焚き火に栗を入れましょう

 

 

 

 「祐一、玄関の落ち葉を集めて焚き火しようよ」

 「はぁ?」

 

  なんで焚き火なんだ?

 

 「それって、俺に玄関の掃除をさせる口実か?」

 「違うよ〜」

 「じゃぁなんだ?」

 「これだよ〜」

 

  名雪は俺にサツマイモを見せる

 

 「分かったよね?」

 「あぁ、サラダを作るんだな」

 「違うよ〜」

 「猫の餌か?」

 「猫は薩摩芋なんて食べないよ〜」

 「じゃぁなんだ?」

 「焼き芋だよ」

 「焼き芋か〜」  

 

  そういえば、焼き芋なんて何年ぶりだろうか

  最後に焼き芋を食べたのは・・・・・・

  いつだろう?

  食べた記憶はあるが・・・・・・

 

 「祐一、覚えてる?」

 「何をだ?」

 「私と祐一で焼き芋を一緒に食べようとした事だよ」

 「そんな事あったか?」

 「ずっと昔だけどね」  

 「ふ〜ん」

 「その時、祐一が言った言葉覚えてる?」

 「覚えてない」  

 「そっか〜」 

 

  名雪はすこし残念そうな顔をしている

 

 「名雪、どんな事があったか話してくれないか?もしかすると、思い出すかもしれないからな」

 「そうだよね。話したら思い出すかもしれないよね」 

 「あぁ、だから話してくれ」

 「うん、じゃぁ話すね。あの頃・・・・・・」

 

 

「祐一、焼き芋食べたくない?」

「食べたくない」

「おいしいんだよ」

「いらない」

「夜ご飯がなくなっても?」

「・・・・・・」

「焼き芋食べるよね?」

「焼き芋、食べたい」

 

 

 「名雪、それって脅迫じゃないのか?」

 「ちがうよ〜」

 「じゃぁ、なんなんだ?」

 「説得だよ」

 「そうか・・・・・・」

 「そうだよ〜」

 「とりあえず、続きを話してくれ」

 「うん」

 

「祐一、お芋焼くから・・・・・・」

「焼くから?」

「玄関の落ち葉を集めてね」

「やだ」

「焼き芋、食べたくないの?」

「もういい」

「夜ご飯が紅しょうがになっても?」

「やらせていただきます」

 

 

 「やっぱり、脅迫じゃねえか!」

 「違うよ〜。交渉だよ〜」

 「ううう・・・・・・」

 「続きを話すよ〜」

 

 

祐一が落ち葉を集めて、庭に持ってきた後

 

「祐一、ご苦労様」

「あぁ」

「それじゃ、焼くね」

「おなか空いた」

「私もペコペコだよ〜」

「名雪は何もしていないだろ!」

「そんな事無いよ」

「何をしてたんだ?」

「祐一の監視役」

「……もう良い。早く焼こ」

「そうだね」

 

葉っぱの中にお芋を入れて火を着けたんだよ

 

「祐一、ついでだから栗も焼かない?」

 

祐一に栗を見せていったんだよ

 

「いいかもな」

「そういう事で、栗を入れるね」

「うん」

「おいしく焼けるといいね」

「そうだな」

「……」

「……」

「ねぇ、祐一」

「ん?なに?」

「祐一、私に何かあったら守ってくれる?」

「なんで?」

「祐一が男の子だから」

「ふ〜ん」

「守ってくれる?」

 

 

ちょうどその時、火の中に入れた栗が破裂したんだよ

破裂というより、爆発と言ったほうがいいと思うほどすごかったの

そしたら祐一が私をその爆発から守るように抱きしめてくれたの

その後、祐一は何も言わずに家の中に入ったんだよ

 それから間もなくして、祐一はこの街を出て行ったんだよ

 

 

 「あぁ、思い出した!」

 「ほんと?」

 「あぁ、街を出て行く前に名雪に言った言葉も」

 

  俺は少し赤面した

 

 「名雪に言った言葉」

 

 

「あの質問。今は言えないけど、大きくなったら必ず言うから」

 

 

 「そう言ったんだ。そうだ。合ってるよな、名雪」

 

  名雪は嬉しそうに頷く

 

 「祐一」

 「なんだ」

 「もう一度聞くね」

 「あぁ」

 「今度こそ答えてね」

 「当たり前だ。あの頃は恥ずかしくて言えなかったけど、今なら言える」

 「祐一、私に何かあったら守ってくれる」

 「名雪に何かあったら、俺が守ってやる。俺が支えてやる。俺が身代わりになってやる」

 「ありがと、祐一」

 

  俺たちは自然と見つめあっていた

 

 「名雪……」

 「祐一……」

 

  キスをした

  そして……  

 

 「祐一、焚き火に栗を入れる?」

 「却下!」

 

<終>