飛び散る、鮮血。

 

 

 眼前には、かつて大好きだった姉がいた。

 栞に背を向けて、立っていた。

 背には、憧れていた綺麗なウェーブのかかった長い髪が広がって。

 

 そしてその髪が広がる背の中央から

 

 

 漆黒の槍が、突き出ていた。

 

 

「え…… 香里……さん?」

 

 あゆの忘我したような声。

 

「どう……して……?」

 

 

 

 

 

 


異能者

<第二十二章>

−死の顎−

2001/09/14 久慈光樹


 

 

 

 

 『永遠の』折原浩平が放った漆黒の槍。

 その槍は、一直線にあゆの心臓に向けられていた。

 

「あゆ、逃げろー!」

 

 眼前で、まるで蛇に見入られた蛙のように動けずにいるあゆ。

 祐一は叫ぶことしかできない。未だ出血の止まらぬ四肢は持ち主の意思にまったく従わない。

 

 間に合わない。

 あゆを、助けることができない。

 

 コンマ何秒の世界だった、だが祐一の心を絶望で覆い尽くすには十分だった。

 

 あゆの背しか見えなかった。

 だから栞が。

 『命喰い』美坂栞が、あゆの前に踊り出たときには、何が起こっているのか理解できなかった。

 

 

 

 

 私はなぜあゆさんを庇うのだろうか?

 

 自分のことなのに、全然わからなかった。

 

 月宮あゆさんのことは、好きだった。

 天真爛漫。そんな言葉がぴったりくる、とても素敵な女性だと思った。

 だけど身を投げ出してまで、命を捨ててまで守るほど、私は彼女のことが好きだったのだろうか。

 彼女のことをろくに知っているわけではないのに。

 

 気付いたら、体が動いていた。

 折原浩平の放った漆黒の槍とあゆさんの間に体を滑り込ませていた。

 それがどんな結果を招くことになるか、知りながら。

 

 真っ黒なモノが一直線に自分に向かってくる様を見ていた。

 ああ、死ぬんだな。

 どこか他人事のように、そう思った。

 

 ひょっとしたら、私はただ死にたかっただけだったのかもしれない。

 あゆさんを庇うとか、そんなことは考えてはおらず、ただ、死にたかっただけなのかもしれない。

 

 真っ黒なモノが、どんどん近づいてくる。

 ほんの一瞬のはずなのに、ずいぶんと長く感じる。

 死ぬ時っていうのはこういうものなのかもしれない。

 私はただじっとその黒いモノを見つめながら、そのときを待った。

 

 突然、目の前が真っ暗になった。

 何が起きたのかわからなかった。

 ただ、視界に、あの大好きだった綺麗な髪が広がった。

 ゆるくウェーブのかかった、ちょっと茶色がかったとても綺麗な髪。

 

 お姉ちゃんの髪だった。

 

 そしてその髪が広がる背の中央から、何か棒状の黒いものが突き出していた。

 

 

 あれは何?

 あれは何?

 あれは何?

 

 

「え…… 香里……さん?」

 

 なにか声が聞こえたけれど、それどころじゃなかった。

 あれは何?

 あんなもの、綺麗なお姉ちゃんには似合わない。

 全然、似合わない。

 

 じっと見ていると、その黒い棒は消えた。

 よかった。

 ほっと胸を撫で下ろしたときだった。

 

 ぱっ、と。

 何か赤いものが私の顔にかかった。

 顔にも、手にも、髪にも、かかった。

 

 その赤いものは。

 目の前に立つ、お姉ちゃんの背中から噴き出したものだった。

 

 

 

 ちょっと待って。

 何、コレ。

 血?

 どうして血が出てるの。

 お姉ちゃんの背中から、どうしてこんなにいっぱい血が出てるの。

 え?

 ちょっと……

 待ってよ!

 なんで? どうして?!

 いや。

 こんなの嫌よ。

 ちょっと待ってよ!

 嫌よこんなの!

 どうなってるのよ!

 ねぇ!! どうなってるのよ!!

 

 

 

「落ち着きなさい、栞」

 

 ビクッ!

 

 香里の、大きくはないが毅然とした声に、栞は大きく身体を振るわせた。

 

「まったく、相変わらず向こう見ずなんだから」

「お、おねえちゃん?」

「あれほど……危ないことは……しちゃ……だめ…だっ……て……」

 

 そこまで言うのが限界だったのだろう。

 香里は、ゆっくりと倒れ伏した。

 

 

 

 折原浩平の放った漆黒の槍。

 その槍は、妹を庇った姉の右胸を貫いていた。

 

「香里さん!」

「くっ、香里!」

 

 駆け寄るあゆ、祐一も足を引きずるようにして、香里へと近づく。

 あゆに抱き起こされた香里は、まだ息があった。

 

「血が、血が止まらないよ! 祐一くん、どうしよう!」

「くっ! ちくしょう!」

 

 槍は、香里の右胸を貫通していた。

 肺に穴があいたのだろう、吐瀉した血に、白い繊維のような肺の組織が大量に混じっている。

 

 

 致命傷だった。

 

 

 

「おね…え……ちゃん……?」

 

 呆然と宙を眺め、空ろな目でそう呟く栞。

 まるで、事実を事実として認めることを拒むように、受け入れ難い現実を拒むように。

 

 

「こんな結果になるとはな」

 

 まったくの無表情でそう呟くのは浩平。

 その声には勝ち誇った響きなど微塵もなく、かといって悼むような響きもなく。

 その表情と同じく、まったく感情を感じさせぬ声。

 

 その声を聞いた栞が、空ろな目で、浩平を見た。

 

「あ……」

 

 血溜りに沈む、姉。

 

「あ、あ、ああああ」

 

 ゆっくりと、現実が浸透してゆく。

 

「ああああああああ」

 

 現実が、心を切り刻んでゆく。

 

 

「あああああああああっ!」

 

 

 栞の心を、切り刻んでゆく。

 

 

 

 

 

「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」

 

 

 

 

 

「……!」

 

 血を吐くような絶叫。

 浩平でさえも、思わず身を竦めてしまうような叫びだった。

 そしてその叫びと同時に、栞の身体が黒く輝きだす。

 その光は『永遠』の闇とは違い、黒光と言うべきものだった。

 

「『美坂家』死の奥義か……!」

 

 栞の異能力が高まっていることを悟り、浩平は身構える。

 『命喰い』美坂栞も『美坂家』直系の女子である以上、死の奥義を習得していたとしてもおかしくない。

 軽く舌打ちし、『永遠の世界』を発動するために意識を集中する。

 瞳が漆黒に輝き、身体のそこかしこから闇が漏れ出す。

 

 黒き闇と黒き光。

 両者が今まさに激突しようというその瞬間。

 

「どきなさい! 栞!」

「えっ!」

 

 死に瀕した身体の、どこにそのような力が残っていたのだろうか。

 抱き上げるあゆの手を払いのけ、美坂香里が突然立ち上がり、叫んだのだ。

 

「なっ!」

 

 永遠の闇槍に胸を貫かれた香里のことは、浩平もまったく意識していなかったのだろう。

 完全に虚を突かれた形となった。

 

 熾火が、消える間際に一瞬激しく炎を上げるように。

 香里の異能力が爆発的に高まる。

 その全身を黒き光が包む。

 栞のそれよりも、更に激しい光だった。

 

「食らいなさい! 『美坂家』死の奥義!」

 

 

 

 

「『絶望の死蛇』(ミッドガルズ)!!」

 

 

 

 香里が叫んだ瞬間、その身体を包んでいた黒き光が、まるで蛇のごとく収束する。

 黒き蛇。

 それはまるで香里の胸より流れ出る血を啜るように、うねり、肥大化してゆく。

 漆黒だったその躯が赤黒く染まっていく。

 そして獲物に襲い掛かる毒蛇そのものの動きで、“それ”は浩平に向かって跳んだ。

 

 

「くっ、しまっ……!」

 

 『永遠』の展開が間に合わない。

 死の蛇は、そのまま浩平の身体に絡みつくように、消えた。

 

「あっ……」

 

 その声は、誰のものであったのか判別できなかった。

 続く浩平の絶叫に、かき消されたからだ。

 

 

「ぐああああああっ!」

 

 

 魂の擦り切れるような、叫び。

 そして浩平の身体は、徐々に異形へと、『永遠の獣』へと変じていった。

 

 

ガアアアアアァァッ!!

 

 

 まるで体内に潜り込んだ何者かに、身体の内より引き裂かれているかのように。

 獣は、自らの鋭利な爪で胸を掻き毟り、吐き出した血と相まって真っ赤に染まってゆくかのようだ。

 

「浩平くん!」

『浩平さん!』

 

 みさきも、澪も。

 ただその場で叫ぶことしかできない。

 下手に近づけば、暴れる獣の爪牙に引き裂かれていただろう。それほど獣の苦しみは激しかった。

 

 苦悶する獣、見守ることしかできないみさき、澪。

 祐一も、あゆも、まるで魅入られたようにその光景をただ見守り続ける。

 

 獣はいよいよ激しく雄叫びを上げ、鋭い爪で自らを傷つけ続ける。

 

 

 どれほどそうしていただろうか。

 永遠に続くかと思われたその時間は、やがて終わりを迎えた。

 徐々に、獣を漆黒の闇が包み込む。

 闇が晴れたとき、そこには蒼白の浩平がいた。

 

「……流石は“奥義”を呼称するだけのことはある、な……」

 

 ふっと意識が遠くなる。

 

「くっ……」

 

 だがなんとか踏み止まる。

 

「浩平くん! 浩平くん!」

 

 すぐにみさきと澪が駆け寄り、その身体を支えた。

 

『ひっ……!』

 

 浩平の身体は、氷のように冷たかった。まるで死人のように青ざめ、脂汗を浮かべている。

 その様子を見るだけで、彼がいかに消耗しているかが知れた。

 

「G−Tの生命力で、なんとか乗り切った……」

「浩平くん、喋らないで!」

『うっ、ぐす……』

「ああ、澪、そんなに泣くな。俺は大丈夫だから」

 

 

「そんな……」

 

 栞は、信じられないといった様子で、呆然と呟く。

 いつ入れ替わったのか、身に纏う雰囲気はペルソナのそれだった。

 

「『絶望の死蛇』を受けて…… 生きているなんて……」

 

 

『絶望の死蛇』(ミッドガルズ)

 死を司る『美坂家』の最終奥義にして、その存在意義。

 世に「異能力」という存在が認知されるより遥か以前より、『美坂家』は在った。そしてこの“力”を守るためにこそ、『美坂家』は存在したのだ。

 厳密に言えばこの“力”は異能力ではない。

 この“力”は、一種の巫術であった。

 古の猛き神が贄と引き換えに怒りを鎮めたように、この“力”は代償を必要とした。

 術者自身の生命。

 それが代償である。

 本来、巫術とはそういったものだ。

 対象は絶対的な死、そして術者自身は寿命を削り、生命を削る。

 異能力という新しい力によほど秀でており、なおかつもって生まれた資質によほど優れた者でない限り、大半は倒した敵と同じ末路を辿ることとなる。

 幾人もの敵と、そして当主自身の命を飲み込んできた『絶望の死蛇』。その死の牙は対象と、そして術者自身にも向けられているのだ。

 

 

 現当主の直妹である『命喰い』美坂栞はこの力を継承していた。そして、この戦いにおいて『永遠の』折原浩平に発動するつもりだった。

 つまり、刺し違えるつもりであったのだ。

 彼女は、折原浩平、ひいてはONEに『美坂家』を奪われることを恐れていた。彼女の生きた、大切な家を奪われることを恐れていた。

 だがそれ以上に恐れていたのは。

 姉である香里が、この“力”を用いることであった。

 香里がこの“力"によって命を落とす事態だけは、なんとしても避けなければならなかった。

 

 

それなのに。

 

 

 香里を『美坂家』から動けなくする計略を考案したのは、栞だった。

 ペルソナによって何らかの妨害が入るものだと思っていた栞だったが、そうはならなかった。

 自分であって自分でない。そんな存在であるペルソナが何を考えているか、栞にはわからなかった。

 わからなかったが、邪魔さえされなければそれでよかった。

 計画はほぼ成功した。

 『紅の』相沢祐一、『熾天使』月宮あゆ、共に折原浩平と対する面子も動員することができた。

 計画はほぼ、成功していたのだ。

 

 

それなのに。

 

 

 『美坂家』において、自分の存在がどのような位置付けであるのか。

 栞はほぼ完全に把握していた。

 血縁を基として成り立つ組織の場合、同族の、しかも当主として起つ資格を持つ者の存在は、組織にとって害にしかならない。

 たとえ本人にその意思がなくとも、野心を持つ者の傀儡として祭り上げられる可能性があるからだ。

 現当主である『死神』の政策は清廉にして苛烈であり、支持する者も多かったが反発する者もまた多かった。

 反感を持つ者は、妹である『命喰い』を当主として担ぎ上げる算段を胸に秘めていただろう。

 燻り続ける火種は些細なきっかけから燃え上がり、大火となって組織を焼き尽くす。

 

 今回、栞が仕組んだ反乱劇。

 その真の狙いは香里を『美坂家』から動けなくさせることだったが、同時に『美坂家』に反意を持つ者たちを淘汰するという目論見もあったのだ。

 全体の約6割が参加したのは多少予想よりも多かったが、十分に対処可能な人数だった。それにその分、呼応しなかった者は『美坂家』に対し、そして香里に対し、忠誠心の確かな者たちだ。

 当主である『死神』自ら反乱鎮圧の指揮をとれば、万が一にも敗れることは考えられなかった。

 そして反乱が鎮圧する頃には、全てが終わっているはずだったのだ。

 

 

それなのに。

 

 

 

 『美坂家』現当主である『死神』美坂香里。

 だが、栞にとってそのような称号は何の意味も無かった。

 栞にとって、美坂香里という女性は、『美坂家』当主でも『死神』でもなく。

 たった一人の、かけがえのない『姉』だったのだ。

 

 

それなのに……

 

それなのに!

 

 

 

 

「……引くぞ」

 

 浩平の声に栞は、いや、ペルソナは、我に返る。

 軽く首を振って意識を保とうとする。

 一瞬、もう一人の人格と交じり合っていたようだ。

 

「だけど……」

 

 浩平の撤退宣言に、みさきが言い淀む。

 今の浩平の状態を考えれば、撤退はむしろ歓迎すべきことだ。

 だが純戦略的に考えた場合、ここでの撤退はいささかまずい。

 ONEリーダーである『永遠の』折原浩平自身が出向き、先に撤退したとなれば、今以上にKanonに口実を与えることになるからだ。

 確かに前回の撤退はKanonに反ONEの旗印としてある程度の知名度を持たせねばならないという戦略から発した、いわば必然事項だった。

 だがそれも、度を過ぎればONEにとっては害にしかならない。

 

 戦略に長けたみさきだからこそ、撤退に対して明確な賛意を示さなかったのだ。

 個人的には、今すぐにでも浩平を休ませたいという思いでいっぱいだったのだが。

 

「構わない。『美坂家』当主である『死神』美坂香里は仕留めた、そして『紅の』相沢祐一にも重症を負わせた、この辺で十分だろう」

「そう…… だね」

 

 今回出向いた一番の目的は『美坂家』を、そして『死神』を自軍に取り込むことにあった。

 最善の策は当然ながら自軍への編入だが、当主である『死神』美坂香里を抹殺し『美坂家』それ自体を無力化することは次善の策であった。

 その意味では最善ではなかったとはいえ、目的は十分に達したといえるだろう。

 

 それに浩平の様子を見るに、これ以上の交戦はONEにとってあまりにリスクが高い。

 みさきと澪に支えられるように立つ浩平は、まるで生気を根こそぎ削り取られたように衰弱している。

 ONEにおける求心力の中心たる『永遠の』折原浩平の身を考えるなら、少しの戦略的優位などにこだわるべきではない。

 みさきはそう結論付けた。

 もっとも、その結論に全く私情が含まれていなかったのかと問われれば、答えられなかっただろうが。

 

「澪、すまん、柚木を呼んでもらえるか?」

『わ、わかったの』

 

 もう、遠距離移動能力すら行使する余裕が無いのか。

 普段からは考えられないその余裕の無い態度に、澪は愕然としながらも、その言葉に従い意識を集中する。

 

 澪の精神感応能力は、親しく知る人物であれば空間的距離に一切左右されぬほど強力な物だ。

 すぐに『神出鬼没の』柚木詩子のイメージを捕らえることに成功した。

 

「どうしたのー、澪ちゃん。そんなに急いで」

 

 なんの前触れもなく姿を現す詩子。正に『神出鬼没』の異名どおりだった。

 

「ちょ、ちょっと折原くん、どうしたの!」

 

 すぐに浩平の様子に気付き、その顔色の悪さに絶句する。

 だが浩平はうるさそうに眉を顰めただけだ。普段であればすぐに言い返してくるであろう浩平のその様子に、詩子も事態が切迫しているということに気付いたのだろう。すぐにふざけた笑みを消し、ただ事務的に確認した。

 

「みんなを連れて、本拠地まで跳べばいいんだね?」

「柚木さん、お願いしていいかな」

 

 みさきの声にただ頷くと、目を閉じ、集中し始める。

 一人二人ならいざ知らず、流石に自分も含め4人同時に跳ぶとなると精神集中による異能力の増強が必要だった。

 

 それを待つ間、胸から血を流しながらそれでも立ちつづけこちらを睨みつける香里に、浩平は視線を向ける。

 その視線に勝者の驕りはない。それどころか尊敬の念すら篭っていた。

 勇戦した敵に対する敬意を、浩平は感じていたのである。

 『死神』美坂香里、噂に違わぬ強敵だった。

 

 そして次に立ち尽くす祐一と、栞のペルソナに視線を向ける。

 その漆黒の瞳からは、何を考えているのかまったく読み取ることができない。

 だが、祐一には彼がまるで自分たちに詫びているような印象を抱いた。無論、錯覚であろうが……。

 

 最後にその視線は、月宮あゆに向けられた。

 と、同時に、浩平が何事か、呟いた。

 

「お前の探すものは」

 

「えっ!」

 

“探すもの”

 その言葉に反応し、思わず声を上げるあゆ。

 浩平はその声が耳に入っていないかのように、呟きつづける。既にその視線は空ろで、彼自身限界が近いことを物語っていた。

 ひょっとしたら、既に意識も混濁しているのかもしれない。

 

「お前の求めるものは、辛く、厳しい現実と共にある」

 

 息を潜めるように、だが一字一句全てを聞き逃さぬように、あゆはじっとその言葉に耳を傾ける。

 

「自らの全てを、存在そのものを…… 否定される事実に…… お前は耐えることができるのか」

「……」

「もう、探すな」

「……!」

「お前は“月宮あゆ”だ。他の誰でもない、ただ一人の、月宮あゆという人間だ」

「そ、それはどういう……!」

「ひとは、自らの存在意義を得て、初めて“ひと”たりえるのだから……」

 

「いくよ!」

 

 浩平の呟きを遮るように、異能力を高めた詩子の声が響く。

 

「あっ! ま、待って!」

 

「『瞬間移動』(リープムーブ)!」

 

 そして浩平と、ONEの面々は、消えた。

 

「待ってよ! どういう意味なの!」

「教えて、教えてよ!」

「ボクは……」

 

 

 ・・・ ・・・
ボクは、何なの!

 

 

 

 

 あゆの叫びが漆黒の闇に木霊する。

 そして……。

 

 

「香里!」

 

 祐一が叫ぶ。

 浩平たちの姿が消えるまで、険しい表情を崩さずに立っていた香里が、今度こそ力尽きたように倒れたのだ。

 

 

 

 戦闘開始から約3時間。

 

 未だ、長い夜の明ける気配は無い。

 

 

 

 

To Be Continued..