おいしいジャムの色

〜ジャムの色は変わる!〜

 

  

  今日も長い授業が終わり、家に帰った。

  名雪は部活のミーティングがあるから先に学校を出た。

  俺が学校から帰ってくると、秋子さんが台所で何かを作っていた。

  とても、おいしそうな匂い。

  イチゴ、ブドウ、ピーナッツ、ブルーベリー、リンゴ……

  この材料、この匂い。

  俺の頭の中で響いた言葉……。

 

  ジャム

  

  もしや……。

  でも、ジャムを作ってると言う確証はどこにも無い。

  そう心に言い聞かす。

  

 「あら、祐一さん。おかえりなさい。帰ってたんですか?」

 「はい、少し前に帰ってたのです。」

 

  変な言葉使い!!!!

  なんで俺、動揺してるんだ!!!

  そうだ、別にジャムを作ってる訳じゃないんだ! 

  だから、気にしないで良いんだ!そうだ、気にしないでおこう!!!

  俺は、気にしないぞ――――!!!!

 

 「さっき、ジャムを作ったんですけど食べます?」    

 「……え?」

 

  俺の考えはあっさり覆されてしまった。

  

 「ジャムを作ったんですけど、一緒に食べませんか?」

 

  断った方が良いのか?

  いやしかし、せっかく秋子さんが誘ってくれてるんだから食べなきゃ悪い……。

  でも……まだ死にたくない!!!

  

 「イチゴジャムがとってもおいしく出来たんですよ。ほら」

 

  秋子さんは俺にいかにも作りたてといった感じの赤いジャムを見せてくれた。

  イチゴジャム→おいしい&大丈夫→食べる!

  頭の中を順序良く並べるとこういう感じだ。

  よって答えは

 

 「そうですか。それじゃ、遠慮なくいただきます」

 

  俺は、秋子さんと机を挟んで席に着いた。

  

 「それじゃ、お茶を入れますね。祐一さんはコーヒーの方が良いのかしら?」

 「そうですね。じゃ、コーヒーをブラックでお願いします」

 

  秋子さんは頷いて台所へ歩いていった。

 

 「ただいま〜」

 「おかえり、名雪」

 「ただいま、祐一。あれ、お母さんは?」

 「秋子さんなら台所に……」

 

  俺は台所に目を向けると、お盆を持った秋子さんがこっちに向かっている。

 

 「あら、おかえりなさい」

 「ただいま〜」

 「名雪も一緒に食べる?」

 「うん、食べる。お腹、ペコペコだお〜」

 

  そんな、親子の会話を聞いてると平和だな〜と思ってくる

  こんなに平和な家族が他にいるだろうか……  

  もし、ここにあのジャムが出てきても、この状態を維持できるだろうか?

 

 「祐一?なんか、へんだよ〜?」

 「あっ、名雪!いつの間に着替えた!」

    

  名雪は俺が気づかない一瞬で着替えていた!

  すでに、人間業を超えている!

  こんな事ができるのは、名雪とKANOSOのあゆぐらいの者だろう!

 

 「そんなことないよ〜」

 「地の文を読むな!!!」

 「え?」

 「あっ……今の無し。言い直す!人の心を読むな!!!」

 「違うよ〜。祐一が普通に話してたんだよ〜」

 「そうだったのか?」

 「そうだよ〜。しかも、私は祐一がボ〜っとしてる間に着替えてきたんだよ〜。。それに、KANOSOって……」

 

  そんな他愛も無い話(?)をしている間に秋子さんが名雪の分の紅茶を作ってきてくれた。

 

 「さぁ、冷めない間に飲みましょう」

 「そうですね」

 「いただきま〜す」

 「はい、召し上がれ」

 

  ごくごく……

 

 「あらいけない。ジャムを持ってくるのを忘れちゃったわ。ちょっと待っててね」

 

  秋子さんは台所へ、名雪は二階へ小走りで……

 

 「待て!名雪!」

 「離して〜!私、おなか空いてない!!」

 「さっき、お腹ぺこぺこだお〜っていってじゃないか!」

 「祐一の気のせいだよ〜」

 「んな訳ねーだろ!」

 「やだ〜!」

 「やだ〜!じゃないだろ!」

 「あのジャムだけはやだよ〜」

 「大丈夫だ!今日はあのジャムじゃないから!」

 「えっ、そうなの?」

 「あぁ、今日はイチゴジャムだ!」

 「な〜んだ。じゃ、もどる」

 「そうか……」

 

  そんなに、あのジャムが嫌なのか。

  もし、あのジャムを毎日、名雪に食べさせていたら名雪はきっとぐれるていただろう……。

  席に戻ると赤いジャムとトーストが置かれていた。

  

 「それじゃ、食べましょうか」

 「「いただきま〜す」」

 

  ぱく……

 

  俺と名雪はジャムを食べて凍りついた。

  赤いジャム。イチゴジャムの筈!

  だけど、あのジャムの味!あのオレンジ色のジャム……。

  名雪の顔を見てもよく分かる。

  恐る恐る秋子さんに聞いてみた。

 

 「あの、このジャム、何ジャムですか?」

 「イチゴジャムよ」

 

  秋子さんは微笑みながら答える。

 

 「秋子さん、一口どうぞ」

 

  秋子さんにジャムを塗ったパン一切れを渡す。

  そして、口に入れる。

 

 「あら、このジャム私専用のジャムね。少し色を変えてみた事、忘れてたわ」

 

  色を変えた?

  ジャムって材料が同じなら普通同じ色になる筈じゃ?

  そもそも、色を変える理由って一体?

  もしかして、もしかして、もしかして……

 

 「秋子さん、もしかして……」 

 

  もしかして、俺たちをはめました?

  聞きたかった。

  でも、あえて聞かない。

  もし聞いたら嫌な事が起こりそうな気がしたから。

 

 「祐一の嘘つき!」

 「名雪?」

 「もう、イチゴサンデー7個でも許さないんだから〜」

 

  次の日、俺は名雪にイチゴサンデー10杯も奢らされた。

  しかし、心の中ではホッとしていた。

  あのジャムを俺の不注意で食べさせて、イチゴサンデー10杯で済んだのだから……

 

 

 

 

<Fin>