間際に                                             

 

 赤い。

 

 

 目の前が赤い。

 

 

 何だかどろどろに染まっていて、目の前もぐるぐると回転している。

 

 

 耳鳴りも聞こえる。わんわんと耳の中で響いて、吐きそうになってるのが分かる。

 

 

 ここはどこだろう。ぼやけてて周りがよく見えないし、ただ白っぽいということしか分からない。

 

 

 ぶる、と体が震えたのが分かった。

 

 

 寒い。

 

 

 胸や頭の所は熱いくらいなのに、腕や足なんかはまるで凍っているみたい。

 

 

 …ん。

 

 

 なんだろう。

 

 

 …あ。

 

 

 顔。

 

 

 男の子の顔が見える。

 

 

 ぼろぼろ涙をこぼして、鼻水もぐしゅぐしゅ垂らしている。

 

 

 でも、その子は。

 

 

 とても大好きな子。

 

 

 何度も逢う内に、大好きになってしまった子。

 

 

 くぐもって、その子の声が聞こえる。

 

 

 何を言っているのか、全然聞き取れないけど。

 

 

 でも、ボクは言う。

 

 

 大丈夫。

 

 

 大丈夫だよ。

 

 

 ボクは大丈夫だから。

 

 

 その子にそれ以上心配して欲しくなかったから、泣く姿を見たくなかったから、ボクはそう言った。

 

 

 段々意識が薄れていく。

 

 

 段々、考えてることもよく分からなくなってくる。

 

 

 目の前が真っ暗になって、でもすぐに真っ白になる。この繰り返し。

 

 

 ボクは一体どうなるんだろう。

 

 

 死んじゃうんだろうか。

 

 

 嫌。

 

 

 死にたくない。ボクの中の半分はそう言ってる。

 

 

 でも、

 

 

 ボクのもう半分はこう言ってる。

 

 

 この子に抱かれて死ぬなら、もしかしたら良いかも知れない。それが最高だから。

 

 

 一番良いものだから。

 

 

 どっちなんだろう。

 

 

 どっちがボクの気持ちなんだろうか。

 

 

 勿論両方とも本当の気持ちってのはわかってる。

 

 

 でもどっちがより強い気持ちなんだろうか。

 

 

 分からない。

 

 

 それでも、後ろの方の気持ちであってほしい。

 

 

 ボクはそう思う。

 

 

 …

 

 

 どんどん、目の前が薄暗くなっていく。

 

 

 白くなったりはまだしてたけど、じきに全部真っ黒になっちゃうんだろう。

 

 

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 

 

 それに目の前もゆっくりと回ってる。

 

 

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 

 

 あれ?

 

 

 目がちょっと見える。

 

 

 ほんの少しだけど、目が見える。

 

 

 だから、あの子が見える。

 

 

 ボクの視線の先、ちょっと遠くの木の陰。

 

 

 ちょうど大好きなあの子の正反対の位置。ボクだけにしか見えないところに。

 

 

 女の子がいる。

 

 

 長い髪を三つ編みにした、青い髪の毛の女の子。

 

 

 こっちを、じっと見つめてる。

 

 

 ううん、ボクを見てるんだ。

 

 

 でも、その顔がすごく怖い。

 

 

 何て言えばいいんだろうか。

 

 

 まるで、怖い夢の中のものが、実際に出てきたみたい。

 

 

 ヤダよ。

 

 

 こっちを見ないで。

 

 

 ぎらぎらした目で、ボクのことを見つめないで。

 

 

 怖いよ。

 

 

 ボクはボクを抱き上げている男の子に目をやる。

 

 

 だけど男の子は全然気づいていなかった。

 

 

 その子はボクを抱きかかえながら、あゆ、あゆ、と泣きながら言ってる。

 

 

 ボクはまたボクを見つめてる女の子に目を向ける。

 

 

 じっと、じっと。

 

 

 ボクだけを見てる。

 

 

 ボクだけを。

 

 

 じろじろ、ぎらぎら、何でか分からないけどあの子は見つめてる。

 

 

 ボクはこれからどうなっちゃうんだろうか。

 

 

 そのことだけを考えようとしても、女の子の事が頭から離れない。

 

 

 そうだ、あの子。

 

 

 ずっと前に見た事がある。

 

 

 いま泣いている男の子と遊んでるとき。

 

 

 駅前で、公園で、タイヤキ屋の前で。

 

 

 いっつもあの子、ボク達のことみてた。

 

 

 何で今まで気づかなかったんだろう。

 

 

 ずっと、ぎらぎらした目で、ボク達の事を見てたっていうのに。

 

 

 どんどん意識が薄れていく。

 

 

 目の前が、暗くなる。

 

 

 助けて。

 

 

 あの、目が。

 

 

 あの、顔が。

 

 

 どうしようもなく、怖いよ。

 

 

 だんだん目の前が、

 

 

 暗くなってく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がついた?

 

 

 ああ、無理に体を起こそうとしないほうがいいよ。まだチューブに繋がれてる状態だしね。

 

 

 祐一からね、あゆちゃんの話聞いたんだ。

 

 

 目の前で、三つ目の願いを叶えた後、幸せそうに笑って消えたこと。

 

 

 羨ましいな、あゆちゃん。

 

 

 だって、こんなにも祐一に愛されてるんだもの。妬いちゃうよ。

 

 

 だからね、私あることを考えたんだ。

 

 

 ね、この機械の電源、全部切っちゃったらどうなるのかな?

 

 

 ひょっとしたらあゆちゃん、たいへんなことになるのかもしれないね。

 

 

 祐一から話聞いたとき、ここ思い出したんだ。

 

 

 ここにあゆちゃん入院してるからね、もしかしたら起きるんじゃないかって。 

 

 

 そしたらびっくりしたよ。だって本当に目が覚めちゃうんだもの。

 

 

 あ、涙出てるよ。怖い夢でも見たの?

 

 

 大丈夫だよ。もう夢を見ることももう無くなっちゃうんだものね。

 

 

 うん、これで、よしと。

 

 

 それじゃ、わたしそろそろ   行くね。

 

 

     それと、ね。あゆ   ちゃん。心配しないで。

 

 

 祐一は    私が貰う    から。

 

 

 今ご ろ家であゆちゃんのことを言いながら   泣いてるかもしれないし、慰め てあげないとね。

 

 

 え   へへ、なんか嬉しくな  ってきた。急がな   きゃ。

 

 

 あ、まだこれ   切ってなか  った。

 

 

     よ  し。

 

 

 それ    じゃ   ね。

 

 

 さよなら。

 

 

 

 

                               <終>