遠坂凛の金属バットな日々
−凛、寝ボケるの事−
2004/2/27 久慈光樹
「あ〜なたのあ〜いした〜かあ〜さんの〜」
朝っぱらからいい感じに鼻歌など歌いながら朝ご飯を作っているのは、衛宮家の若き当主であり家主であり主夫であるところの衛宮士郎である。
「こ〜んやのき〜も〜のは浅黄色〜」
精霊流しかよ。
「おっと、これ以上歌ってしまうとJASRACの怖いおじさんたちに連れて行かれてしまうな」
そう言って魚を焼き始める頃、衛宮家で士郎の次に早起きのセイバーが台所に顔を出す。
「おはようございますシロウ、今朝は焼き魚ですか」
「おはようセイバー、悪いけど食卓を拭いてくれ。ついでに涎もな」
「了解です」
「飯はまだか」
「ええいうるさい! 茶碗を箸でチンチン叩くんじゃない!」
料理が進めばセイバーは自然と起きてくる。アーチャーは毎朝いつのまにか食卓についている。
「まったく、いつもいつもあいつは……」
そう、問題はヤツだ。
遠坂凛。士郎の魔術師の師匠にして、憧れの対象だった(過去形)女性。
いざ同居してみれば、憧れの少女はズボラで寝ぼすけで金属バットだった。
「仕方ない、起こしてくるか」
でも、まぁ……
どんなにガサツでズボラで金属バットだったとしても、遠坂凛は遠坂凛であり、衛宮士郎にとって憧れだったあの頃と、何も変わらないというか、惚れた弱みとでも言おうか――
まぁ、金属バットだが。
ぐに
「ぐに?」
足の裏に、柔らかすぎる感触。
あえて例えるならそう、よく熟れた桃のような、それでいてゴムマリのような弾力が……
目線を下に向けると、床に横たわった凛の尻を踏んづけていた。
「うおぁ! おまえなにこんなところに寝てるんだ!」
凛はばったりと前のめりに、まるで力尽きた北極クマのようにうつ伏せに倒れている。
「むぅ、うっさいわねぇ……」
起きた模様。
「朝弱いにも程があるだろ!」
「うー、うっさいわね、ブッコロスわよ……」
ヤバイ薬キメているかのごとく虚ろな目を向け、足を引きずるように冷蔵庫まで歩いていく。そのまま冷蔵庫をがーっと開けて、パックのままがーっと牛乳を飲み干す凛。むろん手は腰である。
「ぷはーっ! この一杯のために生きてるのよね!」
『オヤジだぞ遠坂……』
『オヤジだぞ凛……』
『ご飯はまだですか』
「また夜更かししたのだろう凛」
「まぁね」
「大丈夫か遠坂、朝食パンかなんかにするか?」
「ううん、ありがと士郎、ちゃんとご飯をいただくわ」
士郎は思うのだ。
どうしてこんなに朝が弱いのに、朝からあんなに食べられるのだろう、と。
アーチャーはともかく、セイバーと凛が同居するようになって衛宮家のエンゲル係数はウナギ昇りどころか成層圏にまで届こうかという勢いである。食いすぎだこいつら。
「――そうか解ったぞ」
士郎は先ほどの足裏の感触を思い出す。
『栄養が 胸に行かずに 尻に行く』
「季語が無いな」
「コロス」
そしてまた今朝も、衛宮家に鬼が出るのだった。