遺書 ―分水嶺補遺―

 私は、叔父さんの生き方を改めて思い返し、いかに死というものが身近なもので
あったか、そして運命が輝ける未来をもたらしてくれることを信じた昨日までの自
分がいかに浅薄だったかに今更ながら気づいたつもりでいます。そしてそれを確
信している限り、これまでの人生が何の意味も持たなかったことを、たった十六
年の道草の代償として得た大きな喪失感とともに振り返らざるを得ません。
 私は、自分自身が思っていた以上に愚か者だったようです。あの八年前の夏の
日の浜で、右手に感じるあなたの手のぬくもりに無邪気に心を委ねていられた頃
は、運命などというものに疑念のかけらさえも浮かんではいませんでした。




 遺書 ―分水嶺補遺― 完 (初出:にわか書店、2001年11月)

 

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