名雪 DE 象コロリ






 それは、冬休みに入ってすぐのこと。

「ありがとね。またよろしくー」

 店員の声に、挙動不審気味に体を震わせて、開いた自動ドアをくぐる。
 暖房の効いた店内から外気へ。"寒い"というよりは"冷たい"、"冷たい"というよりは"凍える"と言った表現がしっくりくる商店街の裏通り。
 微風でさえ、わずかに露出した顔や手などの肌から容赦なく体温を奪い去っていく。
 店を振り返ると、エロ大王と丸文字ゴシック体ででかでかとデザインされているネオン看板。非常に漢気溢れる店であった。きっとまたお世話になるであろう。
 ぴっ、と背筋を伸ばしてした敬礼はしかし、コートの隙間に寒風を入り込ませ、温まった心を肉体ごと冷やすのには効果十分だった。

「さみーよちきしょー」

 悪態をつかねばやってられない。首を縮めポケットに手を突っ込み、歩き出す。
 この北の街に住み始めて二度目の冬。訪れたというだけなら、二桁に届くかと言うぐらいの冬。

「この寒さは慣れねーよなあ……」

 ちなみに、冬これだけ寒いと言うのに、夏は信じられないぐらいに暑い。
 不公平だ! 謝罪と賠償を要求するー!
 何と比べて、誰に要求するのかは全く不明だ。

「さみぃ……」

 思わず足も鈍る展開だが、あまりゆっくりともしていられない。
 時計に目をやろう―――と思ったが、腕時計を見るためにコートのポケットから腕を出すだけでも辛かった。
 クリスマス直前の、どこか浮ついた雰囲気を放つ商店街を、駅前まで亀のように首をすぼめて歩いていく。
 既に冬休みに突入している為、待ち合わせの若者が多い駅前の街頭時計。

「ぬお、やべぇ!?」

 時計の短針と長針は、あと十分少々で完全に頂点で重なり合う。既に今年最後の部活の終わるであろう時刻だった。予想以上に、店内に長居しすぎたらしい。
 何しろ色々と興味深いモノがたくさんあったからな……ぐへへへへ。
 まあ、受験勉強のためにバイトもやっていない万年金欠病たる俺には、お試し感覚で買ってみるには割高な物ばかりだったのであるが……。
 "電動ムーンサルト"とか"天まで昇れ"あたりはお手ごろだったけど……あまり安い奴を買うのは何か不安だし。それに、置いておく場所もない。どうでもいいけど、商品名まで覚えているとはさすがだぜ俺。
 今のところ俺の部屋の掃除は、叔母で家主たる水瀬秋子さんがしてくれている。下手な場所に隠しておいて発見されては、立場の弱い居候の身。冬の寒空、ダンボールを死に床に凍死という事にもなりかねない。
 目的だったブツも、入念な隠蔽を行わねばかなりマズイパッケージングではある。だが、これならばなんとかなりそうではあった。

「急ぐか……」

 名雪が帰ってくる前に家に帰っておかねば、計画がやりにくくなる。
 少し小走り気味に、アーケードから出て雪を踏みしめた。






「ただいまー」
「お帰り、名雪」

 玄関に駆け込むなり、はーっと息を吐き出す名雪。

「お出迎えありがとっ、祐一っ」
「ちょうどトイレから出て来ただけだ。外、寒いか?」
「うん。ちょっとねー」
「ちょっとか……」

 靴を脱ぎながら、事も無げに言う。
 この街の人間はやはり人外だな。特に女。
 なぜスカートでいられるのかが不思議だ……。

「何か暖かい物でも入れてきてやるよ」
「わ……」

 マフラーを解いていた名雪は、普段眠そうに細められている目をはっと見開いている。

「何だその意外そうな顔は」
「だ、だって……」

 解きかけのマフラーの端を指でもじもじと捏ねくり回しながら、俯く。

「……ううん、なんでもないよ。ふふっ」
「…………」

 嬉しそうに微笑む名雪。くっ。何か気に入らんぞ。
 計画が成功した暁には、ひぃひぃ言わせちゃるけん! 覚悟しぃやふぉらー!
 暗い広島弁は心に潜め、今は気の効く同居人を装う。

「でも、私、シャワー浴びたい……」
「んじゃ浴びて来い。その間に入れといてやるから」
「…………」
「どうした?」
「ふふ。なんか、今日の祐一、優しいんだもん」

 そう言って邪気なく笑う。
 ……まるで、いつもは優しくないみたいな言い方だな。遺憾である。

「―――俺はいつでも優しいだろう? 特にベッドの上とか」
「っ!」

 がたたん、と下駄箱を揺らしながら狼狽する名雪。

「ゆ、ゆういちっ!!」
「気にするな。ほれ、汗かいたんだろ? 風邪ひくぞ」
「うー」

 初めてのとき痛かったのに……などと呟きつつ、名雪はバスルームに消えていった。
 ―――アイツも大概に恥ずかしい奴だな。

「フフフ……だが安心しろ名雪。今日は痛くなんてないからな……」

 ……たぶん。






「さて」

 名雪の部活帰りのシャワーにおける所要時間は約20分。時間に余裕があるとは決して言えない。ミッションは迅速を要する。

「そそくさっ」

 と自分の部屋からブツを持ち、キッチンへと戻る。

「く、ククク……!」

 手に持ったブツを確認し、奇声をくぐもらせる。
 それは、シャンプーやリンスが入っているような円筒形の容器だった。毒々しい色のラベルには、『象コロリ』とプリントされている。

 『超媚薬!どんな女性もコロリコロコロ……象だってウッフン(はぁと)コロコロリ……続く』

 裏の成分表に踊る文句に、いやがおうにも不安と期待がかきたてられる一品だ。続くって何だ、続くって。
 午前中、かのエロ大王にて購入した媚薬―――エッチな気分になる薬―――である。

 「俺の彼女、ちょっと潔癖なところがあるんですよ。いつもはポンコツのクセに。で、これを見つけて。半信半疑ながら使ってみたら、もうすげえのなんのって。一人エッチすら否定していた彼女が、涙目でエッチをせがむまでに。これのおかげで彼女とのエッチライフも充実。ときどき使ってマンネリを解消してます」(18歳、学生)

 店に貼ってあった、黒の目線付きの体験談写真。
 雑誌の裏なんかに載ってる幸運の何たらだのと言うのは全く信じないタチなのだが、この写真、どーーーーーー見ても、前の学校にいた友人にしか見えなかったのである。
 ポンコツの彼女というのも心当たりがあるし、冬休みの暇にかまけて商店街をふらふらと散策していて偶然店を見つけ、ワゴンセールを除いていた俺の興味を引くには十分であった。
 健二の奴、うまくやりやがって……!

「名雪ともご無沙汰だったからなあ……」

 相手の母親同居で毎晩愛を囁けるほど肝が据わってはいないし、名雪は名雪で妙に潔癖なところがある。
 その分乱れ始めると止まらないんだけどな。そこがまた―――と、それはいいとしてだ。
 まあ、若気の至りで、購入に踏み切ってしまったのだった。
 ちょうどクリスマス商戦で忙しいのか、秋子さんも今日は帰ってこないとわかっていた事も、理由の一つである。

「効くも八卦、効かぬも八卦……とぉ」

 どうせ、今夜はしっぽりと過ごす予定だったのだ。健全な青少年としては、新たな刺激を求めるのは当然のことと言える。つか言え。
 るんるんと呟きながら、入れたホットココアに象コロリを投入していく。ハチミツを少しさらさらにしたような、ローション状の透明な液体である。効果が無くても、風呂場あたりでローション代わりに使えそうだ。部屋で使うのは……後始末の観点からして素人にはお勧めできない。
 投入前に少しだけ嘗めてみたが、えらく甘い味がした。ココアに混ぜてしまえば、甘味料代わりにもなるだろう。たぶん。

「うーし、完・成」

 スプーンで混ぜてみても、特に粘り気があるとか言う事はない。見た目では、まずバレないだろう。
 少し啜ってみる。甘味が少々不自然だが、変な味というほどじゃない。

「完璧だぜ、俺……」

 ミッション・コンプリートの感慨に打ち震えていると、バスルームの扉が開く音がした。
 予定時刻より幾分か早い。手に持ったままの象コロリに少し慌てるが、体を拭いたり服を着たりという作業のために、まだ時間の余裕はあるはずだ。
 高まる期待に一回深呼吸。早足で自分の部屋に象コロリを放り込みに行き、リビングに戻った。

「真のミッション・コンプリートだ……」

 ソファーに腰掛けつつテレビを点け、自分の完璧な仕事振りに一言賞賛を贈る。

『じゃあ、来週来てくれるかな?』
『いいかなー!?』

 テレビは、日本の昼を彩る名物番組、『笑っていいかな?』のゲストトークコーナーがちょうど終了するところだった。

「あ、明日誰だってー?」
「知らん奴。最近の若い芸能人はわかんねー」

 トレーナーにデニムのスカートという部屋着で脱衣所から出てきた名雪。
 暖房が効いているとはいえ冬だし、さすがに下着姿のままじゃないか……。
 夏でもキャミソールは着けてくるし、秋子さんの情操教育は概ね正しいようだ。

「あ、ココアだぁ。ありがと、祐一」
「んー」

 声に振り向くと、ココアに口をつけ、嚥下するのが見える。
 ―――フ、フフフ。飲んだな?

「んー、甘いー♪」

 語尾に音符でもついてそうなとろけた声。

「そうか。そりゃよかった」
「お砂糖じゃないよね。祐一、何か入れたの?」
「うむ、秘密の隠し味だ。お気に召したようだな」
「へーぇ。うん、甘くて美味しいよ」

 少し冷ましたお湯で入れておいたから、飲むペースもいくらか速い。
 ……飲んですぐ効く、というわけでもなさそうだな。

「ついでにお昼も食べちゃおっと」

 そう言うと名雪は、冷蔵庫から秋子さんが朝作っておいてくれた野菜炒めを取り出し、レンジにかけた。
 レンジが回っている隙に、ご飯と味噌汁を盛る。ちなみに、名雪が帰ってくる前に俺が喰ったから、まだ冷めてはいないはずだ。
 ちーん。と小気味良い音。

「いただきまーす」

 のったりと箸を進める名雪。
 ……効き始めの時間は書いてなかったな。うーむ、やはり期待するだけ無駄だったかなあ。
 不安の芽が覗き始める。効くも八卦効かぬも八卦、とは思っていたが、やはり福沢さん一人分の犠牲を払っているのだから、お値段の張るガムシロで終わってしまっては凹む物がある。

 テレビでは、見知ったタレントがクイズを繰り広げていた。

「ごちそうさまー」

 何事もなく食べ終わってしまう。
 ……うーん、量が足りなかったか? でも用法・用量にはお飲み物にちょっと混ぜるだけで! とか書いてあったしなあ。はっ、もしかして熱を加えるとダメだったとか!? 冬だから冷たい飲み物は厳しいが、かといって夏まで待つのもアレだ―――

「祐一?」
「のわあっ!」

 ぬぬっ、といきなり目の前に名雪の顔が現れて、考えに耽っていた俺は思わず飛び退いてしまった。

「そんなに驚かなくても……」
「ちょ、ちょっと考え事してたんだよ!」

 眉をひそめる名雪に、風呂上りの潤ったロングヘアーから漂うリンスの香り。
 微かに違う香りは、ボディソープだろうか。
 ……こんなもん嗅ぎ分けられる能力なんて、いつの間についたんだろうか。やはりいつもしてるのは風呂に入った後だから、鼻が覚えてしまったんだろうかなぁ。

「祐一、何か変なこと考えてない?」
「何も変なことなんて考えてないぞ」

 いつもはぼけっとしてるクセに、妙なときに鋭い。

「そうかなあ……」

 とはいえ、ほとんど『気付かんかボケェ!』といわんばかりの俺の言い訳に素直に首を捻ってしまうところが、名雪の名雪たる所以か。
 俺は何も言わず、テレビに眼を向ける。名雪も、俺の隣に座ってテレビを見る。

「晩メシは名雪が作るのか?」
「うん。お買い物はしてあるから、まだ大丈夫だよ」
「そか」

 随分用意がいいな、とまったり空間にとろけた思考で、微かに股間を気にしながら頷きを返す。
 ……正直、気持ちは半ば諦めに入ってきた。興が削がれた、と言うと不謹慎だが、二人でソファーに座ってテレビを眺める昼下がり、なんて状況で狼になる気には、さすがにならない。
 ならないはず、なのに。


 なぜ我が股間の220mmガイアは暴発上等準備万端いっちょ来いや! な状況になっているのでしょうか。


「祐一、トイレに行きたいなら行っておいたほうがいいよ。ちょうどCMだし」
「いや、そういうわけでもないんだが……」

 うずうずうずうずうずうず。
 名雪にも感じられるほどの体の疼き。それは急に来た。鎌首をもたげるどころか飛び起きるような勢いで、まったりととろけていた気分がざわついていく。
 隣に座る名雪に意識が向く。艶を放つ髪、澄んだ瞳、細かな睫毛、整った鼻筋、柔らかそうな唇。トレーナーの狭い襟から少しだけ覗く鎖骨―――横を向いただけで飛び込んでくる視覚情報に、くらくらと頭が揺れる。
 ……ど、どうなってんだこりゃ!? 明らかにおかしい。もしかして、あの少しなめただけの象コロリか!? す、すげぇ効果だ! 俺感動!?

「…………」
「…………」

 名雪は、テレビに見入っている。ように見える。
 ……少しなめただけの俺でさえこの状態なのだ。ガムシロ並に摂取した名雪が、我慢しきれるはずは無い。
 感覚器が狼のそれにシェイプ・チェンジしつつある俺は、名雪の一挙手一投足までも見逃すまいと、その横顔を見つめ続ける。

「……んっ!?

 せり上がる衝動を、無理矢理押し殺したような呻き。
 みるみるうちに、名雪の表情は困惑に彩られていく。

「はぁっ……」

 艶息。思わず吐いてしまった、と言わんばかりに両手で口を塞ぎ、俺の方をちらりと見やる。

「……どうした? 名雪」
「えっ? あ、う、うん、なんでもないよ」

 とぼけてみせると、名雪は座りが悪そうに体をもぞつかせながら、テレビへと向き直った。
 ……狼となった俺は見逃さない。名雪にしてみれば何気なくだろうが、名雪の両手は、冬、かじかんだ手を暖めるが如く、両の太股の間に挟み込まれている事を。
 その仕草自体は別に何の事は無い。俺だってよくやってしまう程度の物だ。それが狼の視線を惹きつけた理由は―――

「……あっ……んっ

 ―――挟み込まれた指先が蠢き、そのさらに奥にある『名雪自身』へとささやかな刺激を送り続けている、と言う事だ。
 乱れ始めてこそ燃え上がる名雪だが、いつも火が付くまでが大変なのに。(火をつける過程の方が楽しいかもしれないと言う個人的感情は置いといて)
 そんな羞恥心の強い名雪が、自分の部屋に戻ってする事すら思いつかないほどの、疼きなのだろうか。
 小さく、押し殺した自慰。
 ……やべ。かなり、クる。抑えが効かねぇ。

あぁぁぁぁっ…………!」

 細い鳴き声。背筋を弓のように伸ばし、ぴくん、ぴくん、と全身が高周波マッサージ器のように震える。

「名雪ぃっ!」
「あっ!」

 がばちょ、と名雪をソファーに押し倒した。

「ゆっ、ゆういちっ!?」

 戸惑いの声をあげる名雪。俺はそれには答えず、無言でデニム地を捲り上げて、下着に手をかけた。
 掴んだ手の平と指に、液体に濡れる冷たい感触。

「あっ、い、いやぁっ……ん」

 俺の頭を押さえ、微かな抵抗を試みる名雪。しかし、その声に艶めかしい期待の色が混じっているのを、俺は聞き逃さない。

「しゃ、シャワー浴びて着替えたばっかなのにぃ……あんっ!」
「こんなにびちょびちょにしといて、今更何を言ってるんだよ?」

 名雪の鼻先に、素早く剥ぎ取った下着を広げてやる。
 股布に拡がる染みが、はっきりと見て取れる。

「だ、だって、なんか体がぁ……ぁっ」

 外気に晒された俺の分身に、か細い声を出す名雪。

「俺も……熱いんだ。名雪」
「ゆういち、も……?」
「ああ」

 早く。早く繋がりたい。
 情欲、というよりは獣欲、とでも言うような、疼き。
 すげぇぜ象コロリ。あの名雪に、こんなとろけた表情をさせるんだから。

「だから……いくぞ、名雪」
「え。ちょっ、まだ触っても、ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 躊躇わず腰を進めた。普段の愛撫を終えてからの挿入など比べ物にならない潤いを纏う名雪に、侵入していく。

「うぉ……っ」
「あ、ああ……へ、変だよ、ゆういちぃ……」

 あまりのぬかるみに、腰は自然にグラインドを繰り返す。

 ずちゅん、ずちゅん、ずちゅん―――!

「熱い、熱いよぉ……」

 マジで……熱い。止まらない。
 トレーナーの上から荒々しく双丘を揉みしだく。トレーナーの厚い生地の上からブラの固い感触。そしてその奥の最上級の柔肌までを手の平で貪る。

「あふっ、ふぅっ、あっ、あっ、ああんっ、あぁぁぁぁん!」

 乱れる。"淫れる"と言った方が適切だろうか。
 快感を感じる名雪を見たことがないわけではないが、ここまで燃え盛るのを見るは初めてだ。
 それがまた新鮮で、新たな刺激であり……つまりは、もう限界が見えてきたということだ。

「ぐ、なゆきっ、なゆきっ!」
「ふああっ、ゆういちぃ!」

 抱き締める。耳元で名雪の吐息が荒ぶっている。ふーっと意識を遠くに引っ張られていくような感覚。
 そして、限界まで伸ばしたゴムが一気に縮まるように、射精感と言う圧倒的な衝撃を以って、現実に引き戻される!

「うああっ!」
「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 どくっ! どくっ! どくっ!

「ぐぅっ、はぁっ、はぁっ」
「ゆ……いちの、あつぅいよぉ……」

 息を切らせて、抱き合う。
 何度も大きく震え、名雪の中に精を放つ我が主砲。とりあえず、『中二世を放つ』などと不吉極まりない変換をしたIMEを一発殴っておく。
 ……あー、とりあえず落ち着いたは落ち着いたが、少し罪悪感。かなり強引にイタシてしまったのだ。性交つーか交尾? って勢い。

 するっ。どさり。

 ……確かにめちゃくちゃ気持ちよかったし、名雪も気持ちよかったと思う。でも、なんか……なんか違うような気が―――

 しゅる。ぴちゃ。

「うぉぉう!?」

 股間に感じるヌル温かさに思わず腰を引いた。

 ぷちゃ、ぴちゃ、ぺちゃ。

「なっ、名雪さん!? 何をしてあらせられますかー!」

 見ると、正常位のままうつ伏せだった俺をいつの間にかひっくり返し、名雪が半立ち状態の俺のモノをぴちゃぴちゃと舌で弄っている。

「もっとぉ、ゆういち、もっとちょうだぁい……」
「こ、これは……」

 ぞ、象コロリが効きすぎてるのか?
 しゅっしゅっ、と頭を上下に動かして、口での奉仕を続ける名雪。長い髪がソファーに散り、言いようも無い色気を発する。
 見る見るうちに次弾の装填が完了するマイ・サン。

 ……あいわかった。俺の撒いた種だ。俺が刈り取らねばなるまい。お前が満足するまで―――お相手つかまつる!

「なゆきーーー!!!」
「あぁん♪」






……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……







「あー……」

 電灯が黄色いぜ……。

「くー……」

 俺の胸の上では、すっかりとつやつやになった名雪が寝息を立てている。
 首だけを動かして、壁掛け時計を見た。―――午後三時。
 二時間余り、夢中で交わっていたという計算だ。畜生以下か俺らは。

「それにしてもすげぇ効き目だったな……」

 プラシーボ効果で興奮したと言うわけでは無いというところがまず凄い。
 性欲に関しては、特にそういう"雰囲気"によってかなり左右される部分があるため、『自分は媚薬を飲まされた』と思えば、そう体が反応してしまう事は珍しくない。
 そういう事は一切無く、純粋に効能だけなのだ。余波とはいえ自身が実感した事なのだから、よくわかる。

「とりあえず入念に隠蔽して……時々使っちゃろ。くくく」

 辛く苦しい受験街道のオアシスに、ほくそ笑む。毎日毎日香里先生のキビシーレッスンをこなしている優秀な生徒であるところの俺としては、やはり息抜きも必要と思う次第なのである。
 ちなみに香里は近辺一の国公立大学に推薦で合格を決めている。色々と叫びたい気持ちで一杯ではあるが、本当に頭がいいし努力もしているのだからそれは仕方ないのである。

「ふー」

 コッチッ、コッチッ。
 時計の音だけがリビングに響き渡る。テレビは行為の最中に消してしまっていた。

「……晩飯までには起きろよ、名雪」
「くー……」

 無理だろうなあ、と半分諦めつつ言って、胸元の眠り姫の髪を梳いた。 



 そんな、冬休みのある日のこと。





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