かのじょとじゃむ
きょうもおかあさんのいちにちが始まります。
朝はやくおきてからまずかおをあらいます。いまはふゆだからみずはつめたいですが、そのぴりぴりした冷たさが気持ちいいもの。
そのあとはねまきからふだんぎにきがえて、そのうえにエプロンをきて朝ごはんのよういをします。きょうはトーストにたまごのサラダ。もちろんじゃむはかかせません。
サラダのよういをおえるころには、いそうろうのゆういちくんも目をこすりながら起きてきます。その後ろにはおかあさんの娘のなゆきちゃん。ゆういちくんがきてからはなゆきちゃんがきちんとおきてくれるようになっておかあさんもおおだすかりです。
ふたりは起きてからはすぐにもぐもぐあさごはんをたべます。きょうもゆういちくんがなゆきちゃんのねぼすけぶりにぶうぶうもんくをいっているのをききながら、おかあさんはにっこり。かれがきてからはほんとうに家のふんいきがあかるくなりました。
あさごはんをたべたあとはふたりしてがっこうにしゅっぱつします。きょうもおくれるとゆういちくんはさわいでますが、なゆきちゃんはあまりきにしていないようす。おかあさんはげんかんからそれをみおくります。
さてふたりがでていってからは、おかあさんはいえのことをがんばらなければなりません。そうじにおせんたく、きょうもおかあさんはおおいそがしです!
それでも、ぱっぱとおわらせてしまうのがおかあさんのすごいところ。十一時にはゆうはんのかいものいがいのことをすべておわらせてしまいました。いえ、まだあとひとつだけすることがありました。
なゆきちゃんもゆういちくんもしらないことが。
居間ですこしやすんでいたおかあさんは、十一時半をさしたとけいをみてかるくうなずきました。するとおかあさんはテーブルをずらして、ついでにゆかのじゅうだんもまるめてわきにのけておきます。
そうすると、ゆかのところにほかのぶぶんとはまるきりかたちがちがっているところ、ほかのところはきちんとしたゆかなのに、そこだけぎんいろと色がちがうところがあらわれました。なんだか形がとぐちににているようなかんじもします。
そのぶぶんのはしをゆびでおすと、くるりとぎんいろのところがいっかいてん。ちょうどつかめそうな握りがでてきました。
おかあさんはがっちりそこをつかむと、うんとちからをこめてひっぱります。
するとなんてことでしょう。ちょうどテーブルの広さのはんいのところがぎぎぎとおとをたててうきあがりました。おかあさんはそのままひきあげて、やがてかんぜんに戸がひらききりました。
まっくらななかからつめたいくうきがでてきます。でもちょっとあせをかいてしまったおかあさんにはちょうどいいくらい。
そのままなかにはいると、おかあさんはすっぽりとまっくらやみのなかにはいりこんでしまいました。まえにこのじょうたいで戸がしまってしまったらどうなるのだろうとそうぞうしてこわくなったことがあります。
さいしょのうちはなにもみえませんでしたが、すこしするとちょっぴりまえがみえてきました。それでもそんなに広くはないのですがね。
めのまえにはおおきなたな。おかあさんよりもおおきいくらいです。それもおなじようなのがみぎとひだりにもあります。
どうやらここはなにかをしまっておくちょぞうこみたいです。
おかあさんはゆっくりとめのまえのたなにちかより、いちばんひだりはしのほうにてをやると、なにかをとりだしました。
それをもってちょぞうこのなかからでてくると、こんどは戸をしめなければなりません。でもこんかいは戸をおろすのでそんなにちからはいりませんでした。
いまのうすぼんやりしたひかりのなかにさらけだされると、それはちいさなビンのようなものでした。わきにおいてあったそれをとりあげると、おかあさんはだいどころに向かいます。ちょっと早いですが、ひるごはんの準備をするんですね。
だいどころにはいると、おかあさんはすぐにおひるのしたく。いつもパンをたべていますが、今日もやはりパンみたい。ちょっとひるにはすくない気もしますが、もともとおかあさんはしょうしょくなのでそんなにしんぱいするひつようもないみたいです。
テーブルの上にのせられたのは、食パン二枚をのせたおさらにオレンジジュース。あとはさっきのビンにサラダなどのおかずなど。
おかあさんはビンのふたをあけると、まずは中身のにおいをかいでみます。うん、やっぱりいいにおい。なゆきちゃんやゆういちくんはこのにおいをかぐとにげだしてしまいますが、おかあさんにとっては、りんごとはちみつを混ぜたような、あまいいい香りです。
それから、パンといっしょにおさらのうえにおいてあったスプーンをもつと、それでビンのなかみをすくってパンにすりつけはじめました。
どうやらなかみはじゃむみたい。しかも、きいろいところをみるとまえにゆういちくんがたべてもんぜつしたあれのようです。
じゃむをつけおわったところでおかあさんはパンをもぐもぐたべはじめました。あいまにオレンジジュースを飲みながら、ほんとうにおいしそうにたべます。まるでてれびのせんでんみたいに絵になります。
たべおわったあとはおかたづけ。それでもつかったしょっきはおかあさんひとりぶんなのですかららくなもの。すぐにおわりました。
そのあとは、いまにいってソファにすわってゆったりすごします。じつはこのじかんたいがおかあさんはいちばん好きだったりします。もちろんここでだれかがたずねてこなければのはなしですが…
ふときづくと、おかあさんはじゃむのビンをてにもっていじっていました。ふたはとらないように、まわりのガラスをかりかり、底のほうを指でとんとん。
ぼんやりじゃむをみながら、おかあさんはにっこりします。
なぜって?
それは、このじゃむにはかくされたひみつがあるからです。
しとしと、しとしと。
なんだかふしぎなきぶんでおかあさんは見ていました。
ずっとずっとまえのあるあめの日。おかあさんのおっとであるおとうさんはかさをもたずに出て行ったのですが、ちょうどいまあめがふりだしてきました。そこでおかあさんはおとうさんのかえりにかさをとどけにいって、ついでにいっしょにあいあいがさをしてかえることにしたのです。
おとうさんからはこどもをうむのだからはげしいうんどうはダメと言われていますが、そのくらいならばべつにたいへんなこともないでしょう。おかあさんはおおきいおなかをさすりながら、そんなことをかんがえていました。
しとしと、しとしと。
もうなかばくろいといってもいいようなはいいろのそらのなかをふりそぼるあめのなか、おかあさんはうれしそうなきぶんでえきのまえに。
いまはよるの七時ちょっとすぎ。もうおとおさんはかえりのでんしゃからおりたところでしょう。ひょっとしたらそとのあめをみてこまっているかもしれません。
おかあさんははやあしであるきます。
すうふんしてえきまえひろばにたどりづきました。おかあさんはあたりをみまわし、おとうさんをさがします。
きょろきょろあたりをみて、ふとおかあさんはあるひとくみのだんじょに目が行きました。
どうやらふたりはなかがとってもいいようで、だきあってキスをしていました。そのあまりのあつあつぶりにおもわずおかあさんはせきめん。ああ、わたしもおとうさんとこんなことをしたいな、とちょっとそんなことを思いながら、おかあさんはなかなかだんじょから目をはなせません。
やがてふたりはすこしなごりおしそうにはなれました。ちょっぴりざんねんそうに、でもおわってくれておかあさんはすこしほっとしました。なんというか、まるでじぶんがしているようなきがしてはずかしかったのです。
おとこのひとがおかあさんのほうにめをやり…そこでおかあさんはびっくりして、あわててかさでおとこのひとのしせんからかくれてしまいました。
おかあさんがかさのむこうがわにみたもの。あのおんなのひととキスをしていたおとこのひとにみたもの。
それは、おとうさんのかおでした。
かさをおろしたおかあさんは、ふるえて、くちびるをかみしめながらたっていました。
でも、もしかしたらいまのひとはおとうさんではないかもしれない。ただみまちがえただけかもしれない。そう思いましたが、おかあさんにかくにんする勇気はもてませんでした。
どうしよう。どうすればいいんだろう。
しばらくかんがえこんでいたおかあさんでしたが、かんがえをまとめるとくるりといえのほうがくをむき、あるきはじめました。
おとうさんには、ずぶぬれでかえってきてもらうようにきめたようです。
しとしと、しとしと。
かえりみち。
おかあさんははんぶんぼんやりしながら、これからどうするかについてかんがえていました。
まずいえにかえって、水をコップいっぱいぶんのむ。じゅうぶんにきもちをおちつけたらいまでまっていて、きちんと今日のことについてはなしあう。
それから……どうすればいいんだろう……
しとしと、しとしと。
つぎにきがついたとき、おかあさんはいえのだいどころでほうちょうをにぎりながらたっていました。
さいしょにおかあさんはほうちょうをみてびっくりしてしまいました。いったいなんでわたしはこんなものをもっているんだろう!いえにかえったことすらもおかあさんにはおもいだせませんでした。
そのとき、げんかんのほうでおとうさんのこえがしました。だいどころのドアはあけっぱなしになっているのでほとんどまるみえです。
おかあさんはいっきにこんらんしてしまいました。あたまのなかがぐるぐるとまわってへんなかんじになっています。
とんとんとあしおとをたてておとうさんがだいどころにはいってきました。
「なああきこ、はなしがある」
そんなかいわをさいごにしたのをおぼえています。
さいごって?
じつはおかあさんはこのあとすぐにかえりみちの時とおなじようにいしきがとんでしまったのです。
それで、きがついたらおとうさんはゆかにたおれてて、せなかにはほうちょうがつきたっていました。まわりにはちもべっとりついています。
おかあさんはだいどころのいすにすわりながら、あかくなってしまったてであかちゃんがうまれてくるおなかをさすっていました。おとうさんがたおれているのをみても、あまりおどろきませんでした。
どうやらはなしあいのけっかこうなってしまったのでしょうか? それともなにかべつなことでこうなってしまったのでしょうか? いずれにせよ、それはもうわかるはずもありません。
おかあさんのかおには、まるでてがたのようにはたかれたあとがくっきり。ふれてみると、ずきずきといたんでおもわずおかあさんはかおをしかめました。
ほんとうにわたしはどうしてしまったのだろう。このあかちゃんはどうなってしまうのだろう。これからどうなってしまうのだろう。
そんなことをかんがえたら、しだいしだいになみだがこぼれおちてきて、おかあさんはむせびなきました。
…
しばらくすると、ようやくあたまのなかもおちついてきました。
たしかにおとうさんはしんでしまいました。でも、みがってですがじぶんはけいさつにつかまるわけにはいかないのです。
なぜなら、おなかのこがいるから。
もしおかあさんひとりならばけいさつに行くかもしれませんが、おなかのこどもをふこうにさらすわけにはいかないのです。
そうおもうと、おかあさんはあたまをふってすぐにこうどうをかいししました。
おとうさんのしたいをひきずって、うんうんうなりながらいまにいきます。
ひきずるのはくろうしましたが、それでもなんとかいまにたどりづきました。
ずっとずっとまえにおとうさんからおしえてもらったこと。
おかあさんのきおくがただしいなら、それはテーブルのしたのところの床にあるはず。
テーブルをずらして、そのしたのじゅうたんもまるめて。
ありました。
ちょうどほかのゆかとはちがったものが。いろもきんぞくのようでちがいますし、さわりごこちもまったくちがいます。
おかあさんがはしのところをおすと、おかあさんのてのおおきさにぴったりの握りがすがたをみせます。
がっちりとにぎりしめて、ひきあげます。
うんとちからをこめて、ようやくひきあげました。
そのなかにはぽっかりとあいたテーブルほどのおおきさのあな。たしかほぞんしょくなどのしょくりょうをちょぞうするところだとおとうさんからまえにきいたことがあります。
おかあさんがなぜそんなにわかりにくいところにあるの? ときいたらおとうさんは首をふりふり、ぼくにもわからないよ。ぼくも親からきいただけだしね。といっていました。
それはさておき。
あなのまえにおとうさんをひきずっていって、そのなかにおとうさんをおとします。おちたときに、べちゃ、どつんどつんとへんなおとがしておかあさんはおもわずわらいました。いっしょにおとうさんのせなかにささっていたほうちょうもなげすてます。
そのあとは戸をしめます。ぎぎぎとおおきいおとがして戸がしまりました。
これでだいたいだいじょうぶ。おかあさんはそうおもいました。あの戸はきちんとみっぷうされてるしにおいをおさえるやくひんといっしょにしておけばにおいがそとにもれるしんぱいはないし、あまりこのいえにたずねてくるひともいません。
そうかんがえると、ちょっぴりきがらくになってきます。
だいどころの血もふきとり、だいたいやるべきことはおえました。いまはよるのじゅういちじちかく、おかあさんはおそめのゆうしょくのしたくをすることにしました。なにかをしていたほうがきがまぎれますからね。
ゆうしょくはたべられるだろうか。ひょっとしたらむりかもしれない。とおもっていましたが、そんなことはまったくなく、むしろうんどうをしたせいかいつもよりたくさんたべられてほっとしました。ひとりでたべたごはんでしたが、なかなかわるくないとおもえるものでした。
そのあとも、ぐっすりとねむることができました。
よかった。これならいつもどうりせいかつできるかもしれない。
そのとおりおかあさんはいつもどうりのせいかつをしました。さいしょのころはけいさつにおとうさんがいなくなったことをしらせたり、びょういんにいったりとたいへんなひびをおくりましたがが、なんとかのりきりました。ときどきいしきがとんでしまうことがありましたが、はんとしほどたてばそれもなくなっておかあさんはほっとしました。
そして、ようやくおとうさんのことをおもいだしたのは、いちねんちかくもたってからのことでした。
おもいだしたのはとうとつでした。あくる日おかあさんはソファにからだをしずめていくじのほんをよんでいました。そのわきではベビーベッドにはいったあかんぼう(なまえはなゆきといいます)がすやすやねむっています。
きょうはもうだれもたずねてくるよていはありません。きんじょのひとがおかあさんひとりでなゆきちゃんのせわをするのはたいへんだろうとまいにちようすをみにきてくれるのですが、そのひとたちもごぜんちゅうにやってきていたので、ごごにはおかあさんはらくらくとしていられました。
もともとなゆきちゃんはあまりてまのかかるこではありませんでしたから、おかあさんをこまらせるようなこともしません。しんぱいするようなことといえば、ねむっているじかんがながすぎるというくらいです。まえにふつかちかくねむっておかあさんはびょういんにつれていこうかどうかなやんだことさえあります。
それはともかく、おかあさんは『ミルクのてきおんについて』とかいてあるページをながめていました。
そんなおり、ふっとあるかんがえがあたまをよこぎりました。
おとうさんはどうしたの?
ばさりとおとがして、ほんがゆかにおちました。というより、おとしてしまったといったほうがいいかもしれません。
おかあさんのめがテーブルのしたの、おとうさんがいるはずのちょぞうこにむきます。
どうしたんだろう?
そうかんがえるとしんぞうがどきどきして、むねがぐっとしめつけられてきます。
からだがかってにうごきだし、テーブルのほうへとむかいます。
テーブルをずらして、そのしたのじゅうたんもわきにのけて。
ちょぞうこのとびらがおかあさんのめのまえにでてきました。なんだかそのぶぶんだけしめっているようなきがします。
あたまはまったくせいはんたいなことをいっているのに、からだがかってにうごきます。
ゆっくりと戸のかなぐをおして、にぎりをだして。
そして握りをつかむと、おもいっきりちからをこめてひっぱります。
ぎりぎりとおとがして、ちょぞうこへのとびらがひらきました。
ぽっかりとまっくらななかでも、おかあさんははっきりとみました。
ちょうどいちねんまえにおとうさんをほうりこんだばしょには、おとうさんではないべつなものがありました。それにはえもぶんぶんとおとをたてながらまとわりついてもいました。
そこには、おとうさんではなく、きいろくて、なにかねばっこいえきたいのようなものがべっとりと、たっぷりと、じゃむみたいなものがへばりついていました。そのまわりにはおとうさんのふく。ふくのよこにはあかぐろいものがべったりとはりついたほうちょうもころがっています。そしてそのちかくにはにおいをおさえるためのぼうしゅうざいも。
ゆっくり、ゆっくりとちょぞうこのなかにはいりこんで。
はえをてでおいはらいながらねばっこいものにちかづくと、おかあさんはゆびをだしてそれをすくいとります。
それから、おかあさんはむいしきのうちにそれをなめていました。
おいしい。
とってもそれはあまく、でもすっきりするようなあじがしました。
ぺろぺろと、まるでこいぬのようにそれをなめるおかあさん。はえもまけじとまとわりつこうとしますが、おかあさんにてでおいはらわれます。
ようやくきがついたのは、てがふやけてしまうまでなめてからでした。
これをいったいどうしようか?
このとてもおいしいものを、いったいどうすればいいだろう?
すこしかんがえたすえ、おかあさんはだいどころからビンをいくつかとってきました。
スプーンでこのなんとなくじゃむににかよっているものをすくい、ビンのなかへ。なんとかこの場でたべてしまわないようにきもちをおちつかせるのがたいへんでした。
なんとかさぎょうをおえ、まだのこりものをあさろうととびまわっているはえをしりめにおかあさんはちょぞうこのとびらをとじました。そのままだいどころにいってじゃむをとだなにしまいます。でもとだなもいまのじょうたいでぎゅうぎゅうなのですからじゃむがはいるよゆうもあまりありません。あとであのはえたちをたいじしてじゃむをちょぞうこにしまおう。おかあさんはそうおもいながらいまにもどります。
テーブルなどをもどし、おかあさんはなゆきちゃんのようすをうえからのぞきこみます。やっぱりこの子はどうにもかわいい。ねるこはそだつ、というのだからきっとすくすくそだつわね。と思いながらおかあさんはなゆきちゃんをみてにっこりします。
すると、おかあさんにきがついたのかなゆきちゃんがめをさましました。
おかあさんはなゆきちゃんをやさしくだきあげ、ソファにすわります。
そしてなゆきちゃんをみてにっこりとほほえみます。
でもこんどのなゆきちゃんはおかあさんがまったくかんがえていなかったはんのうをみせました。
わらうのでもなく、むひょうじょうのままでもなく、なゆきちゃんはおかあさんのめをみるとひがついたようになきだしました。
おかあさんはちょっとびっくりしましたが、すぐにこの子はいまきげんがわるいのね。とおもいたちあがってゆさゆさとなゆきちゃんをゆらします。
それでもなゆきちゃんはなきやみません。しばらくわんわんなきわめいたあと、つかれたのかまたねいってしまいました。
でもこれにはきちんとしたりゆうがあったのです。
なゆきちゃんはおかあさんのめのなかに、おかあさんとはまったくちがうなにかをみつけました。それはほんのちっぽけでしたが、でもいたのです。それはなにをするわけでもないのに、なゆきちゃんはとてもこわくなってしまいました。
けど、ふたたびおきたなゆきちゃんはもうおかあさんのめのなかにそれをみつけることはありませんでした。
…
…
ぱち、と目がさめました。
どうやらかるくねむっていたみたいです。ねていたあいだもじゃむをしっかりもっていたらしくて、てをみるとうすくあとがのこっていました。
まだもやがかかったままのようになっているあたまをふってしっかりさせて、おかあさんはじゃむをじっとながめます。
このじゃむはいったいなんなのだろう。
ときおりそんなぎもんがあたまをよぎります。
でも、おかあさんはそんなことをあまりきにしてはいません。なぜなら、じぶんのなかではきちんとわかっているからです。
きっとこれは、おとうさんなのでしょう。すくなくとも、おかあさんのなかでは。
「ね、おとうさん?」
そういうと、おかあさんのことばにこたえるようにじゃむのビンがかるくふるえました。
おかあさんはにっこりすると、ビンをテーブルのうえにおいてとけいをかくにん。ごごの二時だとわかるとげんかんへむかいます。
さあ、そろそろゆうはんのかいものにいかなくちゃ。