Homemade Chocolate

 

 「乃絵美、何してるんだ?こんな夜遅くに」

 いきなりお兄ちゃんが後ろから声をかけてきた。

 「別に、ただちょっとね」

 「そうか・・・。あんまり無理はするなよ」

 お兄ちゃんはそう言って自分の部屋に戻っていった。

 多分、お兄ちゃんは私が何をやっていたのか分かったのだろう。それで邪魔をしない様に部屋に戻ったのだろう。

 そう、今日はバレンタインデー前日。私は明日のために手作りチョコを作っていたの。

 もちろん、相手はあの人・・・。

 

 

 そう、あの人との出会いはこうだった。

 

 ちょうど、私が高校に入学した時の事・・・

 

「拓也さ〜ん」

「あのね、拓也さん。あのね・・・」

 

「拓也君、この子だ〜れ?知ってる子?」

 

いきなり、見たからに正確が悪そうな女の子が拓也さんに話しかける。

 

「あぁ、中学の時に付き合ってた子だ」

 

そ、そんな。拓也さん……

 

「拓也さん、この人は……?」

「あぁ、今、俺はこいつと付き合ってるんだ」

 

そ、そんな・・・う、嘘でしょ・・・拓也さん・・・・

 

「もう、話は終わりだ。目障りなんだよ、あっちに行け」

 

うっ・・・・・・・うっ・・・・・・・うっ・・・

 

 

 

こんな感じで拓也さんに捨てられた私・・・

 

自分でも自分の事が好きになれない私・・・

 

誰からも愛されていない私・・・

 

 

 

「乃絵美ちゃん、どうしたの?」

 

そんな私に声をかけてくれたあの人

 

 

「・・・」

 

気を使ってか、無言でハンカチを渡してくれたあの人

 

 

「なにがあったか知らないけど、これから良い事がいっぱいあるって」

 

私の事を慰めてくれたあの人

 

 

「俺で良かったら相談に乗るよ」

 

いつも私の相談相手になってくれたあの人

 

 

そして、とてもお兄ちゃんに似ているあの人

 

 

思えばあの時からお兄ちゃんの事より、あの人の事を考えるようになっていた。

 

そんなあの人に明日告白…

 

 

 

そして、私に告白する勇気をくれた人達・・・

 

ミャーコちゃんや菜織ちゃん、真奈美ちゃんも・・・

 

 

 

 「はろ〜、乃絵美ちゃん」

 「あっ、ミャーコちゃん。おはよう」

 「明日はバレンタインだよね〜」

 「えっ、うん。そうだね」

 「で、乃絵美ちゃんは誰にあげるのかな〜。もしかして、明日好きな人に告白〜?」

 「え〜!!!」

  

この時はとてもびっくりしたの・・・

 

 「にゃは〜、乃絵美ちゃんは正直者だね〜」

 「そ、そんな〜」

 「で、誰々。そのお相手は〜」

 「ひ・み・つ、ってことじゃダメかな〜」

 「ふ〜ん。でも、乃絵美ちゃんに告白されるなんて、その人って幸せ者だね〜」

 「そ、そんな〜ミャーコちゃん・・・」

 「にゃはははは。じゃ、頑張ってね」

 「うん。ありがとう、ミャーコちゃん」

 「いえいえ。じゃ、またね〜、乃絵美ちゃん」

 「うん。ばいばい、ミャーコちゃん」

 

      そして

 

 

 「あら〜、乃絵美じゃない」

 「あっ、菜織ちゃん。それに真奈美ちゃんまで」

 「こんにちは、乃絵美ちゃん」

 「こんにちは、真奈美ちゃん」

 「乃絵美、ミャーコから聞いたわよ〜」

 「えっ!」

 

この時ばかりはミャーコちゃんを恨んだわ。

 

 「は〜。乃絵美って本当に顔にでるわね〜」

 「ほんとだね。乃絵美ちゃん、顔が真っ赤だよ」

 「・・・」

 「で、乃絵美、本当なの?正樹に告白するって?」

 「え?えーーーーーー!!!!!!」

 

 さすがに、これを聞いたときパニックになったの。

 だって、私が告白する相手があの人じゃなくてお兄ちゃんって伝わってるんだもん。

 確かに、お兄ちゃんの事は好きだったけど、あの人に会ってからはあの人一筋・・・

 そぅ、お兄ちゃんの様に私を支えてくれるあの人・・・

 あ〜、あの人の事を考えただけで・・・

 

 それから、ちゃんと(?)否定したよね。

 

 「ちょっと、乃絵美。大丈夫?顔色が悪くなってきてるわよ?」

 「ほんとうだ、大丈夫?乃絵美ちゃん?」

 「う、うん。大丈夫だよ。それより・・・」

 「ん?なに?」

 「えっとね、私は別にお兄ちゃんに告白するつもりはないの・・・」

 「え?そうなの・・・」

 「うん・・・」

 「ミャーコ、私たちを騙したわね〜」

 「だって、私が告白する相手は・・・」

 「まぁ、乃絵美が想ってる人だから、悪い人じゃないでしょう」

 「うん」

 「それじゃぁ、頑張ってね、乃絵美ちゃん」

 「ファイト!乃絵美」

 「ありがとう。菜織ちゃん、真奈美ちゃん」

 

 

  本当にありがとう。菜織ちゃん、真奈美ちゃん。それに、ミャーコちゃんも・・・

 

            

 

 

 「よ〜し、これで良しと。後は箱に詰めてっと・・・かんせ〜い」

後は当日を待つばかり、と時計を見るともうすでに三時過ぎ。

 「これを鞄の中に入れてっと・・・」

 「これ、どうやって渡そうか」

作り終えてから根本的な事を考える。

 「直接は照れるし、下駄箱っていう手も古いし・・・」

 

 こう言うときに限って、時間は速く進んでいくのである。そして、夜明け・・・

 

 「やっぱり、こういうのって直接渡した方が良いよね」

そう決意し、あの人に放課後、屋上で待っていますと言った内容の手紙を渡し、屋上で告白と言うありきたりな方法を使うことにした。

 

  そして当日

 「前々から、あなたのことが好きでした。これを受け取ってください

  私は勇気を出して言った。初めて、他人に想いを打ち明けた。

 「ありがとう、乃絵美ちゃん」 

  そう言って私の想い人は受け取ってくれた。

 「これからもよろしくね、乃絵美ちゃん」

 「うん」 

 「一緒に帰ろうか」 

 「うん」

  うれしさのあまり、うなずくことしかできなかった私。

  そんな私をお兄ちゃん以外の人に支えてもらうのは初めて。

       「ありがとう」

 

 

 

 

 

私たち、今から新しい絆を作っていくんだろうね。

これから、どんな事が起きるか分からないけど

一緒に頑張っていこうね。

 

 

 

  

そして、私は彼に身を任せるようにして屋上を後にした。 

 

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