名雪の誕生日――Another Of The X'mas
Prezented By 東方不敗
「祐一ぃ、私の誕生日がもうそろそろなんだよ〜」
「そうかそいつはよかったなそれじゃあ俺は用事があるんで」
「何気に逃げ出そうとしちゃだめなんだよ〜」
ここは私の部屋。
今祐一とおはなし中。
「はあ……わかったよ。それで、どうして欲しいんだ? なんかプレゼントでも欲しいのか?」
「もちろんだよ〜」
私としては祐一が欲しいけど……(ニヤリ)
でもそれはまだ我慢するよ。
「といってもなあ……俺は金持ってないぞ」
「別にいいよ、祐一の愛さえこもってれば」
「かなり無理難題だな」
「う〜、そんなこといわないでよ〜」
「ん〜、そうだな……それじゃあ目覚ましでも」
「別にこれがあるからいいよ」
そう言って私はかちっと目覚ましのボタンを押す。
『名雪……俺には』
かちっ。
「祐一〜、なんで止めちゃうの〜?」
「やかましい、変なもん取り出すな」
「変なもんじゃないよ」
私にとっては大切なものだよ。
「だからって人の目の前で鳴らすな」
「でもぉ……」
ちらっと上目使いに祐一を見る。あ、祐一困ったような顔してる……
「と、とにかくだっ、プレゼントならちゃんと考えといてやる。それでいいんだろうっ」
「うんっ!」
「はあ……やれやれ……。にしてもなんでお前そんなプレゼント欲しがるんだ?」
「え……だって……」
祐一と付き合い始めて、初めての誕生日だから……
と、のどの辺りまで出かかった言葉を必死に押さえる。
「な、なんでもいいでしょっ、とにかく欲しいんだよっ」
「まるで子供だな」
「う〜、そんな事言う祐一だって子供じゃない」
「何を言う、朝はちゃんと起きられるぞ。お前と違ってなっ」
「私も目覚まし変えてから起きられるようになったよっ」
そう言ってまた目覚ましのボタンを押そうとして、
がしっ。
祐一に腕を捕まれた。
「祐一……なんで邪魔するの?」
「お前さっき人の言ってた声聞いてたか?」
「でも……だって、私は祐一の声が聞きたいんだよっ」
「ダメだ。だいたい聞きたいなら今好きなだけ生で聞かせてやる」
「じゃあこのセリフ言って」
「……え?」
「この目覚ましに入ってるセリフ、言って」
「……わかった」
「……へ?」
「わかったい。言ってやる。それでいいんだな」
「う、うん……」
ほんの冗談だったんだけど……
でも、ホントに言ってくれるんだからいっか♪
でも言ってくれたら嬉しくて祐一に抱き着いちゃうかも……
うふふっ、まあそれもいいよね……(ニヤソ)
「よし……それじゃあ……一回から言わないからよおく聞けよ」
「うんっ」
「よし……それじゃあ……」
「……(ゴクリ)」
「…………前略、中略、後略、以下略」
「ぜんっぜん言ってないよっ!」
「何を言う、完璧に言ったじゃないかっ!」
「一っ言も言ってないよっ! もう、祐一のバカ!」
ぷいっと横を向く。もう、けっこう怒ったよ今のは。
期待してた私がばかみたいじゃない。
「あ〜、わかった、悪かったよ、名雪」
「……罰として、お願い聞いて」
「あ〜わかった、イチゴサンデーなら」
「ちがうよっ」
祐一の言葉をさえぎって、抗議の声をあげる。
「じゃあ、なんなんだよっ、プレゼントか?」
「それもあるけど……違う……」
「じゃあ、なんだ?」
私は無言で、目をゆっくりと閉じるとすっと祐一にむかって顔をむけた。
「……なあ名雪……お願いって……」
「……祐一ぃ……」
「……今回だけな」
祐一の声。頬にかかる暖かい祐一の手。そして……
ちゅっ。
「んっ……」
離れようとする祐一。でもダメだよ。
がしっ。
祐一の頭をがっしりとつかむ。逃がさない。
「んっ……!? な、なゆっ……んっんううっ……!」
「んっ……祐一ぃ……」
…………
「……ぷはっ」
やっと祐一の頭を放す。あ、なんか目が怖いよ……
「……お前なあ」
「えへへ……だって祐一このごろキスしてくれないんだもん……」
「それはあゆと真琴にいつも追い掛け回されてるからであってだなあ……」
「あたし寂しかったんだよ」
本当に、ちょっぴり寂しかったんだから……
「だからっていってもなあ……」
「だから、たまにはこうやってキスして欲しいんだよ」
「……たまには?」
「……別に毎日だなんて言わないからさ」
「ああ、そうだろうな。毎日なんかやってたらあゆか真琴に刺される」
ぽりぽりと頭を掻きながら祐一。
その祐一のセリフにちくりと心が痛む。
そうだよね。あゆちゃんも真琴も、祐一の事好きだから……
でも、あたしも……
祐一のこと、好きだから……
本当に、大好きだから……
「そんじゃあ……本当にたまにはだぞ」
「うんっ、それでいいよっ」
「さて、そんじゃあそろそろおいとまするかっ」
「うん……祐一、プレゼント、忘れないでよっ」
「だいじょぶだって、なあに、名雪がビックリするような奴買ってきてやるよ」
「うん、楽しみにしてるよっ」
私の部屋を出ようとする祐一。
「っと、その前に……」
「? どしたの、祐一……?」
ちゅっ。
「ぁ……」
「お休み、名雪……」
「……う、うん……お休み、祐一……」
「おいおい、顔が真っ赤だぞっ」
「ゆ、祐一のせいだよっ!」
いきなりこんなことしてくるから……
「はいはい、私が悪うございました。そんじゃな」
「ぁ……祐一」
「? どした?」
振りかえる祐一。
「そ、その……今日、一緒に寝たいなぁ……って」
「……は?」
「……だ、ダメかな……?」
顔を真っ赤にして上目使いに祐一の事を見る。う〜、恥ずかしい……
がばっ。
「わっ、ゆ、祐一……?」
急に祐一に抱きしめられた。
「んなこといわれてダメだなんて言えるわけないだろ……」
「……そ、そう……? んううっ――!」
祐一が私にキスしてきた。
「……でも、その代わり、今日は寝かさんぞ……」
「へ? で、でも明日学校……んっ……んううっ……!」
もう一度、キス。
今度は取ってもながいキスだった。それで、だんだん頭がぼうっとしてきて……
ふふっ、その後は秘密なんだよ〜。
「……って言う事があったんだよ〜」
「へえ、そうなの」
ところ変わって水瀬家のリビング。あたしの前ではお母さんがにこにこしながら私の言う事を聞いてる(もちろんあの事はちゃんと隠して話してる)。
「それで、朝からなんだか妙に嬉しそうにしてるのね、名雪は」
「うん、そうなんだよ〜」
そう。今日は12月23日。
私の誕生日(ぶいっ)。
祐一にプレゼントの事話したのは一昨日のことだから、ちゃんと覚えてるはず。楽しみなんだよ〜。
「でも、もう名雪も17歳か……早いものねえ……」
「うん……もうちょっとあたしお姉ちゃんになるんだよっ」
「ふふっ、そうね。名雪もお姉ちゃんだもんね」
そんなこんなで色々話してると、祐一達が帰ってきた。
「ただいま〜」
「ただいまー!」
「ただいま〜、って、真琴ちゃん、ちゃんと雪おとしてから入らなきゃダメだよっ!」
玄関から聞こえる声。え、雪……?
「うわぁ……」
窓の外を見ると雪が降り始めていた。
さっきまでは降ってなかったのに……
「あらあら……また雪かきしなきゃいけないかしらねえ……」
「うん……お母さん、今年は私も手伝うよっ」
「あら、そう?」
「だって、お姉ちゃんだもんねっ」
「ふふっ、そうね……」
「ただいま〜、いや凄い雪ですよ外。傘持っていきゃ良かったですね」
と、頭に雪を積もらせた祐一と真琴とあゆちゃんがリビングに入ってきた。
どうやらすっかり降られたみたいだった。
「あぅー、さむい〜っ」
「へくちっ、うぐぅ……」
「あらあら、それじゃ、すぐお風呂沸かしますね」
「ええ、頼みます」
「祐一は大丈夫なんだね」
お母さんからもらったタオルをとりあえずあゆちゃんたちに配りながら祐一に言った。
あゆちゃん達はあんなに寒そうにしてるのに……
「? なにがだ」
「あゆちゃんたちはこんなに寒そうにしてるのに、祐一は平気そうだねってこと」
「ああ、まあ、頑丈だからな」
「あぅー、バカは風邪ひかないからよぅ」
「ボクもそう思う」
「なんだと、こらっ」
「祐一〜、あゆちゃんたちいじめちゃだめだよ〜」
「二人とも、お風呂沸きましたから、とりあえず先に入っちゃってください」
『は〜い』
あゆちゃんと真琴が一斉にお風呂に向かう。楽しそうな笑い声とお湯の流れる音。
『あぅ〜、あゆあゆどきなさいよぅ!』
『うぐぅ、ボクだって寒いんだもん……』
『あらあら、二人とも喧嘩はダメよ』
ふふっ……元気そうだね……って。
「祐一、なにさりげなくお風呂場に行こうとしてるの?」
がっしと祐一の服をつかんで言う。まったくエッチなんだから……
「放してくれ名雪、男のロマンが待ってるんだっ!」
「ダメだよっ!」
「ええい放せ名雪っ! 頼むっ! 宇宙が俺を呼んでいるんだっ!」
「そんなもの呼んでないよっ!」
「名雪―――っ! 放せぇ――――――!」
「祐一さん、甘くないジャムは好きですか?」
「さあ名雪さっさと誕生日会の準備をしよう! あー今日もいい天気だ!」
「祐一、今雪降ってるよ……」
あー驚いた……にしてもお母さんいつのまに表れたんだろう……?
「企業秘密ですよ」
「あぅ……」
「さてと……それじゃ電気消して……名雪、準備いいか?」
「うん、OKだよっ」
「うう、なんかドキドキするぅ……」
「うん、ボクも……」
「お前等関係ないだろうがっ」
「でもドキドキするんだよぅ……」
「そうよぅ、祐一もにぶいんだから……」
「お前らな……」
「祐一、はやく……」
「ああ、悪い悪い。それじゃ、電気消すぞ」
ぱちっ。
電気の明かりが消える。そしてあたしの目の前にある17個のろうそくの光りが静かに存在を強調しはじめる。
「さっ、名雪」
「おねーちゃん、はやくっ」
「名雪さん、頑張って」
「名雪、一息でね」
「う、うんっ……」
みんなの声に押されて、す〜っと息を吸い込む。
うう、なんかどきどきする……
「それじゃ……ふ〜〜〜……」
息を吹きかけて、消えていくろうそくの火。うう、あとちょっと……
「ふ〜〜〜……ぷはあっ!」
「あ、全部消えたっ!」
「ええ、それじゃ……」
「OK,みんな構えろよっ!」
「うん、それじゃ……」
そこでみんなが息を吸い込む。
一瞬の間、そして……
『名雪っ17歳おめでとうっ!』
ぱんっぱんぱぱんっ!
クラッカーの音が響いて、部屋の電気がつく。
「とゆーことで、名雪誕生日おめでとう」
「うんっ」
「さっ、それじゃパーティーと行きましょうかっ。ケーキもイチゴたっぷりな奴用意してるわよ」
「うん、いちご〜」
「あう〜お腹空いた〜!」
「うぐぅ、ボクもぺこぺこ……」
「あらあら、急がなくてもご馳走は逃げないわよ」
楽しい笑い声。
これで私も、17歳になるんだな……
ちょっぴりお姉ちゃんに……
「ふふっ」
「ん? どしたんだ名雪?」
「ふふっ、なんでもないよっ」
「? 変な奴……、あ、クリームついてるぞ」
「え、ホント?」
「ああ、取ってやる」
ちゅっ。
祐一が私のほっぺにキスをした。
「ゆ、祐一っ!」
顔を真っ赤にして抗議する。な、なんてことするんだよっ。
「なんだ、ほら、ちゃんと取れたぞ」
「あ〜、祐一ぃ、なにしてんのよぅ!」
「うぐぅ、祐一くんのエッチっ!」
「なんでだぁ!」
「あははははっ」
そんなこんなでパーティーは続いてく。と、そろそろ終わりになりかけたところで祐一が私に話しかけてきた。
「名雪、ちょっと来てくれ」
祐一があたしを連れてきたのは家のベランダだった。
外はまだ雪が降っていて少しづつ町を白く染めていっている。
「……で、どうしたの、祐一?」
「……ん、そのな、お前の誕生日プレゼントだけどさ……」
妙に言いにくそうに言う。もしかして……
「祐一……もしかして、忘れたの?」
「いやっ、そんなことないぞっ」
力いっぱい否定する祐一。ならいいんだけど……
もし忘れてたら凄いことになってたよ祐一……
あ、でも、それもいいかもなあ……うふふ……
「それでな……お前の誕生日プレゼントだけど……ホントはずっと前から考えてたんだ……」
「……へ?」
「……これ、プレゼントだ。誕生日、おめでとう、名雪」
そういって祐一が私に渡してきたのは――
手のひら大ぐらいの四角い箱の中に入ってる、小さな指輪だった。
「え……?」
祐一……これって……
「手、出して」
「う、うん……」
おずおずと手を出す私。
きゅっ。
指輪は、まるであつらえられたように私の指にぴったりとはまった。
私の左手で、指輪が光り輝いている。
薬指で、きれいに……どこまでもきれいに……
「……名雪、俺はずっとここにいる……もう、どこにも行かない……。そう、約束した……だから……お前も、ずっと俺と一緒にいると、約束してくれ……」
「ゆ、祐一、そ、それって……」
ぷ、ぷろぽー……
「……なあに、返事はすぐじゃなくていい。そんじゃな」
そう言って、ベランダから部屋に入ろうとする祐一。
「祐一っ!」
私はその背中に、ぎゅっと抱きついた。
「……ありがとう、祐一。私、嬉しい……すっごく、うれ、しいっ……」
なんだか視界が霞んできた。暖かい水が私の頬を流れてく。
「……名雪……いいのか……?」
「うんっ……私、ずっと、祐一の側にいたい……。ずっと一緒にいたいっ……!」
「……ありがとう」
祐一はくるっと振り返って私のほうをむくと、そっと私の体を抱きしめてくれた。
暖かい。
祐一だ。祐一の体だ。
私の大好きな人の匂いだ。
「……ひっ、祐一ぃ……えぐっ……」
「おいおい、そんな泣くなよ、子供じゃないんだから」
「……だって、だってっ……」
嬉しいんだもん。
しょうがないじゃない。
嬉しくて、涙がとまんないんだもん。
「……名雪……顔上げて……」
「……え?」
霞んだ視界。でも、祐一が私のことをじっと見つめてるのはわかった。
そして、
「ぁ……」
ちゅっ。
「……もう一度、ハッピーバースデー、名雪」
「……うんっ、うんっ……!」
「お、おい、だから泣くなって名雪、しょうがねえなあ……」
降りつづける雪。
祐一は私のことを子供みたいになぐさめてくれたけど。
私が泣き止むのは随分時間がかかってしまった。
ねえ祐一。今幸せ?
私、今、すっごく幸せだよっ。
どうも皆さん、東方不敗です。
なんだかあゆの『思いでと一緒に』とほとんど同じ終わり方になってしまいました。それもそもそも、私の中じゃあ『誕生日』=『めでたい』=『幸せ』=『告白するんならこの日だろ』ていう方程式が成り立ってるみたいで。
あぅ、すいません、私の力量不足です。精進します。
まあそれはともかく、名雪の誕生日だ! めでたいぞ! まあ現実はいたってめでたくないがっ! くそっ何がクリスマスだっ! どうせ俺は一人だよっ!
……こほん。それでは皆さん、またお会いしましょう。そしてちょっと気が早いけど、皆さんがよいクリスマスを過ごせますように――
メリークリスマス♪
Writen By 東方不敗――