あんりみてっどちょこれーとわーくす
−中編−
2004/2/14 久慈光樹
「チョコがもうない……」
2日目。ここに来て凛は大ピンチである。
念のために、と少し多めに買っておいたチョコレートブロックは、あっさりと底をついた。
「あれだけ焦がせばな……」
「う、うるさいわね!」
呟くアーチャーにがーっと吠える。金属バットのエジキになるのが嫌なのだろう、アーチャーは霊体のまま姿を見せない。彼も存外に腰抜けである。
まったくしょうがないわね、とぶつぶつ言いつつ、凛は居間の引出しからファイリングされた広告の束を取り出した。
「何をしているのだ? 凛」
「決まってるじゃないの、チョコレートが安い店をチェックしてるのよ。あっ、ここ他より2円も安いじゃない」
「……いや、君が満足しているのならそれでいいが……」
わっ、この店5円も安いわ、とはしゃぐ遠坂家の若き当主に、アーチャーはそっと涙した。
魔術とは金がかかるものだ。決して遠坂凛が金にうるさいだけだというわけでは――無いと思いたい。
「むむむ、これ隣街じゃない。仕方ない、ちょっと行ってくるわ」
「うむ、行ってこい。とりあえずいつぞやのように財布を忘れぬようにな」
「う、うっさいわね!」
怒鳴り返しつつも、壁に掛けた制服のポケットに入れっぱなしだった財布をそそくさと取り出す。案の定、忘れていたようだ。
「サザエさんか君は……」
「うっさい!」
彼のマスターが隣町まで買い物に出かけてから数刻。遠坂家に来客があった。
「……何をしに来たキサマ」
「む、何だっていいだろう、出会い頭に失礼なヤツだなお前」
おさまりの悪い赤毛、衛宮士郎である。
言うまでも無く、アーチャーとは犬猿の仲だ。
「凛なら留守だ」
「なんだそうなのか、せっかく差し入れを持ってきたのに」
なんかここのところ元気が無さそうだったから、と言いつつ差し出したのは、鷲のマークの滋養強壮ドリンクである。
飲みすぎると鼻血出るから気をつけろ、と真顔で言う鈍すぎる男に、アーチャーは己のマスターに真剣に同情した。
「このアホウドリが……」
「む、誰がアホウドリだこの白髪」
「何だとこの赤毛猿」
「黙れ剣山頭」
「キサマが言うか、脇役顔」
「……」
「……」
コロス。と最後にお互い目で告げて、投影開始(トレースオン)。大人げないあたりは非常に似たもの同士である。
「我が剣製についてこられるか!」
「なにくそ!」
互いに脳裏に描くは、自らが幻想できる最大にして最強の剣。なんというか、互いにコロス気満々である。
「もらった!」
やはり投影魔術においてはアーチャーに軍配か、先手とばかりに投影を完了させる。
「我が最強の剣製を食らうがいい――ってこれ金属バットやないけーっ!」
なんで関西弁やねん。
「アーチャー…… お前……」
「こ、これは何かの間違いだ!」
遠坂の金属バットは凶悪だからな……とばかりに同情の目を向けられ、取り乱す赤衣の騎士。よほど身体に刻み込まれているのだろう。
「よしもらった! これで――って俺も金属バットかよっ!」
そしてその頃、遠坂凛はというと――
「なんで定休日なのよっ!」
全開でサザエさんだったり。