遠坂凛の金属バットな日々

−凛、座薬るの事 中編−

2004/3/11 久慈光樹


 

 

 

「座薬が怖くて魔術師がやってられるかってのよ!」

 

 僧にあっては僧を殺し仏にあっては仏を殺す、といった勢いで座薬の箱を開け放つ凛。そのままの勢いでカプセル状のそれを取り出す。

 

「こ、これをオシリの穴に……」

 

 想像しただけで気が遠くなりそうだったが、持ち前の負けん気の強さでなんとか乗り切る。座薬怖くない、座薬怖くない、と口の中で呟いているところを見るに、どうやらかなり動揺しているようだ。

 

「ま、まずは下を脱がないとダメよね」

 

 そう自分に言い聞かせるように呟き、躊躇いながらパジャマのズボンを下ろす。

 オシリの部分にカワイイにゃんこがプリントされたショーツは、密かにお気に入りの品である。体育の授業がある日には絶対に穿いていかない。だって優等生だから。

 

「えっと、パンツも脱がなきゃだめよねやっぱり……」

 

 部屋には自分しかいないのに顔が真っ赤なのは、熱があるからだ。たぶん熱があるからなのだ。

 しばらくもじもじと腿を擦り合わせていた凛だったが、やがてキッとまなじりを吊り上げ、えいやっとばかりに一気にパンツを下ろす。実に女っぷりのよい脱ぎっぷりであるが、色気のカケラも無かった。

 

「うう、スース―する……」

 

 既にして涙目だった。

 

「えっと、これをここに入れるんだよね……」

 

 意を決したようにしゃがみ込み、固く目を瞑ってカプセルをそこに当てる。

 

 ぴと

 

「つめたーーっ!」

 

 ごろごろごろ……

 

 遠坂凛、転がりまくり。

 

「つめたいじゃないのよ! ふざけんじゃないわよ!」

 

 惚れ惚れするほどのオーバースイングで手に持った薬を投げ捨てる凛。めっちゃ涙目だ。

 このバカ! バカ! バカアーチャー! と一通り想像上のサーヴァントを金属バットでボコボコにしたところで落ち着いた。深呼吸をしてもう一粒座薬を取り出す。

 

「今度こそは……」

 

 今度は仰向けに横たわって足を上げ、そんな痴態を想像することを拒むようにまたしても固く目を瞑って、一気にカプセルを――

 

 にゅる

 

「ぎにゃー! ここ違うーーっ!」

 

 さきっぽちょっと入った。違う場所に。

 

「バカー! 士郎のバカー!」

 

 がっつんがっつんとタンスに頭突きの嵐。凛さんの脳内設定ではなんだか大変な事態になっている模様である。一種の現実逃避の類であろう。お前本当に病人か。

 

 と、そんな大騒ぎを聞きつけたのか、ドアをノックする音。

 

「何の騒ぎですか凛、入りますよ、安静にしていないと直るものも直らな……」

 

 部屋に入ってきたセイバーが見たものは。

 頭突きの挙句に金属バットでタンスを破壊する赤いあくま。

 そして、下半身はすっぽんぽん。

 

 セイバー、硬直。

 

「ち、違うのセイバー! これは違うの!」

「……いろいろとお大事に、凛」

 

 素晴らしく爽やかな笑みを浮かべて回れ右するセイバー。必至に弁明する凛とは絶対に目を合わせようとしないあたり、見なかったことにするつもりのようだ。

 

「ちーがーうーのーーっ!」

 

 手遅れ。

 

 

 

 

 

 

「くっ、もう恐れるものは何もないわ! こうなったら最後の手段よ!」

 

 そう言って取り出したるは小さな手鏡。違う穴に入れそうになったのがだいぶ堪えたようだ、これで場所を確認しながら事を為すつもりなのだろう。

 

「頑張るのよ凛、これも熱を下げて学校に行くためなんだから」

 

 そう自分に言い聞かせ、座り込む。上体を寝かせ気味にして、両膝を開き、右手に持った手鏡を足の間から差し込んだ。

 

「は、恥かしいよぅ……」

 

 泣きそうになりながら、それでも何とかその場所を手鏡に映す。

 そして、映し出されたのは。

 

 呼吸のたびにひくひくと震える、しわしわの――

 

 

「いーやあぁぁーーーっ!」

 

 

 ごろごろごろごろ……

 

 

 遠坂凛、超転がりまくり。

 

 

 がちゃり

 

「ええいうるさいぞ凛! 養生せねば直るものも直ら…な……」

 

 部屋に入ってきたアーチャーが見たものは。

 

 頭を抱えて部屋を縦横無尽に転がりまわるマイマスター。

 無論、下半身はすっぽんぽん。

 

「たわし?」

「ちゃんとお手入れしとるわーーっ!」

 

 

 遠坂凛 金属バットで オオアバレ

 

 

「アーチャーの、バカーーーっ!」

 

 血の惨劇。

 

 

 

 

 

 

「今度こそもう何も怖いものはないわ! こうなったら一気にいくわよ!」

 

 にゅ

 

「にゃ!」

 

 にゅにゅ

 

「にゃにゃ!」

 

 まるで猫のような嬌声を挙げ、少しずつ少しずつ押し込んでいく。非常に愉快な光景であるが、本人は真剣である。

 

「ううー、入ってるよぅ……」

 

 添えた指に、ぴくんぴくんと薬の先端が跳ねる。

 恐らくは無意識にだろう、誰が見ているわけでもないのだが、先ほど間違えて入れそうになった方の部位は見られないようにしっかりと左手で押さえている。その様子はいじらしいと言えばいじらしいが、客観的に見てアホそのものである。

 

「うにゃーーっ!」

 

 思い切ったのか、沿えた右手の指を押し込んだ。

 本来モノが入ってはいけない部位から押し込まれた座薬は、そのままするするとお腹の中に吸い込まれていく。

 しばらくふるふるとその感触に身震いしていた凛だったが、やがて。

 

「ふ、ふふふ……」

 

 地の底から這い上がるような声で笑い始めた。

 

「ふふふふ! 勝った! 私は勝ったのよっ!」

 

 涙目で絶叫しながら右手でガッツポーズ。

 勝った勝ったのよ私は誰にも負けないわだって魔術師だものというかお腹ちょっと変な感じ、などと虚ろにブツブツと呟く凛の目に、先ほど死闘を終えたばかりの薬の箱が目に止まった。

 

 薬の箱、その『使用上の注意』にて書かれて曰く。

 

 

 

『本薬は服用薬です。食後に1錠、使用上の注意を守ってお飲みください』

 

 

 

「ふざけんなーーっ!」

 

 

 

 

 本日の遠坂凛も、健やかにドジッコだった。

 

 

 

 

<まだつづくのか……>