タイトル 『夢』


私は夢を見ます。覚めない夢を見続けます。
夢の中の私はいつも綾香様と浩之さんのふたりと一緒にいます。
遊びに行くとき、ピクニックに行くとき、買い物に行くとき、
パーティに行くとき、釣りをしに行くとき、旅行に行くとき、
どの様なときにも私は綾香様と浩之さんのふたりと一緒にいます。
夢の中の綾香様と浩之さまはいつも楽しそうに見えます。
今も私は夢を見ています。
『セリオ、この服どうかしら?』
「お似合いにですよ綾香様」
『違うわよ、あなたによセリオ』
「私に・・・ですか?」
『そうよ。あなたも女の子なんだからおしゃれな服ぐらい持たないとね。
 ねえ、浩之もそう思うでしょ?・・・・・・って、どこ行ったのよ?』
「浩之さんなら先ほど向こうに行かれましたが」
『まったく浩之ったらフラフラと・・・。今度から首輪でもしておこうかしら』
『首輪がどうしたって?』
『あっ、浩之。もう、今日はセリオの服を見るって言ったでしょ。フラフラどっかに
 行かないでよね』
『分かってるって。だからこうして似合いそうな服選んできたんだよ。
 セリオ、ちょっとこれ着てみてくれないか』
「はい、分かりました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうでしょうか?」
『うん、いいね。似合ってるよ』
『浩之が選んだにしてはいいセンスしてるじゃない。とっても似合ってるわよセリオ』
「ありがとうございます」
『それにしても、いつも私の服選ぶときはマジメに見てくれないのに、
 セリオの時はちゃんと見てくるのね?』
『そりゃ綾香と違ってセリオは女の子らしいしな』
『それどうゆう意味よ?ケンカ売ってるの?』
『いや冗談だって、冗談』
『いーえ、冗談では済まされないわ。責任とってもらうわよ』
『責任って・・・』
『私に似合う服を見つけるまで今日はとことん付き合ってもらうわよ』
『やれやれ、しょーがねえなぁ』
そう言いながらも、ふたりはどこか楽しそうに笑っています。
そこにいる私も楽しそうに見えます。
私は夢を見ます。覚めない夢を見続けます。
どの夢の中でも綾香様と浩之さんはいつも楽しそうに見えます。
今も私は夢を見ています。
『それじゃあ行ってくるわね』
「行ってらっしゃいませ、綾香様、浩之さん。道中お気をつけください」
『大丈夫さ、俺が運転するんだから。少なくとも綾香よりは安全だぜ』
『悪かったわね、運転が下手で』
『というより、荒いんだよな綾香の運転は』
『まあ、それは置いといて・・・』
『セリオも一緒に行ければよかったんだけどな』
『ホント残念ね』
「仕方ありません、メンテナンスが入ってしまったのですから」
『今、大丈夫なの?』
「はい、心配いりません。動作部に異音が微かにしている程度ですから」
『それならいいけど・・・。今度は絶対三人で一緒に行きましょうね。約束よ。
 浩之もいいわね?』
『分かってるって。約束だぜ、セリオ』
「はい、約束します」
『それじゃ、そろそろ行くぞ』
『はーい。それじゃあねセリオ。お土産買ってくるから』
「はい、楽しみにお待ちしております」
『行ってきまーす』
――――――――――――――――――――――――。
夢はいつもそこで突然終わります。その先の夢を見ることはありません。
また始めから夢を見続けるのです。
私は夢を見ます。覚めない夢を見続けます。
夢の中の私はいつも綾香様と浩之さんのふたりと一緒にいます。
どの夢の中でも綾香様と浩之さまはいつも楽しそうに見えます。
今も私は夢を見ています。
同じ夢を何度も何度も終わりなく見続けています。
そして最後の夢だけ突然終わるのです。その先の夢を見ることはありません。
そしてまた始めから夢を見続けます。
終わらない夢のループ。
今も私は夢を見ています。
「これがセリオね」
「うーん、スリーピングビューティーってやつだね」
「あはは、キスでもする?」
「ん、ではお言葉に甘えて・・・」
「本気にするな!」
「っ痛・・・・・・。いてぇなー、マジで殴るなよ」
「あんたがへんなことしようとするからよ」
「お前が言ったんだろ」
「冗談よ。それぐらい分かりなさい」
「でもなぁ、実際キスぐらいしたくなるぜ。おまえと違ってこんなに美人だとさ」
「あんた、また殴られたいの?」
「遠慮します・・・」
どうゆうことでしょうか?
今まで数えきれないくらい同じ夢を見続けてきたのに、
私はこの夢を初めて見ます。
それだけではありません、
この夢の中では私は喋ることも動くことも見ることもできません。
「それにしてもどうやって起こすんだ?」
「母さんはもう電源は入ってるはずだって言ってたわよ」
「それにしちゃあ、さっきからピクリとも動かないぜ」
「眠ってるんじゃない?」
「眠るのか・・・?」
「セリオ起きなさい!」
私のセンサーがその声を捉えます。
私がその声を強く『認識』したとたん、
閉鎖されていた私のシステムが急速に起ち上がっていきます。
「っておまえなあ、そんなんで起きるんだったら誰もくろ―――」
「・・・はい、綾香様」
私の視界が急速に開けていきます。
笑みを浮かべた綾香様と、口を半開きにして固まっている浩之さんが立っています。
「おはよう、セリオ。初めましてだね、私は綾香っていうの。
 そっちの間抜け面してるのが弟の浩之。ほら、挨拶ぐらいしなさいよ」
「あ・・・ああ、えと、俺は浩之っていうんだ。よろしくな、セリオ」
「綾香様・・・・・・浩之さん・・・・・・?」
私の思考回路が混乱します。
初めましてとはどういうことでしょう?それに浩之さんが弟とは?
その混乱を静めたのは私のセンサー群でした。
私のセンサーはそこにいる綾香様と浩之さんを、
私の知っているおふたりとは別人だと判断しました。
ですが、声も、姿も、雰囲気も、そしてこの楽しそうな様子も、
私の知っているおふたりにとてもよく似ています。
「私はHMX−13型、セリオと申します」
言葉を区切り、ふたりを見つめます。
「あなた方はいったい・・・・・・・・・・・・」
ふっと影が射すのに気づきます。
ふたりに気を取られていた私は影が射すまでまったく気がつきませんでした。
『母さん』
ふたりがはもります。このおふたりの母親でしょうか。
影の主を見上げた私は再び言葉に詰まってしまいます。
「芹香様・・・・・・」
私の記憶にある姿より大人びていましたが、間違いなく芹香様です。
ゆっくりとした足取りで歩んできて、
そして変わらぬ小さく優しい声で私にささやきます。
「・・・おひさしぶりですね、セリオ・・・」


ティーカップに紅茶を注ぎ入れ、芹香様の前にそっと差し出します。
「・・・ありがとうセリオ・・・」
テーブルに置かれた紅茶を取ろうとして、ふっと気づいたように芹香様がこちらを見ます。
「・・・あなたも座ってちょうだい、セリオ・・・」
軽くお辞儀をし、私も芹香様の対面のイスに座ります。
紅茶に一口だけ口をつけた後、ゆっくりと芹香様はお話しを始めました。
木々の間からこぼれるわずかな陽射しと春風がふく中、
私は黙ってその話しに聞き入ります。
それはあの夢の続きでした。・・・・・・いいえ、それは私が目を覚ましていた頃の記憶、
そして私が眠りについた後の話し。
本当は私はあの夢の続きを知っていたのです。
ですが私はその記憶を回路の奥底へと封じ込めていました。
現実を拒否し、幸せな記憶の中で過ごす為に・・・・・・。
あの日、綾香様と浩之さんは死にました。死因は交通事故です。
私がそれを知ったのはメンテナンスが終わった直後でした。
その時を境に私は全てのシステムを閉鎖して外部との接触を絶ち、
回路に残された幸せな時間を繰り返し再生していたのです。
人間でいえば過度の自閉症といったところでしょうか。
私は約17年もの間そうしていたようです。
ですが、そんな私をあのふたりが目覚めさせたのです。
あのふたりは綾香様と浩之さんの子どもだそうです。
あの日、浩之さんの運転する車はカーブで対向車線から飛び出してきた車と衝突したそうです。
衝突する間際、綾香様を守るように浩之さんはハンドルを左に切ったそうです。
浩之さんは即死。綾香様も死にました。
ですが、綾香様の体は生きていたそうです。そう、一般にいう脳死の状態です。
そしてお腹に宿っていたふたつの命も助かりました。
それがあの綾香様と浩之様です。ふたりは二卵性双生児だそうです。
事故から7ヶ月後、帝王切開で無事出産を果たした後、綾香様は完全に息を引き取ったそうです。
そして芹香様がおふたりの母親代わりとして育ててきたそうです。
話しを終えると、芹香様はぬるくなった紅茶に口をつけました。
「・・・・・・一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「・・・ええ、どうぞ・・・」
「なぜ・・・なぜ今になって私を起こしたのですか?
 メイドロボの代わりはいくらでもあったはずです」
そう、仕えるべき主人もなく、動かなくなってしまったメイドロボなど
誰が好き好んでとっておくのでしょうか。それに動いたとはいえ17年も経った今、
私より性能のよいメイドロボはいくらでもいるでしょう。
「・・・何度も起こそうとしたのよ・・・。
 でも・・・誰の声もあなたには届きはしなかったの・・・。
 それで、ふと思ったの・・・。あの子たちならあなたに声が届くのではないかと・・・。
 ・・・私思うの・・・あの子たちは妹と浩之さんの生まれ変わりじゃないかって・・・。
 妹も、浩之さんも、あなたのことをとても好きでいたわ・・・。
 だから妹が、浩之さんが、あなたと出合った時と同じように、この時、この季節に、
 再びあなたと出会うように・・・・・・そう思ったの・・・」
言い終えると、少し離れた場所でバスケットをしているふたりの方へ視線を移しました。
「・・・そう・・・ですか」
「・・・あなたにはあの子たちの側にいてほしいの・・・。嫌かしら?・・・」
こちらに視線を戻すと、静かに尋ねてきました。
「いいえ、そのようなことはありません・・・・・・ですが・・・。
 ですが、私は・・・・・・私にはその資格がありません。
 だって・・・私は・・・私は・・・・・・」
言葉が続けられません・・・。芹香様の顔をまともに見ることすらできません。
私がうつむいたままいると、芹香様が優しく話しだします。
「・・・妹と浩之さんとあなたが三人でいるとき・・・私にはとても幸せそうに見えたわ。
 ううん、実際幸せだったのはあなたが一番よく分かってるはずよ・・・。
 そしてそんな三人でいる姿を見ている私も幸せだったの・・・。
 ・・・だからこれは私の我がままだけど、また三人で幸せそうにしている姿を見たいの。
 ・・・妹も浩之さんも、あなたがあの子たちと一緒にいることを望むと思うから・・・」
「・・・・・・私は―――」
『今度は絶対三人で一緒に行きましょうね。約束よ』
『約束だぜ、セリオ』
思わずうつむいてた顔を上げて芹香様を見つめます。
いいえ、違います。確かに今の声は綾香様と浩之さんの・・・。
だけどそのようなことがあるはずがありません。
それに私のセンサーにそのような情報は入ってきた形跡もありません。
だけど確かに聞こえたのです。綾香様と浩之さんの声が・・・。
「・・・約束・・・」
綾香様と交わした約束。まだ果たしていない約束。
「私は・・・」
綾香様と浩之さんが望んでくれるのなら、そして・・・。
「私は約束しました。綾香様と浩之さんと三人で一緒に行くと。
 私はその約束を破りたくありません。・・・そして、私自身も一緒にいたいと望みます」
「・・・ありがとう、セリオ・・・」
芹香様が優しく微笑みます。
木々が私たちを包み込むように優しくざわめきます。
「母さーん、話しは終わったー?」
バスケットを終えたふたりが近づいてきます。
「・・・ええ・・・。綾香、浩之、これからはセリオもあなた達と一緒にいることになったわ・・・」
「マジ!やったぜ!よろしくなセリオ」
「改めてよろしくねセリオ」
ふたりとも本当に嬉しそうな顔をしています。その顔は本当にあの方たちにそっくりでした。
「こちらこそよろしくお願いします、綾香様、浩之様」
「よーし、それじゃさっそく親睦を深めるために遊びに行こうか」
「あ、私カラオケがいいな」
「ふむ、じゃあ俺の華麗な歌をセリオに聞かせてやるか」
「私に勝ったことないくせに」
「ふふ、綾香、今日がおまえの命日となるだろう」
「あら、言ってくれるわね。あんたなんか返り討ちにしてあげるわ」
「よし、セリオ行こうぜ」
そう言うと浩之様が私の右腕を絡ませてゆっくり走りだします。
「あ、ずるい、私も!」
綾香様が反対の腕に絡ませます。
私はふたりに引っ張られるようにして走り出します。
振り返ると芹香様が微笑んでいます。
綾香様と浩之様はとても楽しそうに見えます。
私はこのおふたりと共にどこまでも行こうと思います。
今度こそ三人で、ずっと一緒に・・・。








    ――END――



       CAST
      HMX-13=serio
      ayaka kurusugawa
      hiroyuki fujita
      serika kurusugawa
      ayaka kurusugawa
      hiroyuki kurusugawa


       Presented by
        Shin Hajime

          Thanks
     Leaf & Leaf staffs

      Special Thanks
       ...to You

 

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