Sister Princess

     〜例えばこんな妹姫★2〜

 

 

「ふふふ……今日は会心の出来だったわ。これでお兄様のハートは鷲掴みね♪」

 両手に抱えたバスケットを危うく振り回しそうになるのを抑え、私は鼻歌混じりにお兄様のアパートへと急ぐ。
 今日のサンドイッチは自分でもよく出来たと思うわ。白雪ちゃんにバッチリ教えてもらったしね♪ お奨めはみっしりと重たいタマゴサンドかな。白雪ちゃん秘伝の胡椒がしっかり効いている上に、私の愛情がいっぱい詰まってる。他にもハムレタスサンドや生クリームとフルーツのサンドもある、スペシャル咲耶サンド! きっとお兄様も喜んでくれるわ♪

 逸る心を抑えて、それでも早足になってしまう私。だって仕方がないじゃない。いつだって咲耶はお兄様の傍に居たいんだから! それを休日まで待ってるだけでも国民栄誉賞モノね。

 私の心が届いたのか、やっと見えてきてくれたお兄様の住んでいるアパート。いつ見てもボロイ、今にも倒れそうな木造建築。お兄様もこんな一刻館の親戚みたいなアパートじゃなくて、もっとオシャレなマンションとかに住んでくれれば良いのに。もちろんお兄様の五代くんばりの経済力ではとても無理な相談なのは分かってるわ。
 百歩譲って私達の家に来てくれれば良いんだけど―――ううん、ダメダメ。そんなことしたらあの泥棒猫達が私のお兄様を奪おうと日々画策するに決まっているわ。悔しいけどこれはこれで良しとしようカナ。

 あ、そうだ。私がお兄様と一緒に住めば良いんだわ! そうすればいつでも既成事実は作れるし♪ お兄様と一緒なら、こんなボロアパートでもきっとベルサイユ宮殿になるわ!
 うん、そうしよう! そうと決まればこのスペシャル咲耶サンドにデザートも付けてあげなくっちゃ! ちゃんとリボンも持ってきているから、食べ終わった頃に服を脱いで身体にリボンを巻きつけて―――うふ、うふふふ……

 二階の一室がお兄様の部屋。以前抜け駆けしてくれやがった花穂ちゃんが三日間もお兄様の家に泊まっていたことがあったし、もう油断は出来ないわ。あの時はお兄様のヘタレっぷりのお陰で花穂ちゃんの毒牙にかからずに済んだけど、私の時は違うわ。もうバッチリ勝負パンツもキメてきたし―――

「お・兄・様♪ 咲耶が愛情のスパイスの効いた差し入れを持ってきて差し上げましたわ♪」

 バターンと(インターホンさえ鳴らさずに)景気よくドアを開くと、そこには――――

「モガ、モガーッ!」
「あ……咲耶ちゃん……イイところだったのに……」

 ……下着姿の可憐ちゃんが、お兄様をロープで縛り上げていました。




Sister Princess

例えばこんな妹姫★2

 





















「もう! まったく本当にどこまでも油断も隙もないわ!」

 私はボールの中の生クリームをガシガシと泡立てながら、先日のお兄様の部屋での出来事を思い出してしまって、つい力が入りすぎてしまった。もちろんこの前の「お兄様縛り上げ事件」のことよ。
 ちゃっかり私を出し抜いてくれやがった可憐ちゃんとは、あの後壮絶な死闘を展開するハメになっちゃって、結局うやむやになってしまった。この私のスクァトストレートソードをかわせるのは、可憐ちゃんを除いたら春歌ちゃんくらいね。代わりに可憐ちゃん必殺のノーザンライトボムを食らった時には、首の骨が折れるかと思ったけど……

 唯一の救いは、お兄様が巻き添えを食ってボロボロになりながらも私のサンドイッチを食べてくれたことかしら。

「とにかく! もう一刻の猶予もないわ! 今度は前のを超えるスペシャル咲耶サンド・ザ・パーフェクトで、お兄様に咲耶もお料理の出来るお嫁さんにしたい妹bPに選ばせて見せないと。その為には―――」

 よく泡立った生クリームをとりあえず冷蔵庫に移し、他のメニューの準備に掛かる。
 前回のサンドイッチに加え、今度はお兄様の好物をおかずに加えたパーフェクトなお弁当にするのよ!

 下拵えは昨夜のうちに白雪ちゃんに手伝ってもらって済ませてあるから、あとは調理するだけ。アスパラを茹でて、豚バラスライスで包んだ物に楊枝を通し、フライパンでよく焼く。味付けのポイントは塩・胡椒の他に少しだけ醤油を垂らす事。これで風味にコクが出る。
 続けて鶏の唐揚げ。昨日から漬け込んでおいたから、味がしっかり染み込んでいるって白雪ちゃんも言ってたわ。油は少し高めで揚げる。お弁当ではその場で食べる訳ではないので、高めの温度でカリッとなるくらいが丁度良いの。ただししっかり火を通さないとダメ。鶏肉にはキャンピロバクターなどが含まれているから、ちゃんと火を通さないと食中毒を起こしちゃう。もしそんなことになったら、私はお兄様を食中毒にした妹の烙印を押され、料理の出来る春歌ちゃんや、お菓子作りの上手い可憐ちゃんに一生涯馬鹿にされかねないわ。それだけは耐えられない。

 あとはサラダやデザートの準備も昨夜のうちに済ませておいたし。サラダは定番のポテトサラダではなくて、これもお兄様の好物のパスタサラダ。

 ……完璧ね。白雪ちゃんを締め上げ―――コホン、白雪ちゃんから優しくお兄様の好物を聞き出して作った甲斐があるというものね。

 時間は11時前。頃合ね。
 さぁて、後はサンドイッチを仕上げて可愛いバスケットに見映えよく詰めれば、スペシャル咲耶サンド・ザ・パーフェクトの完成♪ お兄様、待っててね! ラブよ!

 気合を入れ直し、お兄様とのめくるめくラブ☆ラブ(死語)な一時を想像しそうになった時、キッチンの入り口から生涯最悪のライバルの声が聞こえてきた。

「あ、咲耶ちゃん。今日もお弁当なんだ。頑張ってるね」
「―――ゲッ!?」

 ハッ!? 思わず私のイメージに合わない言葉を使っちゃったわ!?

 振り返ると、そこには私の妹の一人が立っていた。
 悪意の欠片もなさそうな偽善スマイルを浮かべ、腕の中には可愛らしい(妙に澄ました)子猫を一匹抱いている。柔和な微笑は世のお兄様達を魅了してやまないという噂だけど、この私は騙せないわ、この泥棒猫―――

「あ、可憐ちゃん。うん、今日は前以上の自信作なのよ♪」

 などという本音はもちろんおくびにも出さず、私も余所行きのスマイルで応戦する。こんなのはまだ序盤もいいトコロ。言うなればジャブの刺し合いってトコロよ。
 もちろん向こうもそれは分かっているので、抱いていたバニラ(クソ猫)をキッチンから出す。とても可愛らしい仕草で、姉の私から見ても惚れ惚れするわ★

 可憐ちゃんはトコトコとキッチンに入ってくると、私が丹精こめて作っている出来掛けのお弁当を覗き込んでくる。

「とっても美味しそうね、咲耶ちゃん★ ホラ、この唐揚げなんてキツネ色でとても素敵」
「ありがとう可憐ちゃん」

 何を言われるのかと警戒していた私だけど、誉められればやっぱり嬉しい。なによ、この娘だって可愛いトコある―――

「前のお弁当は酷かったから、やっと反省してくれたのね♪」


 ビキィッ!?


 な―――なに言い出すんだこんガキャァッ!?


 思わず顔のデッサンが崩れかける私。このキッチンに鏡がなくて本当に良かった。きっと今の自分の顔を見ていたら、それだけでショックで寝込んでいたかもしれない。
 なまじ油断してたところにこのカウンター気味の一撃。リバーに直接ねじ込んできた可憐ちゃんの左フックに、完全に顎が下がった(イメージ)。

 けれどそんな私のショックなどお構いナシに、ここがチャンスとばかりに攻め立てる鬼妹。

「あ、そうか。きっと今回も見映えだけでも体裁を取り繕ったから、味までは手が回らなかったのかしら。さすが咲耶ちゃん♪ 自分の身の程をよく弁えてるのね♪」

 そこに可憐ちゃんのガゼルパンチが私の下がったグラスジョーを捉える(イメージ)。今度は足にきた。次―――次にとどめが来る!?
 可憐ちゃんはこの機を逃がさず、畳みかけるように必殺のデンプシーロールの体勢(イメージ)。

 固まった私の隣をスイと避けると、上機嫌の表情で余ったサンドイッチの欠片をひょいと口に放りこんだ。
 途端、右手でわざとらしく顔を抑える。

「うわ、マズ」




 ぶっちぃっ!!




「こぉのおおぉぉッ!! 一体何のつもりよ可憐!」
「それはこっちのセリフよ咲耶ちゃん! 可憐の大事なお兄ちゃんにこんな毒物食べさせて何のつもり!?」
「誰が誰のモノですって!? そういうコト言う口はこの口かァッ!!」

 閃光一閃!

 私が振り向きざまに放った右ストレートをウィービングでかわす可憐ちゃん。やる!
 更に左フック。ダッキングでかわした可憐ちゃんが踏み込んできた。

「マズッ……」

 思った時には既に懐に入られていた後。無我夢中でスウェーバックと右へのシフトウェイトで、伸びあがる可憐ちゃんのスマッシュアッパーをかわした。

「咲耶ちゃん覚悟!」

 背中にキッチンカウンターが当たった。これ以上退がれない!

「…………フッ―――!」

 瞬間的に身体が前に出た。
 可憐ちゃんが返す刀で放つ右ストレートに、起死回生のライトクロスを合わせる。

「ひゃっ……!」
「か、かわした!?」

 恐るべき反応速度ね、この娘は! 完全に合わせたと思ったライトクロスをかわしてくるなんて!
 第二撃を警戒して一瞬可憐ちゃんが下がった。左腕のガードは既に下ろしている。本気ね……ヒットマンスタイルなんて!

「だいたい咲耶ちゃんはお料理ってキャラじゃないでしょ!」
キャラって何よ! 可憐ちゃんこそその偽善っぷりは止めなさいよ!」
「咲耶ちゃんのぶりっ子よりよっぽどマシだわ!」
「仕方ないわよね、『普通』以外には取り柄がないんじゃ、せめて偽善にでもならなきゃキャラが立たないわよね。ゴメンなさいね、分かってあげられなくって、ホーッホッホッホ!」
「こ―――この色ボケが、黙って聞いてあげればいい気になって!」
「可憐ちゃんこそお兄様のために作ったサンドイッチを無断で食べて! 今度貴女の猫を三味線の材料にするわよ!」
「やれるもんならやってみなさいな!」
「上等よ! お兄様のトコロに行く前に、きっちり決着付けてあげるわ!」

 再び激突する両雄。
 狭いキッチンで足を止めた打撃戦に縺れこむハメになった。














「ねえ白雪ちゃん」
「あら、衛ちゃんどうしたんですの?」
「あのさあ、なんかまたキッチンが騒がしいみたいなんだけど……」
「放っておくんですの」
「でも……」
「姫は知りませんの!」
「……どうして咲耶ちゃんと可憐ちゃんはああ仲が悪いかな……」
「今日は春歌ちゃんが加わっていないだけ、まだマシな方ですの」
「大変だね、白雪ちゃん」
「まったくですの! 毎度キッチンを片付ける姫の気持ちも分かって欲しいですの!」














「も……もう、まったく余計な手間を掛けさせてくれたわ……」

 お兄様の部屋に行く前から余計な体力を使っちゃったわね。まったく可憐ちゃんたら、てこずらせてくれて。
 とりあえずミドルレンジからの刺し合いが得意な可憐ちゃんじゃぁ、あの狭いキッチンでのクロスレンジでの打ち合いじゃあ分が悪いわよね。今回は私の勝ちってコトで♪

「でもこれで私とお兄様を隔てる障害はなくなったわ! あとはお兄様の部屋で……うふ、うふふふ……」

 ハッ!? いけないいけない、私としたことが、つい怪しげな笑いを。

 でもでも、今日こそ―――今日こそは!

 既にお兄様の部屋の前。何度来てもボロアパートだけど、それはそれで見慣れればいい物よね、きっと。
 それでは―――

「お・兄・様♪ 咲耶が愛情のスパイスの効いた差し入れを持ってきて差し上げましたわ♪」

 バターンと(インターホンさえ鳴らさずに)景気よくドアを開くと、そこには――――

「モガ、モガーッ!」
「あ……咲耶ちゃん……これからってトコロでしたのに……」

 ……着物を半分脱ぎかけた春歌ちゃんが、お兄様をロープで縛り上げていました。














「もぉ―――! どうして! どうして私とお兄様の間にはこうも障害が立ちはだかるの!? ああ……そう、まるでロミオとジュリエットのように!」

 ……まあお兄様はディカプリオのように格好良くないし、顔も良くて十人並。運動神経も並。ボンクラでヘタレで甲斐性なしでもうどうしようもないけど。

 でも好きなモノは好きなんだからしょうがないけど♪

 私はやっぱりキッチンで、今度はハンバーグを作るためにボールに入れたお肉をグニグニとこね回していた。
 そこに―――

「また失敗したようね、咲耶ちゃん」
「可憐ちゃん、アンタねぇ……」

 もはや問答するのも面倒くさい。きっとこの前春歌ちゃんが先回りしていたのも可憐ちゃんの差し金だろう。

 そう、分かったわ。もはや話し合いの余地はないわけね。
 私は手早く手を洗い、優雅な動作でタオルで手を拭く。向こうも分かっているのか、警戒の気配がひしひしと伝わってくる。この前の教訓が生きているのか、迂闊にこちらの間合いに入ってこない。ならばこちらから踏みこむだけ。もう許せない。いくら姉妹とは言え、お兄様に近付く女は全て―――滅・殺・あるのみ!

『ゴング!』

 それはどちからの言葉だったのか。
 どこから聞こえてきたのか甲高いゴングと共に、再びまたお兄様を巡って戦いが始まる。

 それは、お兄様を巡る、熱く激しい戦い――――

























「ねぇ、白雪ちゃん。あの二人またやってるよ?」
「知らん顔しておくんですの、衛ちゃん。仲が良い証拠です」
「そうかなぁ。顔を合わせると拳を交えてるんだもんね、咲耶ちゃんと可憐ちゃん」
「拳を交えているうちに、きっと友情に目覚めるんですの」
「そんな聖●士星●じゃないんだから……」
「いいんですの。今日はどうやらキッチンでやっている訳じゃなそうですから、好きなだけやらせてあげましょう」
「どうしてウチの姉妹って、あんな過激なのかなぁ」
「過激なのは三人だけですの」
「あんな事ばっかりしてるから、あにぃが寄り付かなくなるだけなのに」
「そうですの。とばっちりを受けるのはいつも姫達ですの」
「大変だよね」
「大変ですの」
「この調子だと今日は二人ともあにぃのトコロには行きそうにないし……」
「衛ちゃんかしこい! そう思って、ちゃんと姫特製のお弁当を作ってありますから、衛ちゃんも一緒に兄様のアパートに行きますか?」
「うん!」
「それじゃあ出発ですの♪」





えんど★



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―――あとがき―――

 という訳で、シスプリ第二段です(^^)。
 今回は咲耶視点で書いてみましたが、いかがでしたでしょうか? いやはやぶっ壊れ……特に可憐ちゃんのお兄さんの皆さんゴメンナサイ、悪気は全然ありません(死)。

 久しぶりにぶっ壊れモノが書きたくて、けれどシスプリが良いというリクエストがあったんで書いてみました。片手間で書いていたので、展開や文章が少々甘い所もありましたが、たまには息抜きにこういうのも書いてみるのも良いかなぁと(^^)。
 今回は咲耶ちゃんメインで書きましたが、掛け合いの相手に可憐ちゃん。そして別視点で白雪と衛を書いてみました。個人的には白雪&衛コンビを書いてる時が結構楽しかったですね。

 悠にとってのシスプリのイメージは、ちょうどこんな感じなんです。
 咲耶と春歌が肉弾タイプ(爆)で、可憐と鞠絵が偽善タイプ(死)、違うトコロを走ってるのが千影で、おバカ一直線なのが四葉と鈴凛って感じです。あとは結構漁夫の利を得るタイプなのではと(^^)。
 人それぞれの感じ方はあると思いますので、これも一つのシスプリの楽しみ方と思っていただければ、それはそれで幸いです。




2002/3/4公開
感想などは[泉蓬寺悠]まで。