『兄として』


1999/04/05




 ○月X日

  今度の日曜日、長瀬ちゃんとデートする約束をする。





 な、な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――っ!!!!!!!!!!!!



 僕は驚愕する。
 聞いて驚け、見てびっくり。
 瑠璃子の日記を偶然にも読んでしまった僕は、瑠璃子の身に危機が訪れていること
を知ることになった。



 …今度の日曜日……明日じゃないか!?



 僕の大切な瑠璃子が見知らぬ男に騙されて、誑かされてしまっている。
 このことを未然に知った以上、何としても瑠璃子を護らなくてはならない。
 兄として当然のことだ。


 ……と、言ってもだ。


 相手はかなり老獪らしい。
 何せ、僕がこうして合い鍵で開けて日記を読む事さえなければ、知ることがなかっ
たのだ。
 素直で純粋で綺麗で美人でそれでいてとても可愛らしい瑠璃子が僕に隠し事をする
ことなんてない。
 その瑠璃子が僕に黙って男と会うことなどありえないし、あってはならない筈なの
だ。当然。
 きっと、相手のこの長瀬とか言う男に言葉巧みに言われたに決まっている。



『なぁなぁなぁ。瑠璃子さん……』



 …瑠璃子と呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!!!!!!!!!!



 はぁはぁはぁ……全く、生意気な。


『なぁなぁなぁ。月島さん……』
『何、長瀬ちゃん』


 キラキラキラー


 …ま、眩しいよ。瑠璃子。瑠璃子のその微笑みはたとえそのくそ外道相手でも分け
隔てなく注がれるのだね。


『今度の日曜日、ちょっと一緒に出かけようよ』
『出かける?』
『うん。ちょっとだけぇ。月島さんにどうしても見て欲しいものがあるんだ』
『私に?』
『そう。じゃあ、約束だよ』
『え?』
『そうそう、このことはお兄さんには内緒だよ』


 …貴様如きにお兄さんと呼ばれる筋合いはないっ!!


『どうして?』
『月島拓也様は僕の方から後で申し上げておくから……きっとその方が拓也様もお喜
びになるにちがいないよ』
『うーん……でも……』
『じゃあ、そういうことでっ!!』
『そう。お兄ちゃんも喜ぶなら瑠璃子はそれで……』


 …くぅぅぅ、瑠璃子、泣かせるじゃないかっ!!


『へっへっへ……まんまと口八丁で騙し通せたぜ。月島さんを家から出してしまえば
こっちのものよ……あーんなことや、こーんなことをして写真を撮って……そんでも
って……えへ、えへへへへ……』


 …き、貴様と言うヤツはぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!!!!!!!!!



「くそっ!! 僕が瑠璃子を護らなくてどーするっ!!」


 興奮して机を叩く。


 くそ、長瀬のくされ外道めっ!!
 決して許さないぞっ!!



 と、言ってもだ。
 ここで僕が「明日は外出禁止だ」等と言うと、律儀で人に優しい瑠璃子は約束を破
ってしまう事で、一生の心の傷として残してしまうかも知れない。
 そんなことをすると瑠璃子を傷つけてしまうのだ。


 何てヤツだ。そんなことまで見越していやがったのか、長瀬めっ!!


 だが、僕もおめおめとやられてばかりではないぞっ!!



 明日の朝一番からずっと外で見張っていれば……瑠璃子が家を出たときからずっと
見守ってあげることが出来る。


 ナイスなアイディアっ!
 流石僕秀才っ!


 僕は庭にテントを張り、寝袋の中で一夜を過ごした。
 瑠璃子には「星が綺麗だから」と言ってある。
 見事な口実。


 しかも瑠璃子に
「お兄ちゃんって天体の知識があるんだ」
「いやいや、僕はただ、綺麗な星を見ていたいだけさ」
「かっこいい……」
 とかなる気がするんで一石二鳥!!


「よ〜し、明日に備えて早く寝なくては……」


 目覚ましは朝の五時!!
 これで万全!!


・
・
・


「う〜ん……」


 目覚まし用の時計を見る。
 既に午後の三時。



 庭から双眼鏡で玄関を見張ることおよそ十時間。
 瑠璃子が家を出た気配はない。


 この厳戒な見張りの中、こっそりと家を出ることなど考えにくい。
 途中二度ほど家に戻ってトイレに行ったが、その間に仕掛けておいた赤外線探知機
に監視カメラなどをチェックして荒らされていないことを確認してある。
 第一、家の中で一度瑠璃子と会ったのだ。
 間違いなくいる。


「……………………………………………………ん……?」


 焦りが増す毎に、何か今回の作戦に根本的なところで見落としがあった様な気がし
ないでもなくなってきたが、賽は投げられた以上、やり通すことこそ勝利への最短の
道だと思い直す。



 ……こうして、五時になった。



「さては長瀬祐介め! 僕の見張りに気付いて怖じけづいたな!!」


 呆気ない結論に達し、テントを撤収する。


・
・
・


「ただいまー」


 庭の物置にテントを片付け、玄関に回って家に入る。
 トイレに数度入っていたので、鍵はかけていなかった。


「瑠璃子ー?」


 数度呼び掛けても反応がないので、瑠璃子の部屋まで上がっていく。



「瑠璃……子?」


 部屋の中央に瑠璃子はいた。
 瑠璃子が座椅子で寝ているように見えた。
 微笑ましい光景この上ない。


「…………ふふ…………」


 可愛らしい寝言を言ってるようだ。



 ……どれ?



「ははは……長瀬ちゃん……うふふふ……」




 ……うはぁ!? 電波でデート!!





 その後、僕はどうしたか記憶が定かではない。




                          <おしまい>


written by 久々野 彰 『Thoughtless Web』

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