Prologue【発端】

 名雪「ねぇ、お母さんはどうして、このジャムを作るようになったの?」

  瓶のフタを手持ちぶさたな指で撫で回しながら、わたしは何気なく訊いてみた。
  鮮やかなオレンジ色。
  ラベルには、ただ大きく『謎』と書かれている。
  あの、摩訶不思議な味のするジャムだ。
  材料なんか訊いたところで、返ってくる答えはひとつだから。
  たった一言「企業秘密よ♪」それで終わりだ。
  ――だから、今日は質問を変えてみた。

 秋子「そうねぇ、強いて言うなら…究極の真理に目覚めたから、かしら?」

  ガタッ!
  音を立てて席を立つ。

 秋子「どうしたの? 昼ご飯、まだ出来てないわよ?」
 名雪「わたし、お腹空いてないからっ」
 秋子「あらあら…」

  お母さんが何か言いかける前に、わたしはリビングを飛び出していた。
  そのまま勢いを崩さずに階段を駆け上がり、右にドリフト急旋回、廊下の突き当たりで急ブレーキ!
  回れ左をすると、目の高さにプレートが掛けられていた。
  『相沢屋敷』
  そのセンスはどうかな、なんて考えてる場合じゃなかった。
  ノックを五回、立て続けに響かせて、返事も聞かずにドアノブを回す。

 名雪「ゆういちっ!」
 祐一「お、おぅ…どうした?」

  ドアを開けると、ちょうど出るところだったのか、わたしの従兄妹が驚いていた。
  よく見ると、外出用の格好をして、髪も簡単に整えられている。
 名雪「ねぇ、いま暇?」
 祐一「あ…あぁ、まぁな」
 名雪「用事とか、あるんじゃないの?」
 祐一「いや、ただ商店街でもブラつこうかと思ってただけだから」

  しめた。
  胸の内でそっとガッツポーズをしながら、わたしは祐一に一歩迫った。

 名雪「ねぇ祐一、お母さんの謎ジャム作り…阻止したくない?」
 祐一「……は?」

  ――水瀬家に、真の平和をもたらすために。





◆◆タイムトラベラーNAYUKI◆◆





Navigation.1【出発】

  ミーンミーンミンミンミーン…。
  ジワジワジワジワジワ…。
  止むことのない蝉時雨に囲まれて、……いや、あまりの熱さに思考が働かない。

 祐一「…で、どこだココは」
 名雪「どこ…だろうね?」

  防波堤に腰を下ろして、最果てまで続いていそうな海を見つめ、はや数時間。
  力を遺憾なく発揮する陽射しは、何物にも侵されず、わたしたちをジリジリと照らして続けていた。
  いや、「照らす」よりは「焦がす」の方が、表現としては適切な気もする。
  陽炎の漂う歪んだコンクリートを、どこまでも歪んだ視界で追い続けて。
  その先に、猫やイチゴサンデーが一瞬見えて、慌てて首を振った。

  ……危ない、危ない。

  ここで意識を失ったら最後、Another Worldに即、まっしぐらですよ!?
  そう自分に言い聞かせながら、何とか意識を保とうと努める。
  もうとっくの昔に、喉なんて渇ききっていた。
  いつしか額を流れる汗も乾いて、乙女の肌に悪いことこの上ない。
  正体不明の理不尽さに苛ついていると、また祐一が絞るような声で呟いた。

 祐一「…なぁ、何で俺たちは、こんな所にいるんだろうな」
 名雪「お母さんの謎ジャムを、何とかするためだよ…」
 祐一「んで、確か――…」

  ボグッ!
  空を見上げ、記憶の回帰を試みようとした祐一の脳天に、痛烈なチョップ攻撃を会心の一撃でお見舞いする。

 祐一「…ってぇな! 一瞬お花畑が見えたぞ、お花畑が!」
 名雪「祐一が変なこと言うから、こんなことになったんじゃない!」



   *   *   *



  ――それは、水瀬家のためだった。
  祐一と一緒にリビングに入って、わたしたちはお母さんと対峙していた。
  あまりの真剣な表情に、お母さんはクスッと微笑んで、

 秋子「ダメよ。結婚は、高校を卒業してからじゃないと♪」

  そう、いつもの『どこまで本気なのか判らない感』の反応を垣間見せたけど、わたしは笑わなかった。
  隣りの祐一が、代わりに真っ赤な顔をして騒いだけど、気にしない。
  すぅっと深呼吸をすると、一歩前進して、わたしは作戦計画を実行に移した。

 名雪「お願い、お母さん…タイムマシン貸してちょうだいっ!」
 祐一「ぐはっ!」

  豪快な音と共に、誰かが転けたようだけど、やっぱり気にしない。
  したたかに全身を打ちつけ、まるで漫画のようにゴロゴロと廊下を転っている。
  でもね祐一、平常心を心掛けていないと、この水瀬家では生きてゆけないんだよ!
  という訳で、今回は自業自得だよ。
  次からは強くあってね、わたしは応援してるから♪
  獅子は我が子を千尋の谷から突き落とす、とも言うからね。
  ……って、そうじゃなく。

  わたしの言葉に、お母さんは――わずかにだけど――驚きの表情を見せた。
  ただ瞬きを二回、それに少し眼を見開いただけだけど、戸惑いも完璧には隠せない。
  手を頬に見慣れたポーズを取り、何かを真剣に考えあぐねているようだった。
  やがて、溜息にも似た吐息をひとつして、いつもの笑顔に戻る。

 秋子「了承」
 祐一「…って、あるんかい!」

  下から45度の傾斜角で、祐一が型にハマったツッコミを入れる。
  さすがにお母さんに直接はツッコめなかったのか、胸から手前5cmの位置で寸止めに留まったようだった。
  臆病だよね、と思う反面、……実行していたら確実に蹴ってたな。わたし。
  まだ微妙に顔の赤い祐一(もしや確信犯?)を見て、お母さんも楽しそうに笑ってる。
  その表情を、わたしにゆっくりと向け直すと、少し心配そうな顔つきをして、

 秋子「…いいけど、一体何に使うの?」
 名雪「正義のために使うんだよ!」
 祐一「お、おい…そんな理由…」

 秋子「了承」

 名雪「やった、今度は一秒だ〜♪」
 祐一「………もぅ、好きにして下さい…」

  がっくりと肩を落とす祐一と、手を挙げて喜ぶわたしとを交互に眺めながら。
  優しい眼差しで、お母さんが暖かく見守ってくれていた。
  そんな笑顔を、わたしは裏切ろうとしてるんだ……。
  そう考えると、胸がチクッ、と痛みを覚えた。

  ――…でも。
  すべては、水瀬家のためなんだと信じて。



   *  *  *



  お母さんが、エプロンのポケットから出した2m四方のカーペット。
  その一角に、簡易装置のようなものが取り付けられていた。
  質量保存の法則が云々とか聞こえたけど、さすがに鬱陶しかったので沈めておいた。

 秋子「気をつけてね」

  お母さんの、少し心配そうな表情に、とびっきりの笑顔を返して。
  取説(注:取扱説明書)は存在しないらしいので、入念に聞いた操作法を頭で反芻しながら、いくつかのボタンを押す。
  適当な時代にチャンネルを調節。
  未来を思い起こさせるような、静かな機械音の唸りが次第に高まってゆく。
  あとは機械に向かって、合言葉を言うだけだ。

 名雪「行ってきます…」
 秋子「夕飯までには、帰ってくるのよ」
 名雪「…うんっ!」

  ふたたび、笑顔。
  合言葉は、お約束かもしれないけど、「タイムスリップ」と言うだけ。
  簡単かもしれないけど、だからといって、軽率なボケは危険を招きかねない。
  間違って「タイ〜ム・スリ〜〜〜ッパ!」なんて叫んだ日には、何が起こるか判ったもんじゃない。
  わたしは天然でなければ、滅多にボケることもないから良いんだけど……。
  そう思いながら、隣りの祐一を白い眼で睨む。

 祐一「………」
 名雪「…………」

 祐一「………」
 名雪「…………」

  ――手屁ッ♪
  どうやら、香里から借りたカイザーナックルでの攻撃が効果的だったらしい。
  白目で、口から泡を吹いて、額を自らの血で真紅に染め上げ――依然沈んだままだ。

 秋子「もう、帰ってこないかもしれないわねぇ…」

  そんな、しみじみと言われても困るよ。お母さん。
  えっと、こういうときは、ギャグ漫画だったらどうにかなると思うんだけど……。

 秋子「ザオ○ク」
 名雪「さすがに身も蓋もないよ、お母さん…」

 秋子「じゃあ、…アレ○ズ?」
 名雪「対処法あまり変わってないよ…」

 秋子「あら、二度も復活させたから、祐一さんが二人に…」
 名雪「…よ、世にも微妙な物語ッ!?」

 秋子「仕方ないわね…じゃあ、片方は原りょ――…あら、何でもないわよ?」
 名雪「………」

  まだ気絶したままの祐一(の片方)を抱き上げ、笑顔でリビングを出ていくお母さん。
  その理由について、少し思索してみる。

   1.口を滑らせたとおり、謎邪夢の原料にしてしまう
   2.美貌を保持するため、若者の精気を吸い取ってしまう
   3.実は謎邪夢の正体は、永遠の若さを保つための魔女の秘薬

  …………

  ………

  ……

  わたし、もう笑えないよ……。



   *  *  *



  ザァァ…。
  ザザァァーーーン…。
  静かな細波の音を聞きながら、わたしたちは深い溜息をついた。
  山と海に囲まれた、お世辞にも『街』とは呼べない片田舎。
  こんな場所で、永遠にも似た海声を聞き続けていると、気が狂いそうになる。
  べつに、わたしたちは観光しに来た訳ではないのだから。
  いまは、他でもない、時の迷子そのものなのだから。

 祐一「…それで、結局はどうしたんだっけ?」
 名雪「タイムマシンが、『合言葉は?』って訊いてきたんだよ」
 祐一「あぁ、…そうだったな」
 名雪「わたしは、タイムスリップ、って答えようとしたんだけど」
 祐一「そうだな、でも、俺は『タイ〜ム・スリ〜〜〜ッパ!』なんてボケてないぞ?」
 名雪「…また沈められたい?」
 祐一「やめてくれ…」

 機械『合言葉は?』
 祐一『Bee〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!』

 名雪「――そう、間髪無く反応してくれたのは、どこの誰だっけ!?」
 祐一「うっ、頭が痛い…七年前、あの街で何があった!?」
 名雪「もう記憶は取り戻したんじゃなかったっけ〜」
 祐一「………海より深く反省しております…」
 名雪「祐一、ラジオの聴きすぎだよ…」

  はぁ、と深い溜息。ひとつ。
  数時間が過ぎようとしているのに、防波堤下の道路には、人っ子ひとり見当たらない。
  虚ろな眼を彷徨わせると、すぐ近くに『武田商店』と看板の見える駄菓子屋のような店が見えた。
  その脇には、アイスの入った冷蔵庫やジュースの自動販売機も備えつけられている。

 祐一「あぁ、せめて何か飲みたいんだがなぁ…」
 名雪「ごめんね、財布忘れてきて…」
 祐一「まったくだ! 名雪も悪いじゃないか」
 名雪「でも、それは祐一だって同じことでしょ!?」
 祐一「俺は出掛ける準備をしていただけだっつぅの」
 名雪「そんなこと自慢しないでよっ!」
 祐一「何だと、この……ッ!」

  腕を高く振り上げ、わたしの頭に振り下ろされた……その瞬間。
  脳裏に、七年前の、雪ウサギを祐一に壊された、あの光景がフラッシュバックした。
  文句を言い返すどころか、腕を上げての防御すら反応が遅れてしまった。
  でも、きっと、顔にはその恐怖が全面に現れてしまっていたのだろう。
  祐一の手が、わたしの頭の直上で止まっていた。
  寸止めしてくれた――いや、せざるを得なかったのかも知れない。
  表情に覗かせた恐怖が、何らかの罪悪感を感じさせてしまったのかも知れない。
  ……そんなつもり、まったく無かったのに。

 祐一「…ゴメン、苛立ってた」
 名雪「う、ううん…わたしこそ、苛立っちゃって…本当にゴメン」

  互いに頭を下げ謝る。
  わたしの声に振り向いてくれた祐一の顔は、いつもの、不器用な笑顔だった。

  良かった……。
  祐一とは、ずっと仲良しな従兄妹の関係を続けていたいから……。
  たとえ祐一に恋人が居て、わたしの想いは、もう伝わらないのだとしても……。
  いまの関係だけは、ずっと崩したくないから……。
  雨降れば地固まる、ともいうから……。
  だから、本当良かった……。

 少女「――…あの」
 名雪「?」

  突然の声に、自分の世界から現実に引き戻される。
  不思議な動物を抱いた小さな女の子が、堤防の下からこちらを見上げていた。
  栗毛色のセミロングに、左右それぞれに結んだ藍のリボンがよく似合う子だった。
  年齢不相応の控えめな笑顔に、あどけなさが見え隠れしている。

  もしかしたら、わたしたちの痴話(?)ゲンカをずっと見ていたのかもしれない。
  何度も話を切り出そうとしては、口を噤んで黙り込むを繰り返していて。
  わたしと祐一は何も言わず、ただ黙って行動を見守っていた。
  やがて、決心がついたのか、少女はゆっくりと口を開くと、

 少女「のど、渇いているんですか?」

  ……それが、わたしたちと、少女との出会いだった。





Navigation.2【遭遇】

  んくっ、んくっ、んく……ぷはぁ〜〜〜っ。
  渇ききっていた喉に潤いを取り戻す。
  忘れられていた汗が額からドッと噴き出し、頬を伝う。
  そんな暑さも、飲み干したコップを置いた、カランという氷の音が忘れさせてくれる。
  緩やかな流れが風鈴を優しく揺らし、さっきまでの熱射地獄が嘘のように思えた。
  清涼。清涼。

 名雪「なかなかのお手前でした」
 母親「そんな、烏龍茶ひとつで大袈裟ですよ」

  本音を台所の暖簾(のれん)に向けると、若い女性――少女の母親が顔を覗かせた。
  困ったような、でも満更でもないような笑みで、器を乗せたお盆を手に近づいてくる。

 少女「おおげさとか言って、お母さん、本当はすごく嬉しいんですよ」
 名雪「あはは、そうなんだ〜…」
 母親「ちょ、ちょっとみちる! またそんなこと言って…」
 少女「だって本当のことでしょ?」

  悪戯っぽい口調で、母親に意地悪を返す少女――みちるちゃん。
  わたしたちの憔悴した顔を見て、同情してくれたのか自分の家に連れてきてくれた。
  旅は道連れ世は情け、って本当だね。
  ……もっとも、わたしたちは迷子になっただけなんだけど。

  海辺で一緒に遊んでくれたお兄ちゃんとお姉ちゃん。
  みちるちゃんは、そう母親に説明してくれた。らしい。
  だったら、お礼って言うのも変だけど、後で一緒に遊んであげようかな。
  せっかく、海辺の町に来た(?)んだから、そうしないと勿体ないよ。
  そんなことを考えていたら、いつのまにか微笑ましい母娘ゲンカは終わっていた。
  苦笑と共に吐息を漏らして、母親がお盆を食卓に、自分も腰を下ろす。

 母親「ごめんなさいね、この子…なかなか鋭いんですよ」
 名雪「いいことじゃないですか」
 母親「はい、でも…鋭いというか、何事にも敏感で、傷つきやすい子なんです」
 少女「………」

  みちるちゃんは、ほんの一瞬、何だか寂しそうな表情を覗かせた。
  その影が気になったけど、次の瞬間、視界に入ってきたものに、わたしの思考は占領されてしまった。

 名雪「うわ〜、イチゴミルク〜」
 母親「朝市で安かったので、たくさんあるんですよ」

  真っ赤なイチゴに、練乳をたっぷりとかけた、わたしの大好物だった。
  イチゴサンデーとイチゴジャムとイチゴミルク、という選択肢があったら、わたしは永遠に選びきれないだろうな。絶対。

 祐一「あはは、こいつ、イチゴに本当に目が無いんですよ」
 母親「そうなんですか? だったら、ちょうど良かったです」

  何だか、ある意味ひどい台詞が耳に入ったような気もするけど、今は聴覚より、視覚と味覚が先ッ!
  スプーンに込める力を一層強めて、すでに戦闘態勢に入ったバーサーカー状態だった。

 母親「どうぞどうぞ、遠慮なさらずに」
 祐一「がっつくなよ、どうでもいいけど…」

  ……その言葉、忘れないからね。祐一。
  胸に刻みつつ、わたしは(出来るだけ理性を保って)イチゴをスプーンですくった。

 少女「………」

  おやつの時間中、みちるちゃんは、やっぱりどこか影のある表情のままだった。



   *  *  *



  何だか、成り行きで、今晩はみちるちゃん家に泊まることになってしまった。
  絶品の夕食も御馳走になって、寝る部屋も用意してくれた。
  それはそれで有り難いことだったけど、わたしたちの置かれている状況は変わらない。
  邪夢の元凶を断ち切るどころか、元の世界に戻れる保証もないのだ。
  祐一がアレを叫んだことによって、本来同時に転送されるはずのカーペットも、無い。
  それに第一、ここがどこの、いつの時代かさえ判らないのだ。
  言葉づかいや科学技術(現在に近い型のTVのリモコンが存在する)などから考えて、そう昔でもないみたいだし……。

 祐一「考えても仕方ないだろ」
 名雪「うん…そうだけど」
 祐一「大丈夫、絶対に何とかなるって」
 名雪「祐一は、楽観的すぎるよ…」
 祐一「じゃあ、なるようになるって」
 名雪「…ケセラセラ、だね」
 祐一「ま、どっかの馬鹿がマリ姉の――…」

  ボグッ!
  どうやら反省が足りないようなので、お望み通り沈めておいた。
  それに「がっつくなよ」という言葉への復讐も込めて。

  あぁ、それにしても香里の武器、攻撃力が高すぎるよぅ。
  少しお灸を据えたいだけだったのに、これじゃあ、わたし殺人犯さんだよ……。
  天窓から見えるお月様は黄色いのに、どうして部屋の中はこんなに紅いんだろう……。

 祐一「まぁ、それはさておき…だ」
 名雪「復活、早ッ!」
 祐一「段々と名雪のボケが、天然じゃなくなってきたような気がしてな」
 名雪「それは、わたしも思ったよ…」

  何だかおかしくて、ふたり笑い合った。
  願わくば、このまま時間が止まりますように――…。



   *  *  *



  そういえば、と口調を低めて、祐一が真剣な顔をした。
  つられてか、わたしも居住まいを正して、それに応える。

 祐一「…あの子、何だか悲しそうな顔してたな」
 名雪「みちるちゃん?」
 祐一「あぁ」
 名雪「そうだね…まるで小さな身体に、大きな悲しみを無理に閉じ込めているような…」

  そのとき。
  不意に足音が聞こえて、わたしは静かに振り返った。

 少女「…おねぇちゃん」
 名雪「あ、みちるちゃん?」
 祐一「どうした、眠れないのか?」

  もう、深夜の零時も近い。
  わたしの不眠症は治りつつあるから良いとしても、みちるちゃんはまだ子供だ。

 名雪「ダメだよぅ、寝る子は育つ、って言うでしょ?」
 祐一「寝すぎても、育たん奴は育たんような気もするが…」
 名雪「なに人の胸ジロジロ見ながら言ってるんだよ〜っ」
 祐一「いや、べつに…」
 名雪「眼を見れば何考えてるか判るっ」
 祐一「べつに、って言ってるだろ!?」
 名雪「祐一の変態ッ」

 少女「――…やめてっ」

  みちるちゃんが、悲しそうな顔で、今にも泣きそうな声で叫んでいた。
  その声に含まれた感情の色に、ハッとなって、お互い顔を見合わす。

 少女「お父さんと、お母さんも…何度も、ケンカして…それで…」
 祐一「!」
 名雪「あっ、そぅ…なんだ…ごめん」

  みちるちゃんが、表情を和らげて、でも一瞬だけで、また泣きそうな顔で。
  一歩、もう一歩、ゆっくりと近づいてくる。
  あと少しで手が届きそうな場所で、ふと立ち止まり、みちるちゃんは天窓を見上げた。
  わたしたちも、その視線を、視界を、ゆっくりと追ってみる。
  ……そこには、先程は気づかなかったけど、満点の夜空が広がっていた。

 名雪「わ、きれい…わたしの街でも、ここまでは見えないよ…」
 祐一「本当だな」

  吸い込まれそうな淡い闇に散りばめられた、無数の星々。
  まるで、この部屋全体がプラネタリウムになっているようだった。
  夏空いっぱいに広がる、星の夜霧――天の川。
  ……そして、双星。

 少女「――…私の本当の名前は、美凪」

  みちるは、生まれることを許されなかった、私の妹の名前。
  お母さんの唯一の支え、心の拠り所だった、祝福されるはずだった……妹の名前。
  支えを失ったお母さんは、私を『みちる』と呼び、姉の『美凪』を忘れてしまった。

  そう淡々と続ける、みちる――美凪ちゃんを、わたしは抱きしめた。
  この暗闇に消え入ってしまいそうな、儚い存在を、この場所に引き留めるために。
  脆く崩れてしまいそうな、弱い心を、壊してしまわぬよう……そっと。

  たぶん、わたしたちが干渉してはいけない事象だと、頭のどこかで理解していた。
  まだその時は来ていない、そして、救いの手を差し出すのは別の誰かなのだろう。と。
  そのことを、感覚的に、神経的に、原始的に、わたしたちは感じ取っていた。

  だから、わたしたちに出来ること。
  それは、ただこうして、美凪ちゃんが泣きやむまで、ずっと――…。



   *  *  *



  朝。
  まだ陽射しの弱い、蝉時雨の弱いうちに、わたしたちは遠野家を出た。
  知人とその娘が遊びに来る、いい人達だから会わせたい。
  美凪ちゃんのお母さんはそう言ったけど、水入らずの所を邪魔したくはなかった。
  それに、一刻も早く、現代に戻る方法を見つけたかったから。
  どうしてもと勧め出る彼女に頭を下げて、わたしたちは歩き出した。

  しかし特に目的地がある訳でもなく、途方に暮れ、結局バス停のベンチに落ち着いた。
  さすがは片田舎というか、バスが一日に数本しか出ていない。
  あと数分で次のバスは来るけど、よく考えたら、わたしたちは文無しだった。

 祐一「…死活問題じゃねぇか」
 名雪「あ〜さ〜、あ〜さ〜だぉ〜」
 祐一「くぉらっ、現実逃避するんじゃない!」

  ズガッ!
  痛烈なチョップが脳天直撃セ○゙サターン。

 名雪「いたいっ…ど、どうしてそんなことするかなぁ…にはは♪」
 祐一「うわ〜、名雪がもうダメだ〜、完全に逝っちゃってる〜っ!?」

  あぁ、目の前にお花畑が見えるよ……。
  ヒマワリの手前には、よく知った三編みの母娘がふたり……。
  そうだった、あの頃、わたしは確かあんな風に……。

 名雪「――…えっ!?」

  一瞬にして意識覚醒!
  何度か瞬きして、目前の光景を見失わないよう凝視する。

 女性「どうも、おはようございます」
 少女「ふぁ…わたし、眠いよぅ…」

  ……今より若いお母さんと、幼少時代のわたしだった。





Navigation.3【邂逅】

  バスから降りて、お母さんたちは、町へと続く道路を歩いていった。
  急に再会できた、そのあまりのショックに、しばらく呆然と眺めていると、

運転手「乗るの? 乗らないの?」

  不機嫌な声とクラクションが聞こえ、わたしは慌てて首を降った。
  乗降扉が乱暴に閉まると、もわっという熱気を連れ、唸るようなエンジン音と一緒に、バスは反対方向へ走り去っていった。
  あとに残されたわたしは、それでもまだ、二人が去っていった方向を凝視していた。

 名雪「まさか、美凪ちゃんのお母さんが言ってた『知人』って…」
 祐一「その考えは短絡的すぎるんじゃないか?」
 名雪「でも、もしそうだったら、何か解決策が見つかるかもしれない!」
 祐一「……って、おい! ちょっと待て!」

  駆け出したわたしの腕を、祐一が乱暴に引っ張る。
  文句を言い返そうとしたら、それすら予想していたのか、両肩を強く掴まれて、

 祐一「なぁ、確か、過去の自分に干渉すると、何かヤバいんじゃないのか?」
 名雪「…どういうこと?」
 祐一「よく分からないけど、SF(サイエンス・フィクション)漫画とか小説とかで、そういう暗黙の了解みたいなのが…」
 名雪「だったら、何もするなって言うの!?」
 祐一「そうじゃないけど…俺たちの本来の目的って、謎邪夢誕生の阻止だろ?」
 名雪「うかつな行動は、未来への余計な変化をもたらす…ってこと?」
 祐一「まぁ、とにかく、気をつけろ…ってこった」

  それこそ安易じゃないかな、と思ったけど、反論はやめておいた。
  もし目的地が遠野家でなければ、見失ってしまう可能性も高い。
  どちらにせよ、早く追いかけた方が賢明だった。

  まだ、わたしたちには知る由もなかった。
  そう……まさか、あんな恐ろしい結末が待ち受けているだなんて――…。

   *  *  *

  遠野家の玄関に、若い(いや、今でも十二分に若いけど)お母さんと幼いわたしが、吸い込まれるように入っていく。
  良かった、どうやら予想は的中したらしい。
  こんなとき、陸上部を続けていて本当に良かったと思う。
  後方からようやく追いついた祐一の、可哀想なくらい苦しい姿を横目で見ながら。
  呼吸するたび顔を苦悶の表情に歪めて、全身から滝のように汗を出して。
  きっと今頃、口内では血の味がしてるんだろうなぁ……。

 祐一「ちょ、ちょっと、い、いいか?」
 名雪「ん?」
 祐一「これが、もし、本当に、過去の、世界だった、として…だ」
 名雪「う、うん…」

 祐一「お前、この町に来た、記憶とか…無いのか?」
 名雪「……え…」

  ド…クンッ。
  心臓が、一瞬止まり、それから一気に跳ね上がった。
  いま、祐一が真剣に、わたしに訊いた言葉が、その意味が、脳内を浸食してゆく。
  鼓動が高鳴ってゆくと共に、鈍く、鋭く、深い痛みが、わたしの思考を蝕んでゆく。

 『オマエ、コノマチニキタ、キオクトカ…ナイノカ?』

  ねぇ祐一、それって……どういう意味?
  あははっ、変な質問だよね、どう考えたって……そのままの意味なのに。

 『オマエ、コノマチニキタ、キオクトカ…ナイノカ?』

  どうして……。
  たった、それだけのことなのに……。
  なんで、わたし、こんなにも、その言葉が、怖いんだろう……。

 『オマエ、コノマチニキタ、キオクトカ…ナイノカ?』

  怖い。
  コワイ。
  こわい……。
  こわいこわいこわいこわい。
  こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいッッッ!!!!!!

 祐一「おいっ、名雪!」
 名雪「ふぇ?」
 祐一「いや、ふぇ?じゃなくて…」
 名雪「…………」
 祐一「何か、あったのか?」

  その事実を認めるのが、口に出すのが、怖かった。
  言ってしまったら、その瞬間、まるでわたしの存在が消えてしまうような気がして。
  でも、心配そうな祐一の顔を見ていたら、何だか、恐怖感が少しだけ薄れたような、安堵感にも似た感情が生まれた気がして。

  馬鹿だよね、わたし……結局まだ祐一のこと、吹っ切れないでいる……。
  だけど、もう覚悟を決めるしかなかった。

 名雪「…あのね、祐一」
 祐一「あぁ」

 名雪「わたし、ここに来た記憶、無いんだよ…」

  本当に、まったく……無いんだよ。



   *  *  *



  祐一は、呆然としていた。
  わたしの告白に、ただただ驚いていた。

  ……それもそうだよね。
  その苦しみを、祐一は七年間も、味わってきたのだから。
  たとえ本人は気づいてなくても、その心は、ずっと痛みに耐えてきたはずだから……。

  記憶の喪失。そして認識。
  抜け落ちた自分の欠片ほど、捜しやすくて、捜しにくいものは他にないと思う。
  少しでも情景を思い出せるのならともかく、思い出せないとなると……。
  きっと、ここで、肉体的か、精神的に、多大なショックを受けたのかもしれない。

 祐一「なぁ、小さい名雪、助けた方が…良いんじゃないか?」
 名雪「…う、うん」

  インターフォンを鳴らすと、まもなく扉が開いて、誰かが顔を覗かせた。
  それは、左右それぞれで結んだ三編みを両肩に垂らした、幼い、わたしだった。

なゆき「…お姉さんたち、誰?」

  抱きしめたら、ダメなんだろうか。
  近い将来、悲しいことがあるかもしれないけど、決して絶望しちゃダメだよ。
  好きな人に、想いが伝わるかどうかは判らないけど、きっと諦めちゃダメだよ。
  その三編み、本当は祐一も嫌ってないから、絶対にやめちゃダメだよ……。
  ……それすら、教えてしまったら、いけないのだろうか。
  
 名雪「えっと、わたしたちは、美凪ちゃんのお友達だよ」

  何とか、それだけ、口にすることが出来た。
  幼いわたしは、訝しげな表情を、すぐにパッと笑顔に変えて、

なゆき「うんっ、いいよ〜♪」

  ……もう少し、疑うことを覚えようよ。わたし。



   *  *  *



  居間に入ると、美凪ちゃんが、眼を見開いたのが分かった。
  でも、すぐにそれは、穏やかな微笑みに取って代わって。

みなぎ「こんにちはっ」
 名雪「美凪ちゃん、こんにちは」
 祐一「オッス」
  丸い食卓を囲む顔の中に、お母さんたちは居なかった。
  その周りには、トランプやボードゲームが散らばっている。
  どこ行ったのかなぁ?としきりに首を傾げていると、

みなぎ「お母さんは、秋子お姉さんと一緒に、何か作っていますよ」
なゆき「うちのお母さんとね、すっごく料理が上手なんだよ〜」

  二人の笑顔が、いまは……どことなく、痛々しかった。
  ダメだね、わたしだけ、こんなこと考えていたら、この子達にも伝染してしまう。

 名雪「えっと、じゃあ、わたしも手伝ってこようかな」
なゆき「ダメだよ〜、お母さんたちの邪魔しちゃあ」
 名雪「大丈夫! お姉ちゃんも、よくお手伝いしてるから、料理は得意なんだ〜」

  笑顔を返して、祐一と一緒に暖簾を潜った。
  その先の台所に、美凪ちゃんのお母さんと……若いお母さんは、居た。

 母親「あら、戻ってこられたんですか?」
 名雪「はい、それに…何か手伝いたくって」

 秋子「お知り合い?」
 母親「あぁ、昨日、みちると一緒に遊んでくれたらしくて」
 秋子「みな――みちるちゃんと?」
 母親「あの子、友達少ないから、本当に有り難かったわ」
 秋子「…そぅ」

 母親「えっと、そうねぇ…じゃあ、秋子をサポートしてあげて」
 名雪「あ、分かりました〜」

  お母さんと、美凪ちゃんのお母さんは、それぞれ分担作業をしているらしい。
  わたしは、ボロを出さないよう細心の注意を払いながら、お母さんに声をかけた。

 名雪「あの、秋子…さん…」
 秋子「…あら? あなた、どこかで会ったこと――…」

 祐一「!」
 名雪「なっ、ないです! 全然ないです!」
 秋子「そぅ? 変ねぇ…」

  お母さんを名前で呼ぶという、強烈な違和感に、必死に耐えていたのに。
  その矢先の、急な反応だったから、思わず慌ててしまった。
  気を抜くと、声を掛けられての反応が「なぁに、お母さん?」になってしまいそうで。
  わたしは何度も、胸に掌を宛てながら、必死に落ち着こうとしていた。

 名雪「…そ、それで…いったい何を作ってるんですか?」
 祐一「お、俺…何だか嫌ァな予感が…」

 秋子「ジャムよ♪」

 祐一「やっぱりぃぃぃぃぃぃっっ!!?」
 秋子「あら、どうしたの?」
 名雪「いえ、ななな何でもないです〜」

  これ以上余分なことを口走る前に、肘鉄で黙らせておく。
  脇腹にクリーンヒットしたみたいだけど、謝っている余裕もない。

 秋子「ニガウリとオレンジマーマレードで変わった味を出そうと思ってるんだけど…」

  ……道理で凄まじい味がすると思ったよ、あの邪夢。
  でも、それにしては、お母さん、何だか不満そうな顔してるな……。

 秋子「だけど、何て言うのかしら…これぞ!って味が出せなくてね」

  あれ、何だろう。
  何か、重大なことを思い出せそうな。
  そう、このあと……確か、幼いわたしは……。

 母親「だったら、お米とか入れてみたら?」

  ……その冗談めいた一言が、何かを鮮烈に呼び覚ました。



   *  *  *



  そうだ。
  確かにあの時、お米の味もしたんだよ。あの邪夢。
  ようやく思い出せた……わたしの、記憶喪失の原因が。
  初めて食べた、あの摩訶不思議な邪夢の味に、気を失って……。
  きっと、倒れたときに頭でもぶつけて、その打ち所が悪かったんだろうな……。
  ……となれば。だ。

 名雪「あ、ああああのっ、イチゴとか、どうですか!!?」

  あまりにも高速で喋ったので、呂律(ろれつ)が回ったかどうか判らない。
  とにかく、その米邪夢の陰謀だけは、何としても阻止したかった。
  お母さんは、少しだけ眼を見開いて、しばらく思案に暮れていたけど。
  やがて、ゆっくりと眼を閉じて、再びゆっくりと開いて。
  わたしを見る目は、とても穏やかだった。

 秋子「そぅ、ね…そうしましょうか」
 名雪「やっっった〜〜〜♪」

  これにて、ようやく任務完了。
  短いようで長い道のりだったけど、取り敢えずビバ!いちご!
  呆気な〜、という声が聞こえた気がしたので、今度は裏拳で黙らせておく。
  現代に戻る方法は、まだ判らないけど……。
  いまは、喜びの方が大きかった。

 秋子「…ねぇ、ところで」
 名雪「なぁに、お母さんっ?」

  …………
  ………
  ……

  ピキッ。
  音を立てて、空間に亀裂が入った。
  最初はギャグ的な効果かなと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだった。

  ピシ、ピシッ。
  ビシビシビシッッ!!!

  音は次第に強く、大きくなっていって、すべてを呑み込もうとしていた。
  えっと、たしか、時間を移動したとき、自分を含む知人に正体を知られたら、何だかマズい事になるって……その手の本に、書いてあったような……?

  考えても、もう時すでに遅し、後の祭。
  やがて空間に歪みが生まれて、わたしたちは、何も出来ないまま、吸い込まれてゆく。
  せっかく目的を果たしたのに、こんな終わり方なんて、イヤ……だよ…………。

  ……そして、意識も、やがて混濁していった――…。





Epilogue【悪夢】

  うっすらと目蓋を開ける。
  ぼやけた視界の中で、見慣れた顔が覗き込んでいた。

 秋子「大丈夫?」
 名雪「………」

  むくりと起き上がって、周囲の状況を確認してみる。
  隣りには祐一、床にはタイムカーペット、場所は水瀬家のリビング。
  どうやら戻って来られた、と考えて間違いないらしい。

 秋子「それで、正義の行いは?」
 名雪「正義は、必ず勝つんだよっ♪」
 秋子「うふふ、じゃあ、お昼ゴハンにしましょうか」

  嬉しそうな顔で、キッチンに入っていくお母さん。
  ゴメンね、心配かけて……それから、騙すようなことをして。
  でも、こんなこと、もう二度と繰り返さないよ。
  ……次からは、祐一の口は塞いでおくから。

 祐一「うっ、…う〜ん」
 名雪「おはようございます」
 祐一「えぁ? あ、おはよう名雪」

  従兄妹の寝ぼけた顔を見、いつもと立場が逆なことに気づき、思わず笑ってしまった。
  声を上げて、目尻に涙を溜めて、ふたり一緒に、笑ってしまった。
  ……水瀬家に、ようやく真の平和が訪れたのだと信じて。

 秋子「…ねぇ、ところで」
 名雪「なぁに、お母さんっ?」

  そのとき。
  強烈なデジャ=ヴ――既視感――に、わたしは襲われた。
  お母さんは、わたしを見て、くすくすと無邪気な笑みを浮かべていた。

  どうしてだろう……。
  その笑顔が、いまは嫌で嫌でたまらなかった。
  大好きなはずの、お母さんの笑顔なのに……どうして……。

 秋子「過去への干渉は、実は何の影響もない、って…知ってた?」
 名雪「………え…」

  お母さんの言っている意味が、よく分からない。
  その真意が、理解できない……いや、したくなかった。

 秋子「過去はね、『未来』は変えられるけど、『現在』は変えられないのよ」
 名雪「え? えっ? …えっ!?」
 秋子「何をしてきたのかは、敢えて訊かないけど…」
 名雪「………」
 秋子「変えたのは、その過去に対する『未来』であって、『現在』の時間軸にはね、実は何の影響もないの」

 名雪「…えっと」
 祐一「つまり、その…」

  コトッ。
  悪戯っぽい笑顔で、お母さんが食卓に置いた、鮮やかなオレンジ色の――瓶。

  それは――…。


                                  【終】

 

 

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