名雪DEはにゃーん♪


「で、だ」
 祐一は居間でごろごろしながら、名雪の方を見もせずに呟いた。
「つまりねこ耳というやつは男の、もとい漢の浪漫としてこだわりを持って付けさせねばならんと思うんだが。どう思う? 名雪・ザ・ネコスキーよ」
「ねこさん?」
「ああ、猫だ」
「ねこみみさん?」
「ああ、ねこ耳だ」
 しばらくのあいだ、疑問顔。それからうーん、と唸って、
「えっと、でも祐一は猫が好きってワケじゃないんだよね」
「むろんだ。正直なところ特に好きじゃないな。嫌いでもない。まあ、可愛ければのどをくすぐってやりたいと思わなくもなくもないような気がしないでも」
 そこで名雪が後ろから羽交い締めにして祐一の声を止めた。首が絞まった。台詞を遮るためには、賢明な選択である。
「ぐ、ぐぇ」
「うー、ねこはねこだから猫なんだよっ」
「く、くるし」
 首が絞まっている。
 主張が続く。
「だからねこ耳だけに拘るような祐一は間違ってると思うんだけど」
「とり……あえず……首を…手をはな」
 (祐一の)顔が赤くなってきた。
 激しい(猫への)愛情表現の副作用だった。
「それに付けさせられた方のことも考えようよー。ねこ耳が好きなのかねこ耳をつけたその娘が好きなのか、疑っちゃうんじゃないかな」
「ぇぇう」
 顔が青くなってきた。
 祐一ちん、ぴんち。にはは…彼の目に何かきれいなものが見えてきた。ねこ耳……ねこ耳の楽園……ねこさんねこさんねこさんー。うふふ……
 無論、そんなものは幻覚だった。
「うん。やっぱりねこさんはねこさんだから、ねこ耳がどうとかヘンなことを言い出す祐一がヘンなんだよ。そんなオトコの浪漫は捨てて……」
「ふぃぃぁ」
 もう紫色にまで達した。顔色虹色模様。
 死線をさまよっているのが傍目にも分かる。ここにきて、ようやく名雪が気づいた。
「あっ、ごめんっ。忘れてた」
「………………ぷしゅー」
 酸素を取り込んで復活。しかしまだ反論できそうになかった。
「祐一、自業自得」
 その言葉で、烈火のごとく闘争の意思が燃え上がる。
「マテやコラ」
 立ち上がって反撃に移ろうとする祐一。
「ねこ耳をつけたからって、可愛くなるなんて思っちゃダメだよ? ほら、この前ベッドの下に入ってた本のひととか、あんまりねこさんっぽくなかったし」
「な」
「猫さんっていうより、牛さんだったような気がするよー」
「……見たのか」
「あ、ちゃんと隠しておいてあげたから安心してね」
「見たんだなっ!?」
「わっ、すごい顔」
 すごい顔だった。
「どうしたのかな」
「そんなんすごい顔にもなるわっ! 名雪、それを秋子さんとか…には……もう」
 声から力が急速に失われつつあった。この顔色のことを、一般的に風前の灯火と言う。真っ青だった。蒼白だった。
「大丈夫だよ」
 ぱっと消えかけた灯火が燃えたかのように朱が頬を走る。燃え上がった。真っ赤になって安堵する。血が通ってきたのか、血色のよい顔色だった。
 天国を見たような笑みが浮かんだ。
「そ、そうか」
「見つけたのお母さんだから」
「……名雪サン。いつ発見されましたカ。ソレは」
「えー、覚えてないよー」
「……つまりそんくらいは前ってことだな」
「そうだね」
「いっそ殺せ。というかもうお願いだから殺してくれ」
「さっきもいったけど、大丈夫だよっ」
「なんなんだ、大丈夫っていう根拠は」
「ねこ耳とかー、ケモノ好きとかー、小さい胸のがいいとか、祐一の趣味がそっち系だっていうことは、わたしだけじゃなくて、もうクラスのみんなが知って――」
「ハハハハハ。ナユキクン、あとでお仕置きな。もうすっごいのやっちゃうぞー?」
 青筋ぴくぴく。
「うー、横暴だよー」
「ほお。どこがだ」
「だってそれバラしたの北川くんだもん」
「……よし、あとで報復してやる。ヤツの趣味の隅から隅までまるっと」
「えっと、たぶん意味ないから止めたほうがいいと思う」
「なぜにっ」
「斉藤くんにバラされてたから」
「……うちのクラス、こんなに人間関係荒んでただろーか」
「不思議だね」
 しばらく悩んだ顔だった祐一は、ぽん、と手を打った。諸問題は放置の方向に決定したようだ。
「まあなんだ、とりあえずねこ耳だ」
「なんで?」
「ねこ耳だからだ」
「だから、なんでなのかな」
「名雪にねこ耳って世間一般的に自然な流れだからだ」
「祐一の嘘つき」
「嘘じゃあないさ」
 ステキな笑顔だった。
「じゃあねこ耳好き」
「もちろんだ」
 とても素晴らしいスマイルだった。
「そんな素敵な笑顔で答えられても」
「ちなみにメイド服も嫌いじゃない……」
 舞の真似をしつつ。
「そんな堂々と宣言されてもっ」
「ああ、眼鏡は無しな。この世界に眼鏡って存在しないし」
 遠い目だ。
「……え」
「冗談だ」
 本気の目だった。
「冗談に聞こえないよー」
「気のせい気のせい。ということでレッツねこ耳」
「そ、そんなぁ。あ、でも祐一、ねこ耳なんて持ってないよね」
 落とし穴の底から、僅かに指先に引っかかった希望を見つけ、それに縋るような名雪の声。だが祐一は容赦なかった。
「持ってるが」
「え?」
「持ってるぞ。ちゃんと毎日学校にも持って行ってる」
「……え?」
「だから安心してつけろ。不安がらなくても大丈夫だ。名雪がねこ耳をつけて似合わないなんてことはありえないからな」
「うー。なんか問題がすり替えられてる気がする」
 その通りだった。
「ほれ」
「う、うん」
 手にとってしげしげ見た。
 まぎれもなくねこ耳だった。
「……つけてどうするの?」
「決まってるだろ」
 そんなことは決まっていた。
「……ええと」
「決まってるだろ」
 繰り返した。
「えっと、もしかして」
「どうした名雪、顔を赤くして」
「えっちなこと?」
「まさか名雪がそんなことを考えていたとは」
 はぁやれやれ、と肩をすくめた。だがそのまま言葉を続けた。
「しかたないな。名雪がそっちを思い浮かべたんだったら、その方向でGO!」
「そっちってどっちー」
「俺はただねこ耳をつけた名雪を愛でていられれば充分だったのに」
 拗ねた目つきで、ちらちら。
 沈黙がしばらく、ふたりを取り囲んだ。
「……」
「でもまあ、しかたないよなっ」
 にやけていた。
「祐一、ものすごく嬉しそうだよ…」
「だってそっちのがいいんだもんなっ!」
「満面の笑みでにこにこされても」
「よし、じゃあ早速」
「え、えええっ」
 次の瞬間には、名雪にねこ耳を装着させていた。はかったかのようにぴったりである。
「祐一ー」
「うむ。可憐だ」
「……え」
「いやもう、非常に可愛いな」
「えええ」
 言われて顔を赤くする名雪。真っ赤になりながら、もじもじしてみたり。
「ここまで似合うとは思わなかった。さすが名雪だ」
「うー、照れるよー」
「照れなくていいぞ。ははは」
 と、いいつつ腕を取って立たせた。今日は秋子さんが遅くまで帰ってこないのである。ということで居間であることを気にせず、名雪の服に手をやった。私服だったから、少しだけ脱がせるには不慣れだ。
「面倒だし、脱がせなくていいか」
 面倒、の部分にむっとする名雪。
「そんなー」
「まあまあ」
 後ろから名雪の胸に手をやる。ゆっくりと触れると、それほど厚くない布ごしの感触があった。力を少し入れた。
「はぅ」
 乳首にあたったらしい。吐息が漏れた。そこで今日の名雪がノーブラだったことに、祐一は初めて気づいた。
 祐一は抱きしめるように、両腕でそのおっぱいをもみくだした。ふよふよといった手触りを楽しむたびに、
「はぁ……ぁぅ」
 と名雪が声を漏らす。何度も繰り返していると、
「ゆういちぃ……」
 顔の赤さに比例するように、突起が尖り始めた。ツン、と立った胸の頂点を軽くつまむ。すぐに反応が返ってきた。息が荒くなっていくのが感じられた。
 耳元に息を吹きかける。ぴく、と名雪の体が震えた。
「くすぐったいよ……」
 黙って服の中に下から手を入れた。すぐにまさぐった。素肌の冷たさが敏感になり始めた名雪を刺激する。ひんやりとした手の摩擦が気持ちよさそうだった。
 形の良い胸に直に触れた。名雪が嫌がらないのを見て、祐一は何度も揉む。こすり、表面とつぅ、と撫でる。
 名雪が淡い息を吐き出した。
「いいか」
 言葉少なく祐一が聞いた。
 名雪はこくん、とうなずいた。
「じゃあ、ねこな」
「……え」
 忘れてた、といった風な声にとりあわず、祐一は名雪のズボンを勝手に脱がせ始めた。するりと抜けると、白いパンツとお尻が丸見えになる。ねこ耳つけたままで、下だけ脱がされた姿というのは、妙に扇情的だ。本人はそのつもりはなくとも。
「ねこだぞ」
「……えっと」
「だから、ねこ」
「…………」
 少し考える間。
「にゃー?」
「よし」
「でもこれじゃなにいってるか分からないんじゃないかなぁ」
「名雪の考えてることくらい分かるぞ」
「……うー。なんか単純っていわれてるような気がするよ……」
「気のせいだ」
「ねこ語で通すの?」
「もちろん」
「ほんとに、わたしの考えてること分かっちゃうのかな……?」
 問う口をふさぐため、祐一からすぐさまキス。
「……はぅ」
 一瞬だけ息を吐くために中断する。名雪が塞がったくちびる同士の感触に頬を染めた。今度は自分から間をつめて、むしろ積極的に舌を入れていった。口内で動く舌に絡め取られてる最中も、祐一は責め返した。幾度となくかき回し、動き回る舌の応酬。それでもふたりには、その舌の感触を楽しむ余裕があった。
 どちらからも離れようとしないで求め合う。
 湿った音。
 強く吸い込むように。
 ややあって、名雪がくちびるを遠ざけた。祐一が物足りなさそうな表情を見せると、名雪はからかうような色を目に映し、顔をぺろりと舐めた。
「……にゃ」
 言いつつも、照れながら。
 祐一は笑んで、名雪の本物の耳を甘噛みした。漏れた息は熱い。 
 名雪の尻に手を回しながら、ふとももを撫でる。
「にゃ……」
 甘い声だった。
「ふぁああ」
 撫で回して、ゆっくりと上へと動かしていく。
「気持ちいい?」
「……ん」
 声の後には、ぴちゃりと湿った音がして、名雪の太ももにざらっとした感触が続いた。祐一の舌だ。すくい舐めるように少しずつ、少しずつ上へと。
 じりじりと、焦らすように。
「ぁぁ……」
 湿った息が、熱中して舐めていた祐一の首筋を、そっと通り抜けた。背筋を興奮が走る。ねこ耳には、なんともいえない背徳感があった。居間での行為だという事実も、それを強調していた。
「にゃぁぁ」
 恥じらう声。いやいやしている名雪を、それでも執拗に責める。
 びくんと揺れる。
 祐一は黙って、舌を奥へと侵入させていく。茂みの周囲を掻き分けていった。唾液がつぅと股を垂れた。
 息が、敏感になり始めたそこへと当たる。
 こうなると名雪も欲情してきていた。陰核の周囲も、すでに湿り気を帯びているのが感じられた。祐一はちろちろと舌先で弄ぶ。声を呑み込む名雪の痴態が見えたが、それも祐一の動きに拍車をかけた。舌は動き回る。舐めていると唾液に混じって別の味がした。もう充分だろうか。
 逸る気持ちを抑えて、前戯を続ける祐一に、名雪は自分から体を動かした。祐一が動きに合わせて少しどく。すると名雪は手を祐一のズボンのベルトにかけ、さきほど自分がやられたよりも些か不慣れな手つきでカチャカチャと音を立てて、脱がせていく。
 もどかしそうな動きだった。祐一はといえば、されるがままにしていた。
 静寂に、衣擦れの音が何度もあった。名雪の着たままの服からだ。
「名雪」
 呼んで、脱ぎ終えたズボンを脇に放る。
「……にゃ……」
 猫のような目で。
 ケモノのように尻を突き上げ、祐一のいきり立ったそれを舐め始めた。口に含んで、ゆっくりと。さっきやられたのの反撃だと言いたげに。
 音を立てながら。
 祐一のそれは、唾液でびちゃびちゃになっている。舌が絡みついて、しごかれた。攻撃的に。大事そうに。何度も何度も名雪は自らの口内でしつこくねぶった。
 ぬめる感触。快感を我慢する。名雪にそうされているという事実を思うだけで、耐えるのが辛かった。膨張は痛いくらいだ。
 耐えている祐一の目に映るのは、服の裾と、綺麗な肌。そして、尻。
 手を伸ばす。
 触れる。さわさわと撫でると、名雪は反応した。よく見ると足をつたって垂れる透明な雫がある。唾液ではなさそうだった。
 蜜だ。むっと名雪の匂いが居間に充満した気がした。
 そろそろいいだろうか。
「にゃぁ……」
 名雪を離した。手は動いて、尻から内側に向かって、そのまま膣へと撫で回す。溢れるような愛液の量に驚いた。いつもと違うことをやっているからかもしれない。よだれのようなねばりけのある液体を、指ですくって名雪に見せると、恥ずかしそうな怒ったような顔が返ってきた。祐一は笑ってその指を名雪に舐めさせた。
 ねこ耳はちょこんと名雪の頭に乗っかっているままだ。
 だから、交尾。
 祐一は後ろに回り込んで、名雪を持ち上げた。
「……むー」
 少々重かった。祐一がそう思ったのを感じ取ったか、名雪が不満げな声を漏らした。祐一は名雪を抱きかかえるようにして、足を開かせた。
 猫を扱うような感じをイメージ。
「にゃ……」
 その言葉に、祐一はにやりと笑った。
「そうかそうか。名雪ねこはもっとしてほしい、と」
「にゃにゃっ」
 抗議の声のつもり……だったが、祐一が自分勝手に翻訳してしまう。
「ふむふむ。分かってるって。まかせろ」
 どうされるのか理解したのか、名雪は紅潮していた顔を、さらに真っ赤にさせていた。ゆっくりと体が下に降ろされていって、勃起した祐一のそれが挿入される。しばらく同じ体勢のまま、ゆさゆさと揺らすと、名雪の膣にきつく締め付けられる。頭につけたままのねこ耳が、視界で揺れていた。動かす振動で液体が飛び散る。
 スイッチのついていなテレビの画面に、繋がったままのふたりが映り込んだ。恥ずかしそうに、でも目を逸らさずに名雪は自分たちの姿を見ていた。
 さすがに腕が疲れたらしく、祐一は優しく名雪をソファに降ろした。負担を掛けないように体勢を変えさせ、前から腰を振ろうとすると、名雪が抱きついてきた。
 もう一度、という意思表示らしかった。
 逡巡のあと、祐一はまた持ち上げた。深く挿入されている状態で、今度は前から。
「――はにゃ……」
 腕が祐一の首にかかり、名雪の嬉しそうな声がした。それからくちびるを舐められる。
「ん……」
 喋る言葉はなかった。名雪の舌が祐一の口を押し開け、侵入していく。名雪に寄りかかられているため、あまり器用に祐一からは動けない。名雪は執拗に舌で弄ぶ。力が抜けそうになるのを必死でこらえる祐一の姿を楽しそうに見つめ、でも止めようとしない。
 祐一は唯一自由に動かせる腰を動かし、なんとか主導権を握ろうとする。
 名雪は祐一の口から、ほっぺたを舐めることにした。薄くやわらかな産毛がくすぐられようだった。
 もう何も考えないで、相手の味を貪ろうとするふたり。
 そして、とうとう限界らしく、祐一の動きが緩やかになっていった。我慢していたらしい。名雪も息が荒かった。秘所をこすりつけるようにして、先に達したのは名雪だった。頭の中が真っ白になったような感覚のあと、力がいっきに抜けかけた。絡みついた腕が外れそうになったのを感じ取って、祐一が手を名雪の背中に回す。
 その瞬間、耐えていた祐一も達しそうになって、慌てて名雪の中から、自分のそれを抜いた。間を空けず濃いめの精液が名雪のつるりとしたお腹とももに発射された。
 ふたりぶんの吐息。
 危なかった、といった顔の祐一が、さらに大きく息を吐き出して、ティシューを取ってきた。ついた精液を黙ってふき取る。そのまま名雪の秘所に手を伸ばし、
「……うー」
 ことが終わったあとの恥ずかしさで声もない名雪のそこを、ふきふき。
「はぅ」
 ふきふき。
 名雪は腕をじたばたとしかけて、やっぱりやめる。されるがままにしておく。祐一が拭きおえてそれを捨ててくるとと、少し落ち着いたのか、
「……ゆーいち……」
 いつの間にか外れていたねこ耳を手に持って、呼びかけた。
「ん」
 返事をしようと振り返った祐一に、しだれかかる。
「お、おい……名雪」
「ねっ、よかった?」
 いたずらっぽく笑って、そんなことを聞く。
「……えーと。あはは……すごく」
「にゃー」
 もういっかいねこ耳をつけてみて、ぺろりと舐めた。
「たまにはこういうのもいいって?」
 そんなふうに翻訳すると、名雪は少し迷って、うんとうなずいた。それから顔を近づけた。ぎゅっと抱きしめ、祐一のくちびるを舌で触れて、何度も遊ぶ。
「……にゃ」
 祐一は抱きつかれたまま、名雪のねこ耳を外す。名雪は上目遣いに聞いた。
「うー。あのね、祐一……いまねこさんが、なんて言ったか、分かる?」
「……んー」
 さっき勝手に解釈したのを根に持っているわけではなさそうだった。
 なので、祐一は素直に思った通り答えた。

「キスしたい、かな」
「うん……合ってるよ、祐一」

 名雪が微笑んで、それからは何もいわなかった。

 なんて思ったか、分かる?

 そんなことを、目で聞く名雪。
 祐一は口に出さず、キスに答えを込めてみた。そして、たぶんそれは正解だった。
 名雪からも、言葉にはしないで、ただキスで思いを伝える。

 ――大好き、だよっ


 

 

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