みちやづきさん

 

12月19日 日記より転載 74文字改行で40行



「もうもうもう! 姉さん! またぼくの部屋に勝手に入ったでしょう!」
「うー、何のことだか分からないわ。お姉ちゃんには」
「じゃあ、どうして部屋が片付いてるんだよ! 特にベッドの下とかを念入りに!」
「妖精さんよ、きっと。翔一の部屋には、妖精さんが住んでいるのよ」
「あくまでシラを切るの?」
「うー、お姉ちゃんじゃないもん。妖精さんだもん」
「ほら、このノート! この字は姉さんの筆跡じゃないの?」
「えー、だって、ここの問三の答え間違ってるんだよ?」
「やっぱり、姉さんじゃないか」
「あ、ずるいずるい。翔一ったら策士よ。そうやって女の子も騙すんだわ」
「だー! どうしてそうやっていつも話を飛躍させるんだよ!」
「ほんと、イケナイ子ね。女の子を泣かすような子じゃなかったのに」
「聞いてるの、姉さん」
「ハーイ。聞いてるわよ、もう翔一ったら隠すの上手いんだから」
「……何のことを言ってるのかな、姉さん?」
「だって、どこを探してもえっちな本見つからなかったんだよ、お姉ちゃん心配だよ」
「ちょっと待て! ぼくはまだ小学年じゃないか。そんな本見ないよ」
「うー、いつもお姉ちゃんと一緒にお風呂に入ってるから?」
「入ってない!」
「じゃあ、覗いてたの?」
「覗いてもない!」
「うーん、じゃあ、お姉ちゃんに魅力ない?」
「ば、ばかー!」(真っ赤)
「うー、お姉ちゃんってけっこう、脱いだらすごいんだよ?」
「聞いてないったら、そんなこと!」(もう真っ赤か)
「あー、そんなことって言った! お姉ちゃん大ショック!」(シクシク)
「言っておくけど、泣いた振りしたって駄目だからね」
「アレアレ? どうして分かったの?」
「分かるよ、姉さんのしそうなことくらい」
「じゃあ、お姉ちゃんのこと好き?」
「はいはい、好きです。大好きですよ、これでいい?」(やれやれ)
「うん、お姉ちゃんも、翔一のことだいだいだいだーい大好きだよー!」
「わー、いきなり抱きつかないでよ!」
「翔一ってかわいいねー」
「胸とか当たってるよ。やだ、やだ、ぐにゃぐにゃしてる。背中に押し付けないで!」
「えーい、本当は嬉しいくせに。そこにナオレー!」
「ば、ばかー!」



久慈光樹より一言

 「そこにオナレー」と読んだのはヒミツだ!


 

12月18日 日記より転載 74文字改行で131行


「ああ、つまりはすべて終わったことになるのだよ」
「わたしは、始まったと解釈したけれど?」
「思考の差異に過ぎん。われはこの地に来て以来、多くのものに触れ過ぎたようだ」
「見たことをすべて真実だと思うほど、老いたわけでもないでしょう?」
「若さだな……いや、お主に言われるとは、やれやれ長生きはするものではないか」
「失礼ね、わたしも人間よ」
「個としてのお主はそうかも知れんが、種として見れば長すぎる。われよりも、な」
「わたしは、わたしであるとは理解してくれない?」
「ふむ、確かに失礼だった。すまんな、見方が甘くなっている。もうろくしたものだ」
「そうかしら? 人間に触れたおかげじゃない?」
「……なるほど、お主もわれと同じ意見になってしまうのか?」
「まあね。わたしは、下界に降りるわよ。ああ、この下界って言い方もアレよね……」
「天より下のことを推し量るなど、享楽も良いところだな。いずれ滅ぼすが」
「別に良いんだけど、過激よね。もう少し穏やかになりなさいよ。その姿のときくらいは」
「分かっておる。人化の法は、形を真似るだけではない」
「女の子らしくない口調よ、それって」
「そうか? 他のものにも見た目麗しく♂fるらしいので、気を付けてはいるのだが」
「……根本的な問題ね。まあ、わたしは嫌いじゃないけど」
「しかし、お主は女らしいのう。どこでどう違ったものか、われには分からぬ」
「はあ、女官が五月蝿いのよ。わたしの次の世代には、是非とも自由に生きてほしいわ」
「子供のことか? しかしお主は――」
「そういうこと。ああ、言っておくけどわたし子供には厳しいわよ、多分だけど」
「われもお主と同意見だ。ただ、そういうものは孫に弱い。そいうものだ」
「実体験? まあ、否定は出来ないけど。貴女みたいな喋り方でも許容するわ」
「さすがに笑えんぞ」
「あはは、気にしないで。本当、気に入ってるのよ」
「まあ、よいわ。さて、陽も暮れて来たようだし、お主はどうする?」
「久しぶりに、夢中になってたわね。ありがとう、楽しかったわ」
「ほう、やはり帰るか」
「わたしの役目は今のところそれでしかないわね、それに……」
「…………?」
「女官に、また口うるさく言われたくないしね」
「ふっ、遠まわしだな。われは、恥じることではないと思うぞ」
「な、どういう言い草よ?」
「ほれ、早く帰らんと陽が落ちてしまうぞ」
「……ええ、そうね」
「そう不機嫌になるな。からかって悪かった」
「ふう、あの子がせっかく用意してくれた巫女服だけど、これで最後にしたいわ」
「背中から見える羽が斯様に気になるか?」
「こっちの方が伸び伸びと出来るんだけど、人目に晒すのは好きではないのよ」
「ほう、そういうものか」
「貴女も、よ。気をつけなさい。今度こそ朝廷に討伐されるわよ」
「お主とは、もう二度と戦いたくはない。気をつけよう」
「ありがとう、嬉しいわ」
「それに戦うことがあるとしたら、それはお主の一族ということになろう。それは好かん」
「ん、そうね。じゃあ、わたし帰るね」
「うむ、さらばだ。星の記憶≠受け継ぐものよ」
「九尾も元気でいてね」
「ああ、それは無理であろう」
「……は?」
「どうやら、人化の法は未完成だったようだ」
「……どういうこと?」
「早い話、思考が衰えていく。われは、われではいられぬであろう」
「! どうして、そういうことをもっと早く言わないのよ!」
「本当は、言うつもりは無かった。それが答えだ」
「九尾……」
「そのような顔をするでない。われは後悔などしておらぬ」
「で、でも――」
「お主は言ってくれたであろう? これは始まりだと。われは救われた」
「だって、そんなことだなんて……思ってなかった」
「心苦しいことがあるとしたら、われに人の心を与えてくれたアヤツのことだ」
「…………」
「ふっ、この大妖と言われたわれも腑抜けたものだ」
「もう、どうにもならないの?」
「これは始まりなのだろう。われは無理であっても、われらが一族……いつかは手に届く」
「……奇跡よね、それって」
「そうだな。しかし、いつになるかは分からんが、気長にやって行くとしよう」
「馬鹿よね、貴女……」
「さあ、月も満ちたことだ。別れのときだ」
「常しえの別れか……」
「そう言うな。また、この北の地を……もののけの丘を訪れるがいい。歓迎するぞ」
「……遠慮しとくわ。寒いのより、温かい方がいい」
「ふむ、残念だ。雪も良いと思うが」
「そうかも知れない……でも、今のわたしには悲しすぎる」
「……すまぬ」
「謝らないで、貴女の信じた道でしょう?」
「お主らは、星の記憶を……」
「貴女たちは、人の温もりを……」
「不思議なものだ。どうしても、そこに行き着いてしまう」
「わたしたち一族に課せられた務め……星は、幸せな記憶≠求めている」
「もし、われらが一族で……人化を体現できるものがいたとしたら、そやつの思い出も届けてくれるか?」
「ええ、大歓迎よ。わたしが責任を持って、この星の大地に還してあげる」
「そのときこそ、われらが一族の役目も終わろうというもの……頑張ってほしいものだ」
「可能性は、いつでも残されているわ。星の記憶も、否定はしない」
「妖狐が人になろうことも受け入れようとは、なんと度量の広いことよ」
「雪はね……」
「…………?」
「雪は、たくさんの奇跡の結晶なのよ。思い出が一杯詰まっているの」
「……そうか、だとしたら素晴らしいな」
「あ、信じてないでしょう?」
「いや、そんなことはないぞ」
「すぐ顔に出るのよ。嘘のつけない人ね」
「ぐ、どうしてバレた?」
「あはは、やっぱり貴女のこと好きよ、わたし」
「な、われはそういう趣向は持ち合わせておらぬぞ!」
「残念。じゃあ、たむけよ。未来のあなたへの、ね」
「ほう、翼を羽ばたかせるでもなく、お主は空を翔けること出来るのか。見事なものだ」
「最後まで茶化すの止めてくれない? せっかく別れ際を見つけたのに」
「そうだな。長く引き止めた」
「そうそう。じゃあ、これは翼人ではなく、わたし個人からのプレゼントよ」
「……うん? これは――」
「雪が奇跡の欠片になるのなら、そこに埋もれた天使の羽ですら奇跡を呼び起こす欠片になる≠チていうのはどう?」
「まこと、お主には敵わぬのう。確かに頂戴した」
「あ、でも奇跡を起こすのは、わたしではなく……人の心よ」
「理解しておる。しかし、お主ほどの純粋な魂になると稀有であろう? いや現れることすら無いだろうな」
「だから待つのよ。百年でも、千年でも、二千年でも……」
「…………」
「ひとりではなく、二人、三人……同じ願いをこの空に祈ってくれたなら」
「奇跡が起きる、そんな夢物語も悪くはないと?」
「そういうこと。さようなら、九尾。そして、もののけの丘も……」
「ああ、さらばだ。われが、たったひとり気を許した友よ」

『いつか、起きる。奇跡のために。今は、さようなら』





久慈光樹より一言

 自己申告と行数違うが請勘弁。74文字禁則処理なし行数ちうことで。