

 

 茜の身体より放たれた波は、彼女の近くにいたKanon兵士の身体を飲み込む。一瞬にして原子レベルまで分解された男たちは、悲鳴を上げる間もなくただの塵へと還元されていく。

 

「各員、精神バリアを最大出力で展開しろ! 死ぬぞっ!」

 

 その叫びは、『紅』のものだったか。

 破滅の波は音の速度で広がり、何もかもを飲み込む。そして大地に達した波は、爆発するかのように大地を抉り、降りしきる雨の中、舞い上がる土煙が茜たち三人を覆い尽くした。

 

「大丈夫? 二人とも」

 

 土煙が雨にあらかた洗い流された頃、精神バリアを解いて詩子がそう声を掛ける。有効範囲の内側に居たために無事だが、土煙を嫌ったのだろう。

 

「大丈夫、です」

 

 肩で息をしながら、それでも昏倒することもなく、茜はそこに立っていた。

 そしてその隣には、同じように肩で息をする繭。

 

『罪無き精神』(イノセントマインド)

 『チャイルド』椎名繭の第二の異能力。先ほど茜の全身を包んだ銀光の正体であり、昏倒必至の大異能力を行使した茜が昏倒することもなく未だ立っているカラクリだった。

 異能力行使による術者へのフィードバックを軽減する異能力。

 その効果は放つ異能力の強度に左右される。通常10の威力がある異能力は約1のフィードバック、100の威力がある異能力は20〜50のフィードバックという比率が一般的であるが、この『罪無き精神』はそのフィードバックを大幅に軽減する異能力である。

 ただし椎名繭本人にかけることはできず、第三者にしか効果はない。しかもこの異能力自体が繭自身にかなりの負担を強いるため、連発できる異能力ではない。

 しかし使いどころによっては戦局を打開する切り札ともなりえる強力な異能力である。

 

「しっかし、相変わらずおっそろしい威力よね」

 

 詩子は冗談に紛らそうとし、失敗する。

 茜の異能力により、周囲の風景は一変していた。

 抉られ、地肌を剥き出しにした大地。そこには『紅の』相沢祐一を含むKanon第一部隊の兵士たち数百人がいたはずだが、彼らの姿は影も形も見えない。

 『青き波紋』の超震動により、跡形もなく塵へと還元されたのだ。

 死体が見えぬため生々しさはない。だがしかし、それで結果が変わるわけでもない。

 赤黒い地肌を覗かせる大地は、紛れもなくそこで行われた大虐殺の痕跡だった。

 

「急ぎ本隊へ合流しなくてはなりません、詩子、もう一度跳べますか?」

 

 表情を殺し、心を殺し、能面のような顔で事務的にそう聞いてくる茜。

 

『そんな顔、茜には似合わないよ』そう言ってやりたい。突き放すのではなく、そんなにも強く在ることはないのだと、そう、言ってやりたい。

 

「おっけー、ぜんぜん大丈夫よ茜」

 

 だが、口から発せられるのはいつも通りの軽口。いつも通りの、軽口に聞こえるように細心の注意を払った台詞。

 

 私には、何も言う資格はない。

 そう、戦いを嫌い、恐れ、そこから逃げ出して極力関わらないようにしているような自分が、罪を罪として刻み続ける彼女に、果たして何を言えるのか。

 いつだってそうだった。いつだって自分とこの親友の関係はこうだったのではないか。

 もう一人の幼馴染が消えた、あの時から――

 

「詩子」

「あっとごめんごめん、ちょーっちボケボケしちゃったかなー」

 

 

 ごめんなさい、茜。

 その言葉の代わりに、彼女は異能力を解放した。

 

 何かから、逃げ出すかのように。

 

 

 

 

 

To Be Continued..

 

 

 

 

 


 

 今回使用した『チャイルド』椎名繭の異能力『罪無き精神』(イノセントマインド)は“ふらっとさん”にご考案頂いたものを元に、創作しました。

 ほとんど名称のみの使用になってしまいましたが、素晴らしいネーミングだったとおもいます。

 ふらっとさん、ご協力ありがとうございました。