前奏【初秋の朝】

 朝。
 小鳥のさえずりで目が覚める。
 枕元の時計を見ると、午前8時前。
 ゆっくりと起き上がると、頭に鈍痛が走った。
 ……昨日は、久々に泣いたから。
 胸元に抱きかかえていた写真立ての中には、あの人の変わらぬ笑顔。
 その隣に寄り添う女性――過去の私は、いまよりも自然な笑みを浮かべていた。
「時間って、本当……残酷よね」
 率直な言葉が、早朝の静けさに吸い込まれてゆく。
 外の静けさと、この部屋の静けさは違うから。
 何だか、隔離されたような感覚があった。
「それは、そうよね」
 あの人のことを、いつまでも忘れられずにいる。
 いつか帰ってくるだなんて、都合のいいことばかり考えている。
 また、目頭が熱くなった……そのとき。

 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッ!!!

 階上から、くぐもった音。
 名雪の部屋だろう。幾重にも鳴り響く目覚まし時計。
「……今日は祝日だから、お休みなのに」
 きっと、いつもの習慣でセットしてしまったのだろう。
 部活は夏の大会を最後に引退しのだし、早起きする理由はないのだから。
 もっとも、だからこそ、私もこうしてのんびりとしているのだけど。
 二階の廊下を歩く、トタトタという音。続いて怒声が聞こえる。
 申し訳ないけれど、あの子のことは彼に任せて、朝食の支度をしなくては。
 私は写真立てを机の定位置に戻すと、気怠さを振り払うよう足早に部屋を出た。
 廊下から見える外の景色は、独特の哀愁漂う空気に満ち満ちていた。
 名雪や祐一さんたちの受験戦争も近い、枯葉の舞う、寒さを帯びた長月の風。
 こんな日は、否が応でも悲しい出来事を思い出してしまう。

 あの人が居なくなった秋から、どれだけの季節が巡ったのだろう――…。



◆◆ Happy Days −秋風− ◆◆



第1楽章【いつもの食卓】

 熱したフライパンに、卵を三つ落とす。
 二人ともレア(半熟)が好みなので、塩胡椒で味付けをしつつ、強火で焼く。
 蓋をすること約四十五秒、開けてみると、予想通りの仕上がりだった。
 そういえば、最初は卵の殻を割ることにさえ四苦八苦していたような気がする。
 悔しくて何回も練習して、料理に興味を持って……今では作れない料理の方が少ない。
「名雪は……まだまだよね」
 以前、祐一にお弁当を作るから、とハンバーグの味見を頼まれたことがあった。
 初めてではないので、味は良かったけど、弁当向きの味ではなかったような気がする。
 詰めが甘いというか、料理も恋愛も経験不足なのだろう。
 まぁ、あの子は祐一さんのことを七年間もずっと想い続けていたのだから……。
「本当、二人とも不器用よね……」
 自分のことを棚に上げながら、思わず笑ってしまう。
 と。思考を張り巡らせている合間にも、チン、とトーストが焼き上がってしまった。

「……おはようございますふゅ〜」
「お前、リビングに入った瞬間に寝るなよ……っと、おはようございます」

 ちょうど支度を終えたとき、名雪と祐一さんが顔を覗かせた。
「おはようございます。祝日なのに、早いですね」
 ちなみに時計の針は8時30分を指し示している。
 平日であれば、もう学校の始まる時刻ではあるのだけど、今日は休戦日。
 受験を目前に、名雪も心構えが出来てきたということなのだろうか。
 この子は思った以上に成長しているのかもしれない。
 ……それはそれで、寂しいものはあるけれど。
「今日はね、祐一とデートだから」
「げっ!」
 名雪が嬉々とした声で、幸せそうな笑みを覗かせる。
 慌ててその軽口を塞いでも、いまさら遅いですよ。祐一さん。
「そう、帰りは……遅いの?」
「わっ、お母さん、何てこと言うの〜」
 見ている私が恥ずかしくなってしまうほど、赤面して慌てふためく二人。
 好き合うということは、そういった事態も否定できないとは思うのだけど。
「良かったわね。今夜は赤飯かしら……」
「わ〜〜〜っ、わ〜〜〜っ!!」
「落ち着け名雪! 秋子さんも、からかうのは止めてくださいよ!」
「……ふふっ、相変わらず仲がいいですね」
 何か言いたげな視線を受け流しつつ、出来上がった料理を食卓に並べていくと、
渋々顔で祐一さんは席に着いた。隣席ではなく、わざと一間隔空けて座る名雪。
「どうして離れるんだよ。意識してるって丸分かりで、逆に恥ずかしいぞ」
「ちっ、違うよ〜! ここは、けろぴーが座るのっ」
 顔を真紅に染めながら、空いた席に手にしていたカエルのぬいぐるみを置く。
 その様子を見て、私は安心してしまった。この子はまだ子供なのだと。

 わたし……私たちの、子ども――大切な娘――なのだ、と……。

「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさい」
 当初の目的も忘れて夫婦漫才を繰り広げかけた二人の前に、あれを出す。
 水瀬家秘伝の、泣く子も黙らせる、伝説的な味の、あのジャムを……コトリ。
「「!!!!!!」」

 清々しい朝の静寂を破って、若い男女の悲鳴が近所一帯に響き渡った。



第2楽章【凍刻の地】

 風が緩やかに吹いていた。
 他人を拒絶するように、その場所はひっそりとしていた。
 でも、陰鬱な雰囲気はない。私を拒絶する意志も、感じられない。
 あの人が……私が世界で一番愛した人が、いまでも眠る場所だから。
 隣町の丘陵地帯の中腹に位置する、ものみの丘も近くに見える大きな霊園。
 その一角で、凍りついた刻の中に、いま私は立ち尽くしていた。
「今年も、来ました。お盆ではなく……この日を……また、選びました」
 下げていた面を戻すと、視界に入ってくる墓碑。
 そこに刻まれた、夫の名前。もう、ずっと昔の“今日”から変わらぬまま。
「ごめんなさい……まだ、名雪には言ってません」
 もう一度、申し訳なく頭を垂れる。
 今年も連れて来なかった、娘と、再会を待ち望んでいるはずの、彼に対して。
 本当は迷っていた。連れて来たくない訳ではなかった。
 でも、名雪は、自分の大切な人とデートに行く、と言ったから。
 積年の想いを、勇気を振り絞って本人に伝えた、その勇気は評価したいから。
 今年始め、私が事故に遭った前後だろうか……薄々勘付いてはいたけれど。
 こう表立って二人で遊びに行く、と意志表示を受けたのは今日が初めてだったから。

 それでも、名雪は意外と早く帰ってきた。昼過ぎくらいだっただろうか。
 恐らくは一緒に映画を見て、外食をしてきただけなのかもしれない。
 少し遅れて祐一さんの声。何かを隠したまま、すぐ階上へと行ってしまう。
 後を追いかけて名雪も消え、私はリビングにひとり残されてしまった。
 手持ちぶさたになり、逃げるように自室に戻ったとき、あの写真立てが目に入った。
 あの人とふたりきりで映った、若い頃の、思い出の写真だった。
 祐一さんの部屋からは、かすかに二人の楽しげな声が聞こえてくる。
 ……わたしは、もしかしたら邪魔なのかもしれない。
 途端に空気が重く感じられた。
 自分の家の、自分の部屋にも関わらず、だ。
 何だか、寂しかった。孤独心が全身を蝕んでゆく。
 私から逃げるような二人の態度に、ではない。
 もう大人になった娘に、私は必要ない、と心のどこかで悟ってしまったから。
 そして、昨夜のように、あの人との思い出を、鮮明に思い出してしまったから。
 身支度を整え、私は逃げるように玄関へと急いだ。
「あれ、お母さん……どこか行くの?」
 扉を開けかけたところで、リビングに入ろうとした名雪に声を掛けられた。
 別に娘や甥を捨て、この家を出て行こうという訳ではない。断じて。決して。
 でも、振り返った先に、祐一さんに肩を抱かれて、恥ずかしそうに笑う、名雪の姿が
目に入ったから。ふたり笑い合う光景に、在りし日の私たちの姿が浮かんだから。
「名雪と二人で夕飯つくるんで、今日は、楽していてください」
「どこに行くのか知らないけど、早めに、帰ってきてね♪」
 幸せそうな、暖かな笑顔で送り出される。急かされるように。

 だから。最愛の夫のことを……あの子には、言えなかった……。

「責任転嫁よね。言う勇気がないだけ。恐怖心を、言い訳にしているだけ……」
 過去の悲しい出来事――真実を言えば、名雪はきっと泣いてしまう。
 母親として、愛娘をむざむざ泣かせるようなことはしたくない。
 そう自分に言い聞かせて、現実から逃げ続けているだけ。

 …………もう、十五年になろうとしているのに。

 名雪が幼少の頃だった。
 ようやく、言葉を数多く話せるようになった、とある夕方。
 イチゴショートが食べたい、と名雪が駄々をこねて泣いていた。
 私は体調が優れず、ケーキ屋まで行くのはとても無理だった。
 というのも、二人目の子どもを身籠もっていたから。
 私たち家族は幸せの絶頂期だった。
 夫の仕事も軌道に乗って、連日残業をしていた。
 でも、その日は、たまたま定時で帰ってきた。
 疲れているはずなのに、夫は名雪を抱き上げて「ケーキ屋までパパと一緒に行こうか」
と微笑んだ。名雪もつられて笑った。あの子は、あの頃は夫にベッタリだった。
 いま思えば、無理にでも車の助手席に乗って、一緒に行けば良かったのかもしれない。
 ……寒気が全身を襲った。
 それは、二人が自転車で家を出て、五分ほど経った頃だった。
 薄暗い静寂を破って、黒電話が嫌に大きく鳴り響いた。
 重たいお腹を押さえながら、覚束ない足取りで数メートルを渡り歩く。
 受話器を取り、姓を名乗った私の耳に、落ち着いた、しかし重い声が事実を告げた。

 夫が名雪を子連れ用の自転車に乗せ、ベルを鳴らしながらゆっくりと発進してゆく姿は
今でもしっかりと目に焼付いている。振り向く彼の、明るい微笑みを、いまでも――…。

 何故なら……それが、あの人の最期の笑顔だったのだから。



第3楽章【空の笑った日】

 いつしか、茜色の空の下で、風が凪いでいた。
 私は夫の墓前で、震えながら立ち尽くしていた。
「………っくぅ」
 最期を看取れなかった悔しさ、悲しさが、また込み上げてくる。
 あのとき。電話での、医師からの説明は簡単だった。
 よくある交通事故だった。
 直線で見通しの良い交差点。
 青信号で横断歩道を渡る夫たちを、居眠り運転のトラックが跳ねた。
 夫は咄嗟ながらも、跳ねられた瞬間に娘を抱え込んだ。
 結果。大泣きしてはいたものの、小さな名雪は軽傷で済んだ。
 そして、夫は名雪よりも外傷だけは少なかった。
 しかし、打ち所が悪く……彼は、ついに帰らぬ人となった。

 いまとなっても、いくらでも“if”は考えてしまう。
 いまとなっても、頭の中から“if”は消えはしない。

 でも。名雪を恨む道理はない。まさか恨んでもいない。
 あの人と私との間に生まれた、大切な、大切な娘だから。
 母親としても、ひとりの人間としても、名雪を愛しているから。
 ……だからこそ。
 その名雪に、いつまでも事実を隠している自分が、ひどく情けなく、そして憎かった。

 孤児の出だった私の深い想いを、あの人は真正面から受け止め、抱き留めてくれた。
 名家『水瀬』の長男だった彼の死後、遺産相続の関係で、本当は家名を捨て、抜け出す
つもりだった私を引き留めてくれたのは……名雪の存在だった。
 遺産なんて要らなかった。
 ただ、夫である彼の姓――同じ水瀬の姓を、名雪に遺してあげたかったから。
 あの人の名残を、少しでも名雪に受け継がせてあげたかったから。
 だから、私は本来の遺産相続額の権利のほとんどを放棄した。
 これからは名雪と二人だけで頑張っていこう。
 死産になってしまった、次女の分まで、大切に育てよう。
 そう思って、ありったけの愛情を名雪に注いできたつもりだった。
 私とは血の繋がってない、義姉である祐一さんの母にも、あまり頼ることなく。

 なのに、その結果が……恐怖心から、娘に、もうひとりの愛情を隠し続けてきた。
 今日名雪に感じていたものは、寂しさではなく、本当は居たたまれ無さだったのだ。
 もう、あの子と、正面から向き合えないような気がした。
 もう、私は……完全に母親失格だった。
「……ごめんなさい、名雪ッ」
 地に伏せて、思い切り泣いた。
 それは寂しさではなかった。
 悲しさや、悔しさでもなかった。
 申し訳なさと、自分に対する憤り。
 最愛の夫の墓前で、地面に叩頭して、伝わるはずのない謝罪を繰り返す。
 いや。本当は、あの人を愛する資格すら、私には無かったのかもしれない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさいっ」
 自己満足にすら成り得ない、自虐的な行為が、逢魔ヶ時の濃い真紅に沈んでゆく。
 自分の居場所を自分で限定して、制限して……いつまでも、繰り返し繰り返し……。
「もう、わたしは……どうしたらいいのか、分からないですっ!」
 あの人を失って以来、一度も吐かなかった弱音が。ついに。出てしまった。
 これまで封印していた自分の弱い部分が、脆い心が、堰を切ったように溢れ出てきた。
 わたしは、もはや、この場所から動けずにいた。

「お母さんは、お母さんで居てくれれば、それで良いんだよ」

 風が……優しく揺らいだ。
 ジャリ、と足音が遠くに響いて。
 その人影は、しかし、いつのまにか近くに佇んでいて。
 見上げた私の顔を見ても、変わらずに微笑み続けていてくれて。
 よく知った面影が、涙に歪んで、焦点が定まらない。
 ハンカチで涙を拭った。指で目を擦ってみた。
 それでも、それは夢でも幻でもなく、そこに存在していた。
「……どうして?」
 この場所を知ってるの。来てしまったの。私に微笑んでくれるの?
 どうして……私を、まだ『お母さん』と呼んでくれるの?
「お母さんって、たまに抜けてるよね」
 クスッ、と可笑しそうに笑う。
 頬に手を宛てた仕草が、誰かを彷彿とさせた。
「お母さんは、お母さんなんだから、お母さんに決まってるよ」
 それはどこか間の抜けた、変哲な日本語だった。
 でも、名雪らしい言葉の、その真意は、痛いくらいに理解することができた。
 そして……いまの私には、勿体ないくらいに出来すぎた答えだった。
「それにね、お母さんが事故で入院したとき……院長先生が教えてくれたの」
 ……お父さんのことを、と悲しそうな寂しそうな視線を墓碑に向ける。
 名雪が挙げた医師の名、それは確かに聞き覚えがあった。
 あの人が亡くなったとき。電話を下さり、また夫を看取って頂いた方だった。
「お母さん、今日は変だったから……時間を見計らって……来ちゃったよ」
 舌を軽く出して、母親に悪戯がバレた子供のようにおどけてみせた。
 二人で参り直し、祐一が待っているから、と急かす名雪と一緒に帰途につく。

 最後に、もう一度墓碑を振り向くと……あの人が、微笑んでくれたような気がした。



最終楽章【秋の夜風はただ優しく】

 帰りしな、名雪はしきりにあの人のことを訊いてきた。
 やはり三歳児の記憶は曖昧なものらしく、私が語る思い出すべてに耳を傾けていた。
 最期の話をすると、さすがに表情を曇らせて、でも声だけは穏やかなまま、
「お父さんは……わたしを、守ってくれたんだね」
 とだけ言って、押し黙ってしまった。
 悲しそうに肩を震わせる名雪に、そっと手を置くと、
「でも……わたし、その頃からイチゴが好きだったんだね〜」
 目尻に涙を浮かべながら、懸命に明るく笑おうと努める。
 それがたとえ本心であれ、前向きな姿勢であれ、私はつくづく名雪に感謝した。
 あの場所から動けずにいた私を、ここまで連れ出してくれたことも含めて。
「……ごめんね、名雪」
「違うよ、お母さん」
 私の言葉に小首を傾げ、名雪は困った笑みを浮かべた。
 そのまま立ち止まって、私を正面から向き合わせて。
 一瞬。怒った表情をすぐに笑顔へと変えて。
「相手に感謝の気持ちを伝えるときは……ありがとう、だよっ♪」
 言葉を失った。言葉が返せなかった。
 今日は、名雪と母娘の立場が入れ替わっているのではないだろうか。
 そんな錯覚さえ感じてしまう。
 でも、不思議と違和感や嫌気はまったくしなかった。
 もう、寂しさも感じなかった――だから――。

「……ありがとう、名雪……」

 水瀬家の玄関……いや、家中の明かりが消えていた。
 祐一さんが待っていると聞いたけど、いまは用事で出掛けているのだろうか。
 名雪の笑顔は先程から消えないままだった。
 落ち着いてみると、今日の会話は恥ずかしいものだらけだった。
 この子は気にしていないのかもしれない――むしろ、そうであってほしい。
 でも、私は顔を合わせるだけで恥ずかしかった。
 まぁ、二人であの人を参ることが出来ただけ、有り難いのは事実なのだけど。
「「ただいま」」
 声が闇に吸い込まれてゆく。
 いつもは遅くなる前に帰るか、帰宅時には誰かが居て、こうも薄暗い我が家を見たのは
久しぶりで、あまり気持ちの良いものではなかった。まるで、夫の通夜のような――…。
「お母さん、お腹空いちゃったよ〜」
「そう言えば……自分達で作るって言ってなかった?」
「違うよ。作ったからこそ、早く食べたいんだよ〜」
「はいはい」
 肩を押されてリビングの扉を開け、手探りで照明のスイッチをONにする。
 ……そのときだった。

    パパパンッッ!!!
      パパパンッッ!!!

 部屋が明るくなると同時に、耳をつんざくような鋭い破裂音。
 キラキラと舞う細かい飾り、垂れ下がるように流れる細長い紙からして、
「……クラッカー?」
 正面には祐一さんが、後ろには名雪が紐を引いたまま笑顔で立っていた。
 そして、彼の後ろの食卓には、作っておくからと言っていた食事が並べられていた。
「こんな御馳走、どうしたの……それに、今日は……」
 疑問を発する前に、名雪も私の正面に回って、ふたり口を揃えて、

「「お誕生日おめでとうございます!!」」

 名雪の拍手が、祐一さんの拍手が、聞こえなかった。
 その姿、動きは見えているはずなのに、すべての音が聞こえなくなっていた。
 食卓には明らかに手作りの――少し不細工だけど、心の籠もった――豪華な料理。
 中央には、恐らく名雪の意見が強く取り入れられたであろう、赤いイチゴのケーキ。
 やっと耳が音を取り戻しても、私は、まだ思考が沈静してはいなかった。
「あ〜、やっぱりお母さん、自分の誕生日も忘れてる〜……」
「日頃の感謝を込めて。それに、今日は俺が祝う初めての秋子さんの誕生日ですし」
 二人に流されるまま席に着き、祝いの歌が厳かに、しかし軽やかに口ずさまれる。
 合掌をして、年に一度(あるいは三度)の晩餐が開始される。
 まず、鶏肉にチーズとアスパラガスを挟んだフライを一口。
「………美味しい」
「やったな、名雪!」
「うん、良かったよ〜っ」
 詰めが甘いとか、経験不足とか、そんなことを思っていた自分が恥ずかしかった。
 まだ、私は必要ではあるだろうけれど。
 この子は……名雪は、もう子供ではない。
 それは孤独感や、寂しさではない。恐れでもない。
 娘の成長を願い、見守る……親としての、誇り……。

 そうですね。これで、良いんですよね……。
 だとしたら――…。

「本当に、ありがとう……名雪」
「ううん、だったら、私の方こそ……産んでくれて、ありがとう……お母さんっ」


 ……今日は、本当に幸せな日。
   そして、これからも――…。



                                 【FIN】



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第α楽章【こんな結末】

 秋子「………ところで、お二人とも」<笑
 名雪「なぁに、お母さん」
 祐一「何ですか?」

 秋子「ケーキのローソクですけど…ちょっと、本数多くないですかぁ?」<ゴゴゴ…

  …コトリ。<秘伝

名&祐「「ひいいいぃぃぃぃぃぃっっ!!?」」


  さっ…サバ読んじゃダメですよ、秋子さん…?<怯



第β楽章【こんな心情】

  合掌をして、年に一度(あるいは三度)の晩餐が開始される。
  まず、鶏肉にチーズとアスパラガスを挟んだフライを一口。

 秋子「………美味しい」
 祐一「やったな、名雪!」
 名雪「うん、良かったよ〜っ」

  詰めが甘いとか、経験不足とか、そんなことを思っていた自分が恥ずかしかった。
  まだ、私は必要ではあるだろうけれど。
  この子は……名雪は、もう子供ではない。
  それは孤独感や、寂しさではない。恐れでもない。
  娘の成長を願い、見守る……親としての、誇り……。

  そうですね。これで、良いんですよね……。
  だとしたら――…。

 秋子「本当に、ありがとう……名雪」
 名雪「ううん、だったら、私の方こそ……産んでくれて、ありがとう……お母さんっ」


  ……今日は、本当に幸せな日。
    そして、これからも――…。


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 祐一「………あれ?」


  …おっ、俺も一生懸命手伝ったんですけどッ!?<泣

 

 

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