このSSは『Kanon』の名雪シナリオEND後を想定して書いてます。
ネタばれを多少含みますので、ぜひゲームをやってからお読みください。
書いたのは作者ですんで、抗議や剃刀は間違っても管理人さんに送らないで下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今見ている夢の欠片』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢……。

 

 子供の頃、見ていた夢。

 

 

 

「そう言えば、こんなこと考えていたっけ……」

「こんなこと言ってたんだなあ……」

 

 

 

 誰でも、将来はこうありたいと考えた事はあるはずだ。

 けれど、大人になってみると、いつのまにか違った道を歩いている。

 途中で違う夢に目覚めた人がいる。

 現実に妥協した人がいる。

 どちらにせよ、幸せに生きて行けるなら、それでいい。

 

 

 だが、その夢をあきらめず……かなえた人だっている。

 

 

 努力すればきっと夢はかなうはずだ。

 そう信じてあきらめない人達の中に、本当に夢をかなえてしまう人達が表れる。

 

 だから僕も夢を信じたい。

 いつか、この夢はかなうのだと信じて……。

 

 

 

 

 

「で、そこまで力説するお前の夢ってのはなんだ?」

「よくぞ聞いてくれたな、折原。 ずばりハーレムだ」

「……名雪、そろそろ帰ろうか」

「さらっと無視せんでくれい」

「いいか、北川、そういう事はマンガか小説の中だけにしておいてだな、普通の夢を目指すのが正しい人の道だ」

「折原……見損なったぞ、ハーレムは男のロマンだということを、何故理解しようとしないんだ」

「同じ台詞を後ろで聞いてる美坂にも聞かせてやってくれ」

「へっ……ひいっ、か、香里さん……あ、あの、その、あう……」

「北川君、あなたの言いたいことは良く分かったわ」

「名雪、そろそろ起きれ、帰るぞ」

「うにゅ〜……」

 

 

 

 

 

 

 夢か……。

 そういや、俺は、昔何を考えていたかなあ……。

 

 

「どうしたの? 祐一」

「ん……いや、なんでもない」

「本当に?」

「ああ……」

「なんだか変だよ?」

「ああ……」

「本当になんでもないの?」

「ああ……」

「……夏だから日が暮れるのが遅いね」

「ああ……」

「暑くて困っちゃうよね」

「ああ……」

「帰りにイチゴサンデー奢ってくれるんだよね」

「ああ……」

「祐一が食べさせてくれるんだよね」

「ああ……」

 

 

 あれ? 今、なんか……。

 

「祐一、帰りにイチゴサンデー奢ってもらうからね」

「うっ……くっ、言ってしまった事は仕方ないか……だが食べさせるのは勘弁してくれ」

「う、うん……さすがに恥ずかしいからね……」

 

 ま、まあ、誰も見ていないところなら問題無いのだが……。

 

「ねえ、祐一……何を悩んでるの?」

「ん……ああ……夢について考えてた」

「夢?」

「ああ……北川が懸命に自分の夢を力説してる時にも考えたんだが……俺の夢ってなんだったかなと」

 

 幼い時……。

 俺は何を夢にしていただろうか?

 ……思い出せない。

 

 その夢を描いていた時は、きっとそれを忘れるなんて思いもよらなかったろう。

 けれど、これが現実。

 日々の忙しさにかまけて忘れてしまった幾つもの夢。

 そして、それと同じくらい産まれてきたはずの新しい夢。

 頭に描いた夢の数だけ、置き去りにした夢がある。

 

 人は、一生の中でいくつの夢を踏み潰して生きていくのだろうか……。

 たくさんの夢がつまっていたはずの頭の中に、今在る夢は欠片ほども無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐは……な、名雪、そ、そこはだめだって」

「ずいぶんとおっきいよ祐一の……」

「い、息を吹きかけないでくれ」

「えへへ……気持ち良い?」

「た、頼むからもう少し普通に……」

「普通にやってるよ?」

「ああああ……」

 

 

 ……。

 

 

「はあ……気持ち良かった」

「すっきりした?」

「う〜ん、すっきりしたと言っていいもんなのかどうか……まあ、なんだ……すっきりしたかな」

「えへへへ」

「何を嬉しがってるんだ?」

「うん、なんだか嬉しかったんだ」

「そういうもんなのか?」

「好きな人にしてあげるのが嬉しいのかも」

「……そうか」

「……うん」

 

 

 

 ……。

 

 

「はい、これで耳掃除終わり」

「上の文章読んで違う事を想像した人、後で職員室に来なさい」

「祐一、誰に喋ってるの?」

「気にするな、ひとり言だ」

「うん……」

「しかし、耳掃除してもらうとやっぱりいいなあ……またやってくれ」

「うん、いつでもオッケーだよ」

「いつでもか」

「10年先とか、20年先でもいいよ」

「お前な、それだとまるでプロポーズだぞ」

「えへへ」

「まあいい……じゃあ、50とか60になってもおまえにやってもらうからな」

「うん……私、祐一のために耳掃除の達人になるから」

「ならんでいい、どうせ俺以外はやらせないから」

「えっ、でも子供のとかやると思うよ」

「だめだ、それは俺がやる……名雪の膝枕で耳掃除していいのは世界で俺だけだ」

「わっ、祐一の方が凄い事言ってるよ」

「むぅ……そうかも」

「でも……子供はやらせて欲しいかな……」

「む……」

「私ね、祐一のお嫁さんになって、産まれてきた子供の耳掃除をするのが今の夢なんだ」

「ほほう……」

「小さな頃、お母さんに耳掃除してもらった時、凄く幸せだったから……」

「それじゃ仕方ないな、まあ子供は許すということで」

「うん、許されたよ」

 

 

 

 

 

 夢……。

 

 子供の頃、見ていた夢。

 

 

 俺の見ていた夢は何だったろう?

 幼い頃見ていた夢は、きっと今とは違う夢。

 いつのまにか忘れてしまった夢。

 

 

 けれど、それでもいいと思う。

 幼い頃に見ていた夢と、違う夢が目の前にあるのだから……。

 産まれた新しい夢の中で……未だ残っている、大事な夢……。

 今見ている夢の欠片……。

 

 

「ねえ、祐一の夢はなに?」

「俺の夢か? そうだな……」

 

 

 

 普通に仕事をして、家に帰ると名雪がいて、こどもがいて……。

 あたりまえの平凡な生活。

 そんなことが夢というのはおかしいだろうか?

 

 けれど、この夢だけは妥協するわけにはいかない。

 

 

 

 

「俺の夢は……」

 

 

 隣で眠る君と、平凡だけど幸せな生活をしたい。

 そんな小さな夢。

 

「って毎度の事ながら、おまえはいつのまに寝てるんだっ!!」

「くぅ〜、すぅ〜……」

「まあ、いいけどな……」

 

 俺の膝を枕にして、熟睡している名雪の耳もとで囁く。

 

「今の俺の夢は……名雪と結婚して、平凡でも幸せな生活をすること……かな」

 

 寝てる時にこんなこと言うのはちょっと癪だけど。

 

「次は起きてる時に言って上げてくださいね」

「そうですね……」

「けど、この娘も幸せ者ですね……祐一さん、名雪をお願いしますね」

「ええ……って、秋子さん、いったいいつの間にっ!!」

「うふふ」

「そ、その手にもってるものは……」

「もちろん、映像と音声を残しておくために用意しただけですよ」

 

 

 ……。

 

 

「え〜と……いったいどの辺りから……」

「……「ぐは……な、名雪、そ、そこはだめだって」……「ずいぶんとおっきいよ祐一の……」……」

「分かりました、もういいです」

「ところで祐一さん」

「は、はい、なんでしょう」

「私の夢は孫の耳掃除をしてあげることですから、できるだけ早くお願いしますね」

「はひ……ってあの、その、あう……」

 

 

 この夢だけはあきらめない。

 きっとかなえてみせる。

 

 そう思った。

(END)