765テレフォンショッピング

2009/4/2 久慈光樹


 

 

「さあ始まりました765テレフォンショッピング、司会はわたくし、『A.I.E.N』の天海春香と――」
「如月……」
「……」
「……」
「えええええと、『A.I.E.N』の如月千早でお送り致しまーす!」

(ちょ、ちょっと千早ちゃん、テンション低いよ! ちゃんと台本通り行こうよ!)
(……どうして私がこんな番組に…)
(しょうがないじゃない、お仕事無いんだから!)
(私は歌う為にこの業界に入ったのに……)
(何事も下積みからだよ! ほら膨れてないでがんばろっ!)
(……)

「え、えーと! それでは商品番号1番『超弩級万能掃除機 モゲーラ2』のご紹介です!」
「アホな名前ね」
「いまのところカットでお願いします! ええと、この『モゲーラ2』は従来の掃除機とはちょーっと違うんですよ!」
「……」
「……」

(ち、千早ちゃん! ほらここは台本だと「え? どう違うの春香」て言う場面だよ!)
(…早く終わらないかしら)

「え、えと! 百聞は一見にしかず! この吸引力を実際にご覧いただくために今回はこんなものを用意しました!」
「毛まみれのカーペット?」
「はい、ペットのいるお家なんかだと、カーペットにペットの毛がいっぱい! これなかなか取れないんですよねー、でもこの『モゲーラ2』なら安心! 見ててくださいねー」

 ズゴゴゴゴゴゴ!!

「……」
「……」
「……」
「……ねえ春香、カーペットごと吸い込んだんだけど」
「ほ、ほら! こんなにすごい吸引力!」
「確かに無駄に凄いわね、掃除機としてはまったく使い物にならないけど」
「今ならこの『モゲーラ2』に、便利な高枝切りバサミと布団圧縮袋3枚をお付けして、なんと3万円! 3万円でご奉仕です!」
「組み合わせが意味解らないわね」


(ナレーション)
『商品番号いちばん『ちょ→どきゅ→ばんの→そうじき モゲ→ラつ→』 3万円、3万円でごほうちします! ごちゅーもんは今すぐお電話で!』


(なんで亜美が出てるのかしら)
(仕方ないよ、みんなお仕事ないんだから、というかあれ真美だし)
(どっちでも同じようなもんでしょ)
(酷っ!)



「それでは次に商品番号2番『香具師の実洗剤 ペペロリン』のご紹介です!」
「ネーミングした人間死ねばいいのに」
「千早ちゃん! そんな誰でも思うようなこと言ったらダメだよ!」
「マイク拾ってるわよ」
「あわわわわ、今のところカット、カットでお願いします! ごほん、この『ペペロリン』の脅威の洗浄力をご覧いただくために、本日は特別にゲストをお呼びしています。765プロみんなのお姉さん、三浦あずささんに食器を洗っていただきます!」
「お母さんの間違いじゃないの?」
「それではあずささん、お願いします!」
「……」
「……」
「……いないじゃない」
「あ、あれ?」
「ほら春香、カメラの向こうでプロデューサーがカンペ広げてるわよ」
「あ、ほんとだ、なになに? 『あずささん行方不明』……ってええっ!」
「『TV局に来ていない』って、間違いなく迷子ね」
「どどどどうするんですか番組!」
「オフィスから電車で1本なのにどうして迷子になるのかしら、きっと栄養が脳じゃなくて胸に行っているのね」
「……千早ちゃん、あずささんのことキライなの?」
「別に」
「って、プロデューサーさんどうしたんですかそんなに慌てて。え?『本番中』って! あわわわ」
「カットだらけで番組にならないじゃないかしら」
「え、ええと! 失礼しました、あずささんは都合により商品紹介できなくなっちゃいましたので、不詳わたくし天海春香がお皿洗いさせていただきますうわっ!」

どんがらがっしゃーん!

「洗う皿が一枚も残ってないわね」
「あいたたた……」


(ナレーション)
『商品番号にばん! 『やしの実洗剤 ペペロリン』 お値段は2千円……って! 2千円もあったらもやしカーニバルですよっ! うっうー!』


(やよいまで……)
(よほど仕事無いのねうちのプロダクション、もうすぐ潰れるんじゃないかしら)



「気を取り直して商品番号3番『超安眠枕 モルスァ!』のご紹介です!」
「もう突っ込む気にもならない名前ね」
「見てくださいこの『モルスァ!』のふかふか加減! これならとっても良く眠れそうですよねっ!」
「名前はともかく、商品はマトモね」
「この気持ちよさを体験していただくため、本日は特別にゲストをお招きしています!」
「誰だか聞かなくても解る気がするけれど、一応聞いておくわ、誰かしら」
「765プロの新人アイドル、星井美希さんですっ!」
「あの子ならどんな枕でも爆睡だから意味ないじゃない」
「実はもう、美希にこの枕を使ってもらっているんです。どう美希、気持ちいい?」
「Zzzz……」
「美希ー?」
「Zzzz……」
「既に爆睡してるじゃない」
「え、えーと、あはは、よっぽど気持ち良かったんですねっ!」
「むにゃむにゃ……ぷろでゅーさー…そんなとこさわったらダメ……むにゃ…」
「……」
「……」
「……」
「……」

ガッ!

「あふぅ!」
「は、春香! こめかみにトゥキックはマズイわっ!」

ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!!

「死ぬから! 連打は死ぬから! お願い春香落ち着いて!」
「はぁ、はぁ、はぁ……千早ちゃん」
「な、何かしら春香」
「私ちょっとプロデューさんとお話ししてくるね(ニッコリ)」
「え、ええ。ごゆっくり」



(しばらくお待ちくださいのテロップ)



「大変お待たせいたしましたっ! 再開いたします!」
「ええと春香、頬に返り血がついてるわ、これで拭きなさい」
「ありがとう千早ちゃん」
「というかもう時間無いんだけど」
「えっ! ほ、ほんとだ、どうしよう千早ちゃん」
「いいんじゃないの? どうせこんな深夜通販番組、誰も見てやしないわよ」
「それもそっか」
「ほら春香、とっとと終わらせなさい」
「はい、じゃあ皆さん、また来週お会いしましょうー!」
「えっ、来週もやるのこれ……?」



 深夜時間帯にも関わらず、765テレフォンショッピングは毎回かなりの高視聴率だとかそうじゃないとか。

 

<おわれ>