Sister Princess
〜例えばこんな妹姫★3〜
たまに不思議に思うことがある。
どうして咲耶ちゃんや春歌ちゃんや可憐ちゃん達は、あんなにアニキのことが好きなのかな?
確かに私もアニキのコトは嫌いじゃないし、なんとなく頼れる感じがして悪い気がしない。でも具体的にどこが好きかと言われると、首を傾げてしまう。
顔は十人並だし、頭だってたまに「脳が足りないのでは?」と本気で心配になることがある。運動も高校の時にサッカー部のレギュラーとして全国まで行ったと自称しているけど、悲しいことに今は運動不足気味だって話。
何より私の研究資金を援助してもらおうと思って、メカ鈴凛を使ってアニキの口座にハッキング仕掛けてみたら、逆にいくらか注ぎ込んであげたくなるくらいの数字だった。この鈴凛ちゃんが同情しちゃうくらいド貧乏なのよ? 甲斐性とかそういう問題以前に、これから普通に生きていけるかどうかさえ疑問。
おまけに脳の構造がどこか違うらしく、この前などあのガスストーブ一つしかない安アパートじゃ可哀想だからと、湯たんぽ代わりにメカ鈴凛を貸してあげたら、「いいなぁ、メカ鈴凛いいなぁ。俺も惑星メー●ルに行って機械の身体を貰ってこようかなぁ」などとほざいていた。
まったくもって理解に苦しむ。
咲耶ちゃん達に聞くと、こうらしい。
「お兄様がお兄様であることが問題なの。春歌や可憐に盗られるのも悔しいし、とにかく私はお兄様じゃないとダメなの!」
「なぜ兄君様が好きなのかって? そうですね、男女の仲に理由などないと申しますが、強いて言うなら兄君様だからですね。顔や運動や知能や経済力など、あとからなんとでもなりますわ。要は兄君様がわたくしの背の君になることその物が重要なのです」
この二人の意見を聞くと、ここまで根拠のない理由をなぜにこうも力一杯力説出来るのか、そちらの方が不思議。
これについてメカ鈴凛に尋ねてみた。
「そうですね、咲耶様も春歌様も才色兼備の揃った女性だと思いますので、アニキ様を相手にするには少々勿体無いのではないでしょうか? まさに処分決定のクソ豚に最高級真珠といった感じでしょう。なのに咲耶様達のあのご執心は並ではありません。私は咲耶様達の脳の方がむしろ心配です。もうその様は狂信者のそれです。もしどちらかがアニキ様を奪った暁には、残された方が無理心中―――いえ爆破テロでも起こさないか、私は気が気ではありません」
……私としてはたまにこのメカ鈴凛の方が怖くなる。ドラ●もんの映画ばりに、いつか「機械の国を作る」なんて言い出さないだろうか?
とにもかくにも、私にはまだアニキのどこが良いのかがよく分からない。
Sister Princess
例えばこんな妹姫★3
今回のヒロインは、妹の中でも霊感の強い千影と対を成す、科学に信奉を置く天然発明家(自称)の鈴凛なのである。
鈴凛は今日、ここのところ彼女の頭を悩ませていた「このアニキのどこが素敵なのか」という、宇宙の心理を解き明かすことよりも難しい難問を解決すべく、愛しの(と無理矢理思おうと努力している)兄を呼び出していた。
場所は世界共通のファーストフード店、マク●ナルド。関東では「マック」というのに関西では「マクド」と略称される、なんでもポテトを付けたがるジャガイモ大好きフード店である。
「どうした鈴凛、まああんまし美味くはねーけど、冷めたらもっとマズイから早く食べた方が良いぞ」
「うん、ありがと」
目の前でポテトを五本まとめて口の中に放りこむ兄の姿に眉をヒクヒクと動かしながら、鈴凛が引き攣った笑顔で頷く。
このなんとも塩辛いジャガイモをこうもダイナミックに頬張る兄の姿は、咲耶の言う「カッチョイイ」には程遠く、春歌の言う「典雅」とは更に程遠い。鈴凛の頭の中ではなんとなくテナガザルがホクホクと食べているようにしか見えない。
「ねぇアニキ。アニキはいつもこういう所で食事してるの?」
「んあ? そんなことないぞ。ファーストフードは腹に溜まらないからな。どっちかっていうと学生御用達の安い大衆食堂の方が好きだな。行きつけの食堂なんて魚定食がなんと五百円だぞ? 焼き魚とご飯味噌汁お新香に豆腐まで付いちゃうし、ご飯なんてお代わり自由だからな」
大衆食堂の素晴らしさについて熱く語る兄の姿は、もはや哀愁さえ誘う。その姿に鈴凛は心の中でため息をついた。
ダメだこりゃ。
鈴凛は他の妹達と一緒に妹の亞里亞の屋敷に住んでいる。十二人もの娘が暮らしているだけあって屋敷は広く経済的にも不自由することはない。それ故兄のこのような言動がどうにも貧乏くさく感じてしまうのだ。
実際のところ一人暮しの大学生など、ほとんどはこのような生活が普通だ。大学生というと経済的に確立していないし、一人暮しで何かと物入りだし、付き合いは高校の時の比ではない。なので基本的になるべく倹約し、切り詰められるところを工夫して生活する知恵を学ぶものだが、鈴凛はまだそのような事情を解する知識や余裕がない。
この点は咲耶や春歌の方が柔軟な頭をしており、兄のそのような生活を理解し―――それどころ積極的にそこに関わろうとしている。彼女達の情熱の中では貧乏など不幸でもなんでもなく、ただ兄を他の妹に分捕られることだけが不幸であるという二極論で思考が確立されている。それ故にそれ意外の部分は柔軟で緩みきっているのだ。
恋する乙女は恐ろしい。
だが鈴凛くらいではまだ「自分」という枠の中でしか物が見えず、結果兄の行動の一つ一つを自分の価値観と比べてしまい、違和感を感じてしまうのだ。
(アニキは確かに頼れるって感じがするんだけど、どうもこう―――変なんだよな〜)
それが鈴凛の感想だった。
事実この兄は世間知らずの鈴凛からみても他人とは思考回路が違う部分があるようで、兄の理解不能な行動や言動を目の当たりにすると少々引いてしまいそうになることもしばしばある。
例えば今も―――
「なあ鈴凛」
「なぁに、アニキ」
「このマクド●ルドに出てくる黄色いピエロいるだろ? あのバッドでマッドでサイケな、いかにも変質者っぽい奴」
「変質者かどうかは知らないけど、あのCMに出てくるドナル●でしょ?」
バッドでマッドでサイケな変質者はむしろこの兄ではないのか? と一瞬思ってしまったのは内緒だ。
だがうろんな目付きの鈴凛など置いてけぼりで、この兄は得意絶頂でやかましい店内で鈴凛相手に弁舌を続ける。
「それでな。あのマッドピエロの職業が何か知ってるか?」
「何かって……なに? マックの広報部長とか?」
「なんでやねん! フフン、聞いて驚け。奴の真の職業はな、DJだ」
得意絶頂に鼻の穴を大きくして言い放つバッドでマッドでサイケな兄一名。「なんでやねん」はこっちのセリフだ。本当にこの兄は大丈夫だろうか? いやダメっぽい。
鈴凛は兄の斬新を通り越して、何をどうやったらその結論に達したのかの方が気になるが、それでも好奇心から聞いてみた。
「……なんでまたDJなの?」
「それはな。彼の名をアルファベッドで書いてみるがイイ」
心の中で思い浮かべてみる。
「そう、奴の名はMcDn●rud―――気が付かないか?」
「……いやもうさっぱり」
「奴は『M』と『D』が大文字だ。すなわち奴は『MC』ドナルドなのだ!」
自身満々に言い放つ兄。鈴凛は兄の言った『新説! ピエロDJ説』像を想像してみた。
―――YO、YO、ポテトもドーだYO、YO! バリュー? 何言ってんだYO、スーパーバリューで行こうZE! ィィヤァッ!
「さ、アニキ行こうか」
「おうよ! ってか今日の用事を聞いてないんだが、いいのか?」
「うん、なんかもういいや」
さわやかな笑顔で鈴凛が頷いた。
結論―――この兄は実験のモルモット行き。
「いやー、やっぱりファーストフードでなんか食うもんじゃねーな。ちっとも腹が一杯にならんな。あとで牛丼でも食うか」
「ってかアニキビッ●マックのスーパーバリュー食べてたじゃん!?」
店を出て一分もしないうちに言う兄に鈴凛は愕然とした。この男は底なしか!?
とは言え、鈴凛自体こうもこちらの予想を遥かに超える行動を行う兄だが、不思議と嫌いになれないのだ。先程もこの理解に苦しむ兄の言動に呆れ返ってひっくり返りそうなものだが、嫌悪感より可愛らしさが先立ってくる。
(こりゃあ私も咲耶ちゃんや春歌ちゃんを笑えないわね)
ブーたれる兄の背中を見ながら、鈴凛が喉の奥で苦笑を洩らす。
類稀な愛嬌というのか、どうも憎めないのだ。おまけにその背中は妙に頼りがいがある。
夕焼けの空の下、二人はのんびりと歩く。左手の柵の向こうでは電車がゴウゴウと通り過ぎていった。帰りのラッシュなのか、外から眺めているとかなり混んでいた。
兄はいつも何も言わなくても鈴凛を送ってくれる。いや、鈴凛だけではないのだろう。それも意識して送る訳ではなく、いつも「自分がそうしたいからだ」と何でもなさそうに言うのだ。ぶっきらぼうに、けれど決して自分を優先せず、こうして送ってくれる。鈴凛はこういう瞬間だけが、酷く兄に対して素直になれる自分がいることを知っていた。
「ねぇ、アニキ」
「なんだ妹よ」
「なによ、その他人行儀な言い方」
「別にいーだろ。で、なにさ」
「うん、アニキにとってさ。咲耶ちゃんや春歌ちゃんってどんな感じなの?」
「妹だろ?」
「そうじゃなくて。だから、好みの女の子か? とか」
言ってて、なんだが気恥ずかしくなった。何を詮索したいのか自分でもよく分からなくなった。
兄は何を思い出したのか、目に見えるほどに肩を落とした。
「……あいつ等にナンか言われたのか?」
「そういう訳じゃないけど、あの二人が一番アニキの所に顔出してるみたいだから」
「そうだよなぁ。なぁ〜んであいつ等いつもいつも俺の部屋を半壊にして帰るだろ? なんか恨みでもあるのか?」
「…………ぷっ」
振り向いた兄の顔があまりにも面白くて、鈴凛は噴き出してしまった。どうもこの兄には生まれた時にそういう機微を置き忘れてしまったかのように理解しない。家でいつも二人がブーブー言っていたのを聞いていたからだ。
「鈴凛はまあ―――そういうことしないよな。その代わり金をせびるがな」
「そういう言い方しない。それに私が頼んだ金額なんて、スズメの涙でしょうが。男だったら度量の広いところ見せなさいって」
「お前が言うな……」
他愛もない話を続けながら、この瞬間がたまらなく気持ちが良かった。
だがそういう時間は決まって長く続かないものだ。
「おうおう、見せつけてくれるじゃネェか兄ちゃんよ」
正面から浴びせられただみ声に、思わず二人は足を止めた。
鈴凛は反射的に怖れて兄の後ろに隠れ、そして―――目を真ん丸にした。
「…………ば、バンカラ?」
「誰がバンカラだこのアマ!」
怒られた。まあ無理もない。
二人の前に現れたのは、いわゆる二人の雰囲気をやっかんだらしい通りすがりの不良らしい。ただし、四半世紀ほど昔の、だが。
ゴリラのような巨人だが、今風の不良には必須とも言える金髪・茶髪は欠片も見えず、ツバの部分を切って目線が見えるようにした学帽をかぶっていた。高校生らしく学ランなのだが、短ランでもずりパンでもなく、恐ろしいことに長ランである。しかも靴は下駄だ。下駄なのである。しかもご丁寧に口にはタンポポの茎を咥えていた。アナクロを通り越して、これではマンガの世界だ。
兄もこの不良を絶滅動物を発見したかのような目で上から下まで眺めると、肩越しに鈴凛に尋ねる。
「……お前の知り合いか?」
「……アニキの知り合いでしょ? あのキテレツな服装は」
「……お前絶対俺のこと誤解してるだろ? キテ●ツくんとか……」
「誰がキ●レツくんじゃこりゃぁ!」
言葉遣いまで前世紀だ。
このままでは埒があかないので、ひとまずは兄が番長(仮)に話しかける。
「あー、もしもしブタ●リラ」
「だから誰がブタゴリラじゃこりゃぁっ!」
オウムのように繰り返すブタゴ●ラ(仮)。
「んなこたぁどーでもいーんだよ。で、ナンのようだよ?」
「決まっているだろうが! この天下の往来でイチャイチャ歩きくさって!」
「イチャイチャって……どこをどうやったらそう見える?」
「目が腐ってるのかも?」
「だぁくらきゃぁ!」
吼えるブ●ゴリラ番長(仮)。だが悲しいかな、この兄妹はまっとうな感覚を持ち合わせた奴等ではないという事だ。
「しかも目の前にはなんといかがわしいネオンの看板が出たご休憩所。なんちゅーこっちゃ! お父さん許しませんよ!」
「番長のクセに学級委員みたいなこと言う奴だな」
「……頭大丈夫かしら?」
「若いのに可哀想に……救急車呼んでやるか?」
「きっと番長だからモテないんでしょ? だから因縁つけてるんだよ、アニキ」
「ちっがぁぁぁう!」
どうにも話が繋がらない二人に業を煮やしたのか、番長が突然鈴凛の腕を掴んで引っ張った。
「痛っ! 何するのよこのブタゴリ●!」
「●タゴリラって言うな! 貴様等のように青少年に優しくない連中など、俺様自らバツを与えてくれるわ!」
「鈴凛!」
何だかよく分からない展開になってきたが、笑えることに彼等は本気だった。ある意味コントだ。
左手を掴まれた鈴凛が、フリーの右手を兄に伸ばす。
「アニキ助けて!」
「てめぇ鈴凛を離しやがれ!」
「フッ、返して欲しければ力ずくで来いや!」
「上等だぁっ!」
兄が吼えた。
アニキが私のために戦ってくれる……私のために……
いきなり訪れた修羅場に、思わず鈴凛が状況に酔ったような目になった。
だが現実は非情だ。
「そりゃ」
「鈴凛を返せアブゥ!」
「うりゃ」
「鈴凛を返ゲフッ!」
「とりゃ」
「鈴凛ブロァッ!?」
悲しいかな、兄は弱過ぎた。
「す、スマン鈴凛……ガクッ……」
「あ、アニキ弱過ぎ!?」
愕然とする鈴凛。所詮前時代の遺物には現代人は敵わないのか?
「アニキのバカァッ! ヘタレ! 根性なしー! 見直したなんて取り消し、アニキなんて絶対認めないんだからぁっ!」
「ふはははは! 正義は勝つ」
鈴凛の腕を引き、意気揚揚と引き上げようとする番長。本気で鈴凛を説教とするだろう。普通ならちょっと高校生未満閲覧禁止的な展開になりそうなものだが、なんだか非常にアレな展開になってきた。
だが鈴凛は忘れていた。
残念ながらこの兄も、番長に負けず劣らず脳が足りないという事実に。
「……待てよ」
「ほう、まだ立つか」
背中の声を受け、番長が振り返った。
「あ、アニキ! もう、もう立たないで!」
堪らず叫ぶ鈴凛。この娘も大概に状況に酔いやすい。さすがに咲耶や春歌と姉妹と言うべきか。
兄はユラリとオーラを纏って立ち上がった。そのオーラに番長が「む?」と声を上げる。
「残念だがそいつは渡せねぇ。なぜなら俺の大事な妹だからだ」
「妹だろうと、俺様の正義は揺るがない。いい面構えだ。どうやら俺様の鉄拳では、貴様の魂までは砕けなかったようだな」
「あたぼうよ! 正義の名のもとに美しい兄妹愛に無粋な横槍を入れてくる前時代番長なんかに、俺は負けねぇ!」
「誰が前時代番長だ!」
顔を豪快に腫らした兄を、鈴凛は潤んだ瞳で見つめていた。
兄は炎を宿した目で番長を睨み、おもむろに握った右手を顔の前に持ち上げて構える。
「……おおおおぉぉ! 俺の右手が真っ赤に萌える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
「どんな技だろうと、この世紀末番長、綾小路隼人には効かんわ!」
「そんなナリでその名前は犯罪でしょ!?」
思わずツッコむ鈴凛だが、無駄に熱くなったバカ二人は欠片も応えない。
「流派、東方不敗の名のもとに! 砕け! 必殺ぅぅぅ!」
「来いやぁ!」
「シャイニング●ィンガアアアア!」
右手を振り上げ、兄が番長の顔に右手の平を叩きつけた。番長は侮っているのか、それともそれが『礼儀』なのか避けもしない。
ぺちっ!
「…………オイ」
状況も忘れ、ツッコミかけた鈴凛。それほどまでにショボイ一撃だった。
だが兄は絶好調。勝ち鬨のように咆哮を上げる。
「ヒィィィィッットエェェェェンド!」
「……………………ゲフゥアッ!?」
「なんで!?」
猫も倒せないのではないかと思われる兄の一撃を受け、番長が顔を押さえて仰け反り倒れこんだ。
「ふ、ふ、ふ、ひ、ひはまぁ!」
「ふふふ……効いたようだな。それとももう一撃食らうか?」
「ひ、ひひょうほほへぇ!」
自信満々の兄を恐ろしい目で睨みつけたが、番長はなんだかよく分からない言葉を吐きながらダバダバと走り去った。
残されたのは、顔を腫らしまくった兄と、鈴凛のみ。
「無事だったか、鈴凛」
「アニキ……その顔……」
「気にするな。お前が無事なら、こんな傷くらい……」
「アニキ―――面白過ぎ!」
「ギャフン!?」
感動的なシーンを期待した兄とは裏腹に、腹を抱えて爆笑する鈴凛。
「わ、笑うな! ここは笑うシーンじゃないだろ!」
「ご、ごめ……ププ……あは、アハハハハ!」
「鈴凛!」
それでもしばらくお腹を抱えて笑っていた鈴凛だが、ようやく発作が収まった鈴凛は、目尻に涙を浮かべたまま笑顔を向けた。
「でもさ、アニキ結構カッコ良かったよ」
「ほ、ホントかよ……」
「うん、鈴凛ちゃんが言うんだから間違いないよ」
「そ、そうか」
「でも…………」
鈴凛は悪戯っぽくウィンクして、照れ隠しに一言。
「私を危険な目に合わせたんだから、ちゃんと慰謝料払ってよね♪」
「なんでやねん!」
いつもの鈴凛のセリフに、兄は堪らず叫んだ。
だがまあ、いつもの鈴凛だからこそ安心だ。
この男もさすがにバカではない。鈴凛が自分をうろんな目で見ていたことくらい、気付いていた。それが何を意味しているのか分からないが、どうやら自分に不信を抱いていたことということなのだろう。
だが予期しない出来事で、顔まで腫らしてしまったが、どうやら信頼は取り戻せたらしい。高い買い物ではあったが、頑張ってよかったというものだ。
願わくば、今自分が番長を倒した時、犬のフンを番長の口の中にねじ込んだことがバレませんように……
「ねえ、メカ鈴凛」
「なんですか、マスター」
家に帰って、メンテナンスが終わったメカ鈴凛に開発者である鈴凛が話し掛けた。
「アニキってさ、見た目より――――」
「はい、なんでしょう?」
「ううん、なんでもない。ハイ、終わった」
最後にメカ鈴凛の右腕に巨大なドリルのアタッチメントを付けて、満足そうに頷いた。
メカ鈴凛がロボットに似合わぬ滑らかな動きで首を傾げ、右腕を上げた。メカ鈴凛の意志を受けて、ドリルが凶悪な音を立てて回り始めた。
「マスター。これは一体―――」
「ああ、これ。番長撃退装置」
「番長撃退装置、ですか?」
「そ。たまには懐古主義ってのも、悪くないかもね」
結局このドリルの最初の犠牲者は、アニキなんだけどね――――♪
―――あとがき―――
なぜか既に3作目になってしまいました、この「例えばこんな妹姫」。いかがでしたでしょうか? なんだか鈴凛じゃなくても良かったような気もしますが、まあ良しとします。
このシリーズもどうも投稿先として引きうけてくださっている久慈さんが「スターウィンド・ドレスアーップ」と叫んでいるという噂を聞きつけ、突発的に書き上げました(爆)。ゼノサーガとは違うのですが、せっかく妹信者の久慈さんですかプレゼントということで。
本当なら雛子とか亞里亞とかで書けば良かったんですが、なにせ今回は鈴凛で書こうと決めていたものですからこうなってしまいました。
泉蓬寺の中の鈴凛像とは少し違いますが、それでもたまにはこんなのも悪くないかな、と(笑)。
お叱りのメール等、待ってますね(^^)。そいではまた次回作で!
2002/5/2公開
感想などは[泉蓬寺悠]まで。