魔法少女さゆりん
Words by Kensuke

マジカルV/『
さゆりん、疲れの後には

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『かつて、人間界と魔界の丁度中心で忌々しく恐怖に満ちた争いが勃発した。
互いに傷つけあい、憎み合い、殺戮を繰り返した人間と悪魔たち。
誰が望んだ争いでもなかったこの戦いにより、数千の生命が失われてしまう。
やがて幾年月が過ぎ和解を遂げた両者であったが、
人間側が悪魔側に捧げた秘宝の中にはかつて悪魔を戦争で虐殺した者も多数あり
両者はその秘宝をそれぞれのしきたりに則り浄化することにした。
だが・・・悪魔側の一部の道化師が僅かの秘宝にのみ細工をし、それが発覚。
主犯格と目された魔女一族は粛清の波に飲まれることになる。
だが・・・
生き残った魔女の子はその秘宝を人間界へと繋がる唯一の泉に投げ入れた。
そして・・・現代。その秘宝の一部は数百年の時の流れと共に
一人の人間の元へと辿り着いたのだった。

これはその秘宝の力を導き出し人々の平和、己の正義の為に使う
一人の勇敢な少女の物語である
その秘宝にはどんな力が込められていたのだろう?


魔法少女さゆりんA』



もうすぐ・・・贖罪の夜がやってくる。

外は生憎の雨だ。傘の用意をし忘れていた佐祐理。
天気予報をちゃんと毎日チェックしてなきゃだめだな〜
そう自分で納得しながら一歩家の外へと足を踏み出す。
しかし、今日はなんだか気分が乗らない。
憂鬱な空気が辺りを包みこんでいる。
天気予報はさすがにそこまで説明してはいない。
これは力あるものだけが見分けることができるわけだから。
余り気にしすぎると心配しすぎてかえってドジしそうだから
他のことを考えながら学校までの道を歩くことにした。
雨だと水溜りが出来ているところもあり、考え事をしながら歩くと
たまに ボチャン と足を入れて靴の中にまで染み込んでくる。
だから考えた。何も考えないで慎重に、慎重に・・・。
佐祐理は第一種警戒態勢をとった。

ここは1年生のとある教室。
昨夜の天気予報をチェックして雨が降る前から早めに登校していた者たち。
その中の一人ウェーブ頭の少女が怪訝な表情でペンケースを見つめていた。

「・・・不吉ね・・・」

ペンケースの中にしまっていた万年筆のインクが何故か漏れていた。
ケースの中は黒い洪水が起こっている。
この小さな災害に戸惑いもせずに黙って見つめている少女。

「お〜!美坂早いな」

その少女の背後から元気の良い挨拶が聞こえた。
その少年は皆に挨拶をしながら自分の席につく。
クラスによくいるカラ元気な奴だ。
美坂と呼ばれた少女の左隣の席が彼のスペースだ。
少女は黙って目だけで挨拶を返す。
器用な行動だが少年はあまり興味もないようで

「なんだ?俺のイスねじ外れてるぞ」

と自分のイスの状態を気にしていた。

「そういやあ今日は朝なぜか目が冴えて起きたな。
もしかすると今日は厄日か?」

「へー北川君もなんだ?」

「ん?なにが?」

「私も今日は調子悪くてさ。不吉で怖いのよ」

「んまーあれだね。適当に消化すればいいと思うよ」

とくに解決策もなく適当に過ごすことで意見一致のようだ。


昼食

「舞〜今日はお弁当だよねぇ?」

「・・・」

黙って首を左右に2度振る舞。

それを聞いてガックリな表情の佐祐理。

「そ、そう。最近舞が一緒に食べてくれないから佐祐理ちょっと寂しいかな」

「・・・さゆり」

舞はさゆりに申し訳なさそうな眼差しを送る。

「いいの。気にしないでもいいんだよー」

「・・・ごめん」

最近舞の様子がおかしい。
佐祐理のことを避けているような素振りを繰り返す。
とは言っても、佐祐理にこれといった節はない。
だけど何度も自分自身を問い詰めてしまう。
舞が嫌がるようなことをしなかったか?
舞に迷惑をかけてなかったか?
舞を怒らせなかったか?

全ての質問は全てノーという答えを出す。

親友なんだから。親友だからこそそういう時ってあるかな?

こういう時に友達に関する参考書があればな、と思う佐祐理。

そんなものがあっても、舞には通用しないことはわかる。

佐祐理は今日も一人で弁当を食べることにした。


放課後

放課後の校舎には誰もいないような錯覚がする。
運動部は晴れの日は校舎にいないし、文科系クラブも各教室で活動する。
なによりこの学校に文科系クラブは少ない。
吹奏楽クラブはその中でも裕福な活動をしてこれた。
それは校長が趣味の一環として吹奏楽の顧問をしているからだ。
とはいっても非常勤だが。
佐祐理は吹奏楽クラブのクラブ長として毎日かかさず部室に顔を出しては
その愛くるしい笑顔を振りまいている。
用事があるときも必ず部室には30分はいて部員と会話する。
以前舞を誘ったが3日考えさせてと答えが返ってきたが
1日も経たずに断りの電話がかかってきた。
最初から結果は見えていたが即答返事でなく、少し時間を置いての断りに
佐祐理は舞が自分に気を使ってくれたことを喜んだ。
実際は舞は気を使ったわけでなく、本当に考えただけだが。
悩んだ挙句やはり自分には不似合いだと判断したのだろう。

雨は午前中に止んだのだが、放課後になってまた降り始めた。
グラウンドで練習している野球部はそのまま続けている。
小雨程度ではなんともない。
自分たちとは体の出来が違う野球部員の練習風景を意識無く眺める。
やがて佐祐理は楽器を持って練習をはじめる。
まだ部室には4人しか来ていない。

校門を越えればそこはもう学校の手が届かない世界。
フリーな世界だ。
学則で縛られた生活をしていると体が訛ってしまう。
1週間に一度はどこかで息抜きをしたいものだ。
北川は周りを過ぎていく学生に目もくれずひたすら家路を目指す。

そうして何回目かの信号で停まった彼はふと自分の背中に視線を感じる。
後ろを振り返ることはせず黙って気配を辿る。
恐らくそう間合いは離れていないだろう。
彼は直感にも似た判断をし、青信号になった瞬間後ろを振り返りながら走り出す。

と・・・!!

「うわー」

振り返った瞬間そこに男の顔があった。
驚いて足をくじいてしまう。その男はスーツ姿で黒い傘を差している。

「だ、誰だよ!」

「どうもはじめまして。安田といいます」

「安田?知らないんすけど、誰ですか?俺に用ですか?」

「もちろん。キミが北川くんだと知ってて後をつけた」

「後をつけたというより完璧に張り付いてましたね?」

「さすがに冷静だな。力あるものの余裕というのかな?」

その時、北川の表情が硬くなった。
明らかにさっきまでの余裕は無く、低い声で呟いた。

「おまえは誰だ?俺をどうする気だ?」

「ふん。挨拶にきたんじゃよ。戦いの同士に」

「同士?」

「お前さんがただの学生ならワシは相手せんよ。
単刀直入に申す。1週間前からこの街の雰囲気が変わったと思ったことは?」

「・・・ああ、俺もそう思った。けど、それは気のせいだ」

「うむ。次に、今日はその雰囲気の違いがもっとも強いことは薄々感じておるだろ?」

「まあね。で、あんたの言いたいこともなんとなくわかる」

「なら話は早い。手を貸してもらいたい」

「手を貸す義理はないんだけどさ。美坂で十分じゃないの?」

「彼女には既に使いがいっとるじゃろ」

「俺も協力できるとは断言しないよ。ただ、興味はあるけどね。
不吉な予感が的中した時、何が起こるかには」

「好奇心旺盛じゃな。若さだけが取り得の頃を思い出すわい」

「・・・」

「一方的な会話になったが、行動する時は用心せいよ。では!」

そういい残すと男は来た道を逆そうして消えた。
今のやり取りに要した時間はたった2分。
こんな短い時間で情報を整理できるとは思えなかった。
北川は無言で安田とは逆の道を歩き始める。


「でさ、その国崎さんが私に何の用ですか?」

もう一人の力を持つもの、美坂香里は帰宅途中に長身の銀髪に呼び止められた。
最初見た時は少しだけ男に惹かれたが
彼が一方的にしゃべり始めてからははっきりいって迷惑でしかなかった。

「あーもうっ!この街に迷惑行為防止条例があったら即アンタのこと訴えてるわ!」

「・・・ったく、気が強い女だな」

往人はこんなことをしなければならない自分を恨んだ。
もっとも、強制的な安田の誘いは断れない。
断れば明日の生活の保障さえなくなるからだ。

「それで?」

「え、ああ、そうだ。是非頼みたいことがある」

フーンという顔で往人の面構えをまじまじと観察する香里。
その行動に言葉を失う往人。

「まあ、話の内容で考えてもいいわ」

「本当か?」

「ええ。でも、一つお願い聞いてくれない?」

「なんだ?」

「今度の日曜に私の恋人のフリをしてくれない?」

「断る」

呆気なく即答された香里は次の言葉を見つけるまで時間がかかった。

「チョット!そんな態度で見ず知らずの人のお願いなんて聞けないわよ」

「なら聞くな」

「な、なんですって〜!?」

「だから聞くな」

「・・・本気で言ってるわけ?」

「(安田がなんだ、あいつは老いぼれだろ。寝床を襲えば)」

往人は既に別の思考で頭をフル回転させ始めていた。
唖然とする香里。と、その時、

プルルルル

香里の携帯が鳴る。
直ぐに鞄の中から目当ての物を取り出して
営業用の喉に切り替える。

「はーいもしもし。あ、北川くん?どうしたの」

往人としゃべっていた香里とは別人の声で始まったが
相手が北川と分かると通常モードに切り替わる。

「え?ホント?その人がそんなこと言ったの?」

香里はなにやら慌てた様子で携帯を握り締めている。

「うん、わかったわ。少し聞いてみる。うん、じゃあね」

携帯を鞄に仕舞い、香里は再び往人を見据えた。

「あなた、私の力について知ってるの?」

「力?カレーマンでも落としてくれるのか?」

腹減ったと往人の顔には書いてある。

「そうじゃなくて、何も知らされてないってこと?」

「ああ、お前がダレであろうと俺にはどうでもいいからな」

呆れ返って言葉が出てこなくなってしまった香里。
その場に立ち尽くしていると往人が歩き始めた。

「どこいくのよー?」

「決まってる。夕飯に遅れないように帰るんだよ」

「・・・」

つくづく食い意地の張った男だな、と心の中で呟いて香里も歩き始めた。

「ちょっとー、肉まんくらいならおごるわよ」

何故か香里の声が追いかけてきて後ろを振り返る往人。
目的はその台詞の内容だが。

「おごられることしたか?」

「もうすこしあなたと話したいから」

「そうか。俺に惚れるには10年早いぞ」

往人の減らず口を無視して香里は彼の右隣で歩いていく。


再び吹奏楽クラブ、部室。

今日の練習に何故か身が入らない佐祐理。
やはり舞のことを気にしているからだ。
舞のことを気にしながらの練習なんて集中力が続くはずが無い。
それでも後輩の目もあるから力は抜けない。
佐祐理はいつも全力疾走だ。
得意なことも不得意なことも。
何もかも全力でがんばる。
だからたまにブレーキが利かず、障害物に衝突することもある。
そういう時、舞は影で支えてくれた。
だから、舞がブレーキの利かなくなったときは
必ず佐祐理自身の手で舞を助けると誓っている。
もうすぐ練習も終わるから、舞に今の自分の思いを投げかけてみたい。

そして、練習は予定通り5時30分に終了した。
部室の後片付けをしていた佐祐理。
ふと廊下が目に入る。そこには見知らぬ少女が立っていた。
悲しそうな目だ。透き通るくらいに白い肌。
優しさを感じる唇の形。
そう、笑顔で佐祐理だけを見つめているように。
だが、その現実か幻想みたいな少女は佐祐理が瞬きを数度繰り返すと
いなくなってしまった。
練習疲れかな?舞のことで悩んでいたし。
それにしても、すごく可愛い女の子だった。年は多分佐祐理より下だ。
佐祐理は片付ける手を休めて、廊下へと向かう。

「倉田先輩、後は私たちがやりますから帰ってもらって構いませんよ」

1年の女子部員がそう言ってくれたので素直に甘えさせてもらう。
廊下に出て窓の外を見ると微かに雨が降っていたが
傘が必要なくらいではなかった。
傘を教室に忘れてしまったことを練習中に気づいた佐祐理は
そのままあの女の子を探すことにした。
それはただ嘘かホントか、それを確かめるため。
それはただの遊びだ。
舞との待ち合わせ時間までの暇つぶし。
佐祐理は舞といつも一緒に帰宅する。
それは単に友達だからという佐祐理に対して、執事の安田は
舞に佐祐理の護衛を言い付けていた。
だから舞が遅くまで用事で残っていても、佐祐理は待っている。
逆に舞も佐祐理が待ち合わせ場所に来るのを待っている。
二人はお互いを待っている。

「そういえば・・・」

倉田家執事の安田さんについて以外に知らないことが多い。
過去の経歴については一切知らされていない。
もちろん雇い主の佐祐理の両親は知っているだろうが。
佐祐理と安田は雇うもの、雇われるものでしかない。
その関係は中学生の頃から変わっていない。
安田は佐祐理が中学に入学したと同時期に倉田家の門をくぐった。
だから佐祐理は安田に親近感を覚えた。
だが、安田はナゾが多い。
ある年のバレンタインデーに佐祐理が安田にチョコをあげたいと
母に相談したことがある。
だが、その時の母の答えは冷たいものだった。

「彼には余りのめり込まない様にしなさい」

年は60前後の安田にのめりこむなというのもアレだが、
佐祐理はその言葉に引っかかりを覚えた。


やがて時が経ち、辺りも薄暗くなり始めた。
時間通りに舞が現れなかったので少し不安になった佐祐理だが
15分送遅れで舞が来た時は逆にその分嬉しくなった。

「遅かったね。なにかあったの?」

「・・・別に」

いつもよりそっけない舞の態度。
少しだけ声のトーンをあげて佐祐理は話した。

校門付近に差し掛かった時、あの少女の姿があった。
少女は黙ってこちらを見ている。
佐祐理と舞のことを眺めているように。

突然、舞が囁くような小さな声で言った。

「さゆりは、先に帰って・・・」

佐祐理がそれに対する答えを返す前に舞は少女に向かって走り出す。
同時にその少女も舞を誘い込むかのように歩き出す。
走る舞と歩く少女の距離はまったくといっていいほど縮まない。
縮むどころか離れていっているようにさえ見える。
佐祐理は追いかけようとしたが足がついていかず
校門を出たところで彼女たちを見失った。
どうすればいいの?最初に浮かんだ疑問に答える者はいなかった・・・。
さゆりの意識もだんだん薄れていきそうなくらい混乱していた。

香里に肉まんを5個奢ってもらった俺は、
大体満腹だなと腹の調子を診ていた。
だが佐祐理の家までの帰り道の間にはいろいろな食い物屋が軒を連ねている。
あれはどう考えても俺のことを挑発、いや誘惑しているとしか思えない。
まったく、俺からどれだけの銭を搾り取ればいいんだ?
香里が居ればあいつに適当にぶちまければ良かったが、今は俺一人だ。
道端歩いてる見ず知らずのおっさんに絡んでもしょうがない。
こうなったら安田に今日こそは痛い目合わそうと決心してしまう。
その決心などあの旨そうな匂いを嗅ぐとどうでも良くなるんだがな。

「・・・こりゃまた旨そうな」

プルルルルッルルーーーー

満腹中枢を刺激されていた俺の懐で怒鳴り散らす電話。
そういえば、と少し前の記憶を引っ張りだす。
安田が俺に渡したんだったな。
携帯に便利な電話だ、とか言いながら。
盗聴されてんじゃないか?
もしくは電話に出た瞬間爆発したり。
あいつの考えることは子供程度だが、規模が遥かに違うからな。
子供の悪戯ではすまないのが厄介だ。あー厄介。

「俺だ」

「・・・えっと、往人さん?」

「ああ、俺だ」

「舞が・・・さらわれたみたいなの」

「舞が?あんなの誰がさらうってんだ?」

「変な女の子なの。まるで宙に浮いているみたいに歩いていくの。
 舞はその子を追いかけていっちゃったみたい」

「ならいいだろう。あいつの趣味に一々文句つけなくても」

「違うの!」

「何が違う?俺はいつも一つの真実を言ったまでだ」

「舞の・・・舞の鞄と靴が・・・落ちてるの」

「・・・すぐ行く・・・」

涙声の佐祐理との通話を切って俺は駆け出した。
佐祐理を助けたいという衝動もあったが、その女に興味を抱いたからだ。
舞はどうであれ、その女に今の俺の本当の空腹感を満たして貰えるかもしれない。
なんで俺はこんなこと考える?

俺はただ走った。

雨がだんだんと強くなっていく・・・。
さゆりの現在の心の状態をも表現しているこの雨空。
雨が強くなるにつれて一層空も暗い色を帯びていく。
もし・・・もし、真っ暗になっても舞を見つけることができなかったら。
一晩中舞のことを考えてしまう。
早く明日になれ、早く明日になって。
そうなることが自分でも分かっていた。
そうなってしまえば舞との距離が二度と縮まらないようにさえ思えた。
佐祐理はそんなに強くはない。
周りが思うほど強くて勇敢ではない。
いつも笑顔でチャラチャラしてると思われているが、そうじゃない。
それは本当の佐祐理の姿を映してない。
佐祐理は、本当の佐祐理は・・・。


往人がその場所に着くと同じタイミングで安田の声が聞こえた。

「国崎くん!傘はもっとるかねー?」

「いや、朝から持ってきてない」

「ずぶ濡れでは屋敷には入らせないぞ」

「あんたに権限ないだろ?」

また始まる喧嘩。事実を書くなら喧嘩の前触れといえばいいのかもしれない。
ただ、往人もそんなことをダラダラとしている暇はないことくらい理解していた。
もちろん佐祐理想いの安田もだが。

佐祐理は少し歯をカタカタと鳴らして俯いていた。
それは遠くから見たら泣いているようにさえ見える。
往人は静かな口調で言った。

「とにかく、舞を見つければいいわけだ。佐祐理、心当たりは?」

「・・・そ、そうだね。でも舞はあの子を追いかけていっちゃったから」

「それなら追跡魔法を使ってみては如何ですか?」

安田が閃いたように手をポンッ!と叩いて言う。
往人はその仕草があまりに芝居めいて見えてしまう。
佐祐理は戸惑うこともなくさっそく安田の言うとおりに動いた。

「”ナニもカモが壊れ落ちてしまったこのセカイのナカで、
きっと突き止めることだけを願う。
  優しさもトキメキも目的を果たすために今ここで預ける。
追跡魔法、シャクライナ!!!”」

妙に長い詠唱を終えると一気に佐祐理の体から魔力が解き放たれる。
雨に濡れた空の上を、雨に濡れた空の下を。

「これで何がわかる?」

「追跡魔法を使うことによって、舞の居場所、状態、
半径5メートル以内の異物などが分かります」

「異物ってのはようするに舞が戦おうとしてる奴とかだろ?」

「ハイ。あ・・・舞の居場所が分かりそうです」

佐祐理は瞼を閉じて脳内に送られてくる舞に関する情報を洗い流しているようだ。

「舞は今橋の上にいます。あの橋は確か・・・ここから1キロも離れてません!」

「ほんじゃあいきまするか!お二人さん」

安田はやけに嬉しそうな雄たけびを上げて往人たちを急かす。

「アンタに言われなくても行くよ」

「オー怖いの怖いの、その顔が特にィ」

走りながら安田と往人は拳を打ち合っている。
佐祐理はただ器用な人だなーと関心して
自分も考えながら走っていることに感動を覚える。

1000メートルも離れてはいない。
ダッシュでその距離を斬り抜けていく安田と往人。
ただ少し往人が遅れている。
もちろん佐祐理は最後尾だが。

「っちぃ!あの爺のどこにあんなた体力があるんだよ!」

往人は苛立ち髪を逆立たせ怒り心頭。
走りながら怒る人は器用だなーとこれまた佐祐理。

安田が二人より先に橋の上へ走っていく。

そして、急ブレーキ!!

「どうした!?っておい、何固まってんだ?」

往人がそう聞いたのは、安田が橋の向こう側を見つめ硬直しているからだ。

「・・・不覚だった。あれほど警戒はしていたが、まさか舞を取られるとは・・・」

安田は沈痛な面持ちでそれだけ呟いた。
往人には話が飲み込めない。

「おいおっさん。分かるように説明しやがれ」

「・・・川澄舞は既にあの者の手に落ちたということじゃよ」

「あの者って、あんな子供にか?あの舞が?」

呆れ返る往人。後ろから佐祐理の走ってくる気配を感じた。

「まーい!大丈夫だったー?佐祐理は大丈夫じゃないよー」

と・・・・・!!

その少女が刹那、往人と安田の間を走りぬけ、
後方から走ってきていた佐祐理に攻撃を仕掛けた。

「佐祐理ーーーー!!!」

安田よりも早く動いたのは往人のほうだった。
少女の髪を掴もうとしてバランスを崩すが倒れず
そのままダッシュで少女を逃がさず追いつこうとしていた。

だが、その前に舞が現れた。
予想外の出来事に判断力を欠いた往人は舞の太刀を交わせずに後ろへ
飛び退いた。交わしきれなかった肩から数的の赤い液が垂れ落ちてくる。
舞はそれを見て一瞬目を見開いたように見えたが、すぐに次の攻撃の構えを取る。

「まさかここまでやるとはな・・・。舞を見くびった」

「それは違うな。舞はあの少女によって
己が持ち合わせていない力まで押し付けられておるだけじゃ」

安田がヨロヨロと往人に近づいてくる。
さっきまでの余裕は一切見えなかった。
それに気づき往人自身余裕がなくなる。

「どういうことだ?舞が操り人形だと?ならあの子供はなんだ?」

「恐らく、佐祐理お嬢様に近い能力の持ち主だろう。
だが、明らかにお嬢様と異なる部分を見つけた」

「なんだ?」

「力の持つ雰囲気、一種の匂いじゃな。お嬢様の魔力には暖かさがあったが
 あやつにはそれが一切欠落しておる。まるで生まれつきそうであるような感じじゃ」

安田が一々説明してくれるので少しずつ状況を把握していった往人。
と、少女は佐祐理を舞に託してこちらへと近づいてくる。

「おい!お前は誰だ?」

「・・・私は、死神さ。キミたちの世界じゃ・・・そう言ったほうが分かりやすい、だろう?」

少女は静かに往人の質問に返答した。

「何の目的がある?舞も佐祐理も手中に収めてお前にどんな望みがある?」

「望みなどないよ・・・。私はあくまで、義務としてやって来たわけだから・・・・」

「義務?」

「我々一族の頑固たる義務さ。私たちは由緒ある魔族の王家・・・だから」

その言葉が終わると同時に舞が攻め込んで来た。
さっきまで舞より前に居た少女はあっというまに舞の背後に陣地を敷いた。

繰り出された突きを交わし舞の鳩尾に蹴りを差し込みながら
左手で強く舞の頬を殴り倒す。
それは力任せの裏拳だ。
威力は左ということもあり半減し、舞は尚も太刀を振り下ろしてくる。
そこを安田が援護。
往人に気を取られた舞の後ろに回り舞の背中になにやら指圧を繰り返す。

「だめじゃな、完全に動くデク人形じゃ。
あの少女の一族とはどうやら魔族らしいな」

「魔族だと?佐祐理のステッキの製造元とかいう?」

「製造したのは人間じゃよ。
元ある神秘のステッキとかいうのに秘宝であった魔の杖を合成し
 拵えたのが佐祐理お嬢様が現在使っているステッキだからのう」
舞は安田から何かをされたらしくいきなり片ひざを着いた。
その表情には苦痛が伺えた。

「おい、大丈夫か?舞に何したんだ?」

「なーに、ちとツボを刺激しただけじゃよ」

「ほう、アンタ見かけ通りの変質者だな、まったく」

「今のは褒め言葉と捉えておくよ。
それより、今は現状を切り抜ける術を探せ」

そう、舞を抑えたところで何も変わらない。
往人たちの形勢が不利なことは。
佐祐理は少女の手に堕ちている。
彼女を解放しない限り勝利したということにはならない。
人質を取られた場合の行動。説得、突入、犠牲。
往人の頭には倉田家の居間で佐祐理の母親と見た
刑事ドラマが浮かんだ。銀行強盗事件において、
警察がどれだけ不甲斐なかったか。
往人がその忌々しいドラマを無理やり見せられていたせいもあり、
ついに席を立ちテレビに怒鳴った。
そして、居間を去ろうとした時、後ろでクスクスという笑い声が起こった。

「往人ちゃんって子供ねー、クスクス」

それから3日ほど、あの時我慢できなかったことを後悔する往人。
だが、もしこの場で佐祐理を傷つけてしまったり、
犠牲などしてしまえば3日では済まないだろう。
往人はただ自分の10メートル先にたっている少女を見つめる。
どうして少女が佐祐理を人質に取っているんだ?
どうして舞は少女を追いかけたりした?
どうして安田は少女を見た瞬間人が変わったようになったのか?
そして・・・どうして俺はこんなにも、こんなにも胸が痛むのか?

「キミは下がっていたまえ。女の子の悪戯処理をしたことがないのならな」

「どういう意味だ?俺は足手まといとでもいうのか?」

「阿呆。こういうのはわしの専門なんじゃよ。
それに・・・あの子はわしが叱ってやらんと」

そう言い残すと安田は少女に向かって走り出す。
その姿はまるで獲物を鷹が攻撃した瞬間のよう。
少女は顔色一つ変えずに立ち尽くしている。
今から攻撃される人間のする行動ではない。
そして・・・!

安田は少女の目前で立ち止まった。
距離はおよそ1メートル。
至近距離で二人は見詰め合う。
往人は安田の命令を聞くわけでもないが、その場に居たほうがいいように思えた。
安田の後姿しか見えない。
少女を安田が隠してしまっている。少し移動する往人。

と、往人の背後に何者かが走り寄ってくる気配がした。

「誰だ?」

「私よー、もう北川くんったら場所特定しきれてないじゃない」

その人物は意外にも美坂香里だった。
香里はさっきと変わらない格好で橋までやって来た。

「ふう、それよりも戦線はどう?有利?不利?」

「いや、俺にもよく分からない」

「・・・なんか敵って感じの雰囲気じゃないわよね」

「ああ。まるで祖父と孫みたいだな」

「妙よね。あの子の周りの魔力が和んでしまってる」

「もしかして、お前も力とか使えるってオチじゃないだろうな?」

「そういうことよ。北川くんが居場所特定してくれるっていったけど全然よ」

「ダレダヨそれ」

と、安田が戻ってきた。ゆっくりと徒歩で。
敵に背後を見せている状態から戦闘が終わったようだ。

「よく分からん。ちゃんと説明しろよ」

「まーまてもうこんな時間じゃ。まずはさゆりお嬢様をご自宅までお届けしなければ」

「お前は宅配屋か?」

一向はひとまず雨も激しくなってきたため、倉田家へと帰還することになった。
道中北川も合流して総勢6名となった。
北川は香里を探しに隣町まで行ったらしい。

「ちょっとまて」

「なんじゃ国崎くん。そこはただのラーメン屋じゃないかね」

「ただのじゃないだろ。腹減った・・・なんか食わせろ」

「むむ、しょうのないやつじゃな。手伝いのご褒美として許可するぞ」

「許可じゃないだろ?おごれよ」

「うぃうぃ。最初からそう言えば些細な勘違いもなかったんじゃよ」

一向は往人の要望に従いラーメン屋に入店することになった。
途中北川だけが用事があると言い残しグループの列から外れた。

「んにしも散々な目にあったな。大丈夫か佐祐理?」

「う、うん!大丈夫で、ですよ。えへ。舞が無事で良かったー」

「・・・」

「にしても、舞はどうしてあの子供を追いかけた?」

「・・・昔の私に似ていたから」

「ほう、で追いかけたということじゃな?」

「・・・そう」

「まあ別に取調べをするわけでもないから黙ってていいぞ」

「香里くんは・・・」「おじさん!私特盛りチャーシューね」

「と、特盛りチャーシューじゃと・・・」

「あーそうだ。おじさん!チャーハンも追加して」

「こ、これこれ。女子がそんなに胃を大きくするものじゃない。太るぞ」

「えっと倉田先輩。私って何も食べちゃいけないんでしょうか?」

「い、いえいえー。香里さん、モリモリ食べてくださいね」

「はーい」

「鬼」

香里が注文したチャーハンは香里が勝手に往人に譲渡した。

「いいのか?お前が頼んだもんだろ」

「いいの。安田さんに注文制限されてる往人さん、お腹一杯食べれないから」

「お主ら、デキとるのか?」


さっきまでの出来事が嘘のような晩餐会が始まる。

倉田家に戻った佐祐理はすぐに風呂に入った。舞と一緒に。
香里は誘いを拒否し、その後往人と屋敷探検に繰り出した。
安田は佐祐理がびしょぬれなのを佐祐理ママにこっぴどく叱られていた。

半ば拷問。

探検中の香里、往人はある部屋で止まる。
その部屋のドアノブには安田のプレートが掛かっていた。

「しかもなんでウサギなの?」

「俺に聞くな。鍵は開いているな。入るぞ」

「そこで普通私の意見聞かない?」

「これは刑事ドラマじゃないからな」

ガチャ・・・

室内は電気が消されていて真っ暗だった。しかし、そのヤミの向うに光が見えた。
その光を手にとって見る往人。香里が驚愕の表情を浮かべる。

「往人さんにも力があったんじゃ!
あの戦闘でそれが開花したとか?またはアイの力で?」

「ただの水晶だ。外の光に反射して光っていたようだ。安田の趣味ってなんだ?」

二人は考える暇もなく2階に上がってきた安田からダッシュで逃走する。

香里の帰宅後、往人は黙って佐祐理の部屋まで歩いていた。
安田が香里を自宅まで送っていったおかげで、
いつも言いつけられない仕事まで往人に回ってくる。
まして、使用人扱いの往人に残業手当など一銭もありはしない。
それを思い切ってさっき佐祐理の母に言ったが、彼女は笑顔で

「ハイ、残業手当」

そう言いながら往人の手に佐祐理の枕カバーを持たせた。

「佐祐理ちゃんは毎晩枕カバーを変えてるの。
でね、いつもは安田さんが取り替えてくれるんだけど
 今日はいないじゃない?だーから、ゆっくんに頼んでるのよ」

「・・・了解」


語尾にドスを利かせ始めた佐祐理ママとの会話を打ち上げて
そそくさと3階の佐祐理の部屋まで行く。
3階まで来ると使用人の姿もない。
もしかして二人っきりか?と思う雰囲気が漂っている。

「(呼び鈴ないだろうな)」

コンコン と一応ノックしてみる。すぐに返事があった。

「ハーイ。安田さんね、すぐに開けますから待っていてください」

ガチャ 安田と勘違いされながらも開いたドアの向うを見ている往人。

が、 「キャー!!!」

佐祐理は驚いてドアを閉める。その時に往人の足が入り口に挟まってしまう。

二人は下の階に届かないように器用な悲鳴のあげ方をした。

「ご、ごめんなさい!てっきり安田さんだと思って」

「い、いや。とにかく枕カバーだ」

「あ、でも私取り付け方わかんないんです」

「なに?しょうがない俺が取り替えてやるよ」

「わーい」

部屋の中に入った往人の鼻腔に入ってきた年頃の女の子の匂い。

「ふうー、さっさとやって終わらせるぞ。
って、おい。なんで佐祐理はベッドに寝てる?」

「寝てないですよ。
ここから往人さんがどういう風に取り替えるのか観察しようと思って」

「それは俺にとったら監視だ」

そうは言っても倉田家の一人娘に逆らうこともできないまま
その状態で作業を開始する。
だが、その作業に予想外の苦戦を強いられる往人。
理由は簡単。枕が普通じゃないからだ。さすがは金持ち。枕にまで金をかけている。

試行錯誤をしながらもようやく枕カバーを取り付けることができた。
だが、監視者の佐祐理からコメントがないことを気にした往人が後ろのベッドを覗くと

「スースー・・・舞ったら・・・スーースーっもう、だめだってー・・・zzz」

「どんな夢だよ。こうして見ると佐祐理もただの女だな」

往人は佐祐理の寝顔を鑑賞しながらそう呟いた。
一人置いて寝てしまった佐祐理を詰るわけでもない。

「(よほど魔力を消耗したんだろう)んじゃ、俺は帰る」

「往人さん・・・」

ふいに往人の右手に温もりが感じられた。佐祐理がベッドから体を乗り出して
往人の右手を握り締めていた。一瞬ドキっとする往人だったが

「なんだ?子守唄でも希望か?」

「うんうん、子守唄よりもおとぎ話がいいなー往人さんのことが聞きたい・・・」

「なら往人伝説でも話してやろう。昔、ある所に人形使いがいました」

佐祐理は半分寝たまま、半分起きてその話に耳を傾けていた。
意識だけが起きているような状態なんだと往人は納得した。


「・・・彼女の名前は・・・」

やがて往人も眠気に襲われる。
絵本を読んでいた母親が子供よりも先に眠ってしまうことと同じだ。
この場合は佐祐理に続いてだが。
二人はゆったりとした心地よい眠りに包まれていった。
それはまるで何者かの魔法による幻想を見ているような、
そんな不思議な空間だった。


倉田家まで残り1キロ付近であの少女を見つけた安田。
車を止め、彼女の元へと歩み寄る。少女は無表情のまま立っていた。

「どうじゃ、彼女の容態は」

「・・・今朝も変わらない・・・。私が教えた通りだよ・・・」

「そうか。で、例の3つの望みのうち1つめが叶えられるというのは本当か?」

「・・・フフ・・・気にしてたんだ。何年かかったことだろう。やっとだよ・・・」

「くれぐれも約束を忘れるでないぞ。
あの子へのわしの思いを踏みにじるようなことだけはするな」

「・・・うん、しない。でも・・・キミも約束を忘れないでね・・・きっとだよ」

少女はそう言うと薄笑みを浮かべ何処かへと消えていった。まるで幻のように。
安田は溜息混じりに頭を垂れ懐からタバコを取り出すと火をつけた。

「キミの望みとは何だね。あの少年との再会か?それとも・・・」

安田はタバコを地面に叩きつけ火を踏み消す。
苛立ちを隠しきれていないその仕草。

「くそ・・・ワシに会いにきてくれるわけがなかろうが!」

車に戻り倉田家を目指し走り出した安田。その表情はいつもとは違った。

ある患者の病室にて。先ほどの名の無い少女はその患者に何かを囁いていた。

「・・・キミの望みの1つめを叶える時が来たね・・・」

名も無い少女は無表情のまま患者の頭に手を置いた。

「・・・今でも好きなのかい?・・・」

「・・・・」

「・・・失った記憶の一部・・・彼の部分をようやく探し辿りついたようだね・・・」

「・・・・」

「・・・彼はこの街に居ない。それでも最初の望みを叶えてもいいのかい?」

「・・・・」

「・・・分かったよ。キミの意思は私が代弁しよう。その代わり、貰うものは貰うから」

「・・・・」

雨がだんだんと増していく。

それはまるで誰かの涙のような、そんな印象を受けた。




公開日/2003年3月26日

企画・原案・シナリオ/Kensuke


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