二人で作ろう、雪ウサギ
Prezented By 東方不敗
『名雪……』
『俺には、奇跡は起こせないけど……』
『でも、名雪の側にいることだけはできる』
『約束する』
『名雪が、悲しい時には、俺がなぐさめてやる』
『楽しいときには、一緒に笑ってやる』
『白い雪に覆われる冬も……』
『街中に桜の舞う春も……』
『静かな夏も……』
『目の覚めるような紅葉に囲まれた秋も……』
『そして、また、雪が降り始めても……』
『俺は、ずっとここにいる』
『もう、どこにも行かない』
『俺は……』
『名雪のことが、本当に好きみたいだから』
ぱちんっ。
「…………。祐一は、優しいよね。ホントに……」
すっと窓を開けて、息を吸いこむ。
長い冬がそろそろ始まる。今日は11月の半ば。そろそろ12月になる。
それと……祐一と付き合い出して、そろそろ1年……
「ふふふ……」
うう、なんか顔がにやけてくよ……
「さっ、祐一起こさなくっちゃ」
私はぴしゃっと窓を閉めると制服に着替えてから身を翻し部屋を出ていった。
私のこのごろの朝は、いつもこんな感じに始まる。
「祐一ぃ〜、朝だよ〜」
かちゃっと扉を開ける。あ、まだ寝てる……
「もう、祐一ぃ〜、起きないと学校遅刻するよ〜」
ぽふんって祐一の上に飛びのってゆさゆさと体をゆすってみる。
「祐一ぃ〜、起きないとすんごいことしちゃうよ〜」
「……ぐう……」
「もう、祐一ぃ〜、後3秒以内に起きなかったらキスするんだからね〜」
1,2,3……よし。
「うふふふ……起きない祐一が悪いんだよ……このごろキスしてなかったからたっぷりさせてもらうよ〜」
ぬうっと顔を近づける。うふふふ……祐一の寝顔可愛いよ……
「祐一ぃ……」
「なんだ?」
「うっわわわわわわわわわわっ!!??」
飛びのく私。あたふたしてる私を尻目に祐一がむくりと体を起こした。
「お前な……もう少しまともに起こせないのか?」
「お、起きてたの……?」
「ああ」
「ど、どの辺から……?」
「お前が起きないとうんぬん言い始めたときから」
「き、聞いてたの……?」
「ばっちし」
親指をたてる祐一。じゃ、じゃあもしかして……
「ま、それはともかく……」
祐一が起きあがると私に近づいてきた。ぽんっと肩に手を置いて、
「ごめんな……名雪……バカな彼氏で……」
「へ?」
「ああ別に言わなくても良いんだ。そうだな、確かに俺は頭が鈍い。カンも鈍い。そういえばこのごろあゆやら真琴やらに振り回されまくってて名雪と一緒に過ごせる時間もめっきり少なくなってたけどまさかそんなに……そんなに名雪が俺とキスしたかったなんてっ!」
ばきっ。
私の右ストレートが祐一のテンプルにヒット。祐一は吹っ飛んで壁に激突した。
「そ、そんな事誰も言ってないよっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。う〜、やっぱり聞いてたぁ!
と、むくっと祐一が起きあがって私に近づいてきた。なぜか全然無傷。
「へえ、じゃさっき言ってたことはなんなんだ?」
ぬうっと祐一が顔を近づけてくる。私は視線をそらして、
「そ、それは、その……」
「うん? な〜に?」
うう、顔が熱いよ……、だ、だいたいそんな事言えるわけないよっ。
「……う〜……」
「な〜に?」
ぎゅ〜〜〜〜っ。
「っ!?」
近づいてきた祐一の頬を思いっきりつねる。
「ひ、ひへえ、ひへえほはふひっ!」
「もう、祐一、嫌いっ」
手を離してぷいっと顔を横にそらす。私結構傷ついたよ。
「あ〜、わかった。悪かったって名雪。ちょっと悪乗りしすぎた。な、だから許してくれって」
「やだよっ、祐一のバカっ!」
「…………。う〜ん、しょうがない、じゃあ強攻策だ」
「へ?」
次の瞬間。
がばっと祐一に抱きしめられてキスされていた。
「…………!? ん〜っ! んっ! んううっ! ん、んうぅ、う……」
じたばたと暴れようとするけど、力が入らない。あ、なんかぼうっとしてきちゃった……
「んうっ、んっ、ん、んううぅ……」
あ……祐一ぃ……
ぼうっとしてきて頭の中が真っ白になりかけたところで――――
「……ぷはっ」
やっと祐一が放してくれた。にこっとして笑う。
「な、ごめんって、名雪。許してくれよ」
「う〜……キスなんかしても、その、だまされないもん……祐一の、ばかっ……」
顔を真っ赤にしてうつむく。もう、なんでそんな事簡単にできちゃんだよ……
「え、なに? もう一回して欲しい?」
「え? そ、そんなこと言ってない……んううっ!?」
またキスされた。
ながいキス。ううっ、なんか力が入らないよ……
「ぷはっ」
やっと祐一が放してくれたのは多分3分後ぐらいだった。
「と、ゆーことで、許してくれ」
「……いちごさんでー」
「ぐっ、い、一杯ぐらいなら」
「え? いっぱい? そんなに奢ってくれるの?」
「待て待て名雪っ! アクセントの付け所が違うだろうがっ!」
ちぇ、気付いちゃったよっ。
「祐一けちだよっ」
「お前にいっぱい奢ってやるなんつったらいくら金が飛んでくと思うんだ!?」
「え、さ、三万円くらいかな……?」
「俺が破産するわあっ!」
「そうだね、祐一がヒモになっちゃったら困るもんね」
「いやちょっと待てそれもなんか違うぞっ」
「違わないよっ」
「おいちょっと待て名雪っ! だいたい俺がいつヒモになったっ! 俺はちゃんと自分のことは自分でだなあっ!」
「祐一、早く起きてきてね♪ 今日お母さんもあゆちゃんも真琴もいないんだから、遅刻しても誰も起こしてくれないんだよ♪」
「おいこら待てっ! さりげなく『♪』をつけて逃げようったってそうは――――」
ばたん。
「さっ、朝御飯つくんなきゃ、祐一と遊んでたから急がないと遅刻しちゃうよ」
『お前のせいだろうがあっ!』
扉の向こうから祐一の声。しっかり聞こえてたみたいだね……
祐一が降りてきたのはちょうど朝御飯の大半が出来あがりかけたときだった。
「ふあ〜あ……、名雪、朝飯できたか?」
「祐一、朝は『おはよう』だよっ」
「ああ、そだったな、おはよ」
「朝御飯出来たけど……祐一、コーヒー飲む?」
「ああ、頼むわ」
「うん」
ぱちっとコーヒーメーカーのスイッチをつける。コーヒーが出来あがるまでの間に二人で席についてぱくぱくと朝ご飯を食べる。今日のメニューはトーストにベーコンエッグに私は紅茶(いちごたっぷり)、祐一はコーヒーだった。
「ねえ祐一、今年まだ雪降ってないよね」
「ああ、そういやそうだな。いつもは10月ごろに振り始めるのに」
ちなみに今日は11月の半ばだった。いつもより暖かい年だからかなかなか雪が降らない。
「うん……、ちょっと残念……」
「雪……かあ……」
ぼやいて、祐一がどっか遠くでも見るかのような目をする。
「? どしたの、祐一?」
「……なあ名雪、今年雪が降ったらさ」
「うん」
「あゆとか真琴とか、他のみんな……香里や栞や舞や佐祐理さんも呼んでさ、みんなで遊ばないか?」
「みんな?」
「ああ、みんなで、かまくらとか作ったり、雪合戦とかしたり、雪だるまとかも作ってさ、栞が前に言ってたようなでかい奴がんばって作って……」
楽しそうに祐一が言う。
みんなで遊ぶ。
いいかもね……きっと、楽しい……
「……うん、いいかもねっ」
「な? そうだろう? それでさ……みんなが帰って、俺達二人っきりになったら……」
「?」
「……雪ウサギ作ろう」
「……え?」
雪ウサギ。
その言葉が祐一の唇から発せられた瞬間、私の体がぴくん、ってこわばった。
7年前捨てられた雪ウサギ。
もう絶対に作んないって思ってた雪ウサギ。
「……7年前のお詫びとは言わないけどさ、また二人で作ろう。何個でも、日が暮れても、夜になっても、朝になって、次の日が来ても、お前が満足するまで付き合ってやるから、二人で作ろうぜ。それで、雪だるまの横に飾って……」
そこで、祐一が言葉を切った。少しためらったような仕草。そして、
「二人で笑いながら、一緒に作ろう。今度は壊さないように……、何個でもいいから……また笑いながらお前が雪ウサギ作れるようになるまで……」
祐一……
そんな事やんなくても、もう私大丈夫なのに。
でも、ホントに優しいよね、祐一は……、私、多分、そんな祐一が……
視界が急にぼやけてきた。つうっと、頬を暖かいものが伝う感触。
「名雪……? 泣いてるのか?」
「うん……、でも、大丈夫だよ。これは……嬉しいときに出る涙だから……」
指でぴってそれをぬぐいながら言う。雪ウサギ。いいかもしんない。ずっと作ってなかったけど。
もう作りたくなんかないと思ってたけど。今なら作れるかもしれない。
祐一が一緒なら、笑いながら何個でも作れるかもしれない。
「うん……いいよっ、つくろっ、雪ウサギ。一緒に作ろっ」
「……ああ、作ろうぜ……」
「うん……」
そこでぴーって、コーヒーの沸いた音。コーヒーメーカーを取って、祐一のカップに注ぐ。
「さっ、これ飲んだら学校行くとするかっ」
「うん、祐一、帰りにイチゴサンデーだからねっ♪」
「ぐわっ、そうだったかっ」
「ふふっ、約束、だよっ」
「ああ、くそっ、金が減ってく……」
「朝っぱらから意地悪する祐一が悪いんだよ♪」
「くっ……。ならもっと意地悪してやろうか……?」
「や〜だよっ♪」
ぺろっと舌を出してあっかんべ〜ってポーズをする。う〜ん、ちょっと、似合わないかな……?
「ええい、くそっ、こうなったら強攻策だっ! 名雪、神妙にしろっ!」
「祐一ぃ、次変な事やったらイチゴサンデー三つだからねえ」
「ぐぐっ、そ、そんな事言う奴にはもうキスしてやらんぞっ!」
「だいじょぶだよ♪ その時は私が無理やりするから♪」
「ぐっぐぐぐっ! なんかお前微妙にかわし方うまくなってないかっ!?」
「祐一のせいだお〜」
「だお〜じゃねえっ!」
何ともない会話。でも何よりも大切にしたいと思う暖かい会話。
外をちらっと見る。白い雲が空一杯に広がってる。もしかしたら初雪は今日降るかもしれなかった。
<おわり>
どうも皆さん、東方不敗です。
どうでしたか、今回の作品。名雪の話で一番印象に残ってるのはあの雪ウサギだったもんで……、
その思いを形にしてみたく、今回の作品を書かせていただきました。
まあやっぱりらぶらぶな話になっちゃうのは私の性分と言いましょうかなんつうか、まあ具体的に言いますと気にするな。
名雪エンド後の、祐一の唯一の罪滅ぼし。彼女の傷は完全にふさがったんでしょうか? 答えはわかりませんが、そうだったら、いいですね――
さて、今回の後書きはこれぐらいで、また会えたらいいですね。次回作は未定ですけど、ね。
それじゃ、またお会いできる事を信じて、ばいばい♪