初喧嘩は二人っきりで

 

 

  「おはよんよぉぉぉん♪ 」

 

 私は今日も元気に教室のドアを開けた。

しかしそこには、いつものメンバーはいなかった。

唯一いたのは正樹君だけ…… 

 

  「ミャーコちゃん、おはよ!」

  「あっ、正樹君。サエ達は?今日お休みかにゃ〜」

  「みんな、インフルエンザで倒れちゃったらしいよ」

  「はにゃ〜、それじゃぁお見舞いに行かなきゃね」

  「そうだな」

  「何を貰お〜かにゃ〜」

  「ミャ、ミャーコちゃん?お見舞いって言うのは、何かを持って行くんだよ。分かってる?」

  「わかってるよ〜。お見舞いの品と交換でしょ」

  「ミャーコちゃん。君って一体……。そうか!分かった」

  「えっ!なになに?何が分かったの?」

  「ミャーコちゃんがインフルエンザにならなかった訳が」

  「え〜、ホント?すごいすごい。で、なになに?」

  「ミャーコちゃんは、馬鹿なんだ

  「ほえ〜?ま・さ・き・く〜ん」

  「…………やばい……」

  「正樹く〜ん。私に喧嘩を売ってるのね〜ん。買ってあげるよ〜ん」

  「え?何のことかな〜」

  「ふっふっふっふっふっふっふっふ…………」

  「や…やばい……やばすぎる………」

  「な〜にが、やばいのかにゃ〜?」

  「ミャーコちゃんが暴走しそうだ……」

  「誰が、暴走するって〜」

  「みゃ、ミャーコちゃん。お…落ち着こう、なっ……」

  

 にゃは〜ん。良いこと思いついたにゃ〜

 正樹君を操る方法を……。

 ふっふっふっふ、ミャーコ様に楯突いたらどうなるか、思い知らせてあげるのね〜ん。

 

  「正樹く〜ん、私はただ、今日ぐらいはサエ代わりに正樹君をからかおうと思ってるだけだよ〜☆」

  「ミ、ミャーコちゃん……」

  「それに、ちょうど新聞のネタも無かったから、ネタに使わせてもらお〜かにゃ〜なんて考えてるだけ」

  「ネ、ネタ……?どどどど、どんなネタなのかな〜、ミャーコちゃん?」

  「え〜、た・と・え・ば〜『陸上部の短距離エース、妹との熱愛発覚』とか『陸上部の短距離エース、実は巫女服フェチ』とか……」

  「それだけは勘弁してくれ〜」

  

  よしよし。思惑通りに正樹君が動いてくれた。

ここで、頼み事(脅迫)をすれば落ちる(?)。

 

  「そう?それじゃぁ、ネタ集めに協力してくれる?してくれにゃかったら……」

  「わかったよ。仕方がないか……。で、いつ?」

  「今日の放課後。場所は横浜ね。帰りに一緒に行こうね」

  「ちょっとまって、ミャーコちゃん。今日の放課後は部活が……」

  「大丈夫。ミャーコちゃんに抜かりはないのだ〜☆」

  「えっ!どう言う事?」

  「うん。実はね。インフルエンザが流行ってるから、今日は体育会系の部活はすべて禁止なのね〜ん」

  「えっ!!!!嘘!!!!く〜、こんな時に……(T0T)」

  「ふっふっふっふ、報道部の情報網を甘く見てもらっちゃ〜いけないな〜、正樹く〜ん☆」

  「……」

  「さて、さっさと授業を終わらして、横浜に出発よ〜ん」

  「……はぁ〜……」

 

 

 

 

 そして、放課後……

 

 

 

 

    

   「正樹くん、早く〜」

   「そんなに焦らなくても、横浜は逃げないよ」

   「はにゃ〜、正樹君知らないの〜ん?今、横浜では期間限定特製アイスが発売中なのだぁ!!!」

 

   そうなのだ〜。今回の狙いは、このアイスなのだぁ☆

 

   「で?」

   「その期間限定特製アイスには数に限りがあるんだな〜☆」

   「だから〜、俺達と何か関係があるのか?」

   「ほえ?」

 

   知らない知らない……。

   まぁ、正樹君って優しいから、話し合えば許してくれるだろう。

 

   「俺達は今から横浜に何しに行くんだったかな〜、ミャーコちゃん?」

   「そ、そんなの決まってるじゃん。新聞のネタ探しだよ。忘れちゃったの?」

   「……、で、ネタとアイスどっちが大切なの?」

 

   そんなの決められる筈がないよ〜。

   でも、はっきりした答えは決まってるのねん。

 

   「両方」

 

   こんな、当たり前の事を聞くなんて、正樹君もまだまだ甘いにゃ〜。

 

   「ミャーコちゃん。何を考えてるのかな〜?俺はミャーコちゃんのネタ探しに付き合おうとしてるのに……」

   「そんなに怒らない怒らない。そんな顔してると、真奈美ちゃん達も逃げてっちゃうよ」

   「みゃ、ミャーコちゃん。……もういいや。今日はやっぱり帰って寝よ〜っと」

   

  やばい。せっかく二人っきりで横浜に行けると思ったのに〜。こうなったら……。

 

    「正樹君。それじゃ、新聞のネタはあれで良いのね〜ん」

    「ミャーコちゃん。それは俺を脅してるのか?」

    「それは、正樹君の被害妄想だよ」

    「……」

    「で、どうかにゃ〜?一緒に横浜に行ってくれる?」

    「……」

    「あ〜ぁ、乃絵美ちゃんも悲しむだろな〜」

    「……わかったよ

    「えっ?」

    「わかったって言ったんだよ!!!!」

    「そそそそ、そんなに怒らなくても良いじゃん」

    「…………」

    「さぁ、しゅっぱ〜つ」

    「…………」

 

 

 

    ガタンゴトン  ガタンゴトン  ガタンゴトン

 

 

     「正樹君、早く行こ☆」

 

    私は、横浜駅に着くなりケーキ屋さんまで走ったのね〜ん。

  もちろん、あのアイスを買う為にね。

 

     「あ〜、おいしかった。正樹君、ここのアイス、おいしいでしょ」

     「あぁ」

     「まだアイスの事、怒ってるの?」

     「別に……」

     「…………」

     「…………」

 

  やっぱり、怒ってるよね……。でも私、こんな性格だから……。

なんか、気まずい……。よ〜し!こうなったら〜、素直に謝ろう。

このままじゃ、せっかくのデートも……。

 

     「……ねぇ、正樹君。」

     「……」

     「ごめんね、なんか無理矢理つれてきた感じになっちゃって……」

     「……」

     「私ね、こんな性格だから素直に正樹君をデートに誘うことができなかったのん。だから……」

     「うん」

     「だから、こんな風になっちゃったの。謝るから、いつもの正樹君に……」

     「わかった。でも、このままじゃ気分が晴れない。だから、アイスでも奢って貰おうかな」

     「う〜ん、仕方がない。このミャーコ様が正樹君にアイスを奢って上げよう」

     「なんか、えらそ〜だぞ。でも、いつものミャーコちゃんだ」

     「にゃははははははは」

     「はははは……」

 

 

 

 

たわいもない喧嘩

 

本当に些細なこと

 

相手が悪いかもしれない

 

だけど、こっちが悪かったかもしれない

 

でも、そう言う些細な事が自分を素直にしてくれる

 

いつもの関係がどれだけ良いかもわからしてくれる

 

どれだけ嬉しい事か、どれだけ落ち着くか、どれだけ……

 

でも、喧嘩が無くなる事はない

 

なぜなら、相手に気を許しているから

 

サエにも正樹君にも菜織ちゃんにも……

 

初めて正樹君と喧嘩した時、みんなはいなかった

 

これは、私と正樹君だけが知っている事

 

私と正樹君だけが……

 

 

<Fin>