遠坂凛の金属バットな日々

−凛、照れ怒るの事−

2004/3/7 久慈光樹


 

 

 

「セイバー、そんなに朝飯が気に食わなかったのか……?」

「シロウはおかしなことを言う。朝食は大変美味しくいただきました」

「そうか、なによりだ」

「シロウ、早く立った方がいい。いかに竹刀とはいえ、無理な体勢で受ければ脳挫傷にでもなりかねない」

「立つ! 立つから待て! 踏み込んでくるなうわっ!」

 

 バシーン、と小気味よい音。

 その太刀筋はまさに閃光。手心どころか情けすらなく、セイバーの竹刀は士郎の脳天を直撃した。

 

「の、脳天直撃せがさたーん」(ばたり)

「そのような古いフレーズは今の若い人はわかりません。さあシロウ次です」

 

「士郎、白目むいてるんだけど」

「むっ」

 

 道場の隅から掛けられた凛の言葉に、踏み込みかけた足を止める。

 剣に関しては情け容赦の無い女、セイバー。今日も殺る気まんまんである。

 

「シロウは根性が無さ過ぎます」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、セイバーは凛からタオルを受け取ると汗を拭いた。

 

「まったく、このようなことでは先が思いやられる…… なんですか凛」

 

 未だ文句を零す彼女にくすくすと笑う凛。その横に腰を下ろしながら、セイバーは不信げにそう問い掛けた。

 

「いえ何でもないわ」

 

 そう言いつつも、凛はくすくす笑うのをやめない。

 

「む、なんですか凛、言いたいことがあったらはっきりと……」

「あはは、ごめんなさいセイバー。いえね、いいコンビだなと思って」

 

 その言葉に、セイバーはしばらく唖然とした表情をしたあと、瞬時に真っ赤になった。

 

「あらどうしたのセイバー、リンゴ病?」

「ち、違います!」

 

 取り乱す彼女に、凛はくすくすと笑う。相変わらずこの少女はウブで、からかうとこの上なく面白い。

 

「私はシロウのサーヴァントであり、シロウは私のマスターです、いいコンビなのは、その、当然です!」

「あらー、すごい自信ねセイバー。まぁセイバーは綺麗だから」

「だ、だから綺麗とかそういうことは関係なく――!」

 

 ニヤニヤと笑いながらオヤジのごとく追求する凛。セイバーは既に泣きそうだ。

 

「で、セイバー、シロウはどう? 少しは上達した?」

「くっ…… ふん、まだまだぜんぜんです。本当にこれでは先が思いやられる」

 

 ぷいと顔を背けてそう言い放つセイバー。

 

「あらそう」

 

 くすくすと笑う。

 

 アーチャーの太刀筋を忠実に再現する士郎。本気とは言わないまでも、汗を流すほどには真剣に相手せざるをえないセイバー。

 まったく素直じゃないんだから、などと自分のことをまったく棚に上げて、凛はため息をついた。

 

「ふふふ」

「むっ、なによセイバー」

 

 凛が顔を上げると、セイバーがなぜだかとても優しい顔でこちらを見ていた。

 

「大丈夫ですよ、凛」

 

 その表情はまるで母親のそれで。凛は知らず、顔を逸らしてしまう。

 

「な、なにがよ」

「シロウは凛のことが大好きですから」

「なっ……!」

 

 目を見開き、瞬時にして耳まで真っ赤になる凛。そのまま固まってしまう。

 

「私とふたりだけでの訓練が気になるのは分かりますが」

 

 そう言って、でも心配することはありませんよ、とばかりに笑うセイバー。

 その顔を直視できず、そんなんじゃない! と喚き散らす。

 

「だ、だいたい! 私があんたたちの訓練を監視してるのは、敵同士だからなんだから! て、偵察よ偵察!」

「おや、そうだったのですか?」

「そ、そうよ!」

 

 意地をはる娘を見るような顔をして、そしてセイバーはくすりと笑って言う。

 

「では私がシロウを貰いましょう」

「だ、ダメー! って、だ、だめじゃないけど、というか私には関係ないんだけど、で、でも! や、やっぱりそのなんというか、わ、私もその……」

 

 しどろもどろの凛に、セイバーは耐え切れなくなったのか、声をあげて笑い出した。

 

「ちょ、ちょっとセイバー! からかったわね!」

「さてどうでしょうか」

「きー!」

 

 

 道場には、白目をむいて悶絶する士郎と、その横でじゃれ合う二人の少女。

 

 

 そして、扉の影に背を向けて立つ赤い衣の男。

 

 

「ふん、相変わらずだな、キミは」

 

 その視線は自らのマスターにではなく、心の底からの笑顔を見せる、そう見える、孤独な剣の騎士に。

 

 

「“オレ”はね、セイバー……いや、アルトリア」

 

 独白は、誰の耳に届くこともなく。

 

「キミにも幸せになって欲しかったんだ――」

 

 

 

 その言葉が消える頃、扉の影には既に誰の姿もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで寝てんのよあんたはっ!」

「げぼあっ!」

「凛、そこは急所です」

 

 八つ当たり気味というか八つ当たり以外の何物でもない勢いで、士郎のリバーを蹴り上げる凛。そして悶絶する士郎。冷静に突っ込んでいる場合じゃないぞセイバー。

 

「ぐぅ…… し、白……」

「なっ! し、死んでしまえーーっ!」

 

 血の海に沈められる士郎と、スカートを抑えたまま真っ赤になって右手で金属バットを振り下ろす凛を見ながら。

 

 

 

 

 セイバーは、朗らかに微笑んで――

 

 幸せそうに、確かにその場に身を置いていた。

 

 

 

 

<つづくかも?>