(注)このSSは「痕」の千鶴END後を想定して書かれてます。
   できればゲームをクリアしてからお読みいただけるとよりお楽しみ頂けます。
   尚、このHPに寄稿した「悲しいすれ違い」の続編にあたりますので
   ぜひそちらを先にお読みください。
   苦情、抗議、剃刀等危険物は管理人さんでなく作者まで。


「悲しいすれ違い-step4-」


耕一「ここは……どこだ?」

 目覚めた時、そこは見知らぬ川原だった。

 目の前に大きな川が……。

 もしかして、これが三途の川ってやつ?

 じゃあ、この川を渡ると死ぬのか……。

(こっちにきてはだめだ……)

 えっ、今の声は……まさか……。

(耕一、お前はまだ死んではいけない)

 目の前に急に見知った顔の人が来る。

 あれは……まさか……。

 親父……。

賢治「耕一……お前は、まだこっちに来てはだめだ」

耕一「親父……」

賢治「お前まで死んでしまったら残されたあの子達はどうなる?
今、あの子達にはお前だけが支えなんだ……」

 親父の顔は優しかった。

 俺を諭すように語り掛けてくる。

 分かってるよ、俺は従姉妹達のところへ戻らなきゃ行けないってことは……。

 まだ親父やお袋の所には行けない……。

賢治「大体、お前までこっちに来たら、せっかく夫婦水入らずで過ごしてるのに
邪魔でしょうがない」

 え?

 今なんて……。

賢治「それに、下手をすればお前の後を追ってあの四姉妹が来るじゃないか。
せっかく死んで平穏を手に入れたというのに」

 おいおい。

賢治「それじゃな、耕一、しばらくはお前だけで頑張るんだぞ。
父さんは、お前より長い間耐え抜いたんだからな」

 目の前の景色が薄れて行く。

 それをみながら俺は……

耕一「くそ親父〜!!」

 親子の絆なんて俺達には無かったんだな。

 無性に悲しかった……。



 再び目覚めた時には……目の前に初音ちゃんの顔があった。

初音「お兄ちゃん……大丈夫?」

耕一「あ、ああ、大丈夫だよ」

初音「ううっ、良かったよ〜」

 初音ちゃんの眼は真っ赤だった。

 それを見た瞬間、酷く罪悪感に襲われた。

 なぜ、俺は少しでも生きることをあきらめたんだ……。

 この子をこんなに悲しませたのは誰だと思ってるんだ?

 自分自身を怒鳴り付けてやりたい気分だった。

 自分に対する憤りが、不甲斐なさが、無性に沸きあがって押さえられなかった。


耕一「大丈夫だから、心配しないで、もう泣かなくていいよ」


 実は全然大丈夫じゃなかった。

 全身が重く、手足の感覚が無い。

 ちょっと動こうとするだけで激痛が走る。

 千鶴さんの料理の影響がここまで及ぶとは……。

 考えてみれば、十分想像できうる範囲内だな。

 命があっただけ良しとしよう。

梓「まったく……これだから千鶴姉にはまかせておけないんだよなあ」

楓「千鶴姉さん、少しは反省してるの?」

千鶴「……」

 ふと、横を向いたら梓と楓ちゃんが千鶴さんを責めていた。

 ……どうでもいいが、梓は怪我一つしてないようだな……。

梓「やっぱり鈍亀姉に耕一を渡すわけにはいかないね。
耕一のことは、きれいさっぱりあきらめて、胸無し、寸胴、年増の
三重苦をどうにかするのに専念したほうが良いんじゃないの?
もっとも年増に関しては治しようもないけど」

千鶴「何よ! あなたなんか胸以外はまるで男性なんだから、
マ○オに行って性転換手術でも受けてくればいいじゃない!!
どうせ、女の子にしかもてないんだから」

楓「偽善者と暴力レズ娘に耕一さんは渡しません」

 三者の間に緊張が走る。

 正に一瞬即発、このままでは危険だ。

 初音ちゃんだけでも逃がさないと……。

初音「やめてよ、お姉ちゃん達!! みんなひどいよ!!」

 ぴたっと、みんなの動きが止まる。

 は、初音ちゃんが……怒ってる……。

初音「だいたい、みんな耕一お兄ちゃんの気持ちを無視して、
自分のことしか考えてない!!」

 初音ちゃん……。

初音「私だってお兄ちゃんの事大好きだよ……でも」

 初音ちゃんがしゃくりあげながら言いつづける。

 眼に浮かぶ大粒の涙が今にも零れ落ちそうだ。

初音「嫁き遅れの千鶴お姉ちゃんを貰ってくれる唯一の人なんだよ!!」

 はいっ?

初音「私は耕一お兄ちゃんと他の人が結婚してる姿なんて見たくもない。
その後、数年間我慢するなんて考えるのも嫌。
でも、いくら偽善者で、鬼婆で、身内の恥でも私達のお姉ちゃんなんだよ。
別に私は、千鶴お姉ちゃんを殺した後の後妻でも我慢できる。
千鶴お姉ちゃんは老い先短いんだよ!!
せめて、死ぬ前に良い思いをさせてあげたっていいじゃない!!」

 もしもし?

千鶴「は・つ・ね・ちゃ・ん・ど・う・い・う・い・み・か・な・?」
 
 気温が下がる。 

初音「どういう意味もなにも、同情で結ばれた夫婦は長続きしないから、
破綻する前に、罪の無い耕一おにいちゃんを魔の手から救い出そうと思ってるだけだよ」

 初音ちゃんが憐れむような視線を千鶴さんに向ける。

千鶴「初音……先が短いのはどっちかしらね……」

 ますます気温が下がる。

梓「いけない、楓、一時休戦、耕一を安全な所に!!」

 楓ちゃんがうなずく。

 すぐさま二人は俺を抱えて逃げ出した。

耕一「お、おい、初音ちゃんは……」

梓「何言ってんだ! 本気でやりあうならあの子が一番……」



 閃光が走った……。

 轟音が鳴り響き、庭に巨大なクレーターが出来上がっている。

 中心にボロボロになった千鶴さんが転がり、
見下ろすようにして初音ちゃんが立っていた。

 こちらに歩いてくる。



初音「予定が早まっちゃった……」

 初音ちゃんがポツリと呟く。

初音「梓お姉ちゃん、楓お姉ちゃん、お兄ちゃんを私に渡して貰うよ」

梓「初音、あんたさっき耕一の気持ちがどうとか、言って無かったっけ?」 

 そういえば、そんな事を言ってたような。

初音「大丈夫」

 初音ちゃんが無邪気な微笑みをこちらに向ける。

初音「耕一お兄ちゃんを、6年間ぐらいずっと暗室に監禁して、
食事だけ差し入れて、外部との接点をまったく無くしておくの。
次は私の写真だけとか時々入れて、私のことしか考えられないようにしてから、
外に出してあげればいいんだよ」

 初音ちゃん……それは洗脳という物なんだよ。

 どうでもいいけど、そんな台詞でも君の天使のような微笑みは消えないんだね。

 とても悲しいよ……。

梓「なるほど、そんな手もあったか。あたしはクスリ漬けにでもしときゃ問題なし、
ぐらいにしか考えて無かったからねえ」

 おい……おまえら……。

初音「じゃあ、お姉ちゃん達も死んでもらうね」

梓「ふん、そう簡単にやられるとでも思ってるのかい?」

 梓と初音ちゃんが闘気を出し始めた。

初音「梓お姉ちゃん……さようなら」

梓「どっちにしろ、もう会うことも無いだろうしね」

 危険だ。

 しかし、今の俺は身動きがとれない。

楓「耕一さん、とりあえず逃げましょう」

耕一「楓ちゃん……」

楓「きっと、生まれ変わってもまた会えますよね」

耕一「へっ?」

 もしもし?

楓「近くに断崖絶壁がありますから……遺書が書けないのが残念ですけど」

耕一「ちょっとまった、いったい何を……」

 楓ちゃんがポッと頬を染める。

楓「あの世で一緒になりましょうね」

耕一「何でそうなるんだああああああ(泣)」


 俺は柏木耕一、大学生。

 鬼の血をひいてること以外は平凡な大学生。

 しかし……今、その命は風前の灯火となってしまった。


楓「さあ、行きましょう」

 楓ちゃんは俺をがっしり抱え込んで離さない。

 梓と初音ちゃんは気づく気配も無い。

 そして負傷の激しい俺は、抜け出すことなどできそうもなかった。

耕一「まだ、死ぬのは嫌だあああああああああ(泣)」 

 俺は、この状況を何とかしてくれるなら……。

 鬼以外ならこの際なんでもいい……。

 心から願った。

 誰か助けて欲しいと……。






千鶴「か・え・で・ちゃ・ん・な・に・し・て・る・の・か・な・?」


 目の前にボロボロになった千鶴さんがいた。
 
 どうやら、鬼以外というのは聞き届けられなかったらしい。

(続かないはず)