二人が見るものは……


 

 闇の中、視界に広がる白い裸身。
「ゆ、ゆういちぃ……」
 裸身が、苦しそうにあえぐ。
 けれど、呼びかけられた男、祐一は答える代わりに強く腰を打ちつけた。
「あふっ……もっと……もっと強くっ!」
 快感に溺れ、絶叫する名雪に、意識を向けているのかいないのか、祐一は、ただ、己が欲望に従うように、名雪の蜜壷をえぐり続けている。
 髪を振り乱して悶えるその様は、少女、名雪の日常の姿とかけ離れ、ひどく淫靡て、悩ましげだ。
「ゆ、ゆういち?」
 言葉を発しない祐一に、少し不安げに、名雪が問い掛ける。
「なんだ?」
 突き上げる速度を落とさず、答える祐一の声は、どこか投げやりだ。
「んっ、ゆっ、ゆういちは、いかないよね?」
「当たり前だろう」
 一見、何の事か分からない問いではあるが、祐一は即答する。
「そっ…だよね……んはぁっ!」
「俺は、どこにも行かない」
 吐き捨てるように言い放ち、名雪の身体をひっくり返した。
「ゆうい、ち」
「今度はなんだ?」
 面倒臭そうに、祐一が聞き返す。
「祐一…私を、みてっ」
「見てるよ、そのいやらしい顔も、身体も」
 膝を立てさせ、より深く突きたてる。
「あ、やぁっ」
「そろそろイクぞっ」
「う、うんっ、来てっ、私の中にっ」
 パンパンと室内に肌がぶつかる音が響く。
「んっ、くぅっ!」
 小さなうめきと共に、祐一が名雪の最奥に、性の滾りを放った。 
「いっ、あぁぁぁぁぁ!!」
 それを受け、名雪も身体を仰け反らせる。
 二人は、ほぼ同時に絶頂に上り詰めた。
 静寂の中、二人の吐息だけが、家の中にあった。



 いつからの事だったのか?
 名雪と俺が、こんな風に肌を重ねあっていたのは。
 いや、初めて肌を重ねたときの事は、覚えている。
 秋子さんが事故に遭う少し前の事だった。
 しかし、いつの頃からだったのだろう?
 こんな、お互いの気持ちも何もない、ただの、快楽を求めての行為になっていたのは。
 原因は、わかっている。
 秋子さんが、亡くなったからだ。
 そのせいで、名雪は……。
 あの事故で、秋子さんは亡くなった。
 数日に渡って、意識不明の状態が続いた。
 毎日、二人で見舞いに行った。
 名雪は不安がってはいたが、希望を捨ててはいなかった。
 俺も、何とかなると信じていた。
 しかし、事故から一週間くらいで、秋子さんが亡くなったと、病院から知らせが来た。
 当然、名雪は泣いていた。
 俺も、その横で泣いていた。
 慰めるというより、傷を舐めあうように、二人寄り添いあっていた。
 葬式が終わった夜、泣き濡れた名雪が、俺を求めてきた。
 ただ、悲しみを紛らわせる為だけに、名雪は求めてきた。
 そして俺は、為にならないと分かっていながら、拒む事も出来ず、受け入れてしまった。
 そうだ。
 たぶん、その時から、こんな風になってしまったのだろう。
 なんだ、原因は、俺の弱さでもあったわけだ。
 なさけない。
 いまさら、気持ちが欲しいなんて。
 都合が良すぎる……。



「祐一?」
 いつの間にか目を覚ました名雪が、こちらを不安げにのぞきこんでいる。
 何故か、その視線を不快に感じた。
「なんだ?」
「ううん。呼んでみただけだよ」
「そうか」
 短く答える俺に、名雪がそっと寄り添った。
「祐一は、ずっと一緒に居てくれるんだよね?」
「しつこいな、一緒に居るって、言ってるだろう」
「そうだけど……」
 何が不満なのかわからないが、名雪は寂しそうに微笑している。
「もういいだろう、疲れたから、寝るぞ」
「うん。分かったよ。おやすみ、祐一」
「おやすみ」
 眼を閉じると、すぐに俺の意識は闇に落ちていった。



「相沢君、ちょっといいかしら?」
 翌日、退屈な授業を終え、鞄に教材を片づけていたとき、香里が何気ない調子で話しかけてきた。
「何か用か?」
「ええ、聞きたい事があるのだけれど」
「なんだ?」
「ここじゃなんだから……、そうね、屋上にまで来てくれるかしら?」
 どうやら、他には聞かれたくない話らしい。
「構わないけど、なんだよ? 改まって」
「着いてから話しましょう」
「あ、ああ」
 どこか腑に落ちないものの、促されるままに、屋上に向かう。
 その間、香里は終始無言で、俺は雰囲気に圧され、何となく口を開けなかった。

 キィ、バタン

「で、何のようなんだ?」
 屋上に出ると同時に、こちらから切り出しす。
 香里は、しばらく空を眺めた後、こちらに振り向いた。
「最近、名雪とどう?」
「どうって言うのは、どういう意味だ?」
 訳がわからず、問い返すと、香里はくすりと笑って見せる。
「そのままよ。親友の恋仲を、ちょっと心配してるだけ」
「親友……ね」
「あら、何か不満な点でも?」
「別に」
 短く答える俺に、香里は小さく眉を寄せた。
「ともかく、どんな調子なのかしら?」
「どんな……ねぇ」
「何か、うまくいってないんじゃないかしら?」
「そういう風に見えるか?」
「見えるから、聞いてるんじゃない」
 何を当たり前の事を、とでも言いたげだ。
「そうか……」
「で、実際のところ、どうなの?」
「そうだな……。順調じゃ、無いんじゃないか?」
「どっちなの?」
「あまり、うまくはいってないと思う」
「ふーん」
「なんだか、あいつが俺を見ていない気がしてならない」
「そう……かしら?」
 首をかしげる香里に、俺は頷く。
「秋子さんの穴を俺で埋めてるんじゃないかと、そう感じる」
「それはでも、相沢君の主観でしょ?」
「そりゃそうさ」
 当たり前の言葉に、首をすくめて見せる。
「それじゃ、正しいかどうか分からないんじゃない?」
「そういわれてもな、俺がそう感じるなら、俺にとって正しい事だと思うが?」
「まぁ、そういう見方もできるわけだけど……」
「そんな哲学はどうでもいいんだが……」
「哲学かしら?」
 少し不思議そうに、香里が首を傾げた。
「気にするな」
「それもそうね」
「それで、相沢君は、名雪の事見ているわけ?」
 試すような物言いの香里に、俺は即答する。
「もちろんだ」
「自信ありげね」
「それがどうかしたか?」
「いいえ、何でも」
 少し疲れたように答え、香里が近くの手すりから下を見下ろす。
「それで、ほかには? まさか俺から相談を聞きたかったわけでもないだろう?」
「あら、最初に言った通りよ。二人の仲を心配しているの」
「そうか、ありがとよ」
「どういたしまして」
 俺の皮肉に、香里は少しも動じずに、優雅に返してくれた。
「名雪本人からは、聞いてないのか?」
「もう聞いたわよ」
「へえ?」
「でも、教えない、こういうのは、やっぱり最終的には、当人の意思の問題だから」
「結局、お前は何をするって言うんだよ?」
「助言かしら?」
「そうか」
 気が抜けて、溜息を吐く俺に、香里が呟くように言った。
「相沢君、相手をちゃんと見ていないと、正しい認識は出来ないのよ」
「まったくだな」
 深く頷く俺に、香里は呆れた様に溜息を吐いた。
「もういいわ」
「ん?」
「帰っていいわよ」
「そういうぞんざいな扱いは、どうかと思うぞ」
「多少雑に扱ったからって、傷つくような心根してないでしょう?」
「元気がとりえだからな」
「もう、いい。先に帰らせてもらうわね」
「あ、おいっ」
 引き止める俺に構わず、香里はさっさと、屋上から出て行った。
「なんだってんだ……」
 悪態を吐く俺に、答えるものは無かった。



 家に帰って、特に何をするでもなく、秋子さんの位牌の前に座っていた。
 ただ、何をするでもなくぼんやりと、位牌を眺める。
 包み込むように優しく、慈愛に溢れていた秋子さん。
 そんな人を奪ってしまうなんて、運命というやつはあまりにも残酷だ。
 唯一の肉親である秋子さんを失った事は、名雪にとってこれ以上ない悲劇だろう。
 俺にとっても、秋子さんは母親も同然だった。
 だから、痛みを分かち合えると思っていた。
 けれど、見通しは甘かったのだろう。
 名雪は、俺で痛みを紛らわせているに過ぎない。
 これじゃ、ダメなんだ……。
 …………。
 ……もし。
 もしも、秋子さんだったら。
 どうだったんだろう?
 分かち合えたのだろうか?
 二人で歩めたんだろうか?
 もし、秋子さんだったら……。
「ただいま、祐一」
 ふいにかけられた声に、はたと我に帰った。
「あ、ああ。お帰り、名雪」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう? なんだか様子おかしいよ?」
「何でも無いって、ほら、さっさと着替えて来い」
 半ば追い出すように、名雪を着替えに行かせる。
「う、うん。分かったよ」
「……ふぅ」
 何となく、今ここには入って欲しくなかった。
 何か、邪魔されるみたいに感じた。
「あ、今日は肉じゃがだよ〜」
「わかった」
 どこか嬉しげに微笑む名雪の表情は、写真の中の秋子さんと、同じだ。
 それが、俺の心に、ちくりとした痛みを感じさせた。



 夕食後、いつも通り、俺と名雪は同じベッドの上にいた。
「んくっ、はぁ、はぁ」
 敏感なところに触れるたび、名雪はくぐもった声をあげる。
「ゆ…いちぃ」
 濡れた視線を受け止め、そっと唇を重ねた。
 唇の隙間から、舌を差し入れる。
「んっ、ふっ……」
 ちゅっ、ちゅぷっ、ちゅぱっ
 絡めあった舌が、どこか淫らな音楽を奏でる。
 唇を重ねたまま、花弁の入り口に、そっと指を差し入れた。
「はっ、んんっ」
 少し苦しそうに、だが、決して抵抗せずに、名雪は俺の与える快感に身を任せている。
 花弁をこねる様に弄びながら、もう片方の手を、名雪の胸に伸ばした。
 少々体勢がきついが、気にしない。
「うんっ、はふぅっ」
 唇が離れるとすぐに、名雪が大きく息を吸った。
 左手で乳房を揉みしだきながら、右手で花弁をこねつづける。
「やっ、はん、あっ」
 俺の指の動きすべてに、名雪は敏感に反応した。
 熱に浮かされたような名雪に、俺は小さく笑みを浮かべ、再びくちづけをする。
 そのまま、ゆっくりと、耳、首下、鎖骨、乳房へと、舌を滑らせた。
「んんふぅっ」
 くすぐったかったのか、名雪が身をすくませる。
 けれども、俺は気にせずに、乳房の先にある桜色の突起を、甘噛みした。
「あぁんっ」
 身をくねらせる名雪、俺はそのまま、赤ん坊がミルクを飲むようにに、名雪の突起に吸い付いた。
 いつの間にか、腕の動きを止めていた事に気付き、再び揉みしだき、こねくり始める。
 右手は既に名雪の愛液で手首まで濡れそぼり、左手の中では、今吸い付いているのと同じ突起が、これ以上ないくらいの自己主張をしていた。
 もう、準備はいいだろう。
 乳房から、唇を離し、名雪の目を見つめる。
「いいか?」
 快楽に溺れている名雪は、俺の視線を受け止め、こくりと頷いた。
「きて、ゆういち……」
 その言葉を受け、俺は、名雪の中に自身を埋めていく。
「あ、あぁぁぁっ」
 ズッ、ツプッ
 内壁をかき分けていく感触。
 しっかりと、奥まで挿入してから、じっくりと腰を抽挿する。
「あふっ、ゆぅ……ちっ」
 うわごとの様につぶやく名雪。
 それに答えるように、より大きく、腰を振るった。
「あ! ああああ! んっ」
 はしたなくも、嬌声を上げる名雪。
 突かれる度に、声を上げる名雪の唇に、自分のそれを重ねる。
「んっ! ふっ くはっ」
 息苦しくなり、唇を離すと、混ざり合った唾液が、名残惜しそうに糸を引いた。
「ゆっ ゆういちぃ!」
 俺の名を繰り返し、名雪が俺を挟み込むように、足を閉じる。
 かにばさみに、似ていなくもない。
「名雪」
「んっ な、何?」
「悪い、動きにくい」
「あ、ごめんね」
 すぐさま、足を戻す名雪。
 正直、かなり動きが制限されていた。
「向き、変えるぞ」
「え? ひゃぁっ」
 名雪の腰を掴んで、一気に回転させる。
 当然、繋がったままだ。
「は、恥ずかしいよ、こんな格好……」
「気にするな、たまには良いだろう」
 俗にいう、後背位という姿勢だ。
「で、でも……あふっ! はぁっ やっ!」
 なにやらいいかけていたが、気にせずに再開した。
「だっ、んっ、ああぁ!」
 言葉にならない声を上げる名雪。
 そんな名雪を見下ろしてみると、ふと、あるものが目に付いた。
 結合部に、右手をやり、十分に、名雪の愛液をつける。
「ふっ、やっ、あはぁ!」
 敏感な部分に触れたのか、名雪が一際大きな声を上げた。
 そして、それに、そっと指を差し込んだ。
「あ、な、なに? あああぁぁ!」
 十二分に濡らしていたのと、そこに触れられると思っていなかった為か、筋肉が弛緩していたおかげで、難なく第2関節まで、俺の指がもぐりこんでいる。
「ゆ、ゆういちっ、後ろは、ダメェっ!」
「なんでだ? 気持ちよかったんだろ?」
「そ、そんなことっ」
 なにやら、不服そうなので、ゆっくりと指を出し入れしてみる。
「あ、やっ、そんっ、はぁぁっ」
「後ろを触ると、前も締め付けてくるぞ?」
「そ、そんなことっ」
「後ろで感じてるんだよな? 名雪は」
「い、いやぁ、言わないでぇ……」
 赤面する名雪、指の抽挿を繰り返しているうち、いつの間にか、指は根元まで刺さるようになっていた。
 中で、ふにふにと、指を動かしてみる。
「あ、や、だ、ダメだってばぁ……」
 力無い抗議をするものの、膣壁の収縮が、名雪の本心をさらしている。
 と、視界の端に、あるものが映った。
 何故か、大きなキーホルダーがついた、ボールペンだった。
「ねぇ、もう抜いてよぉ……お腹くるし……」
 あることを思いつき、指を引っこ抜いた。
 ほっとしたように溜息を吐く名雪を尻目に、ボールペンにまんべんなく名雪の愛液をつける。
 そして、それを名雪の菊座に挿し込んだ。
「あ、やぁぁぁっ!」
 割と大きな声を上げ、名雪が身体を突っ張らせた。
「いくぞ」
 短く声をかけ、腰の抽挿を再開した。
 もちろん、ボールペンはそのままだ。
「や、ちょ、ちょっとま……ひゃぁっ!」
 一突きごとの、名雪のリアクションが大きい。
 どうやら、名雪はおしりで感じるようだ。
「だ、ダメらってば、お、おねが……」
「だ〜め」
「そ、そんなぁっ」
 情けない声を上げる名雪に構わず、突き下ろす。
 いつもよりもきつい締め付けに、限界が近そうだ。
「お、おねがいっ、だからぁっ」
 涙目で訴える名雪、膣壁もヒクヒクと収縮し、絶頂が近い事を示している。
「おしりでっイクなっんて……はずかしっ」
 縋るような視線で、名雪がこちらを見やった。
 どのみちそろそろ限界だ、先に取っ払ってやろう。
「分かったよ、抜いてやる」
 そう答えると、名雪が嬉しそうに、顔を輝かせた。
 一旦腰の動きを止め、名雪の菊座から生えている、キーホルダーを掴む。
「ほらっ」
 クリトリスに刺激を加えながら、キーホルダーを引き抜いた。
「んはああああ!!」
 一際大きな収縮が、膣内で起こった。
「イったのか??」
「う、うん……」
 どうやら、結局尻でいってしまったらしい。
「俺ももうすぐだから、我慢しろよ」
「え? ちょっ、まっ ひゃっ」
 うろたえる名雪に構わずに、腰を前後させる。
「ま、だめっ そんっ はふっ いっ あぁぁぁっ!」
「ほら、いくぞっ!」
「だ、んっ、はっ、あふぅぅぅ!」
 びくびくと、名雪の中に、白濁した液体を撒き散らす。
 それに合わせるように、名雪自身も、小さな痙攣と共に、2度目の絶頂に浸っていた。



「ねえ、祐一」
 事の処理が済んで、名雪が真面目な表情で、切り出してきた。
「なんだ?」
「祐一は、私の事、好き?」
「なんだよ? 急に」
「だって……」
 少し寂しそうに、名雪が視線をそらす。
「祐一は、私の事、見てくれてないから……」
「へ?」
 あまりにも意外な言葉に、俺は一瞬、名雪が何を言ってるのか、理解できなかった。
「祐一は、私じゃなくて、私を通して、別の人を見てるもん」
「何を……」
「今日まで頑張ってみたけど、結局、祐一は私の事見てはくれないのかな?」
「何を言ってるんだ?」
 瞳に涙さえ浮かべ、名雪が俺の目を、覗き込んだ。
 なんでだよ? 見て欲しいのは、俺の方だってのに……。
「祐一は、本当に私の事、好き?」
「当たり前だろう」
 そうだ、当たり前だ。
 俺は、名雪の事が好きだ。
 名雪は、ちゃんと俺を見ていないんだ。だから……。
「祐一は、本当は……」
 本当に、そうなのか?
 名雪は、俺が見てないといっている。
 なら、俺は一体誰を好きだって言うんだ?
「私じゃなくて」
 名雪を通して、他の人を?
 本当にちゃんと見ていないのは、俺の方だと……。
 俺は、一体……。
「お母さんが、好きなんじゃないの?」
 おかあさん?
 秋子……さん?
「最近、毎日お母さんの前にいるし……」
「それは……」
 確かに、位牌の前には居る。
 けれどそれは……。
 そんな、特に意味があってでは……。
「この間、寝言で、秋子さんって……」
「所詮、寝言だろう」
「分かってる、けれど、横に私が居るのに、した後なのに……お母さんの名前、出すんだもん」
 かなわないなぁ、と、小さく呟いて、名雪がベッドの外に出て行った。
「名雪……」
「祐一……」
 重い沈黙、互いにある溝を表すように、二人の間は宵闇に包まれている。
「私を、見て……」
「名雪っ」
 小さく囁くように、けれど、はっきりとした声で、そう言い残し、名雪が、部屋から出て行った。
 俺は、追う事も出来ず、ただ、呆然と立ち尽くした。
「見て欲しいのは、俺なんだよ……」
 俺が見ていないのか、それとも、名雪が見ていないのか。
 どちらが正解で、どちらが間違っているのか、いや、どちらも間違いなのか、どちらも、正解なのかもしれない。
 答えてくれる者のいない闇の中、俺は自身の気持ちすら理解できないまま、時を過ごした。
 ただ、暗澹とした、陰鬱な気分で、答えを探し続けながら……。




<END>